あれから二年が経ちました。
俺は二年前に着た舞の衣装と一年前に着た舞の衣装を並べて眺めていた。
黒地に青の衣装と、白地に朱の衣装である。前者は振袖、後者は巫女のイメージが強い。どちらにも月と光月家の家紋が共通モチーフとして付けられており、九里大名としての威厳ある華やかな衣装だ。
舞はとんでもなく好評だったようで、九里祭りの恒例として毎年舞うことになったのである。
なにやら「映像代寄付金」として多額の金が舞の後城に献上されたり、目安箱にセクハラではなく俺を信仰するような文面が増えたりしたが、俺はただ舞っただけだぞ?
たしかに厳しい練習と執務の両立は苦戦したし、脇見せやらタイツやら性癖ががっつり詰まった衣装に頬が引き攣ったりもしたが、そんなにも民に影響を与えたのだろうか。
あれから町を歩いているとたまに拝まれるんだよ。俺は神じゃねぇよ。
「『今年は姫様直々にデザインを考えていただきたい』なんて言われてもなぁ……」
俺が今悩んでいるのは、今年の舞の衣装についてだ。
菊の丞曰く、この二年で詰め込みたい部分は詰め込んだので、次は姫様の感性で選んで欲しいと言う。
しかし俺にデザインセンスなど皆無。凝りに凝りまくった二年間の衣装を見せられると、俺が考える服なんてコンビニに深夜買い物に行くレベルのテキトーさだ。
黒、白、とくれば別の色にすべきなんだろうが、何色と何色が合うかすら俺にはわからない。いつも服はマネキンが着ているのをまとめ買いしていた俺にファッションセンスを求めないで欲しい。
なんかもう、適当に青でいいんじゃないですかね。とでも言えば、「じゃあどんな青がいいですか?」「素材はどうしますか?」「装飾は?」と地獄の質問攻めが始まるのだ。助けてくれ。
青って200色あんねんって言われても俺何も考えてないよ。なんだよ、青って言ったら青だろ。藍だの紺だの浅葱だの瓶覗だのわかんねぇよ!!
でも民衆の反応はいいのだから今年も舞わねばならない。音楽監修からジャンプの練習、魅せ方の確認……舞にはやることが多い。
フィギュアスケートにしたのは、単純に海の上で摺り足やステップを踏むのは難しいからだ。滑走というのだからスケートと似たようなもんだろ、とオリンピックやアイスショーで見たことある動きを艦娘フィジカルで見よう見まねで真似した。
この世界にフィギュアスケートがあるかは知らんけど、ワノ国では斬新だったようで。その中に菊の丞監修のワノ国流の舞を混ぜ込んでいるから、特異ということにもならずウケたようだ。よかったよかった。
次は四回転に挑戦しようかな。とデザインから意識を逸らしていると……なにやら下の階がドタバタと騒がしい。
すわ敵襲か、と思ったら、錦えもんが声掛けもなく俺の部屋に飛び込んできた。
「姫様っ! オロチが……オロチが動きましたぁ!!」
「っ!?」
それに思わず秋茜を掴む。
まさか城に突撃して俺を討ちに来たか!? と見聞色の覇気で索敵するも、敵の気配は無い。
その代わり、錦えもんの腕にボロボロの姿になった飛徹がいた。
「飛徹殿!? どうしてそんな……」
「ぐっ……ふぅ……わしは、大丈夫だ……。それより、話を……」
「っすぐに手当てを!」
家来たちを呼びつけ、すぐに治療に当たらせる。
足首や手首に酷いあざがあり、擦傷や打撲痕も見えた。
錦えもん曰く、九里の警備にあたっていた者が森の中で見つけたのだという。
動揺している間に、バサバサとカン十郎のカラスが部屋に入ってきた。
その羽音は今までで一番激しく、焦りが伝わってくる。
俺は速やかにカラスから手紙を受け取り、開く。
そこにはカン十郎にしては崩れた文字で、走り書きのようにメモが書かれていた。
「『地下に武器工場、失踪者が労働させられているのを確認』……はぁ?」
地下だって? ワノ国での武器工場は兎丼や九里の地上につくられるんじゃ、というかその工場の資金はどこから?
