諸々整理が付きましたのでまた投稿頑張っていきます。
ゆるくお付き合いください。
ロビン達の捜索を始めて一週間が経った。
サンジとゼフはイレギュラーが起きてない限り、島とも言えない岩の上で生きているだろう。しかし、現状その岩の影さえも見つからないでいた。
相当遠くに流されているらしい。
艦載機をフル活用し、空から、そして海上からひたすらに探していく。
声を張り上げ、耳を澄ませ、見聞色の覇気を全開にして。
俺は前世での原作知識を見聞色の覇気と言い張っているが、実のところ覇気の中で見聞色が一番色が薄い。正確な攻撃の予測や一瞬の未来予知などできないし、最低限の力しか持っていない。見聞色の覇気で探すよりも艦載機に頼った方が確実なのだが、今は1%でも見つける確率を上げたかった。
朝昼夜で見える景色は変わるが、手がかりを発見することは無い。
ジワジワと焦燥感が俺を蝕み、何度海底に目を落としたか思い出せない。
そんな俺を、なぜかついて来ているミホークは船の上から眺めていた。
「おい」
「……なんでありますか」
「少し休め」
「今は睡眠よりもやるべき事が──」
「当て身」
「ゔっ……!?」
……と、定期的に休息を取らされたのがアレだが……。
そもそも俺は人間と違って食事は必要無いし徹夜しても影響は少ない。意識が無くても艦載機はある程度飛ばせるが感知は鈍くなるし上手く指示も飛ばす事ができない。
人間は水のみなら三週間程度、水も無ければ一週間も生きられないという。
つまり、万が一のボーダーラインはとっくに過ぎてしまっている。
もし、もし死んでしまっていたのなら、そのまま生命の循環に従い腐敗分解が進むだろう。冷たい身体に虫が湧き、体内にガスが溜まり、死斑が浮かび上がるだろう。死体のイメージが強く理解できてしまうのは、艦船のあきつ丸の記憶だろうか?
あーそういえば水中で死んだ場合海の生き物に食われたり巣にされてる可能性もあるのか……死んで会うならできるだけ綺麗な方が良いんだが、そんな贅沢言ってられないかもしれない。
人は脆い。ワンピース世界の住人は色々と丈夫だししぶといけれど、やはり死ぬ時は死ぬ。
銃で撃たれれば血を流すし、海王類の餌になったり、病気になったり。死に方は色々だ。
それに比べると、艦娘の身体は随分丈夫だし、燃料があるなら動き続けられるし、バケツを使えば一瞬で損傷も治る。なんなら、今の俺にはダメコンによる残機もある。
艦娘の死はなんだろうか。やはり轟沈だろうか。解体や近代化改修による消費はどういう扱いなのだろう。
ゲーム内でも疲労度の概念はあったけれど、効率は下がるけど出撃はできるし、ステータスは下がるけど戦闘行動もできる。
過労死という概念は存在するんだろうか。
ゲームとして遊んでた頃はダメージ効率とか損害の大きさとか、あと単純に艦娘がかわいそうでなるべくキラ付けや疲労回復アイテムを使っていたけれど、現実となるとまた話は変わってくる。
あきつ丸の身体に無理をさせているのは申し訳ないが、今は俺もまたあきつ丸なわけで、そして背負っているものがあるわけで。
なんだか考えるのが面倒になってきた。
でも頭が回転を止めてくれない。
そういえば人間の俺って葬式挙げられたんだろうか。
流石に海水浴場で死んだのだから遺体は回収されただろうし、身元もわかるはず。病院か警察から身内に告げられて、火葬でもされたのか。流石に家族が葬式すら挙げてくれない薄情者だとは考えられない。
俺の葬式には何人、人が来てくれたんだろう。友達とか、親戚とか、来てくれただろうか。弔辞は誰が読んだのだろう。
俺の死に泣いてくれた人とかいたのかな。
結婚式とかを除けば人生の中で一番自分が主役になれるイベントだろうに、その自分が見れないのはなんだか惜しい気もする。
別に友達がいないとか、身内と不仲とかそんなんじゃなかったから、きっと泣いてくれた人も沢山いたんだろうな。
墓に何か供えてくれたりするんだろうか。今食べたいもの……よくわからない。
なんだかんだ、ここ暫くの生活で料理のレパートリーは前世のデータを超えていた。料理人程ではないが、身内で食べるなら問題ない程度の腕だ。
食文化は日本人のサガなのか、混ざりまくっているし魔改造している。
日本式の改造──醤油や味噌にアレンジしたり、パンを米に変えたり──はロビンには馴染みがないからか、作ってみると物珍しげに喜ばれる。
そんなロビンを眺める事に、今の俺は味覚以上の喜びを抱いていた。
……ロビンと一緒に食事をしたのは何日前だろう。
警護の関係で一緒に食事を摂る機会は減っていたし、食べれたとしても軽食をさっさと口に含んで交代する。
それが最期の共にする食事になってしまったら、悲しい。
きゅるる、というやけに高く、体に響く音で閉じていた瞳を開けた。
真っ暗な視界の中、いつのまにか気絶から醒めていたらしい。最近の俺はずっと何かをグルグル考えているから、寝た感じはしなかった。
「なんの……音」
「お前の腹の音だ」
「……腹……? なんで……?」
「空腹だからだろう。何日物を食っていないと思っている」
「燃料は、補給してる……」
俺は、棺桶船に座るミホークの膝の上に乗せられていた。脚を折り畳まれて、コンパクトにすっぽりおさまっている。
