あきつ丸(仮)が往く!大海賊時代特殊任務!   作:月日は花客

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40:あきつ丸、把握スル!

 

 オロチを倒したわけだが、スキヤキはしばらく九里で療養したのち都に戻って行った。

 天守はほぼ全壊、その他瓦や壁に結構な被害を出してしまったので、土下座して謝ったのだが、スキヤキは笑って許してくれた。

 バリアを突破するためとはいえ、対地ミサイルを室内でぶっ放すというのはかなりの暴挙。覇王纏いの一撃もあり、城はボロボロになっていた。

 こちらで修繕費を出すと言ったのだが、スキヤキは将軍の座よりは安いとそれをつっぱね、驚異的な回復速度で傷を治し九里を去った。

 思うけどあの人も大概おでんの血筋だよな。

 

 オロチ率いる黒炭が将軍を陥れようとしたことはすぐにワノ国じゅうに広まった。

 それがきちんと阻止されたこと、地下工場に攫われていた者たちが帰ってきたこともあり、都はお祭り騒ぎの状況だ。

 しかし、九里は違った。

 

「姫様! まーた執務を! 安静にしていてくだされ!」

「ええいだからこの程度傷のうちにも入らないと言っているでありましょう!」

 

 俺がオロチを斃したこともすぐ広まったのだが、九里の住民はそれよりも俺が傷を負ったことを気にしているようだった。

 錦えもん達も普段より過保護になっていて、正直鬱陶しい。

 

 艦娘の身体というのは自然治癒が存在しない。

 入渠しないと損傷は治らないし、体にできた傷も治らない。そして、ゲームではせいぜい数時間で治っていた傷も、流石に現実だとそうはいかないのか、俺はしばらく傷と生活することとなった。

 高速修復材もといバケツを使ってもいいのだが、カイドウ戦でどれだけ消費するかわからないため貯めておいてある。バケツの数は今のところ10個ほど。ゲームの時ほど簡単に手に入らないのだ。この世界に転生してからコツコツ貯めてこれである。もうちょっと増やしてくれてもいいんじゃないですかね運営ェ……。

 というわけで、俺は頬にガーゼ、指先、首に包帯、足に湿布となかなかの重装備になっていた。

 状態としては小破〜中破未満なのでそこまで重傷ではないのだが、家臣達が大袈裟なのである。

 痛みはにぶ〜くある。治りかけの青タンみたいな、若干の筋肉痛みたいな、そういう微妙な痛さ。

 

「傷が痛むでしょう! 九里のものも皆心配しております!」

「だから大袈裟なんであります。ちょっと治るのに人より時間がかかるだけで……」

「それが問題なのです!!」

 

 艤装に関しても、あんだけ至近距離で撃ったらそりゃ損傷するよねって感じで壊れかけていたので、妖精さんたちが頑張って直してくれている。

 錦えもん達の対応があまりにもちょっと、アレなのでもういっそバケツ使ってしまおうか悩むが、カイドウ戦で馬鹿みたいに浴びることになりそうなのでやはり使えない。

 

 工場にはカイドウの百獣海賊団のマークがはっきり刻まれていた。

 既に何回か輸出されていて、取引が成立していたことがカン十郎の調べによってわかっている。

 つまり、もう既にワノ国にカイドウの手は伸びているのだ。

 今後カイドウがいつ、どうやって干渉してくるかわからない以上、ワノ国はより防衛費と侍の訓練に力を入れた。これはスキヤキも承知のことだ。

 俺も、九里の防衛費に算盤を弾きたいのだが……。

 

「菊の丞ー! 姫様がまたご無理を!」

「ちょっと姫様! 計算ごとは傳ジローに任せて寝てくださいとあれほど!」

「あー、あー、あー、もう本当過保護すぎであります……」

 

 寝てても治りが早くなるものじゃないし、こっそり外に出ても町民に即チクられて城に連れ戻される始末。

 カン十郎に疲れた視線を向ければ、「諦めてください」と首を横に振られた。チクショウ。

 

「あと数日したら無傷同然に治るでありますから、せめて防衛費、防衛費の計算だけでも……」

「ならあと数日我慢してください。暇なら書物など持って来させますから」

「書類が欲しいであります」

「雷ぞう! なにかあきつ丸様に本持ってきてー!」

 

 くそう強情め。

 小破は無傷! 小破は無傷! でやってきた身からすると本当に大袈裟なのだ。中破になって初めてそういう対応をして欲しい。

 九里の民も「姫様を傷物にしやがって……!」「ああでも勇ましい姫様も麗しいわ……!」とかそんな感じだし。

 流石にこの状態で寺子屋の視察に行きたいとかは言わないから! せめて書類仕事だけでも、書類仕事だけでもぉ……!!

