転生して一日目。早速カタクリとかいう原作屈指の強キャラと出会ってしまった。
あれからなんとか万国を脱出、海に出直した訳だが、ふとスマホに通知が来ていることに気づいた。
『カタクリと接触を達成』
「任務あったのかよ!?」
思わず素が出てしまった。
どうやらカタクリとの接触は任務に決められており、報酬もあったらしい。主要任務は膨大故に全てを確認はできてなかったため、まさかあるとは思わなかった。
資材各500とバケツ一個を受け取る。報酬としては少し少ないが、救済というわけではないのでこんなものだろう。
接触系任務は救済系任務より報酬が少ない代わりに、一言二言話せばいいのでクリアは比較的簡単だ。
燃料を補給しつつ、俺はボーッと海を漂っていた。
「カタクリ殿が5、6歳だとすると、原作開始45年以上前……まだ大海賊時代も始まってないでありますな。となると、ここから近いのはワノ国あたりか」
しかしワノ国は入国に滝を登る必要がある。サニー号がミニチュアサイズに見えるほど大きな滝だ。流石の艦娘とはいえあの規模の滝は登れないだろう。
でもまぁ、見物くらいはしてみたいな……と、ワノ国の近海まで行ってみることにした。
「悪天候にうねる波、巨大な錦鯉……まさにワノ国の海域」
艦船として転覆するわけには行かないが、なかなか癖のある海域だ。空ではゴロゴロと雷の気配がする。
まるで日本画のように流れていく淡水に、足元がふらつく。海水じゃないからだろうか? うまくバランスをとるのにコツがいる。
スケートのように早波を進んでいると、原作のとおり大滝があった。
「流石に登れないでありますね……滝壺に進めば沈むじゃ済まなそうであります」
怒涛の如く流れる水に、思わず尻込みする。潜水艦ではないから、人より耐性があるとはいえ長くは潜っていられない。船は滝を登れるようにはできていないのだ。
ここで退散か……そう思った時、足元にいた巨大な鯉が一匹、大きく跳ねた。
俺を巻き込んで。
「はぁー!? ちょ、ちょっと待つであります!」
思いっきり体が滝面に叩きつけられる。そのまま押し流されそうになるも、なんとか鯉に掴まり滝を登っていく。艦娘の膂力すごい、勢いよく滝を登る鯉にも簡単にしがみつける。
だぷんだぷんと体をうねらせ滝を登る鯉。さながら龍に成る気分だが、どんどこ海面から離れて島に登っていくことに冷や汗が垂れる。このままだと不法入国になってしまわないか。
鎖国国家に単身入り込むのはなかなか不安だ。
「もうなるようになれ、であります……」
やがて鯉から離れ、なんとか陸に上がる。砂浜は静かで、船の一隻も無い。近くには森があり、竹林も見えた。
たしか、まだカイドウやオロチの魔の手は及んでいないはず。比較的平穏な時代なのだろう、工場の煙や荒野は見えなかった。
「来てしまったからには観光したいでありますな。時代劇レベルの差があるとはいえ、日本の趣がある場所は落ち着くであります」
少なくとも万国よりは安全圏だろう。カイドウもいないし海軍海賊もいない、おそらくおでんが色々やらかしていた頃だったはず。
「ここは九里? 希美? どうせなら街に行きたいでありますな」
花の都はまだ活気豊かに平和な世界のはず。ワノ国の地理は頭から抜けているので、まずは適当に竹林を歩いてみることにした。
青竹の匂いが広がる林は、京都の嵐山のような壮観さがある。
フラフラあてなく歩いていると、人の気配がする。集落だろうか、子どもや商売人の声がうっすらと聞こえてきた。
「豆腐〜! 豆腐はいらんかね〜?」
「お母ちゃん! 遊びに行ってくるー!」
「おや、珍しい服を着た嬢ちゃんだ。旅の人かい」
竹林の中にある村は、活気付いていた。数十年後に地獄に変わるワノ国とは思えない平穏な村だ。
恐る恐る足を踏み入れると、近くにあった茶屋のお姉さんが声をかけてきた。ワノ国でも真っ黒な詰襟は目立つ。
「はい、事故で漂着してしまったのであります。この村は……」
「それは大変だ! ここは編笠村。小さな村だけど、ゆっくりしていきな」
編笠村……たしか九里の村で、原作ではすでに滅んでいたはず。元々はこんなに栄えていたのか。
走り回る子どもたちやそれを見守る大人。商人があちこちを闊歩し、笑い声に満ちている。
末路を知っている身としては複雑な心境だ。
「みんな幸せそうで、いい村でありますな」
「ふふ、そうでしょう。せっかく来たのだし、おやつでもいかが?」
「ふむ……ではお汁粉を一杯いただけるでありますか?」
この時はまだ光月家の天下だったはず。川に毒が流れておらず、工場の煙もなく、税金も非道じゃない。
だからか、みんな食うには困ってなさそうだし、痩せ細ってもいなかった。
俺は運ばれてきたお汁粉をちまちま食べながら、村を眺める。やはり時代劇のような昔の日本といった感じだが、その懐かしさに汁粉がしょっぱくなりそうだ。
あー、子どもを助けたことに悔いはないけど、流石に40歳は超えたかったぞ……?
