あきつ丸(仮)が往く!大海賊時代特殊任務!   作:月日は花客

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サクッといきます。






77:あきつ丸、滅ビヲ見ル!

 

 珀鉛病が発症し始めた。俺が本格的に周辺国を睨みドンキホーテ海賊団の動向を追っていた頃だった。

 白い町で唯一色を持っていた体が、白に侵され始めた。

 ついに来てしまったか、と俺は真っ先にトラファルガー家に向かう。

 

 病院は患者でごった返していた。ナースも医師も身体が白くなっているというのに、同じく白い体の患者を担架で運んでいる。

 突然の国民全員発症、現在は原因不明、急速に体に訪れる変化。

 それらは国内を一気に混乱の渦へ叩き込んだ。

 トラファルガー夫妻も必死に病院内での指示出しを行なっている。

 そこに現れた俺に、夫妻はハッとしたように顔を見合わせた。

 

「あきつ丸さん、この症状は……」

「……鉛中毒かと。やはり珀鉛は安全な鉱石では無かった」

「そんな……!」

 

 トラファルガー夫妻も薄々勘付いていたのだろう。言葉とは裏腹に表情には悔いが浮かんでいた。俺がたびたび聞いていた「珀鉛は安全なのか」という言葉に、もっと真剣に耳を傾けていれば、と思っているのかもしれない。

 しかし町中に貼られたプロパガンダポスターと、自分の身の回り全てを構築していた珀鉛への信頼はどうしても剥がれなかった。

 国絡みの洗脳だ。無理もない。

 起こってしまったことを悔やんでも珀鉛病が治るわけでもないのだ。

 

「あきつ丸さんは、大丈夫なんですか」

「自分はこういうものに耐性を持っているので問題無いであります。とにかく、治療器具に珀鉛製のものは使わないことを勧めるであります」

「申し訳ない……君の話をもっと真剣に聞いていれば、こんな事には」

「いえ……これは個人の力ではどうにもできなかった事。何か自分に手伝えることは?」

「ああ、それなら……」

 

 ロビンは家に待機させてある。念の為カ号を周辺に飛ばしているので、敵が来たらすぐわかる。

 ローとラミはどうしているのだろうか。そう考えつつ、病院の患者受け入れをひたすら手伝った。

 

「鉛中毒……治療法は不明……」

「体外への排出方法は……」

 

 そんなトラファルガー夫妻の話し合いに、やはり治療法を模索する方向に向くよな、と激務の中冷めた思考回路が考える。

 もう手遅れだ。俺はそれを知っている。

 もって数年、これから起きる戦争を考えると数ヶ月。

 それで、ロー以外のフレバンスの民は皆殺しになる。

 そこにきっと狂いはない。

 

「……逃げるなら、今のうちでありますよ」

 

 しかし、提案せずにはいられなかった。

 せめて射殺ではなく病死として終わらせてやりたい。墓の一つでも作ってあげたい。

 そんなエゴが、俺の心の中で燻ってやまない。

 なにもかも放って、トラファルガー一家だけでも逃がせたら。平和な森の中で穏やかに死を待つ生活くらいなら今ならまだ提供できる。

 周辺国が戦争を仕掛けたら終わりだ。

 

「いや、……我々は医者だ。最後まで諦めずに治療法を探すさ」

「治せない病気は無いはずなの。それかせめて終末治療だけでもやってあげたいわ」

 

 それは柔らかな拒絶だった。

 俺の目はきっと死んでいたことだろう。

 無駄だよ、なんて言えない。この本当に命と向き合っている瞳の前では、何も言えない。

 

「……そう、でありますか」

「なにより、動けない患者のことを放ってはおけない。私たちはまだ症状が軽い方なのは幸いだった」

 

 これで本人達の意思を無視して攫っていける精神を持っていたらどれだけ楽だったことか。

 真っ白な院内に真っ白な身体の人々が真っ白なベッドに横たえられていく。

 俺はトリアージの終わった患者を順番にリストアップしながら、この国の終わりを肌で感じていた。

 

 ラミは幼かった故にすぐに寝たきりになったらしい。逆にローはおそらくフレバンス内で最も症状が軽い。

 森によくいて、珀鉛と触れる機会が少なかったからだろうか。

 しかし確実に彼の身体を蝕んでいるのは確かだ。

 ローが不安気に語った病院の現状を、俺は子ども部屋の中で黙って聞いていた。

 ローとラミが不安になっているだろうからと、医療知識のない俺は手伝えることが終わったら二人の相手をしてくれと頼まれた。

 子ども部屋ではローが必死にラミを励ましていて、心臓が痛む。

 

