もっとおでんのカリスマを信用してあげて!!!!
「おでんさま、おれは、サムライになります! サムライになって、おでんさまみたいにつよくなりたいです! あみがさむらの、ごしんぼくもきれるくらいのかたなを、ふるいたいです!」
「良い文章でありますね。これが出てくる漢字の一覧であります。よく書取りして、見なくても書けるようになるでありますよ」
「はーい!」
俺は教壇にて、子どもたちがおでんに向けた手紙を読み上げるのを聞いていた。そしてそこに出てきた漢字を一覧に書き、渡す。
そしたら各々で書取りの練習をして、清書をさせる。
それがここしばらくの授業の流れだった。
中には内容に悩んでなかなか筆が進まない子もいるので、何を伝えたいのか、どんなことを感じたのかを言葉にする手助けをして、紙に書かせていく。
1回目の授業は子どもたちにも親御さんにも好評だった。子どもたちが家でよく話してくれたんだろう、通りを歩けば「息子をよろしくお願いします」なんて言われることもある。
そこから何回か授業を重ね、文章の書き方や綺麗な字の書き方を指導し、ようやくおでんへの手紙を考えるに至ったのである。
ようやく手紙が書けると、子ども達は真剣に内容を考えている。
俺は内容を茶化すことなく、ひたすら漢字をリストアップし、書くコツなんかも教える。
中には家で自習してきた意欲のある子もいて、喜ばしい限りだ。
「おでんさまは、いつかえってくるの?」
「いつでありましょうねぇ……でも、それまで手紙は自分がしっかり預かっておくであります。安心して筆を取るでありますよ」
「くろひめさまは、さびしくないの?」
「さびしく……? いいえ、きっと帰ってくると信じておりますからね」
寂しいか、と聞かれると答えは否だ。どうせロジャーと大冒険して帰ってくるんだから。
1回目の帰国は四時間と短い時間だし、トキとその子どもたちを置いて行くだけなのだが……そういえば、彼女らのことも考えておかねば。
モモの助は実質的に次期将軍だし、教育もあるだろう。
「あたしもね、おでんさまはすっごいぼうけんをしてかえってくるとおもうの! だから、そのはなしをきかせてほしいっておてがみをかくんだ!」
「なら、とびっきりの手紙を書かないとですな。ほら、書取りの見本でありますよ」
寺子屋は賑やかだが、うるさいというわけではなかった。
皆自分の手紙に本気になっているし、他のものの漢字も参考に内容を練り直したりしている。
やはり「侍」や「忍者」という漢字が人気で、よく書く子が多い。
その事を赤鞘メンバーに知らせたら、顔を真っ赤にして照れていた。中には赤鞘のような家来になりたいと書く子どもさえいるのだから、彼らも民衆に信頼されているのだろう。
「あきつ丸せんせーはおでんさまにおてがみかかないの?」
「え? 自分が?」
「えー! せんせーかかないの!?」
「かこうよー!! せんせーおでんさまのだいり? なんでしょ!」
「かきかたおしえてあげるー!」
おおう、子どもの行動力とパワーってすごい。
なんかあっという間に俺もおでんに手紙を書く流れになってしまった。
持たされた筆と紙に、俺はそれらを見つめたまま黙り込む。
な、何を書けば良いんだ……??
俺の中で今のおでんへの感情、「仕事しろ」しか無いぞ……? しかしそんな事を書いては子どもたちの夢を壊してしまうのでは……?
