海賊。
海にいる賊のこと。主に中世にイギリスやスペインで有名となった。海の冒険者。
あるいは、前世で俺の命日に至るまで連載していた有名漫画の舞台。
どこか見覚えのある作画のジョリーロジャー。サーベルや銃を持った男たち。ゲラゲラと下品な笑い声が聞こえてくる。
「ここ、もしかして艦これではなくONE PIECEの世界なのでは?」
百巻を超える超大作、未だ完結していない海賊王への道。その世界に、もしや降り立ってしまったのでは。
いやいやまさか、そんなクロスオーバー無いでしょうよ。と首を振りたくなったが、船員の腕にログポースを見つけて絶望した。あんなんONE PIECEの世界にしかねぇよ。
「なんで肝心の世界線を間違えて迷い込んでいるのでありますかー!?」
頭を抱える。
あきつ丸がいるんだから艦これの世界だと思うだろう。それがどうだ、略奪殺人人権無視上等の治安最悪海賊時代、割とマジで転生したく無いランキング上位のONE PIECEの世界に来てしまっている。
ぶっちゃけ、詰みかもしれない。
なんせ斬鉄やら人体バラバラやら爆炎とか簡単にやってのける奴らが蔓延る世界である。艦娘とはいえあの異次元バトルについていける気がしない。なんかもっと、こう、生き残りやすい世界が良かった。
享年20歳という若さで、しかも事故で死んだ身としては今世こそ20を超えたい。
なのにこの世界は幼い命だって簡単に消えていく修羅の世。この世は地獄です。
「まずは何はともかく生き残ること、そしてなんとか安全圏を探すこと、最優先はそれであります」
ぶっちゃけ政府に見つかったら海を自在に渡れる艦娘の身体を実験に……なんて発想がポンポン出てきそうだ。この世界の政府は信用してはいけない。
かといって政府非加盟国に身を隠すのも危険だ。なんせ治安が終わっている。
どこか平穏な村に永住できればいいが、艦娘としての本能か海に近くないとストレスが溜まりそうで……つまり、定期的な航海は必須。海賊海軍に会うこと必至。
俺の思考はだいぶ絶望に傾いていた。
「うう……あ、カ号のみんな、お帰りであります。あの海賊船は避けた方が良さそうだな」
面倒ごとは避けるが一番だ。ここで血の気の多さを出しても何の得にもならない。俺は海賊船とは反対方向に足を向けた。
「……海賊はどこにでもいるんでありました……」
悲しいかな、数キロ海を走った瞬間に別の海賊船にぶち当たった。まだ察知されてはいないが、立派に目視できる範囲に新しいデザインのドクロが見える。
ガッツリ進行方向、後ろにも海賊船あり。逃げ場、無し。
「転生して早々厄介に巻き込まれすぎじゃありませんか??」
俺としてはキレたいところだった。俺は前世で子供を助けて死んだのに、なんでこんなバカみたいな状況に置かれなきゃいけないのか。前世で積んだ徳はどこへいった?
