ロビンに呼ばれ、何かと思ったら暴漢に襲われていた。
ので、思いっきり蹴り上げて顎骨を砕いてやった。
秋茜を抜いて、一閃。それだけで数人の男を無力化するには十分だった。
この町は治安がそこそこ良いと思っていたんだが、こういう輩もちゃんといるのか。これは俺の保護監督責任だな。
子ども相手に複数人で武器持ちとは、とんだクズ野郎だ。
「怪我は?」
「ううん、無い。大丈夫よ」
「……な、無い」
ローはまだ恐怖と動揺が抜けきっていないようだった。まぁローはフレバンス滅亡があるまで荒事とは無縁だっただろうし、怖かっただろう。
ロビンの手をぎゅっと握りしめているローは不安げだった。
「ロビン、先に家に帰ってるであります。自分はコイツらを処分してくるので」
「わかった。行きましょ、ロー」
「あ……ああ」
俺は男どもの首根っこを引っ掴むと、町の自警団に引き渡すべく町の方へ向かう。
町の人々は荒くれ者が伸されているのに驚いていたが、同時に町の脅威が一つ減って安心しているようだった。
ちゃっちゃか換金し、臨時収入ゲット。ロビンが頑張ってローを守ってくれてたみたいだがら、この金でロビンに好きな本でも買ってやるか。
この前買った本はもう読み尽くしてしまったらしいし。
「ただいま帰ったでありますよ〜」
「おかえりなさい」
「……おかえり、なさい」
家では、ロビンがローにココアを淹れてあげていた。ロビン本人もココアを飲んでいる。温かい飲み物で気分が落ち着いていると良いのだが。
「暴漢は無事に自警団に引き渡してきたであります。臨時収入でありますよ、ロビン殿」
「やったね、あきつ丸さん。助けてくれてありがとう」
「お、おれも……! 助けてくれて、ありがとう」
ローが辿々しくも、ココアのマグカップを抱えたまま頭を下げた。
「いや……深い森の中に子ども二人で放置してしまった自分の責任でもありますから、当然のことをしたまでであります。二人に怪我がなくて本当に良かった」
「……怖かった……」
にこやかに礼を受け取ると、ローは安心したのか涙腺が脆くなったようだ。大粒の涙を流し、先ほどまでの恐怖を反芻する。
俺はそんなローを外套で包み込み、背中を優しく叩く。
「よしよし、怖かったでありますなぁ。もう大丈夫。怖い人は成敗されたでありますよ」
「うっ……グス……」
「よしよし……」
数度宥めると、ローは落ち着いたようだった。泣いたのが恥ずかしかったのか、少し顔が赤い。俺は涙と鼻水をハンカチで拭うと、「今日はもう帰るか」と聞いた。
まだ日は高いが、怖い思いをしたなら安心できる家に帰ったほうがいいだろう。
しかしローは、まだここに居たいと言った。
「目が腫れてるから、治るまではここにいたい」
「ん、了解であります。……ちょうど3時か……ちょっと待ってるでありますよ」
「? わかった」
怖い思いをしたローくんにおやつでも作ってあげようじゃないか。
ローはパンが嫌いだったよな。あのパン嫌いはどこまでのラインなんだ? マフィンとか、マドレーヌもパン判定されるのか?
