久しぶりになんもねぇ大海原に戻ってきたわけだが、あてというあては無かった。
どこを目指すと言うわけでもなく、久しぶりの一人の時間を楽しむように海を進む。
ワノ国にいた時は大抵おでんや家来が側にいて、なにかと世話を焼いてきたり手合わせを請われたりしたからな、静けさってものがなかった。
海にも出れてなかったからストレスも溜まっていたし、伸び伸びと航海できる今は結構ストレスフリー。
やっぱ本質が船だから、海に浮かんでないと不安になるのだ。海は実家のような安心感がある。
「のんびり行くでありますか」
数年ぶりの海にテンションを上げつつ、艤装を展開する。カ号を飛ばして、周囲の哨戒に当たらせる。
ぶっちゃけ資材が枯渇していた。
燃料は残り500を切っているし、鋼材なんかも心許ない数値。何故かというとワノ国ではデイリーやウィークリーをまともに消化できないため、資材の追加獲得ができず消費するばかりだったのだ。
このままではガス欠してしまう。
というわけで、海賊を狩りまくって資材確保。ついでに金銭やらも貰おうというわけだ。
早速カ号から海賊船発見の知らせがあった。報告のあったポイントに舵を切る。
艤装もしばらく使えてなかったからな、錆びつかない様に使っておかねば。
俺は走馬灯を握る手に力を込めた。
ちょうど航路が被っていたのか、立て続けに5隻の海賊船を沈めることができた。
船底に忍び込み、金品をかっぱらってから砲撃という流れにしたかったのだが、宴でもしてないと流石に気づかれる。
おかげで金庫ごと沈めなければいけない船もあった。勿体無いことをした。
砲撃ばかりだと秋茜が拗ねるため、たまに振るってガレオン船を真っ二つにしたりもした。
船さえ沈めればいいため、海に浮かぶ残党を追撃したりはしない。まぁグランドラインのど真ん中で漂流は普通に死ぬと思うが。
懸賞金がかけられている賞金首を海軍に持っていけば更に稼げるのだろうが、生憎と手配書など持っていないし、首を持ち歩くというのも中々嫌だから放置する事にした。海軍に積極的に会うのもよろしくないだろう。
海軍にとって賞金稼ぎは商売敵みたいなものだし、なにより海軍に勧誘されたりしても面倒だ。
あきつ丸は陸軍所属であって海軍所属ではないのである。
「おっと、まだまだおかわりでありますな」
やはりこの辺りはグランドラインでは比較的船の多い航路らしい。カ号の索敵に引っかかった海賊船を、戦闘機の射撃によって奇襲する。もう金品回収はいい。とにかく沈めて任務報酬ゲットだぜ。
燃料、鋼材、弾薬、ボーキサイト……こんなんなんぼあっても良いですからね。
「資材置いてけ! であります」
秋茜の飛ぶ斬撃でマストを叩っ斬る。そこにダメ押しの砲撃を加えれば、船はあっという間に沈んでしまう。
ふっふっふ、任務報酬が美味いぜ……。
とりあえず暫くは海賊を狩りながらグランドラインを流れていこう。
喫緊の主要任務も無いし、島から島へ移りながら稼いで資材を集めよう。妖精さん曰くある程度資材が集まったら開発ができるらしいので、やはり目下の目標は資材の獲得になる。
「数年はのんびりできそうでありますな」
まだ大海賊時代ではないため、海賊の数……特にグランドラインに来ている船は少ないかもしれない。ロックス海賊団やロジャー海賊団のような上澄みこそあれ、それ以外はあまり手応えのない海賊ばかり。
今のうちに悪さをする海賊は殲滅しておくか、と改めて砲に弾をこめた。
しかしまぁ、分母が小さいから平和な旅になりそうである。
*
「……坊や、名前はなんでありますか」
「ジュラキュール・ミホーク」
前言撤回。平和な旅とはなんだったのか。
目の前にいるのは5歳ほどの子ども。鋭い目つきが特徴的な男の子である。
そしてジュラキュール・ミホークと名乗った。うん、鷹の目である。未来の。
ここは小さな島で、政府非加盟国なのか治安が最悪だった。ハズレを引いたとさっさと出ていこうとしたところ、路地裏でカツアゲに遭っている子どもを発見。適当に暴漢を秋茜で切り捨てれば、そこにいたのが未来の王下七武海だった。
なにこのミラクル。
「……外套を離していただいても?」
「おれに剣を教えろ」
少年ミホークは、俺の外套の裾をギュッと握って離さない。
暴漢は手加減したため、いつ起きるかわからない以上さっさと去りたいのだが。てかこの島から出たいのだが。
子どもにしては強い力で握られた外套。無理に引き離すこともできず、路地裏に二人で立ち往生だ。シワになるから離して欲しい。
そしてミホークの先の言葉を夢だと思いたい。
剣を教えろ? あのミホークに俺が剣を教える?