この世界も40まで生きれるかは結構稀な世界だし。あー、うー、まぁとにかく生き残らねば……。
「ご馳走様。お代はここに置いておくでありますよ」
「はーい、お粗末様」
お餅が2個も入ったお汁粉は美味だった。前世の正月に食べて以来だったが、現代のものと引けを取らない味だった。
ONE PIECEは飯描写にも力を入れている作品だし、どうせならワンピ飯も楽しんで行きたいところ。燃料にはならないが、味覚の楽しみというやつだ。
「そういえば、編笠村には刀鍛冶がいたでありますな」
あの……天狗のキャラ。名前は忘れた。
刀……刀かぁ、あきつ丸が日本刀持ってるイラストはさまざまなイラスト投稿サイトで拝見している。黒い詰襟に腰に差した日本刀、まさに大正ロマン的雰囲気のあるオタクの憧れ。
「刀……欲しいでありますな」
あきつ丸は射程は短いが、戦闘機や偵察機を扱う遠距離型でもある。そもそも艦船の射程が短いは人間にとっての遠距離である。
あと、砲撃というのは手加減ができない。直撃したらただの人間に待つのは「死」であり、戦闘機の射撃もこれに準ずる。
現状の俺は一撃必殺系の遠距離型といえる。
その場合、懐に潜り込まれると弱いのだ。艦船としてのフィジカルはあるが、咄嗟に相手を殴れるかは別の話。なによりフィジカルも確殺の範囲に入る威力だろう。
まぁつまり、ある程度手加減できて見た目にもいい刀が欲しい。大太刀とかじゃなくて、太刀とか打刀くらいの侍が持ってるサイズのやつ。
「日本刀をもってるあきつ丸とか絶対かっこいい……ロマン、ロマンでありますよ」
どうせなら黒い外套も欲しいところだ。黒外套あきつ丸はなんぼあってもいいですからね。
海賊から奪った宝で金もあるし、刀一本くらいなら買えるんじゃないだろうか。別に業物とか気にしないし。
「刀のお店などあるのでしょうか。てきとーに一本買えれば満足なのだが」
「ん? ああそれなら、飛徹さんとこに行けばいいよ。あの人は腕のいい刀鍛冶なんだ」
道ゆく人に尋ねれば、親切にも地図を書いて教えてくれた。
村の奥、大木の上にある小さな家屋に住んでいるらしい。原作に出てきた天狗もそんな名前だった気がする。
どうせなら会っておくか、と俺はしめ縄の巻かれた大木に登る。
「ごめんください、飛徹という刀鍛冶殿に用があるのでありますが」
「なんだ、見ない顔だな」
出てきたのは天狗の大男だ。一般的な日本人女性の身長しかないあきつ丸には見上げるほど大きい。
背中には翼があり、鼻は長く伸びていた。強面だが、その手には職人用の鎚が握られている。
「流れの者であります。この村に刀鍛冶をしている者がいると聞きまして、一本、売ってもらえないかと」
「……おぬし、刀を振るえるのか? ただの小娘にわしの刀はやらんぞ」
俺の剣道歴は高校の選択体育でやった剣道程度である。真剣どころか竹刀もまともに触ったことがない。それを見抜いているのか、ジロリと視線が俺の手元にいった。
流石にそうホイホイと、素人の娘に作った刀をやるわけにはいかないのだろう。
だが、今の俺はただの人間ではなく、艦娘である。
「これでも、修羅場を潜ってきたのであります。もちろん対価にお金は渡しますし、大層な名刀でなくて構わないのであります」
「……中に入れ。話はそれからだ」
渋々、といった感じに、飛徹は俺を中に入れてくれた。
現状の俺の精神や本能というのは、人間だった「俺」の意識と艦船……陸軍所有の強襲揚陸艦だった史実の「あきつ丸」の意識、そして艦これで艦娘として登場していた「あきつ丸改」の意識が混ざり合っている。
基本的な自我というか思考回路は人間の俺だが、ところどころで船としての本能や史実の記憶が横切る。
例えば、史実のあきつ丸は潜水艦に沈められたので、俺は潜水艦や魚雷が苦手である。
そして、艦娘のあきつ丸は潜水艦に対抗心を持っているような台詞があるため、俺にもその気がある。
戦争のための船だから人の命を奪うことに然程抵抗が無いし、沈められる船に対する同情心もある。
三種類の意識が混じった、よくわからない存在なのだ。
ここで重要なのは、あきつ丸が陸軍所属ということ。
海軍がどうなのかは知らないが、陸軍では近接戦の訓練もあった。軍刀を使った剣術である。
その軍刀は日本刀に近く、多少違いがあれど取り回しは概ね同じだ。その記憶は「あきつ丸」にも刻まれている。
──つまり、俺は刀が使える。