あきつ丸(仮)が往く!大海賊時代特殊任務!   作:月日は花客

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55:あきつ丸、全知の樹ニ行ク!

 

「自己紹介がまだでありましたな、自分、あきつ丸というであります」

「ニコ・ロビンです。あきつ丸さんは、どうしてオハラに?」

 

 貴女を救いに。

 なんてな。俺は曖昧に微笑んで、「全知の樹の噂を聞いて」とはぐらかした。

 実際に見る全知の樹は迫力があった。流石世界中の知識が集められているだけはある。あの中に一体何億冊の本があるのだか。

 そして地下にはポーネグリフの研究室がある、と……。全く、知識は武器というがとんでもねぇ劇物だよ。

 世界において情報操作とは基本である。

 世界政府という一組織が支配している以上、それに不都合な歴史、情報は操作されなければならない。

 どんな時でも情報というのは簡単に人を踊らせることができる舞台装置。

 世界をひっくり返す知識の研究をしているこのオハラは……正直、焼かれたのも納得の大罪を犯しているのだ。

 それでも人間の知識欲というのは恐ろしいもので。

 虎穴に入り猫を殺し、文字通り命を捨てて究明してしまう。

 なんとかの正体見たり枯れ尾花ともいうが、それでも構わないのだろう。

 

「全知の樹は、確かに凄い量の本があります。でも、わたしその中の数割も読めてなくて……」

「いやいや、最初からそんな無茶は求めてないであります。ロビン殿の好きな本を一冊、選んでくれれば良いのでありますよ」

 

 その本を俺が理解できるかは別としてな!

 正直に言おう、俺は頭は決してよくない。高校大学の勉強は程々に理解し程々に諦めてきた。なんなら艦これしたりジャンプ読んだりして単位を落としたことだってある。不真面目寄りの生徒であった。

 前世では娯楽がたくさんあった。ゲームに漫画、アニメ映画……。アウトドアレジャーなんかだって何種類もある。

 だからそれにうつつを抜かして、勉学をサボる生徒なんて珍しくなかった。日本の教育水準は世界でも結構高い方だったし。

 しかしここはワンピース、そして色々と事情を抱え、「学ぶ」ことが最大の娯楽であり自己表現だったロビン。彼女の知識に既に俺の知識は追い抜かされているといって良い。

 ここにきて大学サボってたツケを払うことになるなんてな……まぁ行っててもあんま変わんなかったと思うが。

 ワンピースの世界は物理法則なり歴史なりが少年漫画ナイズされているので、割と現代知識は役に立たない。

 物理学で公式を暗唱するより悪魔の実図鑑を暗記した方がまだ使える。

 だから俺は彼女に渡される本がどんだけ難解であろうが覚悟していた。

 

「おおロビン、おはよう……隣の人は誰じゃ?」

「あきつ丸さん。旅の人だって」

「そうかそうか。というか、怪我しとるじゃないか! 大丈夫か!?」

「うん、あきつ丸さんが手当してくれたから」

「そうか……あきつ丸とやら、ロビンが世話になった」

「いえいえ、自分は大したことは何も……」

 

 全知の樹に入ってすぐ、クローバーがロビンに笑いかけた。

 他にも数名知り合いがいたのか、ちらりと視線を向けたり手を振っている。

 ロビンは全知の樹が一番安心できる居場所だろうし、表情からもリラックスしていることが窺えた。

 ロビンは持っていた本の返却手続きを済ますと、俺に向き直る。

 

「待っててください、本、探してきます」

「ゆっくりで良いでありますよ」

 

 館内は走ることが禁止なのか、少しだけ歩くのを早めたロビンが本棚の向こうへ消えていった。

 俺は改めて全知の樹を見やる。

 大量の本に、大量の棚。小さな窓からは太陽の光が天使の梯子を作っている。

 幻想的な空間だが、樹の中にある図書館というのはなんともファンタジックで良いな。

 前世でやろうとすると空調やら虫やらで無理なんだろうけど。

 クローバーはロビンが他所の人間を連れてくるとはなぁ、と感慨深そうにしていた。

 

「あの子は外の人間とは関わろうとしなかったからなぁ……おぬしの様なものは珍しいんじゃ」

「自分はただ、町の子どもに全知の樹への案内をお願いしただけであります。特別なことは何もしていないでありますよ?」

「いやぁ、あの子にとっちゃ傷の手当をしてくれるものすらほとほとんどおらんのじゃ。それが島の外の人間となれば、なおさら」

 

