「九里祭り?」
大名代理になって早数ヶ月。年明けが近づく頃、傳ジローがその準備の話を持ちかけてきた。
「はい、毎年大晦日と新年にかけての一晩行う祭りで、おでん様は毎回直々に余興をされていまして」
九里祭りというのは年明けカウントダウンのような物を兼ねた九里特有の祭りで、屋台や出店が出るほか、おでんが毎年なにか芸をしていたという。
大抵はおでんの具材の早切りであったり、その力を活かした相撲大会だったりしたようだが、それを今年はどうしようという話だった。
「祭りに関しては、せっかくの新年。少しハメを外して盛大にやるのはいいと思うであります。しかし、余興でありますか……」
「あきつ丸様は忙しい身。それに燃料のこともあります。無理にとは誰も言いません。曲芸団を呼ぶなりしたら如何でしょう」
「いや……少し考えさせてほしいであります」
余興かぁ。
俺もこの九里の大名としてかなり馴染んできて、寺子屋や賭場など成功した政策も幾つかある。町の評価は上がっているだろう。
そんな中で、毎年の楽しみだったおでんの余興が無いというのは、寂しいよな。
町民のみんなも、口には出さないがおでんには帰ってきてほしいと思うし……。
なにより祭りの目玉が無くなるというのは俺としても残念に思ってしまう。
「余興かぁ……」
おでんのように早切り等刀の腕を活かしたものも良いが、どうせなら俺にしかできない事をしたい。
おでんの焼き回しはつまらないというか……どうせ劣化コピーになるだろうし。
となると、やはり海か。
海岸は九里の住民が集まっても問題ない広さはあるし、そこでなにかやりたい。
しかし砲撃や艦載機による演習は逆に民を怖がらせてしまうかもしれないな……。
うんうん俺が頭を悩ませていると、菊の丞がそっと抹茶を差し出してきた。半月堂の練り切りもある。
「これ……!」
「取り寄せてもらいました。なにやら悩まれているようでしたので……。あきつ丸様は一人で抱え込むところがありますから、拙者でも誰でも良いので相談してくださいね」
「……心配をかけたであります。なに、オロチ関連のことではなく……今年の九里祭りの余興を、どうしようかと」
「ああ、おでん様が今年はいらっしゃらないですからね」
菊の丞も納得したようで、一緒に考えてくれる。
俺は練り切りと抹茶に癒されながら、自分の強みを頭の中に羅列していく。
・海上に浮ける、滑走できる。
・砲撃ができる。
・艦載機を飛ばせる。
・あきつ丸の身体なので顔がいい。
・艦娘フィジカル
こんなものだろうか。
うーん、戦闘に偏っている。余興より戦いを望みそうな宣戦布告になってしまう可能性大。
やはり諦めるか……? としょんもりしていると、菊の丞がふと声を上げた。
「舞いましょう! 姫様!」
「…………え?」
*
「つまり、水上での滑走による舞いを披露する、ということでありますか?」
「はい、あの滑るように移動する、海の上を進むという神秘的な姿。それはおでん様にもない姫様だけの魅力」
「まぁ、確かにあれは自分くらいしかできないでありますな」
キュポン。と抹茶を飲み終わった後に酒瓶を開ける。日課の補給である。飲んだくれの大名ってどうなんだろうね……と蓋を開けるたび虚無になる。
しかし確かに水上パフォーマンスというのは俺も考えたことだ。砲撃なんかは物騒すぎて却下だが。
「この菊の丞、舞いには少し心得があります。どうですか、水上での姫様の舞! すごく需要があると思われますよ」
「そ、そうでありましょうか?」
「はい! 姫様はそれこそ不埒者も湧くほどの見目の麗しさ。そんなお方の美しい舞いなんて、見れない人が可哀想です」
「そこまで……??」
あきつ丸の姿を褒められるのは素直に嬉しいが、菊の丞、いつもとキャラ違わないか?
