あきつ丸(仮)が往く!大海賊時代特殊任務!   作:月日は花客

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30:あきつ丸、学問ヲ説ク!

 

「そういえば九里って寺子屋が無いでありますね」

 

 ふと、花の都ではオロチによる寺子屋での洗脳作業がされていたなぁと思い出す。

 九里にはそんな施設なかった気がする。大名代理になって数ヶ月、見回りでもそれらしき施設は見られなかった。

 

「九里では基本的に家の者が教えることがほとんどですね」

「識字率は高いのはそれでありますか。孤児や片親の者はどうしているのでありますか?」

「それは……」

 

 傳ジローが口籠る。その反応で、俺は次のやることを決めた。

 目安箱には投函されていなかったが、やってみる価値はあるだろう。

 

「作るでありますか、寺子屋」

「……しかし、教員や場所はどうします?」

「町の空き家を買い取って改装すればいいであります。教員は商人の次男や三男あたりから引き抜いて教育させるというのは?」

「教育というと?」

「んー、あー、勉強カリキュラムの組み方とか、子どもとの接し方……教育倫理ってやつであります」

 

 人に物を教える、特に多人数の子どもたちにというのは難易度が高い。だから日本でも教員は公務員なのだ。

 だから基礎的な教育のための知識を教えないとまずうまく行かないだろう。

 

「費用は……」

「んー、これは自分の勝手な案でありますし、私費で出してもいいでありますが……教員への給料なんかは考えないといけないでありますね」

 

 寺子屋のための改装費なんかはこっちで出していいのだが、教員の給料はこれから長く払っていく物。九里の予算から捻出しないといけないだろう。

 

「教員になることの魅力をアピールしないといけないでありますからな、給料はそれなりに高くしないと人材が引っかからないであります」

「そこまでの余裕が……」

「税を増やすのは最終手段。まずは……敵将を討つならまず馬を射よ。ということで自分がしばらく教員をするであります」

「その心は?」

「子どもが『もっと行きたい!』と強請れば親御さんがお金を出してくれるでありますなぁ」

 

 学ぶこと、知ることを楽しいと思える環境と、それはそれとして給料も良い学舎。そういうのを理想としようじゃないか。

 姫様が……これ自分で言うの恥ずかしいな。直々にお話をしてくれるとなれば、今の支持率ならある程度子どもたちは来てくれるはず。

 体験入学、というものが近いだろうか。子どもが「ここで学びたい」と言う言葉に屈しない親はそうそう居ないのでは。

 

「良さげな家屋と大工はそちらに任せる。花の都の寺子屋を参考に、九里の子どもたちの人数に合ったサイズでお願いしたいであります。改装費は自分が受け持つので」

「了解しました……その改装費、自分も一枚噛ませてください」

「別に余裕はあるでありますよ?」

「姫様ばかりに頼っていられませんから」

 

 家臣達の態度も、最初の頃と比べて堅苦しさがなくなり柔らかになってきた。最初の頃は、俺の緊張が家臣達にも伝わってしまったのかもしれない。

 早速算盤を弾きながら、俺は背嚢に詰め込んだ金品のことを考えていた。

 海賊からかっぱらいまくった金銀財宝は全部で幾らになるんだろうなぁ……まとめて質屋に持って行ったら目立つだろうから、ちまちま少しずつ換金しているのだが、未だに底は見えない。

 海賊の天敵してた時の貯蓄がここで活きている。

 

「大工は公園の作成を手伝ってくれたもの達に頼みましょう。彼らなら格安で受け付けてくれます」

「公園は好評でありましたからなぁ」

「公園によって大工の評判も上がったようですし、姫様に恩を感じているかと。教員に関しては、指導要領などを決めないと……」

「都から教員一人を指導員として呼ぶのもアリかもしれませんな」

 

 寺子屋自体は花の都が既にやっているので、つまり先人の知恵がある。下手に素人が手探りするより先を行くものに尋ねた方が手っ取り早いし確実だ。

 傳ジローも算盤を叩いていく。

 

「寺子屋の責任者に連絡を取るとして、姫様はどんな授業を行おうと?」

「寺子屋に来る年齢の子がどれくらいか……それ次第で変えなければ」

 

 小学一年生なのか六年生なのかでカリキュラムは大幅に変わるからな。

 

「将来性的には年齢一桁のものを集める方がいいでありますかね? 思春期は複雑でありますしなぁ」

「そこは募集をかけてみないとわかりませんね。瓦版を用意させます」

 

