更新全然できてなくて申し訳ないです。
今回は「ドフラミンゴが燃料切れのあきつ丸を拾った話」になります。
ちょっと性的なシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
そしてドフラミンゴのエミュが下手でも魚雷を撃たないでください。
因みにバッドエンドです。
ドレスローザは情熱の赤と海の青がよく似合う。
人々はおもちゃ達と笑い、薔薇が舞うようなダンスを踊り、コロシアムで熱を上げた。
誰が見てもその国は幸せで、活気に満ち溢れていた。たとえ国王が海賊であろうが、王下七武海に名を連ねた極悪人であろうとも、案外、華やかな生活を謳歌できるものだった。
住民の笑い声は朝昼夜構わず国に響いていたし、パレードの音楽や歌姫の美声は、ドレスローザという国そのものを飾り立てる、無形のアクセサリーであり祝福だ。
城下を見下ろす城は、その荘厳さと威光を大いに示し、灯りが消えることは無かった。
ただ、一室を除いて。
ドンキホーテ・ドフラミンゴは一国の王であり、強大な力を持つ海賊であり、裏社会のフィクサーであった。
それらの肩書きは彼の玉座を大いに飾り立て、普通の人間ならその重さと膨大な力に溺れ、すぐに発狂してしまうだろう。
ドフラミンゴがそうなっていないのは、偏に彼が王の器であり、“天夜叉”の二つ名に恥じない傲慢さと天才性を惜しみなく発揮していたからだろう。
彼は、自分の思い通りにならない事が酷く嫌いだった。
面白いことは好きだ。自分の予想できないことをしでかす奴は見ていて飽きないし、またそれを圧倒的な力で捩じ伏せた時の相手の顔は、夜のワインをより美味くさせる。
しかし、それはあくまでも彼の細い琴線に触れた一部のものであり、基本的に、彼に立ち塞がる障害は相応の残酷さを持って潰してきた。
舐められたら殺す。それは常識で、絶対のルールだ。
王である自分の気分を不快にさせた。これだけで、相手を殺す条件は揃っている。
誰かが彼を「人の心が無い怪物」と揶揄した。当然そのものは自身の四肢を潰され、その肉塊を食べさせられて死んだが、ドフラミンゴは逆に、自分ほど心のある存在はいないだろうと思っている。
人間の最終的に辿り着くものは究極の欲であり、傲慢だ。
人の欲は止まるところを知らず、まるで砂糖依存症患者が求める菓子をどんどん増やすように、あるいは地下に棲むドブネズミのように、無計画に抵抗もできず増していくのだ。
それを別に罪とは思わない。
それが人間というもので、そしてそれに何より正直な己はとても人間らしいと言える。
そして、だからこそ、そんな自分の思い通りにいかない存在は、そもそも存在してはならないのだ。
しかし、彼は誰よりも欲に正直だったが、同時に臆病でもあった。
自分が心を許した存在は、裏切ることを許さず、全ての力をもってして囲い込む。
自分を裏切ることは何よりの大罪であり、愚かな行為なのだ。
離れるな。離れるな。離れるな。
かつて全てを失った過去から、もう消えた傷から、甘さを忘れてしまった舌から。ドス黒く、重い、鎖のような腕のようなものが、手を伸ばす。
この憎しみを、嫉妬を、……愛を。
受け止めてくれたら、
「こんなことには、ならなかったのになァ?」
暗い暗い部屋だった。
ランプや光源になるものは全てが取り除かれ、小さな窓から見える海だけが薄らと月光を送っている。
室内は家具が何一つ無く、大量に置かれた花瓶から生けられた花の匂いがむせ返る。
その部屋には毎日新鮮な花を生け、その部屋全体が花束のようになっている。
しかし、この真っ暗な空間では、花の存在は香りでしかわからない。
そんな花瓶に囲まれた空間の真ん中に、鳥籠を模した椅子が吊り下げられていた。
見ただけで最高級とわかるクッション。細やかな刺繍は海の波をイメージした刺繍が繊細に縫われ、レースは花と魚を飾りに編まれていた。
そんなクッションに、黒が沈んでいる。
暗い部屋の中、服も髪も真っ黒な彼女は、闇世の中に溶けて消えてしまいそうな儚さを纏っている。
虚に開かれた瞳はどこを見ているのかわからず、少しだけ開けられた小さな口からは、弛緩したように涎が垂れていた。
