あきつ丸(仮)が往く!大海賊時代特殊任務!   作:月日は花客

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34:一方その頃

 

 さて、これはあきつ丸が海に出ている間のワノ国の話……。

 

「だーかーらー! 姫様は絶対膝上袴が良いと言ってるでしょう!!」

「何を言う! あきつ丸様を不埒な目で見る輩は減っておらぬのだぞ! そんな中で丈の短い袴なんぞ着せたらどうなるかわかっているだろう!!」

「だからといってくるぶしまである袴は舞いにくいのでは? ここは膝下10センチほどで……」

「そもそも馬乗袴か行燈袴かも決めていないだろう。まずはそこからなんじゃないか」

 

 菊の丞、錦えもん、カン十郎と傳ジローが口論を繰り広げていた。

 横にはそれを笑顔で見つめる仕立て師がおり、布の見本やカタログを広げている。

 ダン! と錦えもんがちゃぶ台を叩く。

 

「目安箱の件を忘れたか! あきつ丸様はあくまでもワノ国に留まっていただいている立場! そんな方に万一があったらどうする!」

「しかし魅力を引き立たせずに中途半端なものを仕立てるというのも失礼でしょう!」

「姫様に手出せる奴このワノ国にいないと思うけど……」

 

 河松の真面目なツッコミは二人の熱意に流されてしまった。

 傳ジローは布の見本を見つつひたすら算盤を弾いており、デザインに関してはそこまで興味が無いようだった。

 アシュラ童子はこういうものは戦力外だと不参加である。

 

 一番ノリに乗っているのは舞を提案した菊の丞で、錦えもんは菊の丞の提出したデザインにひたすらダメ出しをしている。

 その姿はまるで姉にオシャレをさせたい妹と心配する父親のようであった。

 

「脇を出すと言うのもなんだ!? 露出は最低限! 破廉恥だぞ!」

「姫様の舞は水上で行われる激しいものです! 脇部分に布があると着物が型崩れしやすいのですよ! なぜわからないのです!?」

「おーおー、白熱してんなぁ」

「アシュラ童子。人力車の点検に行くんじゃなかったのか」

「もうすでに終わった。から、戻ってきたんだが……」

 

 アシュラ童子は呆れた様子と、少し引いた様子で激突を繰り返す二人を見た。河松も、きゅうりを食べながら眺めているものの、あの熱にはついていけそうにない。

 傳ジローに関しては仕立て屋とかかるコストの話ばかりしている。

 

「姫様、上半身はきっちりしてるのに下半身のガード甘いからなぁ。錦えもんが心配するのもわかるけども」

「錦えもんのデザインは若いものにはウケんだろうなぁ」

 

 錦えもんが推奨するデザインは露出が一切なく、しかもマントや帯によって徹底的に体のラインが隠されるものだった。防御力は高いが、舞には映えないし、そもそも重いだろう。

 菊の丞のデザインは対象的に、脇を出すし足も出す。あきつ丸の実は豊満な胸こそ隠されているものの、男がフェチズムを感じるところはしっかりと露出していた。

 錦えもんはそれが許せないのである。

 

 河松は魚人であり感性がすこしズレているのと、「姫様が着たいもの着ればいいんじゃないですかね」スタンスなのでおやつのきゅうりを消費するだけになっている。

 傳ジローはなにやら布の吟味を始めている。

 

「カン十郎! おぬしも目安箱の件には怒っていただろう! 菊の丞の案はあまりにもやり過ぎだと思わんか!?」

 

 ここで錦えもんが親友のカン十郎に援護を求めた。菊の丞は焦る。人数的に不利になると、「どっちでもいいよ」のメンバーが一気にそこに乗っかる可能性がある。数的有利か対等にしておきたいのが本音だった。

 カン十郎はしばらく考えると、なんともいえない顔で二人を見た。

 

「中間、という案は無いのか」

「中間……?」

「脇は型崩れに影響するなら出せばいいし、脚は不安なら隠せばいい。折衷案を出さないといつまで経っても決まらないぞ」

 

 ド正論であった。

 カン十郎はあきつ丸に仕えるようになってから、彼女のことをより深く観察し役者として役に立とうとしてきた。

 ので、彼女が割と露出に抵抗がないこと、動きやすさを求める性格をしていることを知っている。

 かといって錦えもんの気持ちもわかるので、はよ折り合いをつけろとストレートに言った。

 菊の丞と錦えもんは背中から切られたように項垂れる。

 それができたら苦労しないのだ。

 

