「えー……」
「イヤそう!!」
おでんの突然の提案(というか命令?)に、俺はわかりやすく顔を歪めた。
「名家の血筋でもない自分が大名になれるわけないでしょう」
「そこはおれが親父に良い感じに言うからよ! おれが海に出てる間九里を守ってくれ!」
「いや、家臣たちが許さないでありますよ」
視線をイゾウ達に向ければ、何やら考え込んでいる。
「おでん様より話は通じるし……」
「おでん様くらいに強いし……」
「まぁ別に……」
「いやいやいや! そこは粘ってもらわないと困るであります! それにほら、家来が納得しても民がどう思うか」
「“黒姫”の噂は九里じゃ常識だしなぁ。割と受け入れられるんじゃないか?」
「おでん様より常識のある人だと知れれば普通に歓迎されそうだ」
だめだ味方がいない!!
というかおでんどれだけ好き勝手やってたんだ! 民に常識面で妥協されるな!
縋るように白ひげ達に目を向ければ、「諦めろ」と温かな笑みを浮かべられた。今ここで砲撃してやろうか。
「お前なら統治もいい感じにできるだろ? 自由にやってもらって構わんから、どうだ?」
「……っせ、せめて代理! 大名代理でお願いするであります!」
「おう! 早速親父に伝えに行くぞ!」
「待ってこの流れ前にもあああああああ……」
おでんに抱えられ、花の都へ一直線。
手を振る家臣と白ひげ海賊団が恨めしい。やっぱり砲撃してやろうか。
「というわけで、これからしばらく九里は大名代理あきつ丸のものだ!」
「突然すぎるわ馬鹿息子ォ!!」
速攻で将軍のもとへ行き、「海に出るから代理を立てる!」とスキヤキに告げるおでん。
これには流石の将軍も表情を鬼にして叫んだ。俺はげっそりしながら隣に正座している。
「“黒姫”……おでんから聞いてはいたが、まさか大名代理などと……」
「あきつ丸は強い! それにワノ国のことを知らないわけじゃない。おれとワノ国全土を旅したからな!」
「だが外から来た者なのだろう」
「あきつ丸のワノ国を思う気持ちは本物だ! 責任はおれが全て受ける! よろしく頼む!」
「……はぁ、お前の常識知らずさはどこから来たんだ……」
スキヤキが深い、深いため息をついた。
一度は手に負えなくなり絶縁した仲。父親としても将軍としても気苦労が多いだろう。
「お前も苦労しているな」
「……滅相もないです」
「はぁ……正式な任命状は今度送る。九里は荒くれ者の集まる場所だ。ワノ国全体の治安にも関わる。雑な仕事はするなよ」
「あきつ丸ならうまくやってくれるさ!」
おでんのその俺への政治の期待はどこからくるんだ。俺は政治なんて投票くらいでしか参加したことないんだぞ。
しかし将軍にすらあっさり認められてしまった。これで俺は九里大名代理である。どうしてこうなった?
俺はただカイドウとオロチの策略を止めるために計画を練っていただけのはず……こんな地位に突然つかされても困惑するのみなんだが……?
「細かいことは傳ジロー達から聞くといい! おれは白ひげの船に乗るぞ!」
「はーっ……とにかく世界を見て腕を磨いてくるであります。こうなった以上九里は守るでありますが、万が一の事態も想定しておいて欲しいであります」
「なに、あきつ丸に家来達もいるんだ! 大丈夫さ!」
「はぁー……っ」
今日だけでどれだけの幸せが逃げているのやら……。
港に戻ると、白ひげ達が出港の準備を整えていた。貨物を積み、船の最終確認をしているらしい。
「お、戻ってきたか!」
「その顔、無事に大名代理になったみたいだな」
「これからよろしく頼みますぞ、姫様!」
「……何か大きなものに嵌められた気分であります」
嫌がっているのは俺だけってのはおかしいだろう。なんでだ。おでんのカリスマで成り立ってるんだろこの土地。いいのか。
流石におでんの脇腹に肘を入れ拘束から逃れる。抱えられたままだとなんだか間抜けだ。
「そういえば……ワノ国からどうやって出ればいいんだよい?」
「あ、確かに」
「なんか滝を降る手段があるのか?」
あれ、そういえば確かに……と白ひげ海賊団が口々に疑問を口にする。
おでんもイゾウたちも船に乗った、出港準備万端になってから気づいた。いや遅すぎる。
「ああ、それならちゃんと手段があるでありますよ」
「おお! 流石あきつ丸! また飛べって言われたらどうしようかと……」
「飛ぶであります」
「えっ」
「滝を、そのまま、飛び降りるであります」
船ごとね。
そう言うと、白ひげ以外の全員が一気に顔を青ざめさせた。
「ええええええええええ〜!?!?」
「さぁ記念すべき船出でありますよ! 皆さんしっかり掴まって、いってらっしゃーい!!」
「ああああああああああ〜!?!?!?」
俺は思いっきりモビーを押し出して、ワノ国から叩き出した。
(おでん殿たちを頼むでありますよ、モビー殿!)
