核心的な部分はなるべく合わせたいですが、こちらの予定していた流れの為に多少改変する場合があります。
ご了承ください。
「……ん?」
「どうしたの、あきつ丸さん」
ロビンが昼食を食べている横で、俺はふと目を覚ました。
本来まだ寝ているはずの俺が突然起きたことに、ロビンが珍しそうにこちらを見ている。
護衛を始めてからそこそこの日にちが経ったが、特に問題はなく、俺の朝が弱いことも変わっていないからだ。
毎回起こしてもらうのは少し情けなさもあるが、こればっかりは自分ではどうにもできない。人間だった時はこんなにも酷くはなかったんだけどなぁ?
いつもはダラダラと、寝れるんなら昼まで、なんなら夕方まで寝ている俺だけれど、今日ははっきりと目が覚めた。
その理由はなぜか。
俺は意識が無い時も、一応船の周辺……ロビンが知覚できないレベルの遠距離を、艦載機によって偵察している。
これは別に海賊を探しているわけではなく、どちらかといえば大規模な嵐や海王類がいないかの確認に近い。海賊なら余程の大海賊じゃない限りロビンに任せているし。
だから、基本的にこの艦載機から情報は来ないのだが……。
その艦載機が一機、墜落した。
いや、撃墜されたが正しいか。
しかも砲撃や自然現象によるものではなく、おそらく一撃で、一瞬のうちに。
艦載機はこの世界の一般的な銃では射程範囲外の高度を飛んでいる。攻撃目的ではなく偵察が主なので、こちらの攻撃も届かなくて良い。
そしてそこそこの速さで飛んでいる艦載機を報告が完了する前に撃ち落としたというのは、この辺りの海では異常だった。
新世界なら何が起こっても不思議ではないが……ここはまだそんな規格外ではないので。
艦載機から辛うじて届いた最後の通信は「カタナ」だった。
その、なんとも言えない嫌な予感に俺は即目覚めたのである。
しかもその艦載機が飛んでいたのはこの船の進行方向だ。
「……艦載機が、落とされたであります」
「海賊が近くにいるってこと?」
「いや、うーん……ロビン殿、この件は私に任せてほしいであります」
「まだ昼よ? 海賊ならわたしが相手するけど」
「今のロビン殿にはあれの相手は難しい……と考えるであります。なにより、この船のような大きな足場が無い場所での戦いは相性が悪いでしょう」
「……あきつ丸さんは、落とした相手を知ってるの?」
勘のいいロビンは、昼食のドリアを食べながら少し声を小さくした。
「まだ、推測段階ではありますが、もし当たっていた場合は自分が出なければ。まぁ、命は取らない相手の筈でありますから、あまり心配せずに待っていてほしいであります」
「あきつ丸さんのそういう言葉に信用は無いから心配はさせてもらうけど、わかったわ。船長さんにはわたしから伝えておくから」
「助かるであります」
信用云々は、ディベートしたら俺が100%負けるので触れないでおく。
まぁね、最悪ダメコンあるしさ、撤退戦に切り替えるかもしれないし、大丈夫大丈夫。
俺は背嚢から秋茜を取り出し、その調子をチェックする。
最近は海賊を船ごとよく切っているため、秋茜の機嫌は良い。茜の名の通り、実は夕暮れ時が一番力を発揮するのだが……俺の担当は夜だから、夕日を見られないのは残念そうだが。
キラリと輝く刀身に頷くと、俺はすぐにいつもの装備に着替え、海に出た。
今日の天気は晴天。やや曇りがあるか。風は無く、波も穏やか。
平和そのものな海だが、俺はこの先に待つ存在に内心冷や汗をかいていた。
艤装を展開し、全速で滑走する。
展開次第では、船が近いと巻き込みかねないから。なるべく遠いうちの今急がねばならない。
海風は気持ち良く、久しぶりの明るい海に気分も爽やかなものになる。
夜間航海も良いものだが、飛沫の輝きがはっきり見えるこの時間もまた乙なもの。
船周辺を飛ばしていた艦載機を一度こちらに戻し、艤装の中で待機させる。
恐らくだが、巡回している艦載機がまたあの地点を通ったら撃墜されるだろう。
