A.ワノ国編終了あたり(全体的におぼろげになってきている)
ロビンほどの広い知識は最初から持つ事を諦め、俺は水中考古学や海洋考古学と言われるジャンルに集中することにした。
ロビンは能力者。水中を探索することもある水中考古学とは相性が悪い。
その点俺は艦娘。海の方が十八番だ。
船の歴史なんかも同時に学べるし、興味の範囲に一応引っかかる。
水中考古学関連の本をひたすら漁り、俺はノートにまとめていった。まとめないと頭の中ですぐ消えていくと思ったからだ。
別にちょっと関心があるくらいじゃ目が滑る文章を全て理解できるわけじゃないし、そもそもの読解力だとか論文慣れとかも必要だからまだまだ難問だ。
ロビンを引き取ってからは、基本的に俺は全知の樹にいる。彼女が大抵そこにいるから、開館と同時に入り閉館で一緒に帰る。というルーティーンになってきた。
朝は俺がロビンに起こされて、朝飯を作り、支度を整えて全知の樹に行く。
コイツまた歳下に起こされてんなとか言わないでほしい。俺はスマホのアラームなく自然と時間に起きれるほど器用じゃないのだ。起床ラッパでもいいから鳴らしてくれよ。
朝飯は俺が作る。最初ロビンは遠慮していたが、食材管理は俺がしているし、ロビンに任せるとトマト一つだとかコッペパン一つで済まそうとするから。
妖精さんが(いつのまにか)作っていた炊飯器で米を炊き、おにぎりとソーセージ、卵焼き、サラダ。なんか夜食みたいなメニューだがこれが俺たちの朝飯である。
食べ終わったら皿を片して全知の樹へ。まだ朝市に人がまばらな時間に全知の樹は開館する。
中に入ったら、あとはひたすら本を読む作業だ。
ロビンは最初俺が本を読む姿をひたすら眺めていた(なんで??)が、最近はようやく隣で自分の読みたい本を読んでいるようだ。
俺は定位置となった窓辺の読書スペースでひたすら辞書とノートを神器として学術書を読み進める。
ロビンが二冊読み終える頃、俺は一冊の本をひたすら必死に半分読み終える。
こればっかりは地頭の違いだと諦めた。
昼になれば、一度全知の樹から家に帰り、昼飯を食べる。たまに屋台で済ますこともある。
ロビンに任せるとやっぱり一番安い串焼き一本とかで済まそうとするので、大体は俺が作る。
今日はおかずパンケーキにした。
ベーコンと一緒に生地を焼き、粒マスタード、スクランブルエッグ、キャベツを添える。ミニトマトも忘れずに。
洒落たカフェ飯と思われるかもしれないが、生地さえ作れば簡単にできるので手抜き飯のほうが近い。
ロビンは気に入ったのか食いつきが良かった。また作ろう。
そのあとはまた全知の樹に戻って本を読む。受験生みたいな生活してるなぁ、俺。
ロビンとは仲良くなってきたけれど、まだ距離を感じる。遠慮というか。
まぁ無理もないか、大人への不信感や遠慮は意識して取れるものではないだろうから。バスターコールまでに信頼してくれれば、良い。
まだ好感度レベルを上げている最中ということだな。
クローバー博士や他学者とも交流するようになった。
ロビンを引き取った事を伝えてあるので、家での様子とか、ご飯はちゃんと食べているのかとか、そういう普遍的な事を聞いてくる。
本人たちもなんだかんだロビンが心配なのだ。
俺はそれに簡単に受け答えしつつ、本の書架整理を手伝ったりもしている。
俺はいち利用者の一人ではあるが、ロビンの保護者でもある。
今までロビンの保護者代わり? をしていた彼らとの交流も大切だ。というかこちらも好感度を上げておかないとバスターコールが信じられないような気がする。
乙女ゲーム:オハラ。
ただ最近心配なのはロビンに同世代の友達がいない事である。大人ばかりに囲まれて、子どもの感性やコミュニケーション能力を欠いてしまうのは如何なものか。
しかし彼女は町の子どもたちとは折り合いが悪く、友達の関係性は無理そうだ。
サウロが友達枠に収まるのだろうが、彼はバスターコールで死んでしまうし……。
いや、死なせないためにも俺が頑張らないとなのだが、海軍の裏切り者で巨人族で目立つサウロの救出ルートが未だ考えついていない。
オハラでの最低勝利条件は「ニコ・ロビンの生存」。最悪彼らの命を切り捨てないといけない。
クザンにサカズキ、大量の軍艦。その中で巨人族であり顔が割れているサウロの救出はかなり難しいし、学者たちはなんならオハラと共に沈む覚悟がある。
な〜んでこの島こんなに詰んでるんですか? ちょっとポーネグリフの研究しただけじゃないですか!