いや、無理だろ。
「何故自分なのでありますか」
「おれが今まで見てきた中で一番太刀筋が綺麗だった」
よく見ると、ミホークの腕には錆びたサーベルが握られている。しまった、彼は自力で暴漢から逃げられたかもしれないのに、余計なことしたか?
いやでも、子どもが大人に殴られているのを見過ごせるわけがなかった。
まっすぐにこちらを見つめてくるミホーク。その眼力は少年の頃から顕在か。黄金の瞳が感情のない視線をこちらに刺してくる。
「自分は剣が本業じゃない、独学の者であります。師事するならもっと別の人が……」
「お前が良い。教えろ」
「んんん強情……」
唯我独尊のところは子どもの頃からなのな……。ぎっちり握り込まれた外套がギリギリと音を立て始めたところで、俺は降参した。
「わかったでありますよ……でもミホーク殿、ご家族は?」
「いない。おれひとりだ」
「孤児……まぁ珍しくもない話でありますか」
要するにみなしごである意味自由に動けると。
それならまぁ、ご家族に説明する手間だとか何やらが省けるから良い。ボロボロの身なりを見るにまともな家も無さそうだ。ストリートチルドレンをやっていたのだろうか。
「その剣以外に、荷物は?」
「無い。これだけだ」
「じゃあ、ちょっと失礼するでありますよ」
俺はまだ小さなミホークの身体を抱き上げた。ミホークの身体は艦娘の力を抜きにしても軽く、ひょいと片手で持ち上げられてしまえる。
まずは栄養補給からだな。と頭の中で背嚢に入れた食料の計算をし、今後は海賊船から食料も奪わないとな〜と考える。
ミホークは突然抱き上げられたのに驚いたのか、その蜂蜜色の瞳を少し見開いていた。
表情に出ないな、この子は。
「ちょっと揺れるでありますよ」
俺はダッシュで港に向かい、海に飛び込む。こんなほぼ無政府状態の物騒な島に居てたまるか。いつ鉛玉が飛んでくるかわかったもんじゃない。
ミホークは俺が海の上を滑る様に移動しているのにも、目を見開くくらいで何も言わなかった。もう少しリアクションがあると思うのだが……?
そのまま近くの孤島までミホークを連れて行く。森が多少あるくらいの本当に小さな島で、人の気配は無かった。
「あの島じゃまともに生きるのすらも面倒くさそうでありましたから、こっちで生活するであります」
「……教えてくれるのか?」
「ずっとは無理でありますがね」
海賊船を狩りに行ったりする必要はあるし、ある程度育ったら街がある島にでも適当に放り投げて別れればいいか。と、俺はミホークを育てる事にした。
暇つぶし、と言えば暇つぶしだし、ミホークは割と数日海に出て放っておいても大丈夫そうという考えもあった。
「先ずはご飯であります。どうせまともな食事を摂ってこれなかったでありましょう? 力の源を摂取しないと身につくものも身につかないのであります」
「狩りでもするのか?」
「備蓄があるでありますよ」
背嚢に入れていた食料をいくつか出す。野菜、干し肉、果実水。明らかに容量の許容を超えている量の食料が背嚢から出てきても、ミホークはじっとそれを見つめるばかり。
ここまでリアクションが薄いと「あれ? これってグランドラインの常識だったのかな?」と思ってしまう。こう、もうちょっと子どもらしい無垢な反応が欲しいぞ。
「野菜からゆっくり食べるであります。好き嫌いはしない事」
「わかった」
ついでにミホークが食べてる間、妖精さんに二人用の小屋でも作ってもらおうかな。
俺はそっと秋茜に手をかけた。