作者不調により暫く隔日更新となります。
申し訳ないです。
「頼みますよ、ついこの前護衛が逃げたばっかりなんです!」
「いや、身元もわからない旅の者に護衛を任せる方が不安でしょう」
「今回救っていただいて確信しました! 貴女は善人です! お願いします!」
お給金と食事、部屋はしっかりとご用意させていただきます! と頭を深く下げられ、俺はその勢いに少し引いた。
元々の護衛はオービット号よりもっと給料が高いところに行くとある日出ていってしまったらしい。それは給金をケチったオービット号管理者の問題なのでは? と思ったが、この世界の護衛の相場など知らないので何も言うまい。
俺はロビンを横目で見て、「どうする?」と視線で聞いてみた。
ゆっくり閉じられたロビンの瞳は「あきつ丸さんに任せるわ」と言っている。
ふむ、しばらくはロビンの訓練をしようかとも思っていたし、海賊船に狙われる客船なら目標は勝手に寄ってくる。
給金は別にどうでもいいが、大きな客船は見るからに豪華なので部屋や食事は豪華だろう。
なにより船長さんがすごく必死な顔をしている。これでダメだったら護衛無しのカモが海を渡ることになってしまう。
「……幾つか条件があるであります」
「は、はい! なんなりと」
俺は船長に何個か条件をつけた。
・俺たちが乗ってきた小舟を回収すること。
・給金は日給制。
・部屋は一部屋でいいが、部屋に誰も入れないこと。
・俺たちの素性を詮索しないこと。
などなどだ。複数あったそれを船長はきっちりメモして了承した。
日給制にしたのはシンプルにいつ降りるかわからないのと未払いを防ぐため。俺たちのプライバシーをきっちり守り、かつ生活を保証する契約を立てた。
「あの、食事に関しては……」
「ああ、食事に関しては彼女……ロビン殿の分のみでいいであります」
「あきつ丸さん?」
「船の食糧は限られている。食べる必要がない者は食べない方が……」
「あ〜き〜つ〜ま〜る〜さ〜ん??」
「……自分には燃料があるであります」
何か言いたげなロビンから視線を逸らす。燃料があれば空腹感や餓死も存在しないし、動けなくなることはない。最近そろそろ燃料の貯蓄がまた減ってきているのだが、酒を何リットルも寄越せなんて言えないし。
なにより護衛ならば食事の時間は短い方がいいだろう。
ジトっとした雰囲気をロビンから感じるが、スルーさせてもらった。
「はぁ、よろしいので?」
「構わないであります。……で、自分たちの部屋はどの部屋でありますか?」
「あ、ありがとうございます! こちらです」
客船オービット号……原作にあったっけ……? 記憶に無い。薄れ始めている原作知識の中では、余程インパクトのある出来事じゃなければ色々忘れてしまっている。原作を確認できない以上記憶しか頼るものがないと言うのはなかなか不便だ。原作と今世の記憶が混ざってよくわからなくなっている部分が多々ある。
特に東の海などの初期の頃の話なら尚更だ。
まぁでも、なんとかなるだろう。
こうして俺たちはオービット号の護衛として働くことになった。二人しかいないので、おおまかに昼担当と夜担当に分けた。昼はロビンが、夜は俺が甲板で敵を警戒する。
俺は不寝番ということになるが、昼に寝るので問題ない。食事を用意させていないので食堂に呼ばれることなく朝昼ぐっすり眠れるのは良かった。
東の海というだけあって絡んでくる海賊は弱い。ほとんどの船は小舟みたいな規模だしロビン一人でじゅうぶん対処できる量と質。
ロビンも最近は敵相手に色々試して自分の経験値にしているらしい。
2週間も経つころにはすっかりルーティンが出来上がっていた。
「今日は少し冷えるでありますな」
俺は煙草をふかしながら甲板で待機していた。艤装は運用したところ客から騒音の苦情があったため、艦載機が飛ぶことのない静かな海を眺める。客どもめ、安全と安眠どっちが大事だってんだ。
ロビンは昼に海賊に絡まれたのを無事に対処し、今はすやすや眠っているだろう。俺は昼に寝ていた分しっかり働いている。たとえ目視確認じゃないと敵船に対応できないとしても、見聞色の覇気で周りを覆うように警戒していた。
今夜は少し風があり、全体的に少し気温が低い。夜ということもあり肌にはひんやりとした空気が抜けていく。
ふと、甲板に自分以外の気配がした。
「……おや」
「こ、こんばんは。レディ」
そこにいたのは金髪の少年だった。片目が隠れていて、眉毛がぐるりと巻いている。
まごうことないサンジだった。
サンジってこの船乗ってたのか!? あれ、バラティエの前に客船経験あったっけ……あーなんかすごい初期にやってたような……覚えてねぇ〜。
数週間会わなかったのは俺が食堂やキッチンに近寄らなかったからだろう。サンジが俺のことを知っていそうなのは意外だが、どこかで見かけたのだろうか?