まさか推しのあきつ丸に転生して使い果たしたとか言わないよな。俺は成り代り願望は持ってなかったんだよ、クソ。
「とりあえずT字有利を狙うのでありますな」
流石に相手の警戒にぶつかったのか、何やらドタバタと砲撃の準備やらをしているのが見えた。海上にひとり立っている女の子なんて相手にとって不気味でしかないだろう。
俺も副砲と烈風を用意する。果たしてこれで海賊船相手に戦えるだろうか。
「はー、どうせなら16inch三連装砲 Mk.6 mod.2でも積めるようになりたかったであります」
大型の主砲を積めたら、砲弾での殴り合いも大きく変わったかもしれないのに。
無い物ねだりをしても仕方がないので、大人しく15.5三連装副砲に弾を装填する。妖精さんたちがキビキビ動くのが見えた。
「先手必勝! てー!」
艦載機を飛ばし、副砲を発射する。
木製の海賊船はせいぜいが十数ノット。こちとら低速艦だが流石に木製船に負けるほどの速度はしていない。安定してT字有利を取り、制空権を勝ち取った。
砲撃が直撃すると、まるで艦船時代の実寸サイズの弾が当たったように船全体がひしゃげた。明らかに腰に収まるサイズの弾がもたらす被害じゃない。
戦闘機の射撃も相まって、船上は大混乱に陥っていた。
「着弾を確認……威力がいささか強すぎるのでは?」
副砲であり、あまり体が大きくないあきつ丸に付けられた装備なだけあって、正直あまり威力を期待していなかった。だというのに、複数発射された副砲の弾は全弾命中、そしてその弾の大きさに見合わない被害を叩き出している。船首は歪み、マストは折れ、甲板に大穴が空いていた。
牽制になれば御の字と思っていたのだが……。
烈風もガンガンに船員どころか船自体に損壊を与えている。大型のガレオン船がまるでスナック菓子のように簡単に折れてバキバキになっていく。
「練度? あの船が特別弱い可能性? それとも……?」
いくつか理由に候補が上がるが、確かめる術は今のところない。
海賊船はあっという間に沈んだ。船員も海の中だ。なんていう海賊団なのか知る由もない。
「……なんというか……人外になった実感があるのであります」
おそらく50人は海に沈んだだろう。俺の前世と同じく海の底へ死んでいくのだ。溺死の体感を思い出して表情が歪む。
しかし、それに対して心はあまり動かない。なんというか、ゲームの敵を殺したような……自室で、画面の向こうで艦娘が深海棲艦を倒していくのを眺める感覚に似ている。
人殺しとしての罪悪感とか嫌悪感がやってこない。
艦船は国を守るために生まれたが、その為には敵艦船を沈めなければいけない。命を奪うことに抵抗なんかしてられない。そんなこと考えるのは某ドジっ子駆逐艦くらいだ。
「あ、金銭でも回収しておけば良かったでありますな」
現状、俺は無一文だ。この世界を渡るにおいて、金は必須。あの大きさの船だったら宝も溜め込んでいただろう。勿体無いことをした。しかし、死体が沈むあの辺りに潜って宝を回収するのは普通に嫌だ。
自分の中の倫理観が捻れていくのを感じるが、まぁ良いとしよう。
「というか、燃料とかボーキサイトとかどうすれば補給できるのでありますか? 万が一損傷した場合は?」
提督がいないから故障はそのまま! なんてことないだろうな……と不安に思っていると、ふと艤装に見慣れない妖精が乗っている。
「貴女は……エラー娘!」
艦これエラー画面でお馴染み、妖怪猫吊るしことエラー娘がそこにいた。どういうわけか、自分より遥かに大きいスマホを持っている。伊168が持っている艦橋型のスマホだ。
何やら主張してくるので、それを手に取ると勝手に画面が表示された。
「……任務画面」
表示されているのは艦これお馴染みの資材の数値と、任務画面だった。現在資材が1000ずつあり、任務を達成すると増えていくのだろう。人によってはグロ画像と感じる心許ない数字だ。バケツもネジも0だった。
「なになに……? 『海賊を3隻沈める』『島を一つ廻る』『海王類を一体狩る』?」
並べられているのは本来の艦これの任務画面では見なかった文字列ばかりだ。ONE PIECE世界用にカスタマイズされている。
戦闘系の任務が多く、その分資材がプラスになるように数は調節されているようだ。中にはバケツやネジを貰えるものもある。
「これをクリアしてなんとかしろってことでありますか?」
そう聞けば、エラー娘はコクコクと頷いた。今ある資材をやりくりしつつ、任務をこなして報酬をゲットしろ、というわけだ。
なるほど、謎の任務報酬システム。
「ふむふむ、海賊を倒すことに主軸が置かれている任務内容でありますな。……ん?」
任務画面の中には日課、週課、月課、そして主要がある。月課までは海賊船を何隻沈める〜とかが多かったが、主要は様子が違った。
『ローを助ける』
『ニコ・ロビンを助ける』
『エースを助ける』
…………え?