艦娘の原動力は燃料である。
人の栄養素と同じで、生きるだけで消費し動けば動くほど多く必要になる。当然なくなれば動けなくなるし、定期的な補給は必要だ。
何が言いたいのかというと、資材が不安だ。
おでんが帰ってくるまでにロジャーでの船旅を含め5年ほどかかるとして、俺はその間九里大名代理としてワノ国に留まらないといけない。つまり、デイリーやウィークリー消化ができない。
艦載機もワノ国周辺の悪天候やらを越えるのは難しいし、飛距離が伸びれば伸びるほどボーキサイトを食う。
九里の予算事情も大事だが、俺にとって資材事情は死活問題だ。
鋼材、弾薬は比較的余裕がある。ボーキサイトも乱用しなければオーケー。問題は本当に燃料。
白ひげ海賊団に会ったことで幾分か補充されたのだが、それでも数年単位となるとしんどいものがある。
おそらくだが、単純計算あと3年でこのままだと尽きる。
俺は対策のために、まずなるべく酒を飲むようにした。アルコールの一部が燃料に還元されているので、雀の涙だが補給が可能だからだ。特に度数が高いものがいい。
自費で酒を買い込み、なるべく飲みながら活動する。
家来たちは最初不思議に思っていたが、燃料関係の話を説明したら慌てて酒屋から酒を持ってきてくれた。
あくまでも自分の問題なので九里の金は使えないと突っぱねたが、ならば我々の私財からと言われ大人しくいただいた。
幸い酔わないので仕事に支障は出ない。
ずっと飲んでる城主なんて印象悪いだろうが、死活問題なので許してほしい。
最近は目安箱に入れられるアンケートが減ってきた。曰く特にいうことも無いらしい。
セクハラは変わらず届くが、一度錦えもんが何かしら釘を刺したのか過激なものは減った。最近はラブレターに近いものが多い。あと和歌とか。平安時代かな??
暇を持て余している荒くれ者は都との人力車への人材へ回し、公園は遊具の安全性も確認済み。
獣害は都から猟師を呼んで対処させている。
最初のアンケートで書かれたことは概ね解決できたといえよう。
俺に対する信頼もかなり上がってきて、納税もしっかりされているので文句なしだ。
ただどこか前ほど活気が無いのは、おでんがいなくなったからだろう。仕事をしなくても、カリスマのある上がいると言うだけで下は変わる。
俺はコツコツと好感度を稼いでいくしかないわけだが。あの破天荒の中に見える上に立つものとしての輝きは真似できない。
「午後からは城下町の見回り……護衛は菊の丞殿か。頼むでありますよ」
「はい、不埒者は直ちに切り捨てます」
「そ、そんな過激にならなくても……」
しかしやめろとは言えない。実際、暗殺者がこちらに送り込まれている時があるのだ。
オロチの差金か、はたまた別の何某かは知らないが、移動中銃弾が飛んできたり、食事に毒を盛られたり……。前者は素手でキャッチし、後者はそもそも効かなかったが。
即座に不埒者は取り押さえられ、雷ぞうがどこかに連れて行った。そのあとは知らない。
ただ、やはりおでんではなく俺に上が変わったことを……まぁ期間限定だが……良しとしない輩はいると言うことだ。
「内政というのは難しい……九里は衣食住の土台が整っているし、今は将軍様の支援もあるとは言え、ちゃんとできているのか不安であります」
「何をおっしゃいます。その献身、確かに民に届いておりますよ。この笑い声が聞こえませんか」
確かに城下町にはあちこちから笑い声が響いている。今はいいが、長い目でやっていくとなるとやはり不安になるもの。
コントロールできない天候や作物の実りなんかは特に不安だ。飢饉は避けたい。こういう時にナミの天候操作は便利だと思う。
そのナミはまだ生まれてないわけだが。
「息抜きしては如何ですか。最近の姫様はおでん様の比較抜きに根を詰めすぎです」
「そうでありますか……? それなら視察ついでに賭場でも行ってみるでありますか」
「息抜きと申しておりますのに……」
俺にとっての最大の息抜きは海に出ることだが、ワノ国の海は狭い。海賊もいないから、無駄に燃料を多く消費してしまうことになる。節約せねば。
賭場は意外にも男女問わず賑わっていた。こういうのは男達の方が多い偏見があったが、そうでもないらしい。
丁半、双六、花札……。様々なゲームが区画わけで遊ばれており、酒屋も内蔵している。酒を飲みながら賭場──賭けるのはビー玉だが──で遊ぶのは町民の遊戯としての楽しみになっているようだ。