ドフラミンゴよりも遥かに小さく華奢な女の子は、どこか人外じみた、無機物の美しさを讃えていた。
生花に囲まれる中、まるで上等なビスク・ドールのように、お上品に、しかし力無く、座らされている。
ドフラミンゴは少し傾いていた少女の首を正すと、その垂れていた涎を自分の親指で拭い、躊躇わず舐めとった。
そして、薄い、まだ旬の来ていないさくらんぼのような唇に、自身の唾液を纏わせた親指を差し込んだ。
普通なら、噛むなり抵抗されるであろう行動だが、少女は何の反応も示すことなく、されるがままに口の中を開かれる。そのまま親指で歯列をなぞられ、人差し指も追加され舌を緩く摘まれたり、上顎を撫でるように指先を這わせた。
唾液による水音が、クチュクチュと静かな室内に響く。
好き勝手に口内を蹂躙されているというのに、やはり少女は動かなかった。その舌も、唇も、瞳も、何の反応も示さない。
しかし呼吸はしているらしく、口内の熱で温められた吐息が、ドフラミンゴの冷えた指先を、暖めている。
指が唾液によって銀色の糸を引くようになって、漸くドフラミンゴは口から手を離す。
粘度をもって垂れてくる少女の唾液を、まるで極上の蜜のように舐め取り、嚥下した。
ドフラミンゴは機嫌良く、しかしいつもより遥かに小さく……吐息のようなか細さで笑うと、少女の顎を少しだけ持ち上げた。
下顎を掴み、無理やり口を開かせる。
それでも小さな口からは、さっきまでの指によって分泌された唾液が唇や舌の上でてらてらも輝いていて、ドフラミンゴは少女の何倍も大きな口で、その口内を犯し始める。
一方的なキスだった。
動かない舌を自分の長い舌でもって絡め取り、吸い付き、撫でる。歯列をゆっくりとなぞり、その凹凸を舌先で感じる。
己の唾液を、まるで雛に餌をやる親のように、ゆっくりと、ゆっくりと飲ませる。
性の気配など碌に感じなかった彼女に、こんな無体を働いていること。抵抗できない状態とはいえ、自身の一部を彼女の体内に注げる事が、えもいわれぬ高揚を刺激し、より一層深く、舌を滑り込ませた。
粘液と粘液が混ざり、ぶつかる音が静かな部屋の中に色の気配を蔓延させる。
ドフラミンゴが満足して口を離す頃には、この細い橋がどちらの唾液なのか、まったくわからなくなっていた。
ドフラミンゴの方は、少し体温も上がってきて、息も熱っぽいものになってきているというのに。
少女は、ただずっと、人より低い体温のまま、死んだように動かないままだ。
いや、実際死んでいるようなものなのだろう。
彼女の身体は普通とは違い、船のそれに近く、老いず、頑丈だ。
だが、船は海にいてこそ価値があり、燃料が無ければ動くこともできない。
そういうことだった。
最初こそ、どこか神聖視していた彼女にこんな事をするのに抵抗はあった。
しかし、彼女は自分に暖かさを教えておいて、勝手に罪悪感に苛まれて、何も言わずにどこかへ消えた。
許せなかった。
あの穏やかな笑みを、くれた飴の味を、抱きしめてくれた暖かさを。
ドフラミンゴはずっと覚えている。
覚えてしまっている。
忘れられたらどんなに良かっただろう。しかし、あの記憶は脳にナイフで刻まれたように、消えず、時にジクジクと痛んだ。
何年経っても、何十年経っても、消えてくれない黒い女。
唯一己の心臓を乱す、憎らしくて愛しいひと。
抱いた執着は酒のように熟成され、ドフラミンゴを酔わせた。その酒気は、硝煙のような、火薬の匂いで、ドフラミンゴは戦いの場所に立つたびに黒く靡く艶やかな髪を思い出してしまう。
自分のそんな気も知らないで、命すら簡単に賭ける姿が、ひたすらに吐き気がした。
だから、動けなくなった彼女を見つけた時、チャンスだと思った。
船というものは、海賊にとって必要不可欠。目の前には、どんな豪華なガレオン船より美しく強い船がいる。
しかし年月によって酒気にすっかり酔っ払い、中毒のように思考を蝕んでいた感情が、彼女を見つめる瞳を澱ませ、濁らせていた。
この船という存在を、世界を旅する海の存在を、自由にしてはいけない。
またどこかへ消えて、ドフラミンゴの元からいなくなってしまう。そんなことは許されない。許すわけがない。
動けないなら重畳。海を無くした船は、ただのガラクタに過ぎない。
