A.領地を任せてる大切な姫様にスケベ心向けられるかなぁと思ったので……。
いやーまさかクザンと会うなんてな〜。
接触任務が穏便にクリアできたのは地味に美味しい。燃料燃料。
この頃はたしかオハラの一件が無いから……けっこうやる気あった時代だった気がするのだが、休日で気が抜けてたのか俺が海賊じゃないからか、話がわかるタイプでよかった。
マジでサカズキとかだったら目も当てられない。強制的に海軍に入らされるか不穏分子は排除! とかいって戦闘になってた気がする。
ボルサリーノは……あれわかんないんだよなぁ性格が。どうなってたことやら。
そろそろ燃料もしっかり貯まったし、帰るか。
と、俺はワノ国へ戻り始める。
この数日間、大量の海賊船を沈めた。中には明らかにビッグ・マムの傘下らしき船があったのでそれはスルーしたが、なかなかの戦果だ。
あくまでも俺は「海賊を倒す」ではなく「海賊船を沈める」という目的のため、相手の土俵に上がることなく遠距離から船を破壊してしまえばそれで目的クリアというのが楽なポイントだろう。
秋茜も存分に振られて満足しているようだし、機嫌が取れて何よりだ。妖精さんたちも久しぶりの艤装の活用に張り切っていたしな。
斬撃ジャンプの力で滝を越え、無事に九里に帰ってきた。
クザンという臨時収入もあったため、しばらく燃料には困らないだろう。無駄遣いは許されないが。
数日ぶりの城下町は大晦日に向けた準備でおおわらわ。あちこちで決算セールやら新年のためのグッズが売られている。
この世界にも福袋とかの概念あるんだろうか? 半月堂がやるんだったら買いたいな。
「今年はおでん様は帰ってこられないのか……」
「九里祭りが少し寂しくなるな」
「姫様のおかげでそれ以外は豪華にできそうなんだ。あまり文句を言うもんじゃないよ」
そんな言葉が聞こえてくる。
九里祭りのおでんの余興は、思った以上に民衆には人気らしかった。俺はその穴を埋められるのだろうか……。
飾り付けもされていく町を、俺はワクワクと不安が入り混じった感情で歩いていた。
「おかえりなさいませ、姫様!」
「お疲れでしょう? 湯浴みですか? 昼餉ですか? 準備は整っておりますよ!」
城に帰ると、女中たちがなにやらいつもよりテンションが高い。彼女らも大晦日が近づいて浮き足立っているのだろうか?
潮風に当たり過ぎて髪が傷んでいるため、まずは湯浴みを。と言うと、「畏まりました!」とあれよあれよと服を脱がされ風呂に連れていかれる。
そしてタコの三助くんに洗われるのだが……いまだに慣れない。
あきつ丸の身体、と言うのにはまぁそこそこ慣れたのだが、タコの触手で洗われるというのは未知すぎて、しかも大名の風呂だからかマッサージもしてくれる優秀な三助くんである。気持ちいいが、絵面が大丈夫だろうかという気持ちもある。
ほどよい湯加減であったまり、女中たちが髪や身体を拭いて乾かしてくれる。
至れり尽くせりだ。こういうのも彼女たちの大切な仕事のひとつなので、一人でやったりはしない。使用人から仕事をとる主人はあまりいい顔をされないだろう。
湯浴みが終わったら数日いなかった分の執務を……と思っていたのだがなにやら薄手の長襦袢を着せられ、あれよあれよと別室に連れ込まれた。
「な、なんでありますか?」
「姫様、今年の九里祭りで舞を披露されると聞きました!」
「あ、まぁ、そうでありますな」
「その為の衣装の採寸を、これからさせていただきます」
女中たちが採寸用のメジャーを持ってにこやかに笑った。
「い、衣装の採寸……? 新しく服を作るのでありますか?」
「ええ、菊の丞さまが随分と熱心に計画されておりましたよ。素敵な衣装のためにも、少しお身体の方、失礼致します」
「は、はぁ……」
菊の丞、どんだけ本気なんだよ。
そう思いつつ、されるがままに所謂スリーサイズや肩幅、全体的な身の丈や足の太さすら測られていく。少し恥ずかしいが、これも衣装のためと心を無にして耐えた。
