ガランゴロン、樽が床を転がった。
飲み干された酒樽だ。
室内には他にも多くの酒樽があり、この一つを飲み干した程度では部屋の主人は満足しない。
巨大なジョッキに酒を注ぎ、グビグビと飲み干す。まるで水のように、高度数のそれを胃に収めていく。
酒呑──カイドウは、その酒の量に未だ顔を赤らめさせず、隣に立っているマスク姿の男、キングを見やった。
「ワノ国には順調に進んでるんだろうなァ」
「ああ、この調子なら今日中にあの滝を登れる筈だ。カイドウさん」
「ウォロロロロロ……なら良い」
また酒を飲み干し、空の樽が床を転がった。
カイドウたち百獣海賊団は、現在ワノ国に向かって新世界を進んでいた。
度重なる嵐や異常気象を越え、数年前は拠点にしようとしていた鎖国国家に帆を進めているのだ。
それには、カイドウの戦闘狂的関心があった。
ゴール・D・ロジャーが海賊王となり、ロジャー海賊団は解散した。船員達は各々の道を進み始め、その中でもとある侍は国へ帰った。
光月おでん。珍しいワノ国出身の「侍」であり、ロジャー海賊団でも屈指の戦闘能力を見せていた。大業物の二刀流から繰り出される斬撃は、覇気を纏って巨大な被害をもたらす。
堅気には手を出そうとしないという白ひげなどに似た甘さはあるものの、カイドウはおでんを「自分と対等にやりあえるかも知れない相手」と認識していた。
それは白ひげも同じくであり、その二人が今、ワノ国にて共にいる。
それはカイドウにとって良いニュースだった。生死をかけた戦いに、拠点となり得るかも知れないちょうど良い立地。
気分が良い。
「ロジャーとはついぞやりあえなかった! ならその部下の実力試しだ……。おれの金棒の錆になるか、はたまた……ウォロロロロロ、楽しみだ」
「ワノ国は政府も手を出せない鎖国国家。海軍の邪魔も無い……本当にいい立地ですね」
「ああ……今回の戦いで国一つ消えるかも知れねぇが……おれにゃ関係ねぇことだ」
カイドウは笑いながら酒を飲み続ける。
ワノ国からごく稀に流れてくる米の酒は美味い。国が消える前にたっぷり楽しんでおくのもいいかも知れない。
船の揺れが強くなる。押し寄せる荒波。悪天候。
ワノ国近海に入った証だ。
カイドウは甲板に出る。
目の前には傘下が乗った船が幾つも先を進んでいる。
十何万の船員を乗せた船団は、目の前にある滝を登ろうと滝に船を近づけて……大きな破壊音と共に壊れ始めた。
「あぁ?」
「カイドウさん! 上だ! 何か飛んでる!」
キングが上空を指差した。
雷纏う黒雲で捉えにくいが、確かに何か小さい鳥のようなものがこちらを撃ってきている。それが船に小さくない損傷を与えていた。
このままだとカイドウの乗る船はともかく、傘下たちの船は滝に登る前にボロボロになって沈むだろう。
「キング、撃ち落とせ」
「承知」
キングがプテラノドンとなってその鳥のような何かを堕としにかかる。
小型によって空中軌道を披露していたが、キングの攻撃により案外呆気なく落とすことができた。
落ちてきた残骸は機械のようで、その小さな機銃で船にあれだけの被害を与えたのかとカイドウは眉を顰めた。
「ワノ国ってのは機械に強かったか?」
「いや、そんな噂は……」
聞いたことがない、とキングが言い切る前に、また機械の鳥による機銃の音が響く。飛んでいるのは一機だけではなかったらしい。
また飛び立ち落としに行ったキングと空を眺めながら、カイドウはピリつく強者特有の気配を感じていた。
雷による電気ではない。これは覇気だ。複数の覇王色の覇気が、ワノ国全域を警戒している。
「随分な歓迎じゃねぇか」
手にある緑の機体を粉々に砕き、カイドウは滝を登る準備を始める。
このワノ国には、白ひげ、おでん、そしてまだ見ぬ“覇王”の逸材がいる。
それらが明確にこちらを敵視している。
つまり、本気の殺し合いが目の前ですでに始まっている。
龍人形態となったカイドウは吼えた。覇気を纏った音の振動に、幾つもの機体が動きを止めキングによって仕留められていく。
「久々に、面白くなりそうだ」
酒によって幾分か高揚した気分に、カイドウは己の金棒を担いだ。
弱いやつには興味が無い。搾取されるだけの存在に価値は無い。
しかしこれからあい見えるであろうまだ見ぬ存在は恐らく「強者」!
今や肉体全盛期であるカイドウに、はたして一矢報いることはできるのか?
己の金棒を受け止めることはできるのか?