そのガラクタを拾ったものが自由に扱っても、何も文句は言われないだろう。
ドフラミンゴは糸を少女の体につなげた。動かせば、それに連動して少女の体がゆっくりと立ち上がり、まるで踊りにでも誘うような拙いカーテシーを見せてくれる。
虚な表情のまま、ドフラミンゴの手を取ると、音楽も無いのに、糸の意のままにステップを踏む。
ドフラミンゴは少女の手を取り、細い腰を抱き、そのステップに合わせて踊る。
その動きは、特に少女のものはぎこちなく、閉じない口から涎が首まで伝っていた。瞳は何も映さず、何の感情もない。
糸の指示に従って、人形のように踊るだけ。
裸足にされた足が、ヒタヒタと冷たい足音を鳴らす。
少女とドフラミンゴは体格差がありすぎて、後半は、少女の脚は地面から浮き、ほとんどドフラミンゴが抱き上げるような形になっていた。
ぷらぷらと揺れる足先は一切の意思を感じず、手を離された風船のように宙空を漂う。
「ハハ……」
愛しい人と踊るダンスは楽しいものなのだろう。
焦がれた相手と、手を取り合って、二人っきりで踊ることは、幸せだろう。
ドフラミンゴは少女を手に入れた。誰にも見つからない場所に閉じ込め、自分の意のままにできるようになった。
ずっとずっと願っていたことだった。
彼女の少し低い体温を感じている。キスだってできる。髪を触り、小さな指先を撫でることだってできる。
全部、全部、叶った。
叶った、筈なのに。
どうしてこんなにも、虚しいんだろう?
わからなかった。理解できなかった。
ドフラミンゴは確かに彼女を掌中に収めた。鳥籠の中に仕舞って鍵をかけた。
それでも、脳に刻まれたあの傷が膿んだように痛む。
もう戻れないと身体中に染み込んだアルコールが血管を巡る。
抱き上げた少女は、幼い頃の記憶より細く薄く頼りなかった。ただでさえ無機物じみていたのに、もはや本当の人形として死んでしまったような。
「…………あ?」
ドフラミンゴは何故かそこで、この国にいるおもちゃのことを思い出した。
シュガーの能力によっておもちゃにされた人間は、その存在を人々から忘れられる。おもちゃとして、生きていくしかなくなる。
今この物言わぬ少女はその能力は使っていない。ただ、燃料が切れて動けなくなった状態で放置して好き勝手遊んでいるだけだ。
それでも、脳に刻まれた膿は記憶を侵すようにジュクジュクとドフラミンゴを蝕んでいた。
あいつの声は、どんな声だった?
瞳に込められた意思はどんな輝きだった?
笑いかけた時の口の形は?
名前を呼んでくれた甘さは?
全てが今の死んだ瞳の、涎が垂れた生気のない口の、掠れた吐息の記憶で上塗りされていく。
こんな筈じゃなかった。
あの強い芯の通った言葉を、気の抜ける口調を、優しい雰囲気の中にピリリとある敵への警戒を、膿んで爛れたドフラミンゴの脳は忘れてしまった。
脳みそを直接掻きむしりたくなった。
ドフラミンゴは、その糸を最大限に慎重に、繊細に使い、少女の声帯を動かした。
踊りをやめ、ただ立つばかりの彼女が、口元の筋肉だけを動かす。
「ドフラミンゴ殿」
「……」
「ドフラミンゴ殿」
「……」
「ドフラミンゴ殿」
「ドフラミンゴ殿」
「ドフラミンゴ殿」
何度言わせても、その名前に感情が乗ることはなく。
ただ、声帯を振るわせるだけの、粗雑なノイズにしか聞こえなかった。
あんなに名前を呼んで欲しかったのに。
変わらず、飴を差し出して欲しかったのに。
ただ、それだけだったのに。
最初だけは、確かにそれだけだったのだろう。
でも、ドンキホーテ・ドフラミンゴは傲慢で、強欲で、誰よりも人間だった。
その欲が、この虚な人形に詰まっていた。
その代償は、全身に回った酒と毒によって、すっかり、わからないものになってしまっていたのだ。
「ドフラミンゴ殿」
蹲ったドフラミンゴに投げかけられる言葉は、花の匂いに満ちたこの中で、唯一無臭の空気を纏っている。
小さな窓から見える海は、そんな末路をただ憐れむように、潮騒を城まで届けている。
その波の音は、かつてドフラミンゴを呼ぶ彼女の声に、よく似ていたが。
ドフラミンゴはもう、そんな事も忘れてしまっていた。
鳥籠に付けられた「あきつ丸」のタグだけが、明け方近い薄光の中微かに照らされている。