(うん、きっと無事に戻って来させるよ。僕のこと、通訳してくれてありがとう、あきつ丸!)
叫んでいる船員達とは裏腹に、モビーは冷静だった。きっと、全員無事に着水させる自信があるのだろう。
モビーが心配していないなら、俺も心配する必要はない。
派手な出国を見守って、俺は一応家来になったもの達にくるりと向き直った。
「しばらくお世話になるであります。改めて、大日本帝国陸軍所属、特殊船丙型揚陸艦ことあきつ丸。着任したであります!」
「お、おう……」
「うん、まぁ、大丈夫だよな! おでん様の推薦だしな! な!」
はて、家臣達の顔に少し不安が滲んだような……気のせいですかね??
*
「まずは民に自己紹介しないといけないでありますな。突然上が変わったと言うのは民にとって不安でしょう」
「では回覧板を?」
「いや……どうせなら、肉声で伝えるであります」
俺は傳ジローたちに、九里の住民達を広場に集めさせた。
なんだなんだとざわつく民たち。おでん様に何かあったのか? という声も聞こえてくる。
俺は妖精さん作製のメガホンを持って、台に上がった。
「えー、九里の皆様。初めましてであります」
「“黒姫”様だ……」
「自分はこのワノ国で“黒姫”と呼ばれていた、本名をあきつ丸と申すものであります。突然の知らせになるでありますが……九里大名、おでん殿はこの国を出国したであります」
「なんだって!」
「遂にか!?」
わかりやすく民衆がざわつく。いや、民にすら「遂にか」「いつかやると思ってた」って言われてるんですけど。
どんだけ出国チャレンジしたんだよおでんお前。
「えー、皆様落ち着いて。それで、おでん殿がいない間の期間、大名代理として九里を治めることになったのが……自分であります」
「“黒姫”様が大名代理……!?」
「大丈夫なのか?」
「おでん殿の魂で成り立っているこの土地。おでん殿がいなくなって不安に思う気持ちもわかるであります。ですがどうか、このあきつ丸を少しずつでいいので、信頼してほしいであります」
領土というのは、土地だけあっても何もできない。まずは民衆の支持を得ることが大事だ。
仲間を集め協力者を増やし、オロチの策略を妨害する。最初はまだそれくらいしかできないだろう。
「……おでん殿は自分を信頼して、この土地を任せてくれました。自分は、その期待に応えたいと思っております。その為にも、まず『目安箱』の設置を行うであります」
「目安箱?」
「『目安箱』は自分に向けた意見や要望を入れる箱であります。紙にこの九里をより良くするための案を、気軽に投稿していただきたい」
アンケートをとるというのは、こういう内政ものでは割とポピュラーな手段なのではないだろうか。
おでんはおそらく割とワンマンで統治してきたのだろうが、俺はそんなカリスマ無いので民に寄り添う形で支援を開始する。
アンケート取った方が何から手をつけたらいいのか分かりやすいしな。
「目安箱に書かれたことで無礼や不敬を咎めることはしないであります。皆自由に、あれが欲しいこれがやりたいと本音を伝えてほしいであります。自分ができる範囲で、叶えようと思っているであります」
俺は一拍間を置き、帽子を取って頭を下げる。
傳ジロー達が慌てる声が聞こえたが、気にしない。
俺はあくまで彼らに取って「ぽっと出の主」なのだから。
「どうか、自分を九里大名代理として認めて欲しいであります。どうか、よろしくお願いします」
そうして演説を締め括った。
民衆の反応はどうだろうか。手に汗が滲んだ。
「……おれは信じるぞ」
「私も、頑張ってほしいわ」
「おねーちゃーん! 頑張ってねー!」
「目安箱、待っとるぞー」
ポツポツと掛けられた声は、やがて歓声へと変わった。
一先ず、認められた……。そのことにホッと息を吐く。家来達も胸を撫で下ろしていた。
「改めて、あきつ丸。この九里を治めさせていただく! これからよろしく頼みます!」
俺は外套を翻して、城へ向かう。
なんかいい感じにカッコよく映ってくれ。頼む。
一領土の長なんて俺には荷が重いが、任されたからにはやってやろうじゃないか。
待ってろよカイドウ、オロチ。お前らの計画、撃ち倒してやろうじゃあないか!!
ワノ国編なんか思ったより長くなりそうやな……お付き合いよろしくお願いします。