 悲しいかな、その叫びは届かないのである。

 

 *

 

「そういえば、今年の舞はどうするでありますかなぁ」

「衣装の案は決まったのですか?」

「ぅ……み、皆が自分に一番似合うと思う青をメインに……とか……」

「事によっては内戦が起きますね」

「ぐ……」

 

 仕立て屋の色見本を見せられても、「ほえー青い」くらいの感想しか出て来ないのよ。

 いや待て、俺の意思ではなく「あきつ丸」に似合う青を選べばいいのでは? 嫌だとしても俺のセンスだとどうなるか……。

 大人しく布団に寝転がりながら、俺はうんうん唸る。

 

「……九里の者は、本当に姫様を慕っているのですよ。半端な衣装を用意すれば、私たちが民に怒られてしまいます」

「……自分はただ、おでん殿の代わりを必死で務めているだけであります」

「もう、この九里におでん様の代わりと貴女様を見る方は居ませんよ。おでん様はおでん様。姫様は姫様です」

「…………」

 

 菊の丞は黙って隣で俺の代わりに書類を整理している。これは仕事兼俺が下手なことしないかの監視である。

 他の赤鞘達もいつも通り、いやいつも以上に働いているだろう。

 その間ずっと寝転んでる自分の現状が辛い。ニートは嫌だ……ニートは嫌だ……。

 

「おでん様は確かに凄いお方です。この九里をまとめ上げ、初の九里大名となり、果てはこのワノ国の外で見聞を広めている」

「……そうでありますな」

「ですが、おでん様にはできなかったこともたくさんあります。寺子屋や賭場、公園は姫様だからこそできた政策」

 

 菊の丞は優しく、子どもに言い聞かせるように話す。

 書類の紙の音が静かな天守に微かに人の気配を帯びさせている。

 

「もっとご自身に自信を持って、胸を張ってください。姫様は民に愛される、立派な九里大名ですよ」

「……そう、でありますか……」

 

 俺の失態でワノ国が危険に晒されたことはたくさんある。

 飛徹とスキヤキの関係を忘れていたり、オロチへの対応やマネマネの実の対処が遅かったり。いつも後手後手と後悔してきた。

 俺は前世でONE PIECEを読んだという圧倒的なアドバンテージがあるというのに、ドンキホーテ一家の件といい、今回といい、いつも遅いのだ。

 それは原作で細かい日時がわからないからとか、もう何年も前の記憶で朧げになっているとか、そういう問題ではなくて。

 ただ俺の判断と覚悟がいつも足りないだけ。

 あきつ丸の身体を持っているのに、あきつ丸ではない俺はいつもどこか道をズレて走っている。

 俺という異物があきつ丸に入り込んでしまったせいで、もっと上手くいっていたことが壊されてしまったんじゃと眠れなかった夜もあった。

 推しの身体を得るというのは、重い。

 推しの身体でも推しの本能が刻まれていようと主人格は結局俺だ。最後にものを決めるのは俺自身だ。

 そんなフラフラした精神で、俺の行動にはどこか一貫性が無い。

 そんな気がして。

 俺の精神が無くなって、()()()あきつ丸になってしまえば。なんてふと思ったりして。

 

「自分は……ワノ国の役に立てているでありましょうか」

「ええ、それはもう。救世主ですよ、姫様は」

 

 その称号を得たのは、あきつ丸と俺の、どっちなんだろうな。

 身体と精神の乖離がジクジクと脊髄を蝕む。

 それでも、今こうやって赤鞘メンバーや民があきつ丸()を慕ってくれているのは、本当なのだろう。

 

「……それを聞いて、少し元気が出たであります。菊の丞、書類を」

「ダメです」

 

 チクショウ。

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