ミホークの右腕を枕にしていたらしい。道理で後頭部が痛いわけだ。
俺の思考はまだぼんやりしている。強制的な気絶からいきなりハッキリと意識を取り戻せるわけがない。
「……いつだったか」
「……?」
「食事、というものは……栄養の補給以外にも、誰かと共にすることで精神の回復を行う行為だと聞いた」
ミホークの口調はいつも通り落ち着いていて、ふわふわした頭には心地よくその低音が響いた。
後頭部は痛いが、支えられ方も安定感があるし、うっかりするとまた意識を失いそうになる。
「燃料をただ補給するだけの行為で、そういった食事と同等の効果を得られるとは思えん」
「……でも」
「でも?」
「意味が、無い。今は、
ロビンを海から救ったあの日。
艦船のあきつ丸と、同調したらしいあの出来事から、俺の船としての意識はより深くなったと思う。
前までは、好きでしていた食べ歩きや、無駄に貪っていた睡眠も、魅力を感じることが薄くなった。
船は、人間のものを食べない。無駄に眠らない。
ロビンや、昔だとローがいた時は自分一人食べないのは気まずいし、ロビンたちも遠慮するだろうと自分も食べていた。
味はわかる。美味しいと思う。しかし、なんだかそれを、おままごとのように感じてしまう。
なれやしないのに、変身ヒーローのベルトを着けて、ポーズを決めていた幼少期を思い出した時と似ている。あの時も成長した今も、あれはただのおもちゃだったことを知っている。
実際、アルコール以外の食事は燃料にならない。
どこに消えているのかわからないが、食べても排泄や代謝があるわけでもなく、時間が経ったら体内から消えている。
長期稼働する時にパンだの米だのを大量に食べても、燃料を補給しなければ意味がない。
だけど、その行為に意味がなくとも、食事中に交わされる会話や、美味しそうに物を食べるロビンを見ていると楽しい。ロビンは俺と違い正しく料理を血肉に変えて、成長する。
おもちゃの変身ベルトでも、楽しかった思いは本物のように。俺は誰かとの食事は相手とのコミュニケーションに重点を置いていた。
そんなおままごともできない今、何かを食べることへの意味が見出せない。
それを伝えると、ミホークはどこか呆れたようにため息を吐くと、少ない荷物の中から何かを取り出した。
「ままごとでも良い。食え」
「なに、それ……」
「ただのカロリーバーだ。食え」
「だから、意味が」
「食事とは生きる意思でもあると言ったのは何処のどいつだ」
「知らない……」
そろそろ腕の中から出して欲しいと身体を捩れば、逃さないとばかりに掴まれ固定された。
こんな事をしている場合じゃないと睨めば、その倍の鋭さを持った眼光が向く。流石鷹の目の異名を持つ男。その目つきは大の大人でも泣いて逃げそうだ。
気絶した時に艤装を仕舞っていたので、下手に展開もできず掴んでいる腕を振り解くのは難しい。
口元に持ってこられたドライフルーツと生地が棒状に固められたそれを、食べるまでこれは終わらないだろう。
俺は、諦めてそれに従う事にした。
このままでは海に足もつけさせてもらえない。
観念した俺は、押し付けられるカロリーバーに控えめに齧り付いた。
日持ちのためかギッチリと固められたそれは硬く、端の方から削るように食べないと顎が死ぬ。
カロリーを摂るために味は二の次なのか、ボソボソした食感やしつこいドライフルーツの甘味は美味とは言えなかった。
それでも、食べ切らないと離して貰えないだろうから、黙って差し出されたそれを噛み続ける。
蜂蜜酒のような瞳はそんな俺の姿をじっと見つめていて、一欠片でも溢すことを許されないようなプレッシャーを感じた。
生地のせいで口の中の水分がどんどん持ってかれる。
「んっ、ぐ──っ、ぅ」
「口を離すな。食べ切れ」
水が欲しくて一度口から離すと、これ以上は食べないという意思表示に思われたのか無理やり口に突っ込まれた。
そんな事しなくても水を飲んだらまた食べる、と言おうにも、俺は何かを咥えながら流暢に喋る術は持ってなかった。
喉が渇いていく中に硬い生地とねっちゃりした重い味のするドライフルーツはかなりしんどい。
というか、こんなの食事じゃない。なんの拷問だ。
意識外で出てしまう生理的な涙は、その分を是非口内に割いてほしいところだ。
「ままごとだろうが、血肉にならなかろうが、生活のルーティンを守ることは精神の安定にも繋がる」
「……く、ふ」
「今まで食事を摂ってきたのなら、相手がいずとも食え。まさかこんな初歩的な事でさえ忘れるとは、おれと離れてから鈍ったか」
「ぐっ、おェ……ッゲホ、カハッ」
寧ろ俺にとってはお前にそんな食への拘りがあった方が驚きだよ。と心の中で思いながら、カロリーバーを食べ切った。口の中に唾液は一滴も残っていない。そのせいで舌が痛い。
ミホークは指に付いたカロリーバーの欠片を行儀悪く舐め取り、薄く笑った。
「探したいのだろう、解放してやる。ただし、また食事をサボろうとしたら今と同じことをするからな」
緩められた腕、それでも恐怖を感じてしまい、俺は返事をせずに海へと逃げた。
ロビンと、早く会いたい。
ミホークはもう既にあきつ丸=弟子認識なので強引だし優しさ(伝わらない)も見せます。
そんなことをあきつ丸は知らない……。