「ならばマントは辞めましょう! 舞の邪魔です」

「腰の帯は外せんぞ! あとあまり太ももを出させるな!」

「お、この生地いいな。幾らだ?」

「はい、値段表がこちらに」

 

 またも再熱する菊の丞と錦えもんをカン十郎が遠い目で見つめた時、傳ジローは好みの生地を見つけたのか更に算盤を弾くスピードを速くする。

 

「ところで色はどうするんだ?」

 

 ふと、アシュラ童子が問いかけた。純粋に、さまざまな色の反物が並べられている現状、色は決まっているのか気になったのだ。

 アシュラ童子は服装に関しては、特にあきつ丸のように小さく細い女子の服にはなんの知識もなかった。なんせ自分がこの体躯。わかるわけがない。

 だからこそ、二人の第二の戦争の口火を切ったことに気付かなかった。

 

「黒だろう」

「白でしょう」

「は??」

 

 声が重なったのは同時だった。その次に怒りの一言もまた共鳴する。

 菊の丞はデザイン案がまとめられた紙を机に叩きつけた。

 

「姫様の新しい魅力を発掘するためにも! ここは白でしょう! まるで神に捧げるような美しさになること間違いなし!」

「あきつ丸様はいつも黒を着ていらっしゃる! 黒が一番似合う!」

「……おれ、なんかやっちまったか?」

「火に油を注いだなぁ」

 

 アシュラ童子も河松の隣に座り、酒を飲みながら舌戦を眺めることにした。もう自分は何も口出ししないほうがいいと悟ったのだ。

 河松は何時間前からこのやりとりを眺めているのだろう?

 

「差し色は青です」

「うむ、そこは同感だ。彼の方には海の青が似合う」

 

 そこは同調するんかい。

 カン十郎は親友のことが若干わからなくなっていた。役者の道を歩んで人生何年。近しい人の新しい一面はいつだって驚くが、今回は特に度を過ぎている。

 

「だからこそ清涼感のある白地に青が美しいんじゃないんですかぁー!?」

「挑戦より本人が慣れた色の方がいいだろうが!!」

「アシュラ童子、姫様はどれを選ぶと思う?」

「おれぁ姫様の好みなんて全然知らんからなぁ」

 

 白熱し過ぎて背後の炎が青く見える菊の丞と錦えもん。

 遠い目のカン十郎。

 のほほんと好物を食べる河松とアシュラ童子。

 算盤の音が激しくなっていく傳ジロー。

 にこやかな仕立て屋。

 場はカオスが極まっていた。

 

「っ……傳ジロー! 貴方はどう思うんです!?」

 

 ここで菊の丞が蚊帳の外にいた傳ジローに声をかけた。

 傳ジローは算盤を弾く手を一時的に止め、やおらこちらを見た。

 

「貴方の意見を聞きたいです」

「……そうだなぁ……」

 

 傳ジローはリストアップした生地の候補を見つめながら、口を開く。

 

「そもそも姫様はワノ国の服を着たことが無い。だからこそ着やすさ、肌触りの良さ、軽さがあることは大前提として、舞を舞う上での()()()やその白い肌をより映えるようなデザインにすると良いだろう。装飾は花もいいが神巫のような雰囲気を出すなら狐面、あるいは月の紋などがあるといいと思う。花はものによっては縁起が良く無いからな、曼珠沙華なんかは姫様の仄暗い美しさを醸し出すのにちょうど良いが新年には向かん。紅白という案があったがやはり青が似合うというのは満場一致らしいから、青の中でもワノ国の海の色に近い染め方を模索しないといけないだろう。仕立て屋の色見本を海に持っていくのも良いかもしれないな。潮風に強い素材であることも条件だ。彼の方は必ず練習を熱心にするだろうから本番までに劣化しないよう最新の技術を使って手入れをしないといけない。そこは女中たちの領分だが。全体的な色合いは舞う時間帯によっても変わるだろう。夜に舞うのだったら宵闇に溶け込む黒がいいのか目立つ白がいいのかまた議論の方向性が変わってくる。総合するとまだ確定するには要素が足りない。金銭面は俺がなんとかするからお前たちは祭りの詳細も詳しく考えた方がいいと思うぞ」

 

 一息で言い切った。

 

 室内がシン……と静かになる。

 あれほど声を荒らげていた菊の丞も錦えもんも口を真一文字に結んでいる。

 一番の火薬庫は、こいつだったのかもしれない。








Q.ドンキホーテ一家の事件は海軍ではどうなってるの?

A.上が情報規制をかけてるよ!
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