「あのねー、『侍』ってかんじはこうかくんだよ!」
「アンタばかね! それをあきつ丸せんせーにおそわったんじゃない!」
「せんせーはどんなことかくのー?」
ワラワラと教壇に集まり始めた子どもたち。集団の前で誰かの手紙を書かされるって、なにその公開処刑。
「わ、わかった。わかったから皆席に戻るでありますよー! あと少しで授業が終わるであります!」
「わ、ごめんなさーい!」
「はーい!」
席には戻らせたものの、子どもたちは俺がおでんにどんな事を書くのか気になって仕方がないらしい。そわそわと腰が座布団から浮いている。
俺は苦笑いで、当たり障りのない季節の文章を半紙に書いておいた。
*
「教員の指導教育の最終日、でありますか」
「はい、是非最後に姫様のお言葉をいただきたく」
寺子屋の子どもたちから預かった手紙を整理しながら、俺は都から呼びつけた教師の話に耳を傾けていた。
教師はオロチの息がかかっておらず、体罰や偏向的な教育をしない真っ当な人材を傳ジローたちが選んでくれた。きっちりと着物を着込んだ指導員は、最後の指導の日に俺に一つ話をしてほしいという。
「教員たちは私の名にかけて立派な教師としての理念を叩き込みました。そして、最後に姫様の激励の言葉でもって、授業を締めたいのです」
「なるほど……とは言っても、自分に教育というのは専門範囲外。上手い事を言えるかはわからないでありますが」
「何をおっしゃいます。子どもたちの心を掴み、手紙を通じて文章力や識字率を上げる。素晴らしい手腕です」
「そう言ってもらえると助かるであります。まぁ、小話くらいならできるでありますよ」
「よろしくお願いいたします」
手紙を丁重に漆の箱に入れ、背嚢に入れる。これはおでんがカイドウとオロチを打倒した時まで取っておこう。責任持って管理しなくては。
俺は立ち上がる。
「では、その教員たちのもとへ案内していただけますか?」
「はい。すぐに」
教員たちは、基本商会の次男坊や三男坊、文壇にいる者など、算術や国語力に長けているものの中で募集した。九里の中では結構高給取りの仕事だと思う。
なんとか体験入学によって親御さんから得た支援金(なんかいつのまにか支援会が発足されていた)を元に、給金を捻出する事ができるようになったのだ。
地頭がいい者たちなので、寺子屋の重要性というのはよく分かっているのだろう。
いつかあの寺子屋から商人や文化人が輩出された時、自分の箔になることもよく理解している。まぁそれだけでやってける程教師は甘くないのだが。
「最後に、姫様からお言葉をいただく。姫様、お願いいたします」
「どうもこんにちは。教育者の卵の皆さん。“黒姫”ことあきつ丸であります」
突然の俺の登場に、教師たちは驚いたように顔を呆けさせた。しかし無駄口は叩かなかったのだから、指導員の努力がうかがえる。
俺は教壇に上がり、口を開く。
「ここにいる者たちは、厳しい指導を受けながらも子どもの未来をより良いものにするため、努力してきたものたちかと思います」
席全体に視線を向ければ、規律と倫理、知識に貪欲な瞳をしたものたちが俺を見つめている。どこか緊張した空気だ。
「子どもへ物を教えるというのは、大人としての誉でしょう。──ですが、そこには大きな……壁がある」
ぴしり、と教師たちの身体がこわばった。
「子どもというのは純粋であります。無垢であります。そしてなんでも吸収して己の力とする可能性の塊であります。しかし……そこには危険性もある。我々が教えた事を、彼らは疑わないでしょう」
ごくり、と指導員が唾を飲んだ音がかすかに聞こえた。
「教師が道を違えれば、そこに連なる生徒たちも皆共々堕ちていくことになる。数多の子どもたちの将来を、今この瞬間から貴方たちは握っている。その責任は重くのしかかり、教師である以上一生背負っていくものであります」
洗脳教育は子どもから成される。
戦時中、教科書には兵隊さんのお話が多く載った。それはやがて黒く塗りつぶされたが、確かにそれを教えられた子どもたちがいた。
「子どもたちが九里に、ワノ国にとって優秀な人材になるか。人として幸せになれるかは……貴方がたにかかっていると言ってもいい」
青空で詩を教えていた教師は何を思っていたのだろうね。
「その覚悟を、ゆめゆめ忘れず……しかし、それを子供に悟らせず、楽しい授業をするというのは困難な事であります」
学校が楽しいか。という問題は、現代においても問題視されている永遠のテーマ。それに殴りかかりにいかないといけないのが、教師だ。
「ですが……自分は貴方がたがこれを成し得ると信じている。九里寺子屋教師の第一陣として、恥じぬ戦いをしてほしいであります。……これにて、私の話は終わりであります」
そっと息を吐き、言葉を締め括った。
その瞬間、室内に拍手が響く。
教師が、指導員が大きく手を打ち鳴らしていた。
「……頼むでありますよ、このワノ国を、未来に繋ぐために」
俺は背嚢の中の手紙が、熱を持つような感覚に襲われた。
それは確かに、俺が背負った覚悟の焔だったのだろう。