興奮したように腕の振り方が滑るように踊る仕草がと熱弁する菊の丞に熱意で負け、俺は余興を決めた。
「しかし自分、舞いの経験など微塵もありませんよ」
「最初はみんなそうです。姫様は運動神経がとてもよろしいですから、すぐに体得できるかと!」
「ご、ご教授お願いします……?」
そう呟けば、菊の丞はその美しいかんばせを破顔させた。
*
水上でやるとして、ここでネックになるのがやはり燃料問題である。
樽いっぱいの酒を飲んで一時間航海ができるかどうかという現状、やはり燃料をどうにかしたかった。
艦娘の燃料の正体は石油だ。この世界に油田があるのかは知らないが、少なくともワノ国には無いだろう。どうにかして、このカツカツな現状をなんとかしないといけないわけだが……。
「姫様。外へ降りて、燃料を集めてきてください」
赤鞘たちが集まって、そう進言してきた。
流石に反論する。
「その間に何かあったら……というか、仕事があるであります」
「その仕事、我々家臣が一時的に引き継ぎます。このままでは姫様の生命維持そのものが危うい状況。仕事仕事と言ってはおれませぬ」
「なにより姫様の息抜きに、休暇という形を取られるのがよろしいかと」
「おでん様の時でも、なんだかんだ九里は回っていました。体制や基盤がより整えられた今、姫様が数日いなくなられても平和維持はできます」
「というか、ほんと身体心配なので休んでください!!」
そうして土下座までされてしまった。
俺なりに九里をより良くしておでんを迎えてやろうと思っていたのだが、その働きぶりは家臣に大きな心配を与えていたらしい。
トドメとばかりに、秋茜が鳴いた。「そうだそうだ」と言わんばかりだ。
いや、秋茜は最近自分が振るわれてないから拗ねているだけかもしれない。
「……わかったであります。数日、グランドラインに戻り燃料を調達してくるであります。その間、九里を任せるであります」
「わかっていただけましたか」
「そこまで心配をかけていたとは……というか菊の丞、ここまでもしかして既定路線だったでありますか?」
「あはは……実は……」
やはり、家臣全体で俺を休ませるために誘導したな?
まぁそこまで心配をかけていたということだろう。反省だな。
俺は刀掛けにかけていた秋茜を手に取り、帽子を被り直した。
「では今から行ってくるであります。万が一の時はカン十郎たち、連絡を頼むであります」
「はっ!」
ああ、グランドラインに戻るのもいつぶりかなぁ。
「よっ……と」
滝を飛び降りて、まず艤装を展開しカ号を発艦させる。効率重視でいこう。
久しぶりの大海原に心が躍る。
数分もせずにカ号が海賊船を発見した。こっちに向かってきているので、おそらくワノ国を目指しているのだと思われる。
知らないジョリーロジャーに口角を上げ、俺は秋茜を抜いた。
「強襲型一刀流・対空『カガ』」
まるで弓を引くように一直線に放たれた斬撃が、ガレオン船を縦に真っ二つにして沈めた。
次に行こう。
次は近海にいた船団だ。複数の船が纏まって動いている。俺としてはボーナスステージだ。手軽に沈める数を稼ぐことができる。
「強襲型一刀流・強撃『チクマ』」
両手による大振り一閃でまとめて両断した。海賊は何が起きたのかわからないまま海に落ちていく。
次。
なにやら商業船を襲っている船を見つけた。船としては大きいが、感じる気配はあまり強くない。虚仮威しのようなものだろう。
「強襲型一刀流・連撃『クマ』」
まるで熊の爪のような形で切り裂かれたガレオン船。そのまま艦載機の射撃で海賊を始末し、商業船は放置して去った。別にお礼とかいらない。俺のためにやっていることだから。
次。
次の船はなかなか優秀だった。俺の接近にいち早く気づき、砲撃してきたのだ。
その砲弾を秋茜で切り捨てれば、絶望したような表情が甲板に見える。
知ったこっちゃないが。
「強襲型一刀流・居合『シラツユ』」
さて、秋茜も満足したようだし、砲撃も使っていこう。
その日、俺が沈めた海賊船の数はゆうに25を超えていた。
強襲型一刀流・対空「カガ」:超長距離に飛ぶ縦一線の斬撃だぞ! まるで弓矢のように放たれるそれは速度もあるのでかわすのは容易ではない! アカギと同じく攻撃前後に隙ができるぞ!
強襲型一刀流・強撃「チクマ」:横一閃に放たれる強攻撃だ! 射程は短いが横幅の範囲は随一! 受け流すことすら難しいぞ!
強襲型一刀流・連撃「クマ」:クマに引き裂かれたかのような爪痕じみた斬撃だ! 連撃数こそ少ないが威力は折り紙つき。破壊力はかなりあるぞ!
強襲型一刀流・居合「シラツユ」:居合の中でも大きく振り切る技だ! こちらも射程は短いがスピードは早く次の一手に繋げやすいぞ!