酒代は城にも入ってくるので美味い。
「おお、“黒姫”様!」
「何故こんなところに?」
「賭場の調子を見に来たであります。畏まらず、いつも通りにしてくれて構わないでありますよ」
咄嗟に跪きかけた町人たちを慌てて諌め、気を楽にしていいと伝える。堅苦しいのは好きではない。
「ビー玉賭場はどうでありますか」
「へぇ、50集めれば姫様と直接お話しできるって、皆必死ですよ」
「金より殺伐としてないから、気軽に遊べるのも助かってます」
「なにより酒を飲みながら遊べるってのが最高だぁ!」
酒屋のカウンター席にいる男がジョッキを掲げた。俺も手に持っていた酒を一口煽る。甘さの中にアルコール特有の喉を焼く感覚が滑り落ちた。
「人気の遊戯などあるでありますか?」
「強いていうなら花札ですね、絵柄も綺麗なので女にも人気なんです」
この賭場ではメインは花札らしい。確かに花札の区画は他のゲームより大きく面積を取っており、プレイヤーも多い。
花札か。前世で軽いネット対戦で遊んだ記憶くらいしかないな。父が実物を持っていたけれど、正月くらいしか遊ばなかった。
「こいこい!」
「月見で一杯!」
「猪鹿蝶! 上がり!」
なるほど、花札エリアは確かに盛り上がっている。こういうのは丁半の方が人気なイメージがあったのだが、女性も多い分華やかな花札に軍配が上がったのか。
九里の女性は元々荒くれ者の住処だった九里に住んでいただけあって強い女性が多く、下手すると男より気が強かったりする。九里の男性は嫁の尻に敷かれがちだ。
だから賭場という場所でも女性が舐められたりしないのだろう。
「どうです、姫様もひとつ」
「賭け事の景品のような自分がやってどうするのでありますか」
思わず苦笑すると、方々から笑いが上がった。
景品が自分が賭け事の対象の賭場で何を賭けるというんだ。
「菊の丞殿、やってみたらどうでありますか」
「せ、拙者ですか?」
「自分はこういうのは見てる方が楽しいものでありまして。どうせなら花札で一戦、見せてほしいであります」
正月、祖父と父が花札をやっているのを眺めていたのを思い出す。父が勝てば、祖父からお年玉を貰うというなんとも大人気ない試合であった。まぁ祖父が強すぎて父がお年玉を貰えていたのは見たことがない。
前世の祝い事の記憶を懐かしみつつ、俺は菊の丞を花札の席に座らせた。
「ルールはわかるでありますか?」
「はい、おでん様から」
「……おでん殿が帰ってきたら賭場どうするかでありますな……」
金賭けてないしなんとかならないか。もう最初からおでん出禁でいいんじゃないか。
遠い目になりつつ、ゲームの開始を眺める。こいこいって地元ルールたくさんあってたまにわからない時あるよな。UNOとか大富豪みたいな感じで。
天下の某任天堂さんも最初は花札作ってたからな。伝統ある遊びなのだ。
「とは言っても、拙者強くありませんよ」
「金は賭けてないですし、好きにやればいいであります。自分の息抜きのためにも、楽しむでありますよ」
「は、はい!」
さて、菊の丞の手札には早速「菊に杯」が。これなら「月にススキ」か「桜に幕」でそこそこ強い役を狙えるから当たりだと言える。
しかし場に菊が無いので出せない。虎の子として持っておくのがいいだろう。
菊の丞が取ったのは「松」のカスと赤短だ。
相手は「萩に猪」とカスを取る。ふむ、猪鹿蝶のチャンスは消えたか。
「菊の丞殿、そう気を張らずに。手の内がバレるでありますよ」
「は、はいぃ……」
菊の丞の肩に肘を置きつつ、のんびり勝負の行方を眺める。
勝ったのは菊の丞、雨四光が上りの一手となった。
「うむ、面白かったであります」
「な、なんとか勝てました……」
「これを重ねていくのが賭博でありますからな。皆、ビー玉50個目指して頑張るのでありますよ」
「はーい!」
賭場はもっと殺伐としてるかと思ったが、案外和気藹々と平和だった。喧嘩しそうな連中がアシュラ童子にまとめられ、仕事を割り振られたり鍛錬させたりしているからだろうか。町では暴力沙汰の話はとんと聞かない。
「平和でありますなぁ」
「そうですねぇ」
「おでん殿は今ごろどんな冒険をしているやら」
「白ひげさんの所に迷惑をかけてないと良いのですが……」
年下の菊の丞にそれを言われたらおしまいじゃないか? おでんよ……。