まぁそれが禁忌なんですけどね。
「最近、ロビンの表情が明るくなっているんだ。あきつ丸さんのおかげだよ」
「そう、でありますか? だといいのですが」
「間違いなくそうだ。前までのあの子はいつも……その、表情に乏しかったから」
学者の一人がそう言っていた。
ロビンは今の環境を前の環境より遥かに良いものと捉えてくれている。それは嬉しい。
ただ、これが人生の絶頂期だと思ってしまうのは困る。普通こういう穏やかな生活というのは当たり前なのだ。
何も特別なことでは無い、ということを今の状況で完璧に理解させるのは難しい。
ゆっくり「あたりまえ」になっていってほしいが……。
俺自身もオハラの終わりを知ってしまっているので、なんとも言えない表情になってしまう。これが当たり前になる頃に、きっとバスターコールはかかる。
「もう貴女もここに来て半月になる。オハラには慣れましたか」
「まぁ、全知の樹と家の往復ですが、そこそこ」
「ロビンのことを、外からの貴女に頼むのは申し訳ないんですが、よろしくお願いします」
話しかけてきた学者は、ロビンのことを殊更気にかけていた一人だったらしい。ロビンを引き取ったと言った時の彼は明らかに警戒していたけれど、ロビンの笑顔が増え血色が良くなったことで認めてもらえたみたいだ。
ロビンの体は細いし軽い。栄養がほとんど頭にいってしまっているのではと思う。だから、俺はロビンにきっちり三食食べさせるし、時にはおやつもあげる。
母親代わり、なんて言えるほど立派な事はしていないが、これであの子の幼少期の栄養不足がマシに慣れば良い。
ロビンが本格的に博士号の勉強を始めた。
恐らくだが、地下にあるポーネグリフの研究に気づいたのだと思われる。
毎日遅くまで本を読み、ノートに知識を書き込んでいる。
あと三年でロビンは無事博士号を取得するわけだが、徹夜をしようとした時は大人しく叱って寝かせた。
艦娘の体でもないロビンが何日も徹夜をしようとしたら確実に身体がぶっ壊れる。
徹夜覚悟で知識を詰め込むというのは俺みたいに人外の体をしている奴がやれる事なのだ。年齢一桁に徹夜を許す保護者なんていない。
しかし、ロビンがポーネグリフに気づいてしまったか。そして興味を持ってしまった。
彼女の知識への貪欲さは半端ではない。確実にポーネグリフを読めるようになるし、世界の真実を求めようとする。
しかしそれは、オハラの学者たちの「ほんとうの」一員になりたかったという寂しさもあったのではないか、と俺は思っている。
年齢や経歴を抜きにして、彼女は本当の意味でオハラの学者として認められたかったのではないか。
しかし大人はそれを許さなかった。彼女が求めるものはあまりに危険すぎるから。
そこで起こってしまった摩擦が、結果的に全知の樹に火をつける結果となってしまったのだろう。
では、ポーネグリフ研究をやめさせるかと言ったら否だ。ロビンの力は麦わら海賊団にとって重要なものとなるし、世界を敵に回してでもロビンは歴史を知ることを求めるだろう。
彼女の生きる意味なのだ。
それを取り上げるのはあまりに愚かなことだし、ロビンがロビンでなくなってしまう。
俺はいつ、バスターコールの件を言い出そうか悩んでいた。まだ俺の立ち位置はオハラの外から来た旅人だ。ポーネグリフ研究を言い当てて不審に思われたくない。
しかしあまりうかうかもしてられないだろう。
深夜、まだ物音がする隣室に、俺は寝かしつけるために席を立った。