 ロビン、島の中でもうっっすら差別されてそうなんだよなぁ。島で唯一の能力者っぽいし、体の一部を咲かせるというわかりやすく目を集める力なせいで余計にというか。

 子どもどころか親もロビンを理解しようとしてない節がありそうだし、実際子どもが石を投げてても周りの大人は何も言わなかったし。

 いじめる子どもの方が実は精神的に参っている可能性があるとか聞いたことあるけど、あれはそういうのじゃない純粋な「異常者」に向ける悪意だろう。

 俺としては体の一部を出すなんて毒ガスだの魂取るだのに比べたら平和な方じゃんと思うのだが、そこら辺はグランドライン生まれの意見になってしまうか。

 両親が不在で親戚の家に預けられてるのも疎外感に拍車をかけてるだろうし。

 そういう孤独に慣れてしまうのは悲しいだろう。

 

「あんな小さな子が大人が読む様な書物を読んでいるのに驚いたでありますよ」

「ああ、あの子は天才じゃ。あと数年で博士号を取得してもおかしくない。それだけ聡い子なんじゃ」

 

 よく考えたら8歳だっけ? それで博士号取得ってやばいよな。ドクター名乗れんじゃん。え、前世の俺より学歴上ってことになるのか? やば……。

 

「……それだけ聡明な子が、石を投げられても助けられないのですか」

 

 つい漏れてしまった本音だ。将来有望な子ほど偉いってわけじゃないが、自分が何をされているかしっかり理解できてしまう子があんな目に遭ってても大人が助けないというのは、如何なものか。

 大人への不信感というのは深くなりすぎるとその子の人生そのものを大きく歪める。

 不信感を抱いていた大人に自分が成長してしまうことを恐れて若くして命を投げ打った子だって、前世にも今世にもいくらでもいるだろう。

 

「……どうやらおぬしは()()()な精神を持つものらしい。わしもこの島でのあの子の扱いには辟易しとる。その分、ここに来たら存分にかわいがってやっているのだが」

「他人の心というのはコントロールできない分厄介でありますな」

「おぬし、この島には何日滞在する?」

「年単位の予定であります」

「なら、今後もあの子と話してやっとくれ。あの子は良い子じゃ……」

「ええ、勿論であります」

 

 彼女を救うことが最優先なのだから、彼女を優先せねば前提が崩れる。

 それにロビンによくしてあげれば全知の樹の学者メンバーの好感度も同時に上がるはず。

 そこで信頼を稼いでバスターコールを教えてなんか良い感じにドーンよ。

 ぶっちゃけこの島詰みすぎてやれる事ビックリするほど少ないが、とにかく先ずはロビンの警戒を解くところから始めよう。

 最悪全知の樹は捨て置く。

 学者連中の命もできれば助けたいが、バスターコールがそれを見逃すか否か……。せめて研究資料だけでも持ち出せれば何か変わるかもしれない。

 ただその研究資料を持ち出すためには隠し部屋の場所を知って入り込まないとで……ああもうオハラ救済RTAやる事が多いよ!!

 

 焦ってもしょうがないから、な。うん。

 俺はその後ポツポツとクローバーと話をして、ロビンを待った。読書スペースの椅子は座り心地が良かったし、ポカポカ陽気が体をあっためてきてお昼寝するのにちょうど良さそうな場所だった。

 本を読めよ。

 

「あきつ丸さん! 持ってきました」

「おお、どんなものでありますかな」

「これです。『考古学の必要性〜多様な歴史文化とその背景概論〜』」

「わぁ……」

 

 俺の本を受け取る手は震えてなかっただろうか。

 分厚いハードカバーに箔押しの表題。片手で持つにはちとつらい。

 ロビンはお気に入りのぬいぐるみを見せる様にその本を持ってきた。

 

「わたしが、考古学のすごさとか、大切な事が知れた本で……。えっと、分厚いけど、わかりやすくて興味深い本なので……」

「うんうん、ロビン殿の思い出深い本を持ってきてくれたのでありますな。それはなんだか、ロビン殿をもっと知れた様で嬉しいであります」

「え、えっと……わたし、人に本をお勧めするのとか初めてなので、つまらなかったらごめんなさい」

「まさか、ゆっくり読ませてもらうであります。既読者として、自分がわからなかった所も教えて欲しいでありますな。ロビン女史」

「……! は、はい」

 

 とんでもねぇ学術書来ちゃった。どうしよ。

 これで読まなかったらそれこそ失礼だし、読んで理解できませんでしたでもロビンとの心の距離が離れる気がする。

 これは……なんとしてでも理解して感想を伝えないといけないのでは?

 俺はもしかして茨の道に足を踏み入れてしまったのでは?

 キリキリと胃が痛んだが、俺は素直に本を開いた。

 もうなんか序文の時点で文字が細かいし多い。

 枕にするならちょうど良いかもな〜と現実逃避しながら、俺はロビンの期待した目線を一身に受け視線を文字に向けるしかなかった。

 バスターコールが掛かる前に、知恵熱で死ぬんじゃないか? 俺。

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