わからないからそこら辺は避けよう。時間もかかるし。
今回俺が用意するのは卵黄、砂糖、片栗粉。これらを混ぜ合わせ、妖精さんが(いつの間にか)作っていたオーブンでブンします。
するとあら簡単、たまごボーロの出来上がり。
前世で母親がなにかと作ってくれた簡単たまごボーロである。覚えてて良かった。
30分程度でできるし洗い物も少ないから手軽に甘いものを摂取したい時に役立つ。まぁお菓子作り自体あんま面倒でしないんだけどな。
25個ほど作ったので量は十分だろう。
皿に盛り付けて子どもたちの前に出せば、二人の瞳が輝いた。
「簡単なもので悪いでありますがおやつであります。ココアのおかわりは?」
「いる」
「おねがいするわ」
俺も自分の分のココアを淹れて、三人でダイニングテーブルを囲んだ。
たまごボーロは美味しかったようで、ローの好みにも合っていたようだ。ボーロはパン判定セーフか、良かった。
そういえばこの世界に来てお菓子を作ったのは初めてかもしれない。お菓子作りは時間も手間も材料費もかかるから船上ではあまり向かないのだ。そう考えるとサンジってすごいな。レディたちに毎日おやつにケーキとか作ってんでしょ? やば。
俺はコックにはなれないな〜と思いつつ、ニコニコでボーロを頬張る子ども二人を微笑ましく眺めた。
しっかしなー、これであの森は完全に安全とは言い切れなくなってしまった。また人攫いが出る可能性もあるし、その時に俺がデイリー消化で海に出ていたら目も当てられない。
一応燃料には余裕があるし、これからは保護者として一緒にいたほうがいいだろうか。
今回はロビンが男に目潰しをしてなんとか逃げてきたらしい。特訓の成果が出ているようで何よりだが、危ないことはまださせたくないな。
俺はココアを飲みながら考える。
「あそこで本を読むのはちょっとやめた方がいいかもしれないでありますな」
「そうだね、同じような事があるかもしれないし」
「じゃあ……もう会えないのか?」
ローが残念そうに服の裾を握る。ここしばらくでロビンとの友情が芽生えているようで何より。ロビンにもいい刺激になっているだろう。この二人を引き離すことはしたくない。
「うちに来ればいいであります」
「え?」
「うちならわざわざ家に入ってまで子どもを攫う人攫いはそうそういないでしょうし、最悪どこかの部屋に籠もればいい。森の中で本を読むよりは安全だと思うでありますよ」
「い……いいのか?」
ローはそのことに遠慮しているようだった。他人の家にほぼ毎日通うというのはどうなのかと理性が働いているようである。常識があって何より。
でもこのくらいの子どもなら仲良い子の家に毎日遊びに行くなんてのは割とよくあることじゃないだろうか?
家に来てもやることは本を読んでるだけだし、俺としては別に構わない。
「またあんなことに遭うより余程いいと思うでありますが……こちらとしても別に迷惑ではありませんし。あ、自分はちょくちょく留守にしているでありますから、お弁当を持ってきて欲しいのは変わらないでありますな」
今回はちょうどデイリーから帰ってきたタイミングだったので対処できたが、俺にもやる事はあるので。
それにローもあまり親しくない俺と一つ屋根の下ってのは気まずいだろうしな。ローが来てる時はなるべく外に出ておくか。
「ロビン殿も、それでいいでありますね?」
「うん、大丈夫」
「もちろんロー殿が嫌ならこの話は無しにしてもらって構わないでありますが」
「い、いや……お、お願いします」
ローは律儀に頭を下げてきたので、笑った。
家なら安全だろうし、念のため家の強度を上げておくように妖精さんに頼んでおこう。
顔を上げたローの口元には、ボーロの食べかすがひっついていた。
俺はそっと彼の頬に指を這わせ、それを取り去る。
「……っ」
「ふふ、美味しく食べてくれたようで嬉しいでありますね」
俺はその食べかすをペロリと舐めて、完食されたボーロの皿を洗いに台所へ向かう。
好評だったみたいだし、おやつにいくつか作り置きしてみようかな〜。ボーロだけだと飽きそうだから、プリンとか……今度本屋でお菓子作りの本でも買ってみるか。
なんかマシュマロとか作り方面白かった気がする。前世のショート動画で無心でお菓子作りの動画を眺めてた時期があったのだ。レポートに疲れて限界を迎えていた時だった。
簡単にできそうなやつは実践してみたりして、友達に食わせてたっけ。
他人が美味しそうに自分の作った物を食べてくれるのが楽しいんだよな。
俺はそんなことをぼーっと考えていた。
顔を真っ赤にしたローが、こちらを見ていることには全く気づいていなかった。