深く笑みを浮かべ、カイドウは龍となった。
船を掴み、一気に滝を昇る。
そして見えたワノ国全域。
その瞬間、身体に重い衝撃が走った。
「……グッ!」
「カイドウさん!?」
不意の攻撃に思わず声が出たが、体は軽傷だ。
しかしこの距離からの正確な顔面を狙った一撃。どんな目してやがると下を睨む。
広がる土地ではなく、そこから少し離れた人工的に作られていそうなただの島。
射撃はそこからだった。
「キングぅ! 敵はあの島だ! 野郎ども全員向かわせろ!」
「了解!」
規模としては小さい島だが、そこには白ひげ海賊団とおでんの姿が見えた。アイツらはあそこを決戦の地に選んだのだ。
ならば乗ってやろうじゃないか。下手に町民がいる町を戦場に選ぶより、邪魔の入らない島の方がやりやすい。
「ウォロロロロロ! 久しぶりだなぁ白ひげェ!」
「グララララララ! てめぇも好き放題やってるらしいじゃねぇか! カイドウ!」
船を沖に放り出し、カイドウは龍のまま白ひげに叫んだ。
白ひげは愛刀の薙刀を構えながら、同じく笑う。それは好戦的な感情をたっぷり含んでいて、カイドウはそれだけでも酔えそうなくらいだ。
「戦おうぜ! 白ひげ! おでん! サムライとやらの力を見せてみろよ!」
「グララララララ……ここがお前の墓場になっても知らねぇぞ」
「上等! 強え奴が最後まで立つ! それがこの世の真理!!」
船から遅れて続々と百獣海賊団の船員が上陸する。数はこちらが有利。
しかし相手は一騎当千の白ひげがいる。
カイドウは油断できない状況であえて笑う。笑う。笑う。
死ぬかも知れないからこそ愉しいのだ、戦いは。
「カイドウぅううううう!!」
「!!」
白ひげとのやり取りの中、こちらに一直線で駆けてくる影があった。
橙の着物に白と紫のしめ縄。そう、おでんだ。
その大業物二刀流を構え、突進してくる。
カイドウはその迫力に防御の構えを取りながらも内心歓喜していた。
これ程までの“力”を持った奴がおれを殺そうと猛進してきている!!
「過去のワノ国への謀略! 許されること一片も無し!」
「ウォロロロロロ!! そんときゃお前はロジャーの船にいたじゃねぇか!」
「黙れ! 斬りてぇ首はお前の首一つ!! 『桃源──」
おでんがその刀二本に覇気を纏わせる。
「──十拳』!!」
大きな大きな十字傷が、龍の体に刻まれた。
その痛みに一度大きく息を止める。
すると、その硬直を待っていたかのように、またどこかから砲撃が飛んだ。
傷に、直撃。
「ぐぉおおおおおおおお!?」
「カイドウさん!? クソッどこから砲撃されてやがる!?」
キングがカイドウの負傷に吠える。
だがカイドウはその痛みに意識を失うことも戦意を喪失することもない。
その口に大きく熱を溜める。
「『
おでんに向けて熱線が放たれる。
おでんはそれを覇気と刀でなんとかガードしたようだが、近くで浴びるだけで相当熱いだろう。
カイドウはそのまま熱線を白ひげの方向へと向ける。
「早速やられてんじゃねぇか、カイドウ!」
グララララララ!! と笑いながら、白ひげはグラグラの力をもってその熱線ごと破壊した。
簡単な火力では押し通せない相手。それが二人。
カイドウはそのまま「壊風」によって追撃を行おうとする。しかし、その勢いはまた飛んできた砲撃によって防がれた。
「さっきからチクチクチクチク……」
砲撃自体の攻撃力はしっかりとある。カイドウの身体なら数分で痛みは落ち着くが、ただの人が受けたら木っ端微塵にされるであろうレベルの砲撃。それが海軍の砲撃より小さい弾に込められている。
射撃方向から見た推定の位置に、カイドウは熱息をぶち込んだ。
「邪魔するんじゃねぇ!!」
「『邪魔』ではなく『戦術』であります」
飛び込んできた黒い影。その腕に閃く凶刃を、キングが受け止めた。
「なんだ、お前は」
その姿は少女。黒い眼に黒い髪。黒い外套黒い刀。
黒雲より黒く、カラスより艶やかな「黒」を纏った少女が、キングの防御に拮抗……いや、むしろ優勢をとっていた。
「あきつ丸。九里大名代理、強襲揚陸艦」
「お前が三つ目の覇王色の持ち主か!」
「カイドウさん、コイツはおれが!」
「グララララララ! カイドウ、よそ見とはいい度胸じゃねぇか!!」
キングがあきつ丸の刀をプテラノドンの爪でもって弾き、カウンターを決めようとする。
それを刀でもってひらりと受け流したあきつ丸という少女は、その腰と背中にある奇妙な装備でキング、カイドウに向かって砲撃した。
いつのまにか空には滝で見た機械も飛んでいる。
あれはこいつの仕業か!!
カイドウはあきつ丸への警戒を一気に高めた。おでんと白ひげの単純な火力、そこにあきつ丸の砲撃によるサポートが入るというのは厄介だ。
キングの宣言通り、あきつ丸はキングに一任させる。
向かってきたおでんの刃を龍人形態の金棒でもって受け止めつつ、白ひげの薙刀を避ける。
忙しい、一手一手に己の首がかかっている。楽しい、愉しい、たのしい!
湧き上がる血潮を発散させるように、カイドウは金棒を振りかぶった。
「雷鳴──八卦!!」
カイドウ:久しぶりの命懸けの戦闘たのし〜^^
あきつ丸:キングとマッチアップしながらあのクソギミックを突破しつつカイドウへの援護砲撃と艦載機による援護射撃、また対陸ミサイルによる支援を行わなければいけない超ブラック仕様。