あきつ丸としてこの世界に降り立ってから、メンタルが船寄りになっていることは何回か考えたが、どうやら性欲や食欲といった生命に関することも抑えられているようで、一応前世とは異性の身体であるあきつ丸の体を見ても何も感じない。
男とか、女という分類ではなく「あきつ丸」という分類になったという感覚だ。船に性欲は無い。
しかし羞恥心はあるので、ここまで全身くまなく測られるとちょっとこう……むず痒いものがある。
そういえば、和服というものはある程度円柱のようなシルエットを目指すため、あまりくびれがあったり胸と腰のラインに波があるとタオルなどで補正しないといけないと聞いたことがある。
あきつ丸はわりかし胸はあるし、美少女らしく腰も細いので、補正がいるんだろうか。
それともファンタジー着物のようにガッツリくびれを主張していくのだろうか。
そんなことを考えていたら採寸が終わり、いつもの詰襟に改めて着替えさせられる。
「お疲れ様でした。昼餉の準備が整っておりますので、少々お待ちください」
「了解したのであります」
そうして女中たちは去っていった。
ここでの食事は、俺が魚料理好きを公言しているからか魚料理が多く、特に朝餉の焼き鮭と白米が絶品である。
昼は煮物や蕎麦なんかが多く、夜は鍋だったりする。
おでん様の時はおでんばかり作っていたので、料理番が様々な料理を作れると喜んでいましたよ。と言われたのはいつだったか。
ワノ国の食事は前世の日本を思い出してほっこりする。郷愁にかられると言うか、安心感が違う。
グランドラインの飯は割と味付けが濃かったり香辛料がキツかったりするから、程よい薄さの和食が沁みるのだ。まぁこればっかりは文化の差だから仕方ないのだが。
「お待たせいたしました」
今日の昼はうどんだった。月見うどんである。
ワノ国の卵は衛生面がしっかりしているのか割と生卵は食されている。卵かけご飯もちゃんとある。
うどんの出汁の熱でほんのりと卵白が白く固まり始めている、ほうれん草や天かすも乗せられた豪華なうどんだ。
俺はわりかし辛いものが好きなので、一味を少しかけ、月を割る。とろりと溢れ出した卵黄が麺によく絡みつき、良質な卵特有のコッテリした香りが鼻を抜けた。
啜ってみれば、まず一味のピリリとした辛さが先に来て、それを卵黄の甘さが包み込む。麺はコシがあり、歯応えもありつつつるりと飲み込めた。
ほうれん草は少し苦味を残して茹でられているため、卵黄の甘さを程よくリセットしてくれる。
出汁の香りが顔全体を包み込み、湯気が頬を湿らせる。
黙々と食べ進めれば、少食の自分でもペロリと食べてしまえた。
鈴を鳴らして女中を呼び、皿を下げてもらう。今日も美味しかったことを忘れずに伝えて。
「ふぅ……このまま昼寝でもしたい気分でありますなぁ」
ここ暫く昼夜構わずひたすら海賊船を沈めていたから、久しぶりのまったり時間に眠気が襲ってくる。
しかし自分がいなかった間の九里の状況や祭りの計画案などを聞かねばなるまい。俺は軽く頬を叩き目を覚まささせ、菊の丞たちを呼びつけた。
「留守の間の九里の維持、ご苦労だったであります。何か問題など起きたでありますか?」
「お帰りなさいませ。いえ、平和でございましたよ」
「こちらも祭りの計画案に集中できたと言うもの。こちら、まとめた資料となっております」
渡された紙束を見れば、出店する屋台の一覧や出し物のリスト、大まかなプログラムがしっかりとまとめられていた。
その中に、俺の舞があるのを見つける。どうやら新年が明ける直前の深夜に行われるらしい。
「今年の大晦日は満月。月下のもと舞う姫様は傾国すら足りぬ美しさとなりましょう」
「あ、あはは……その為にも、練習を頑張らねばなりませぬな。菊の丞、指導をよろしく頼むでありますよ」
「はい! 衣装は出来次第すぐに送られてきますから、楽しみになさっててくださいね!」
「我々、全力を以って考案致しましたぞ」
菊の丞と錦えもんが胸を張る。それにカン十郎やアシュラ童子が遠い目をしていたのは何故だろうか……。
しかしワノ国の衣装か、楽しみだな。
来る大晦日に向けて、俺も九里祭りへの期待を高めていった。