 トントン拍子に話が進む。

 その日のうちに予算案は完成し、判子が捺され、大工との交渉が始まった。

 

 *

 

「皆さん、こんにちは。“黒姫”ことあきつ丸であります。ここでは先生と呼んでほしいであります」

「はーい! あきつ丸せんせー!」

「てらこやってなにするの?」

「しらなーい」

 

 無事に空き家の改装が終わり、指導者が教員の教育をしている期間、俺が臨時で教師をすることとなった。

 俺が教師をしている間はあくまでも「体験入学」なのでお金は取らない。先行投資だ。これから親御さんは子どもの学費を惜しみなく払ってもらわなきゃだからなぐへへ……。

 

 俺はにこやかな笑みを浮かべて、指示棒で黒板を叩いた。教室が少し静かになる。

 

「今日から皆さんには『学ぶことの楽しさ』を知ってもらうであります。さて、皆はこの九里が誰によってまとめられたか知っているでありますか?」

「はーい! おでんさまだよ!」

「おお、元気でよろしい。当たりであります。ではおでん殿の大好きな食べ物は?」

「おでん!」

「そうでありますな。おでんの中には沢山の具材があります。例えば、大根。これを平仮名で書けるものはいるでありますか?」

「はーい!」

「おれもうぜんぶかけるもんね!」

「あたしもー!」

 

 ワンピースの言語事情というのは、よく分かっていない。日本語だったり英語だったりそれ以外だったり。でもなんかみんな読めてるし、みんな話せてる。なんなのだろう。

 しかしこの世界にも平仮名、カタカナ、漢字は存在している。

 漫画作品ということでの都合だろうか。こればっかりは考えてもせんなきことだ。

 

「では大根を漢字で書ける人はいるでありますか?」

「おれ、かけない……」

「大、はかけるよ!」

「うんうん、今はそれで良いのであります。ちなみに大根とはこう書くであります」

 

 おれは黒板にチョークで漢字の「大根」と書く。

 

「意味を分解すると『大きい』『根っこ』。じつは二つの意味が混ざってだいこんという言葉になっているのでありますな」

「へぇ〜」

「漢字を知ると言うのは、大人へ向けての第一歩であります。背伸びをして、大人の人に漢字で書いたお使いメモなんか見せてごらんなさい。きっと驚き! 大人っぽくなったなぁ! なんて言われたりして……」

「かあさんもほめてくれるかな」

「やおやさんのおにいさんに、おとなだっておもわれたい!」

 

 子どもというのは大人に憧れるもの。特に小学1〜2年生程度であるこの頃なら特に。

 そこを突いて、学問への興味を引く。

 

「なにより、おでん殿が帰ってきた時、今までの九里でこんな事があったよ、なんてお手紙を書きたくありませんか? そこで皆んなで漢字を使ったら、あのおでん殿だって、食べてるおでんを箸から落とすほど驚いてくれるかもしれません」

「おでん様におてがみがかけるの!?」

「かきたい! おでんさまにすきなおでんのぐをきくんだ!」

「おれ、おでんさまのサムライにしてくれってたのむんだ!」

 

 おでんのカリスマ性はこういうところで役に立つよなぁ。家来からは呆れられたりしているが、民衆の心はバッチリ掴んでいるのだから。

 こどもにもおでん人気はガンガンにあるらしく、おでんに手紙をかけると知った子ども達は大喜び! もう一度指示棒で騒ぎを収めることになった。

 

「この体験での最後の目標は『おでん殿にお手紙を書く』こと! 武士に恥じない文を書くためにも、少しばかり、このあきつ丸のお話を聞いてほしいであります」

「あきつ丸様、おれもサムライにしてもらえるかなぁ!?」

「おやおや、まずは大根を書けるようにならないと……実のところ、『侍』という漢字もあるのでありますよ」

「ほんと! おれ、かんじたくさんべんきょうする! おでん様のけらいになるんだ!」

「あたしは菊の丞様におてがみかきたい!」

「そのためにも、しばらく毎日この寺子屋に来て欲しいであります。どうでありますかな?」

「はーい!!」

 

 元気のいい、良い子たちの声がそう広くない教室に響いた。

 俺はにっこりと笑って、授業を終了する。

 明日からは簡単な漢字から。そしてお手紙の草案を書かせ、それに出てくる漢字を中心に学ばせよう。

 九里の子どもたちが良い子ばかりで助かった。そしておでんのカリスマ性にも。

 人がいなくなった教室で、俺はそっと、黒板の「大根」を消した。









しばらく平和な話が続くかも。派手な描写をどこで挟めば……。
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