あきつ丸(仮)が往く!大海賊時代特殊任務!   作:月日は花客

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見なよ、オレのあきつ丸を……。






36:月下の舞、華やいで

 

「次の演目は姫様の舞だってよ!」

「姫様の舞だって!?」

 

 今日は大晦日。新年に続く九里祭り。

 張り出された祭りのプログラム一覧を見て、誰かが叫んだ。

 それに屋台でたこ焼きを食べていた者が反応する。

 その言葉に、周りのものも耳を大きくしたようだった。

 

「ああ、そう書いてある! 『見たいものは港の海岸線に集まること』……こ、これぁ行くっきゃねぇ!」

 

 男は屋台を乗り越え、真っ先に海岸に向かって走り出した。

 それに他の者たちも続く。

 姫様の舞。その言葉は町民たちを動かすに十分な言葉だった。

 姫様はこの九里の大名代理である。冒険に出たおでん様の代わりにこの九里を治めてくれている、年若い少女だ。

 最初こそ、こんな、幼いと言っていい少女に領地を任せられるのか不安に思った。しかし、彼女の行う政策はどれも民衆に寄り添い、また九里やワノ国をより良くする為に考えられたものだった。

 なかには姫様自身の私財を投じて行ってくれた策もあったそうな。

 町を歩いているのを見かけると、愛想は良くその美しいかんばせを微笑に飾り、偉ぶったりせず民と接した。

 そんな彼女に、もう九里の者はメロメロなのだ。

 よく酒を飲んでいるところを見かけるが、おでん様がおらず寂しいのだろう。彼女はおでん様の最初の家臣と聞く。彼の人の代理を務め続けるというのは、背負う重荷の如何程か。

 おいたわしや、と思いながらも、民草の前では気丈に振る舞う姫様を、民たちは影ながらに……影ながらに? 応援していた。

 

 そんな、九里中で愛される姫様の舞。

 こりゃあ見逃したら一生後悔するぞ! と誰かが録画用伝電虫を用意した。後でその映像くれ! おれは20出すぞ! わたしは30! と既に競売が始まっている。

 程なくして九里の海岸に大量の民が集まった。

 今宵は満月。黄色いお月様が凪いだ海を照らし、薄墨のような光沢を反射させていた。

 海岸の横、少し離れた位置にはなにやら音楽隊が、三味線や琴、鈴の準備をしている。

 こんな海で、どうやって舞うのだろうか? 民たちは疑問に思いながら、その水平線を見つめていた。

 

 不意に、視界の外から何かが滑ってくる。

 水上を沈まず、まるで氷の上を滑るかのように進む存在に、海岸線はざわついた。

 視界の中央で止まったそれは、やがて月夜に照らされそのシルエットを露わにする。

 人、であった。

 

 パッとどこからか光が当てられ、その謎の存在がはっきりと映し出された。

 ワノ国の衣装に包まれた、黒髪の君。

 まさしく、姫様……あきつ丸様であった。

 民がそれに咄嗟に反応できなかったのは、ひとえにその美しさと衣装に見惚れていたからだろう。

 頭には月を模した金の飾りが光を反射し、強く輝いている。黒髪はいつもより艶があり、椿油でも塗られているのだろうか。遠目からでもしっかりとその色艶を確認できた。

 着物は脇がぱっくりと開き、しかしその先の袖は振袖の如く長い。胸元には梅の摘み細工が飾られ、金糸が肩を一周している。

 帯には細かい光月家の家紋が刺繍され、夜の海の藍に染められていた。

 黒い袴は膝上と短かったが、その下に厚手のタイツを纏いどこか禁欲的な美しさと色気がある。黒い足袋は青の鼻緒の下駄をより際立たせていた。

 黒に藍、青の差し色が美しい。その姿に老若男女が見惚れてため息をついた。

 その白魚の如き手には大きな扇子が二つ。これには海の波飛沫が描かれており、海に浮かぶ姫様の雰囲気にこれでもかと華を添えていた。

 突如月下に現れた美人。

 それだけでも満足だと言うのに、やがて音楽隊から曲が流れ始めた。

 

 それに呼応し、姫様の脚がつい、と動く。

 どう言う原理なのかはわからないが、海の上を滑走し始める姿は幻想的だった。

 扇を扇ぎ、袖をたなびかせ、姫様は舞う。

 一挙手一投足が雅であり、まるで水中を漂う海月(くらげ)のごとくゆっくりとした動作の時もあれば、荒れ狂う滝を登る鯉のように激しく煽ぐ時もあった。

 知る者が観れば、その動きには確かに花柳流の舞を受け継いでいるとわかるだろう。

 