「父様が絶対に治療法を見つけるって言ってたんだ。ラミも父様の腕は知ってるだろ? きっと大丈夫だ」

「そうだよね……こんな病気、すぐ治せちゃうよね」

 

 そう語る二人の震えた背中が可哀想で可哀想で、俺は二人の頭を撫でる。ほんのりと熱を持った体に俺の体温の低さは心地いいのか、ラミは目を細めていた。

 

 *

 

 戦争が始まってしまった。

 防護服を着た周辺国の兵士がフレバンスに「駆除作業」に来た。感染症だと勘違いしているのだ。

 俺がここ数年間で防護服の生産を隠れて妨害したため、兵士の数は少ないが……それでも、銃や火炎放射器による被害は圧倒的だった。

 次々と処理されていく珀鉛病患者たち。守ろうにも、広いフレバンス全域で行われる駆除作業に身一つではついていけない。

 なにより、これからすることを考えると大立ち回りはできなかった。

 

「父様ぁ! 母様ぁ! ラミィいい!!」

 

 泣き叫ぶローの声。そんなに叫んだら喉が裂けてしまうだろうに。それ程までの絶望が絶叫に現れていた。

 病院が燃えている。ただ泣くだけしかできないローを抱き上げると、俺は走り出した。

 フレバンスの、外へ。

 

「あああああ!! なんで! なんで! なんで! 父様、母様、ラミ……ッ!!」

 

 途中でロビンと合流し、ロビンは背中側に背負う形で引っ付いてもらう。安定性のために能力も使って、がっちりと。片手を空けておかないと秋茜を振れない。

 俺は家を捨て、森の更に奥に向かって走り出す。

 流石の兵士も森の中では人数が少なかった。

 見聞色をフル活用し、通り道に兵士がいたら反応される前に秋茜で斬り殺す。

 今はとにかくローとロビンを連れて、フレバンスの外へ。包囲網の外へ。

 

 この数年間、情報収集だけではなく妨害工作と逃走ルートの確保も行なっていた。

 森方面の監視用電伝虫の機能を壊し、兵士の配置を少なくした。

 敵国の軍部内部に潜り込むのは苦労したが、今こうしてスムーズに動けているのだから報われるというもの。

 有刺鉄線による壁は艦娘のジャンプ力で軽々突破できる。

 戦火がどんどん遠くなっていく。ローの家族の死体が遠くなっていく。

 まだローは泣くのをやめない。パニックになったまま戻ってこられていないのだろう。

 グラグラと泣き声が頭に響いて痛むが、彼が受けた精神的苦痛に比べるとこんなものは些事だ。

 

 フレバンスの外に出たら、あとはとにかく頭に叩き込んだ逃走ルートに従い安全地帯へ逃げる。国を跨ぎ山を超えて市街の裏路地へ。

 そこには小さな浜辺があり、俺とロビンが乗ってきた船がそこに隠されている。

 しがみついて離れないローをなんとか船に降ろし、能力を長時間使ったことでぐったりしているロビンも背中から降ろす。

 そして、速やかに艤装を展開、船と繋ぎ、曳航する。

 

 誰もこない一面の海に来た頃、ようやくローは落ち着いたようだった。

 

「…………」

「ロー殿、水であります。このままだと脱水になるでありますよ」

 

 差し出したグラスに入った水を一気に飲み干すロー。叫びすぎた喉はさぞ痛むだろう。

 ロビンも、今はまともに話すこともままならないほど疲れているようだ。

 そりゃ、一昼夜俺の背中に抱きついていたのだから無理もない。

 机に突っ伏し、絶望の底に沈んでいるロー。

 俺は彼に残酷な質問をしなくてはならない。

 

「ロー殿。……これから、貴方はどうしたいでありますか」

「……」

 

 彼の望みで今後の予定が大きく左右される。どの道も茨の道だろうが。

 努めて穏やかに、傷ついた心を刺激しないように俺は聞いた。質問自体が、傷口に塩を塗るような内容だったとしても。

 今さっき全てを失った子どもに、「これからどうしたい」なんて。これは刺されても文句は言えないな。

 

「……全部」

 

 か細く出された声色は、ガラガラで、引き攣れていた。

 

「全部、ぶっ壊したい。なんでもいいから、殺したい」

 

 ああ、やっぱりその道になってしまうのか、ローよ。

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