「あきつ丸! 大名代理の任命状を持ってきたぞ」
「飛徹殿? なぜ貴方がそれを……」
「ん゙ん゙っ、将軍とは知り合いでな……頼まれたのだ」
「そうだったのでありますか! 苦労をかけます」
無事に任命状が俺の下へ渡り、これにて将軍公認の九里大名代理となったわけだが……。
正直、不安でいっぱいである。
内政とかマジでしたことない。知識もない。支持率とか怖い。
一応演説はうまくいったものの、きっと民衆の不安ははっきりとはとれていないだろう。だからこそ、働いて信用を勝ち取らねば。
「目安箱の設置、完了しました! 早速便りが来ております」
「ご苦労であります。どれどれ……『娯楽が欲しい』『賭場を開放して欲しい』『子どもの遊び場が欲しい』……なんか思ってたのと違うであります」
「どんな悩みを想定していたんですか?」
「もっとこう……飢餓とか……」
「今のところ九里は豊かですよ」
アンケートは、まぁ総合すると「娯楽」に偏っていた。衣食住に困っている民がいないのは、おでんの手腕か。
娯楽、娯楽かぁ……。
「ん? そういえば賭場は閉鎖しているのでありますか? 花の都にはありましたよね?」
「あー……誠に不甲斐ないのですが……」
「おでん様が一番に荒らしてしまうので……九里には賭場は無いんです……」
「…………」
家臣達がそっと目を逸らした。俺も閉眼する。
そういえばあいつ年齢一桁で賭場を出禁になってなかったっけ……。やらかすところはしっかりやらかしてるのかよ……。
俺はため息を吐く。まずやる事はこれかもしれない。
「よし、賭場解禁するであります」
「よろしいので?」
「ただここで下手にお金の流れを作ってしまうと、オロチの資金稼ぎに使われる可能性もあるでありますな……傳ジロー殿に調べさせる情報量を増やすのは良くない」
現在、傳ジローには九里での経済を調べてもらっている。違法取引や裏金が無いか、そしてそれがオロチに繋がっていないかを見ているわけだな。
計算ごとが得意な傳ジローにそれは一任し、城での会計ごとは俺がやっている。もちろん、たまに傳ジローに正しいか確認してもらうが。
アシュラ童子は荒くれ者の監視だ。流石にずっとカ号を飛ばして監視社会にするわけにはいかないからな……。
「賭場では金以外のものを賭けてもらうでありますか。ビー玉とか」
「しかし……それで繁盛しますかね」
「じゃあビー玉を50集めたものには自分に一つ、直接なにかを進言する権利を与えるであります。ただし、目安箱と変わらず自分ができる範囲のことしか聞かないでありますが」
「なるほど……しかしそれでは姫様の仕事が」
「おでん殿に任された以上怠けてはいられないであります。ビー玉は不正防止のために光月の家紋を入れたものを用意して、18以上の者しか賭場に入れないように。子どもの遊び場は別で作るであります」
傳ジローの仕事を増やさずに、賭場を運営するなら某ドラゴンボールシステムにしてしまえばいいじゃない。50なんてそうそう集まらんやろ。
三店方式も考えたが手間が増えるのでやめた。みなさんあちらで何かしていますね……。
「広場近くに空き地あったでありますよね? あそこを公園にでもするであります」
「公園……」
「ブランコなり滑り台なりなら九里の大工でも簡単に作れるでしょう。簡易的な設計図を書いて渡すので、適当な職人を見繕って欲しいであります。ああ、予算はあとで出すでありますよ」
「承知しました」
他の要望は……「姫様にお酌してほしい」「姫様の太ももに挟まれたい」「姫様に踏んでほしい」。……無視で。
あとは花の都との交通関係か。仕事がない者に人力車でも就かせるか? その場合の給料の出所と道中での距離的問題を考えないとな。
あとは……「姫様に罵ってほしい」「姫様に耳かきしてほしい」「姫様の使った箸が欲しい」。……これも無視で。
ふむふむ、森での獣被害か……柵を設置するか猟師を都から呼ぶか……。
「姫様、おでん様より仕事してくれる……」
「おでん様が帰ってきた時、大丈夫か……? 主におでん様が……」
「シッ! あきつ丸様は頑張っておられる!」
聞こえているぞ家来たち。おでんお前仕事してなかったのかよ……。しろよ……。
カリスマだけでかまけてんじゃないよ……。
「設置したばかりだというのに、かなりの枚数集まっているでありますな」
「これだけ姫様に期待しているということでしょう」
「プレッシャーが……」
肩に重さを感じつつ、アンケートを読み進めていく。
んー、「姫様の靴下が欲しい」「姫様の胸の第二ボタンが欲しい」「姫様の存在していた場所の空気が欲しい」。
俺はそれらのアンケート用紙を床に叩きつけた。
「変態がっ……! 多い……っ!!」
「姫様!?」
「なんか途中からどんどん変態度が増しているであります! 何存在してた空気って! 怖い、怖いであります!!」
「こ、これは……セクハラですね……」
アンケート用紙を見た錦えもんが眉を顰めた。
「投函した者を切りに行きますか?」
「いやまぁ、実害は無いからいいであります……。九里って、ちょっと、上級者が多いんでありますね……」
「誤解! 誤解です姫!!」
「そんな遠い目をしないでください!!」
遠い場所にいっちまったな、九里……。俺はもうお前のスピードについて行けねぇよ。
「それはそれとして」
「うわぁ! 急に落ち着いた!」
「現状やれることは把握したでありますから、書類制作と予算計算に時間を回すであります。算盤はあるでありますか?」
「あ、はい、すぐに用意させます」
前世ちっさい頃に算盤塾行っててよかった〜……芸は身を助くってやつ?
パチパチ算盤を弾きつつ、俺は今回作る賭場と公園の予算案を出す。最悪俺の余っている金品を投入してもいいしな。
「真面目に仕事をしているようだな……」
「飛徹殿。おでん殿がいない間に九里が落ちぶれては、顔向けできないでありますからな」
「そうか……。将軍には九里大名代理はよく働いていると伝えておく」
「感謝するであります」
飛徹はいい人だなぁ。将軍とも繋がりがあるなんて。腕のいい刀工だから召し抱えられたりしたんだろうか。
なんか大事なことを忘れている気がするが……なんだっけ? まぁいいか。忘れてるって事は無理に思い出そうとしても無駄って事なので。
それよりも予算案をだな……。
「姫様! 大工のリストアップ完了しました」
「姫様! 追加の目安箱の投稿です!」
「姫様、お食事の用意が……」
大名代理生活は目まぐるしい。
あっち行ってこっち行って書類見てアンケート見て書類見てセクハラに目を遠くして。
でも皆頑張ってくれているし、俺も頑張らねば。
「はー、大名というのは疲れるであります」
「姫様はおでん様より働いておりますから当然です」
「いや、部下にそう言われてしまうおでん殿どうなんでありますか……。ええ……」
仕事しろよおでん。
「夕食後は如何なされますか」
「少し外を歩くであります」
「では護衛を」
「いや、自分の剣は人がいると逆に使いづらいであります。一人で大丈夫でありますよ」
「そ、そうですか……」
下手に家臣を連れ歩くより一人の方が自由に戦えるしな。流石におでんを超える強者がこの九里で燻っているとは思えない。
俺もやる事があるのだ。
「今宵は新月でありますか……」
雲こそないが、月は見えない。真っ暗な街道……ではなく屋根を、俺は歩く。
目指すは、路地を歩くとある男。
「始末は早めにつける方がいいでありますからな」
カタカタと秋茜が鳴るのを抑える。
「──ねぇ、