 ここで、海岸線がまた歓声を上げた。

 滑るスピードを上げたかと思うと、そのまま海面から足を離し、三回転飛んだのである。

 流れるように着水し、舞を続ける姫様。なびく袖の先に付けられた鈴がしゃらりしゃらりと高く細い音を出す。

 三味線と琴が奏でる主旋律に、彩りを添える。

 またスピードを上げたかと思えば、またジャンプ。軽々と飛ぶその姿は海鳥も敵わぬ流麗さ。

 飛んだ時に舞う飛沫は光を強く反射し、姫様を祝福する光の粉のようだった。

 

 段々と曲調が激しくなり、滑走の速度も上がっていく。

 くるりくるりと扇を振りながら飛び、回る黒姫。

 その姿は宵闇に溶け込まず、夜の黒の中存在を主張するカラスのような黒だった。

 二つ名に恥じぬ黒という色を支配するかのような着物と髪色。その中に海を象徴する帯が入り、まるで水上に浮かぶ宝石のような乱反射が民たちの瞳を焼いていく。

 

 やがて音楽が落ち着いていき、動きもゆっくりと締めに入っていく。

 民たちは思った。このまま、時が止まり永遠にこれを見続けられたらいいのにと。

 しかし時とは残酷であり、この数分の美しさが姫を姫たらしめるとでも言うかのように、音楽が止まり、姫様の動きが止まった。

 姫様はやおら体勢を最初現れた時と同じに戻すと、ゆっくりと礼をする。

 この舞の間、姫様はひたすらに無言だった。音楽だけが響く海。たまに飛沫の音がかすかに聞こえるだけの舞。姫様の表情はどこか冷たく、しかしそれは新年に向けて、また一つ覚悟を重ねるような強さがあった。

 礼をした後の姫様の表情はすこし固く、自分たちの反応を待っているのだと民全員が察する。

 

 スタンディングオベーション。

 大量の拍手と歓声が、港を包み込む。

 花火でも打ち上げたかのような破裂音は全て民の手から発されるもので、子どもも大人もその舞に見入っていたこと。素晴らしいものを見たと感情を揺さぶられたことを表していた。

 

 姫様は安心したようにほっと息を吐き、もう一度礼をする。

 灯りが消え、音楽隊たちがはけていく。

 それでも、しばらく民たちは海岸線から水平線を見つめていた。

 

「来年も、頑張ろうなぁ」

 

 誰かがそうポツリと溢した。

 もうあと数分で年が明ける。めでたい新年がやってくる。

 

「姫様のためにも、働かねぇとな」

 

 誰かがまたポツリと溢した。

 海にはもう姫様はいないが、今も脳裏にあの舞があり、投射するかのように飛沫の光を思い出す。

 

「……綺麗、だったなぁ」

「ああ、綺麗だった」

 

 皆、茫然としていた。

 美しさに殴られると、人はしばらく動けなくなる。それを身体で、思考でもって理解させられた。

 祭りにはしゃいでいた子どもたちですら、黙って口を開けたままあの幻想世界から帰って来られない。

 

「……ほんとに、綺麗だったなぁ……」

 

 これは映像伝電虫だけでは体感できない高揚だ。

 夜という画質に影響がある環境では、飛沫の美しさや着物の光沢を上手く開けていないだろう。

 つまり、自分の瞳で見るのが一番美しい、というやつである。

 

「……映像、欲しい人。80から」

「100」

「120」

「125」

「140」

 

 それはそれとして映像は欲しい。

 掲げられた伝電虫に次々と数字が言われる。

 普段は財布の紐が硬い商人ですら、その競売に参加していた。

 上がっていく数字、値段を言う声が大きくなっていく。

 さっきまで静かに見惚れていた海岸は、いつの間にか戦争と化していた。

 

「250!」

「255!」

「300!」

「300ぅ!? なら305!」

 

 負けられない戦いとなった映像オークション。

 その頃、広場に戻ってきた姫は一向に海岸から戻って来ない民たちに首を傾げていた。

おでん冒険中の数年間の描写

  • 詳しく書いて欲しい。長くなっていい。
  • サクッと終わらせてカイドウ倒そうぜ!
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