あきつ丸(仮)が往く!大海賊時代特殊任務!   作:月日は花客

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鷹と蜻蛉の旅
91:あきつ丸、発見スル!


 

 捜索を始めて二週間と少し。

 俺はサンジとゼフを発見した。

 

 船が沈んだ海域からかなり離れた、連絡船もなかなか通らない辺鄙な岩礁しかない海に、ぽつんと影があったのだ。

 艦載機の発見報告を聞いた時、ほんの少しだけ、ロビンもそこに混ざっていないかと期待した。ロビンが、サンジとの漂流生活を共にしている可能性が頭の中を離れてくれなかったから。

 しかし、そこにいたのは原作通りの二人だけで、ロビンの影は無い。

 その事実に心がまた曇ったが、ひとまず、あの二人を見つけられた事を喜ぶことにした。80日を超えた遭難よりは、余程早く見つけられたけれど、それでも極限状態であることに変わりはない。すぐに救助に向かった。

 ミホークは相変わらず着いてきていて、やはり不定期に俺の意識を気絶させている。

 俺はその行動は最早抵抗を諦め、せめてカロリーバーはお湯に浸してふやかしてから食べるようにした。

 やはり味は美味いとは言えないが、ミホークに無理やり食べさせられるよりはマシだ。

 

 岩島は本当に何も無く、人が生きる為の要素は欠片も補えない場所だ。

 もはや叫ぶ気力も無いのか、二つの影は私の姿を視認しても大きな反応は無かった。

 手早く秋茜によって飛び、二人の元へ降り立てば、ようやく訪れた救助の芽にサンジは泣き出してしまった。

 

「よがっだ……っ! おれ、このまま餓死すんのかとっ……!」

「無理に動かない方が良いであります。固形物は断食から急には無理でありますが、スープならここに」

 

 一日どころではない断食期間、そこに急に刺激の強いものや胃腸を動かす固形物を放り込むのは危険だ。

 一応発見の報告を受けた際に作っておいた、野菜の出汁をとった液体のみのスープを容器から取り出す。

 ミホークの、「自分の食事は疎かにする癖にこういう場面では用意が良いのだな」と感情がこもった視線は見ないフリをする。

 人のためと、自分のためはまた違うのだ。感じる労力とか、必要性とか、そういうものが。

 俺は他人に作る料理の方が凝るタイプ、というだけ……とはあまり言い訳にならなそうだ。

 

「ゔっ……うゔっ!」

「落ち着いて飲むであります。……そちらの方も」

「おれにも渡すのか、それを」

「遭難していたでありましょう? 何故、渡さない選択肢が?」

 

 ゼフと俺は今が初対面なので、あくまでも知らない体で話しかける。

 彼の足はやはり片方無くなっていて、その血肉と骨が見える断面は痛ましさと生きる為の決意をひしと感じさせた。

 おれは特に警戒することもなく、スープの容器を差し出す。

 

「……おれは()クック海賊団船長、ゼフだ。そこのチビナスがいた船を襲った」

「自分はあきつ丸、サンジ殿が働いていた船……オービット号にて、臨時ですが護衛の仕事をしておりました」

「そうか、二人いたのか。……おれはアンタの護衛対象の船を襲った海賊だぞ? どうしてスープを差し出す。殺した方が、余程自然だと思うが」

 

 もっともなゼフの台詞に、スープを飲んでいたサンジが慌てたのがわかった。

 確かに彼はオービット号を襲った犯人だが、同時にサンジに食糧を渡した恩人でもある。サンジにとって、俺が彼を殺すのは止めたい事だろう。

 俺とて、ゼフを殺す気は無い。

 ミホークにも言える事だが、ロビンが消えた理由はあくまでもオービット号とクック海賊団を襲った渦潮であり、ゼフの襲撃やミホークの手合わせは直接的な原因では無いと俺は考えている。

 クック海賊団が襲ってこないと、むしろサンジ生存の道が途絶えていた可能性もある。

 ミホークに関しては、確かに俺があの場に居なかった理由ではあるが、渦潮が来ないと判断してあの挑発に乗ったのは俺だ。

 そこまで責める謂れは無いと、既に判断を下している。

 まぁ、ゼフ本人にそれを正直に話すことはできないのだが。

 

「海賊であれ、何であれ、遭難者を見つけた時に救助しないという選択肢は、自分は取りたくないであります」

「……そうか」

「毒や異物を警戒しているのなら、毒味はするでありますが」

「いや、いい、貰う。……ありがとうな」

 

 そうして、ゼフはスープを受け取り、ゆっくりと飲み始めた。やはり本人も空腹だったのだろう、栄養が染み込むような、それを噛み締めるような表情だ。

 自分の肉を食べる感覚、というのは、俺にはとても想像できないが……体験したいとも思えない。

 人間、極限状態には本性が出るという。ゼフだって、飢餓に狂うことは存分にできた。自分の脚ではなく、サンジを食べる選択肢だってあっただろう。しかし、それをせず寧ろ食糧を与え、生活圏を分ける事でお互いを守った。

 その精神は、そうそう真似できない高潔さが見える。

 俺はそんなゼフの人格を信用していた。

 だからこそ、何か、客船を襲った恨み言も湧かなかったのだろう。

 