髪を揺らす潮風が、なんだか誘うように感じられる。
久しぶりの再会というには、鉄の気配を纏い過ぎている。
俺はこれから起こるであろう戦闘に、遠い目をしてため息を吐いた。
青空は海よりも薄く高かった。
「やはり……か」
「久しぶりでありますな。実に何年振りでありましょう」
「月日など、然程大した問題ではないだろう」
俺の目の前には、巨大な黒刀を背負った、酷く簡素な船に乗った男がいる。
原作の外見より若いし、筋肉や鋭さが幾分足りないが、ハッキリとその人だと分かる──ミホークである。
鷹の目と言うに相応しい瞳は、その針のような視線の中に数ミリ程懐かしさが見えた。
だがしかし、この男がただの昔話や世間話で帰してくれると思うか? 俺は思わない。
「っ!」
キン、と硬質な高音が響く。
咄嗟に抜いた秋茜は、その一太刀を上手く弾いてくれた。柄越しに、強者への興味と興奮が伝わってくるようだ。持ち主の俺は乗り気ではないのだが。
「折角の再会だ。おれの腕を見ていってくれ、師匠」
「相変わらずの刀馬鹿に至極安心しているでありますよ……!」
ミホークは既に黒刀を構えている。
この海の上、小さい船もどきの足場で戦おうというのはシンプルに頭がおかしいと思う。
こいつは客船を無闇矢鱈に沈めるようなことはしないだろうが、あの船に俺がいるとバレた場合とんでもなく面倒で疲れる事になると、予想というか確信したから先に来たのだ。
寝ていたらバレなかったかもしれないが、艦載機は落としているし、俺は妖刀持ちでもあるしで、やたらと良いこいつの勘には引っ掛かる気がしていたのだ。
自由人野郎のミホークに客船が近いから手合わせは無しという話は通じないだろう。
流石の俺もまだ成長段階とは言えあのミホークと対峙しながら客船を無傷で守り切るには骨が折れそうだ。
「あの時の頬の傷を超えられると良いのだがな」
「成長してもマイペースは変わらないな……」
飛んでくる無数の斬撃をいなす。
あらゆる角度からあらゆる速度で飛んでくるそれは、常人なら一秒でみじん切りだろう。最初から飛ばしてくる相手に、俺は内心半泣きで刀を振るう。
確かに俺の剣の腕も上がっただろう。しかし、思い出してほしい。ミホークは、僅か一桁の年齢の時に既に俺の頬を斬っているのだ。堅牢な艦娘の肌を、銘も無い刀でもって。
俺の記憶がまだ薄れていなければ、なんかこいつだけワンピース世界でも頭おかしい枠にいた気がする。剣部門でトップを独走中だった気がする。
つまり、成長曲線は明らかに相手の方が上。
海の上を自由に動ける俺の方が有利に見えるが、その実それはハンデと言っても良さそうなものだ。
ジャブと言わんばかりの剣の雨は、単純に見えて超人の技術が盛り込まれている。
普通、刀の方向や振る速度を変える場合、ある程度隙ができるだろう。持ち方を変えたり、手に乗せる力の量を変えるからだ。
しかし、ミホークはその隙が一切無いどころか、本来隙ができる数秒にもう一太刀、なんなら追加でもう一太刀入れてくる。
ホームラン打ってる途中に投げられたボールで追加でもう一回ホームラン打つようなもんである。馬鹿がよ。
そもそも俺は剣の道一筋じゃないのだ。カイドウ戦は基本砲撃メインだったし、艦娘本来の戦い方ではない。
最近気づいたことなのだが、砲撃や艦載機支援のような、艦娘本来の戦い方では無い刀や銃撃の場合、乗せられる艦娘としての肉体的スペックが幾らか下がるようなのだ。
今まではそれでも誤魔化せて来れただろう。スペックが落ちるとはいえ元が強大なのだから大した問題にはならなかった。
握力や体幹が多少落ちようと、有り余る数値の暴力で殴ってこれた。
しかし、若いとはいえミホークレベルになってくると、砲撃や艦載機を使わないと厳しい。同時並行で機銃なり使えれば、また楽さは変わってくるだろう。
では何故今のミホークにそれをしないのか。