「子どもがこんな時間に起きているものではないでありますよ」
「その……いつも不寝番してくれてるんだろ? だから、夜食を持ってきたんだ」
内心の動揺を隠しながら話しかければ、サンジは手に持った皿をこちらに見せてきた。
シンプルなミルクチャウダーだった。中に入っているのはブロッコリー、にんじん、鶏肉にマッシュルームだろうか。温かそうな湯気がたちのぼるそれは食欲をそそられる甘い香りを漂わせている。
「今日は冷えるから、あったかいものにしたんだ」
「ありがたいでありますが……こんな時間に、顔も知らないただの護衛に何故こんなことを? もう2時を回るでありますよ」
「あ……やっぱり覚えてない、か……」
サンジは少し残念そうに視線を下に向けた。
覚えてない、とは?
首を傾げれば、サンジは「取り敢えず食えよ」とミルクチャウダーを俺に差し出した。木製の器にたっぷり盛られたそれを受け取り、さじで掬って口に含んでみれば、牛乳の優しい味が口一杯に広がる。
「おれさ、初めて貴女がこの船に来た時に、甲板にいたんだ」
聞けば、食事を運びに甲板に出ていたところで海賊がやってきたのだという。そして俺とロビンの活躍によって難を逃れたから、お礼を言いたかったと。
「昼を担当してる子にはもう言ったけど、貴女にはなかなか会う機会が無かったから。今日ようやく言えた。ありがとう」
「へぇ、律儀でありますな。このミルクチャウダーはそのお礼で?」
「いや、それは単純に今夜は冷えるから体を温めるものがあればいいだろうと思って」
「美味しいであります」
「良かった」
ミルクチャウダーは特殊な素材のない基本のミルクチャウダー、と言った感じで、簡単ながらも美味しい。とろみのあるスープに甘い野菜。塩胡椒の効いたチキンは満腹感をしっかりもたらしてくれる。バゲットが欲しくなるやつだ。俺はシチューに米を入れるタイプだから、米でも合うかもしれない。
あっという間に完食し、ごちそうさまと皿をサンジに渡す。
「……はぁ、折角ひとがのんびりしていたというのに」
「え?」
「少し行ってくるであります」
敵船の気配を察知し、俺は船首まで走ると大きく跳躍した。
着地先は海賊船。さほど大きくない船の甲板にみっしり詰まった海賊たちを、俺は一刀のもと切り捨てる。
夜だから船を沈めても怖がる客はいない。
なにより下手にドンパチやるより静かですぐに済む。うん、効率性。
「腹ごなしにもならないでありますな」
煙草を咥えながら、俺はそう呟いた。
海賊船が完全に沈んだころ、俺はオービット号の甲板に戻ってきていた。
そこでは呆気にとられたような顔をしたサンジが待っていた。おっと、怖がられたか? と思ったが、その瞳はその割には輝いている。
「す、すっげー……」
「護衛として当然であります。さ、そろそろ寝ないと明日の仕込みに遅れるでありますよ、小さなコックさん」
そう笑えば、目をハートにしたサンジが「は、はい♡ レディ」と言ったもんだからさらに笑ってしまった。自分がサンジのメロリン対象になるとは前世では考え付かなかっただろうな。
「また夜食、持ってくるね」
「そんなに気を遣わなくても大丈夫でありますが」
「ううん」
おれの口実にさせて? と笑うサンジ。
そんなのどこで覚えてくるんだよ。と思ったが、口に出さずただ微笑を浮かべて去っていく背中を眺めた。
その夜は、それから海賊がやって来ることはなかった。