オロチの資金源はこの数年でできる限り断った。工場を作れる金なんて無いはず。
カン十郎の報告に混乱していると、飛徹がなんとか体を起き上がらせる。
「あきつ丸……これから話す事をどうか信じて欲しい」
「飛徹殿……?」
「わしは……飛徹ではあるが、もう一つ名がある」
そうして飛徹は天狗の面を外した。そこに映るのは、おでんの父親、光月スキヤキの顔で────
「あ、あ、あああああああああ!?!?」
「わしは天狗山飛徹であり、光月スキヤキ……。今まで隠していてすまんかった。そして、情けなくも……オロチに将軍の座を奪われた!」
そうだ、そうだ……飛徹はスキヤキだったじゃん!! なんでこんな事を忘れていたんだ、俺! 馬鹿! 馬鹿! 馬鹿!
なにが将軍と知り合いだよ、同一人物って原作で言われてただろ!! なんで忘れてた!!
頭を解体ハンマーでぶん殴られたような衝撃に襲われる。一気に原作の、飛徹が正体を明かすシーンが走馬灯のように脳内を横切っていく。
「は……は……」
「こちらも警戒し、警備を置き警戒を高めていたというのに……やられた! オロチは妙な術により警備を始末し、わしを幽閉しようとした! 命からがら逃げてきたが、もう将軍の城はオロチのものだ……」
「あ……ああ……」
オロチが将軍になる事、武器工場ができている事。拙い、カイドウへのピースが揃ってしまう。
ぐるぐる、ぐるぐると俺の中で自分が飛徹の詳細を忘れていた失態や、武器工場の資金源の謎がゴンゴンと脳髄を潰してくる。
卒倒しそうなほどのショックに見舞われていた俺は、自分で自分の頬を強く叩いた。
錦えもんたちが驚いて声を上げるが、こうでもしないと思考をリセットできない。
「……カン十郎から都の地下に武器工場が建造されていると報告がありました。スキヤキ殿、なにか都で違和感などありましたか」
「……いや、全く気づかなんだ。これはわしの責任じゃ。オロチは近衛に化けた者を城に潜入させていた!」
「マネマネの実……! 錦えもん、すぐに赤鞘を集めるであります! 武器工場を潰す!!」
「はっ!!」
「スキヤキ殿、あまり気に病まないで頂きたい。これも自分の失態が導いてしまった事。責は自分が取るであります。……ああもう! 馬鹿な自分が嫌になる!!」
スキヤキ=飛徹という事を忘れてなかったら如何様にもできただろうに!!
クソが、俺はいつもそうだ、なんで大事な時に限って……! いや、そんな自虐をしている場合では無い。
まずは武器工場を潰し、城にいるオロチをなんとかせねば。
それにしても、武器工場を建てる資金は本当にどこから……?
ギリ、と歯を食いしばりながら、俺はカン十郎から続けて送られてきた武器工場の詳しい場所を赤鞘メンバーに共有、菊の丞と河松を城の番に残し、スキヤキを保護。
その他メンバーで都へと向かう。
「おそらく城ではスキヤキ殿に成り代わったマネマネの実の能力者がオロチを将軍の座につかせる芝居をうっている筈。自分と傳ジロー殿、雷ぞう殿は城へ。錦えもん殿、アシュラ童子殿は既に武器工場にいるカン十郎と合流して武器工場を始末するであります!」
「承知!!」
二手に分かれ、俺は走るスピードをさらに上げた。
都では突然現れた赤鞘と俺に町人がざわついている。
しかしそれを構っていられる余裕は無かった。
もういっそ、ここでオロチを討ってしまおう。そうすれば、カイドウとの縁も薄くなる筈。
俺は秋茜を握る手に力を込める。
秋茜は、どこか不穏そうにその鍔を鳴らしていた。