まず、単純に距離が近い。砲撃は確実に自分を巻き込むだろう。艦載機支援も微々たるものになってしまう。
次に、被害が大きくなる。艦娘の体に詰め込まれた破壊力はそれこそ元になった艦船と同等。争いによってここら辺の波は確実に荒れるし、ミホークが立っている船もどきも無事では済まない。
あんまりドンパチして音を聞きつけた海賊や海軍が寄ってくるのも面倒なので、刀のみで相手しているわけである。
ミホーク本人は俺が艤装を使っても文句は言ってこないかもしれないが、俺個人の考えによってセルフ縛りプレイ状態だ。
この辺りに三刀流の剣士さんはいらっしゃいませんか。
「先ずはひとつ」
「ふっ……!」
俺の頬に数センチの赤い線が浮かぶ。受け流しきれなかったそれは、紙でも切るように俺の頬を血管まで切ってしまった。
だらりと垂れてくる生温かさに、俺は一度大きく距離を取った。
「腕を上げたでありますね」
「当然だ。あの時から何年経ったと思っている」
「まぁ良いであります。……丁度紅を切らしていたというもの」
俺は頬から垂れる血液(燃料)を親指で拭い取り、その赤を唇に塗った。
ペロリと軽く舐めれば、鉄のような重油のような味がする。美味いものではない。
俺は一度集中し直すために、鋭く息を吐いた。
唇から鼻に抜けてくる重い匂いが、精神を纏めてくれる。
弱音は一度置いて、真面目に剣戟しなくちゃな。
「ッ!!」
「ほう……!」
瞬間のうちに息を吐ききり、その勢いに乗ったまま居合によって切り付ける。
艦娘の脚力によって海を抉るように踏み込み、コンマ数秒の速度でもって横に一閃。
ギリギリで刀は阻まれるも、発生した斬撃は受け止めきれなかったのか、ミホークの胸筋に赤い線が引かれた。
これでお互い一太刀浴びせたわけだが……俺としてはもう少し深く斬り込むつもりだったため、ミホークの胸に流れる血液量に目を顰める。
もう少し男前にしてやろうと思ったのだが。
「やはり素晴らしい剣速だな」
「世辞はよろしい」
小さかった頃は俺がしっかりと師匠できていた筈なのだが、もう既に気分はチャレンジャー。
少し足癖が悪いが、ミホークの大太刀を脚で蹴り付けてまた距離を取る。鍔迫り合いでどちらが勝つかの賭けはしたくなかった。
ニヤリと笑みを浮かべるミホークに、その笑い方は似合わないなと思いつつ、今度は俺が剣の雨を浴びせる番だ。
ミホークと俺はしっかり体格差があるため、それを活かせると良い。
つまり、下段を中心に組み立てていく。
勿論、下段しか来ないとわかれば対応は簡単になるため、適度に上段や中段も織り交ぜていく。
しかしより力を乗せるのは下段のみ。
人間の腕は上半身にあり、当然だが下半身をしっかりと守るためにはそれなりの習熟が必要である。特に大きく体格差のある相手だと、意識していない箇所に攻撃が飛んでくる可能性がある。
俺がさっき頬に喰らった一撃は、秋茜で弾いていなかったら額かそれより上に当たっていただろう。
高く振り上げる、低く振り下ろす。どちらも隙ができやすく、また同時に対処するには難しい。
だからこそ、それを活かせれば大きなアドバンテージとなる。
爪先でも良いから持っていきたいものだ。
「懐かしいな……やはり師匠の太刀筋は美しく、見ていて飽きない」
「……ミホーク殿、手合わせ中に喋る気質でありましたっけ?」
「さぁな、突然の邂逅に酔っているのかもしれん」
上機嫌(俺はそれどころではない)なミホークはその大太刀“夜”によって簡単に斬撃を弾いてくる。
まぁ、体格差のある相手の対処や戦法も俺が教えたからなぁ……。基本ではあるし、あの頃のミホークはまだちっさかったので。
こっちの時はそんな余裕無かったのに、ミホークは返しの斬撃まで投げてくる余裕だ。
剣の道ではもうミホークは俺を超えていると言って良いだろう。
せめて師匠らしくかっこよく負けるなりしたいところだが……。
「楽しいな、師匠」
全然!!!!