「……あの船の沈没に巻き込まれた者は」

「ああ、やはり……全員死んだか」

「いえ、生きているであります」

「嘘だろう」

「いいえ、証拠ならここに」

 

 俺は、偶然通りかかったニュース・クーから買った数日前の新聞を取り出した。

 そこには、件の渦潮による沈没事故と、そこから救助された乗員とクック海賊団のメンバーが写真で写っていた。

 残念ながら、クック海賊団は救助され次第海軍に引き渡されたそうだが、そのメンバーに欠けはいないらしい。

 オービット号は、サンジとロビン以外は全員無事救助され、病院や診療所に運ばれたと簡潔に書いてある。

 あの突発的な、そして大規模の渦潮に関しては、推測でしかないがあの近辺にはグランドラインに繋がる海底洞窟があり、そこからの異常海流が破裂するタイミングで船が通りがかってしまった悲惨な事故だと専門家は述べている。

 地球でいう地震のように、グランドラインや新世界と繋がる海底洞窟の異常海流は、年月をかけてその波を溜め続け、ある時急に破裂するらしい。プレートが(たわ)むように、海流もまた撓むそうだ。

 そうして、北の海や東の海なんかの、比較的平和と言われている海でも、渦潮や高波の異常が起こる。予測はできず、遭ってしまったら不幸な事故だったと思うしかない。

 やはりONE PIECEの世界は最弱の海だとしても理不尽はあるのだなぁと、改めて過酷さに閉口してしまった。

 記事を読んだゼフは、海軍に捕縛はされたが、生きているらしい仲間たちにほんの少しだけ喜色を漏らした。

 インペルダウンに行くことが、死ぬよりマシかどうかは俺にはわかりかねるが。

 しかしその記事はあまり俺の精神安定には役立ってくれない。ロビンの行方はわからないままだ。

 

「あなたが襲撃したのなら、あの船には護衛がいたでしょう。黒い、能力者の少女が」

「ああ、うちのが何人か関節やら目をやられていたな」

「自分は彼女を探しているであります。救助者の中に、彼女──ロビンは居なかった。近海を探しても、見つからず……」

 

 何か、末端でもいいから情報を持っていないか。とか細い蜘蛛糸を手繰るように、俺はあの場に居た二人に縋るような思いだった。

 

「ロビンちゃん……助けられなくて、すまねぇっ! おれは……おれは……」

「自分はあの場に居なかった。けれど、サンジ殿はとても他者を助けに向かえるほど余裕は無かったと察しております。貴方だけでも、生きていてよかったであります」

「あの嬢ちゃんは能力者。能力者は海に嫌われる……それは知っているな?」

 

 ゼフの確認に、頷く。

 海の中に引き摺り込まれた時点で、能力者の生存率はグッと下がる。単身でとなると0%にも近いだろう。しかし、それでも俺は諦めたくなかった。

 俺の言葉を待たず、ゼフはその宝が詰め込まれた袋におもむろに手を突っ込んだ。

 ガチャガチャと金属や宝石がぶつかり合う音がする。あの量の宝、一体どれだけの重量があるのやら。

 しかし、その袋からゼフが取り出したのは、黄金でも宝石でもなく、一本の、棒状に加工された木材だった。

 

「クウイゴスの加工棒だ。手慣れた海賊は宝袋に大抵これを一緒に入れる」

「それは……」

「クウイゴスの木片はたった十数センチの端材でも能力者の成人男性を浮かす程の浮力がある。宝袋に入れておけば、万が一海に落ちても勝手に浮かんでくるからな。値は張るが、持っていて損は無い」

 

 ゼフは約30〜40センチ程度に切られ円柱型に磨かれたそれを、軽く手の中で回した。

 確かに、そんなアイテムが原作にもあったような気がする。唐突な説明に、俺の頭は若干ついて行けなくなっていた。

 クック海賊団はグランドラインに入れ、帰ってこれる程度には力のある海賊団だった。こういう、ある種雑学的な経験の中で生み出される知恵にも詳しいのだろう。

 

「おれは……渦潮に巻き込まれる前、この加工棒を一本、あの嬢ちゃんに投げ渡した」

「っ、それは……!」

「成人男性すら浮かすモンだ。あの程度の小娘なら能力者だろうと余裕で海面に導くだろうよ」

「な、何故、そんな事を……?」

 

 想像していなかった方向からの光明に、思わず頭に湧いた疑問をそのまま口にしてしまった。

 サンジとゼフは、オールブルーという夢の共通点があり、そこから助けたことは理解できる。しかし、ゼフとロビンには何の繋がりもなく、なんなら彼の船員を何人か伸している。何故、そんなあからさまに助けるような行動をとったのか、わからなかった。

 ゼフは、動揺した俺の姿にほんの少し目を逸らした。手にある棒は、どこか艶のある光沢があり、ニスか何かでも塗ってあるのか、手入れの跡を感じる。

 俺は、流石にその棒の相場は知らなかった。が、それなりに値が張ると言っていたし、それが本当なら、どうしてロビンにそれを渡したのだろう。

 ゼフは、俺の疑問を受け止めつつ、どこか物悲しそうな低い声で呟いた。

 

「男の荒くれ者の集団に、単身向かってきて、臆せず乗員を護る。……そんな有望な小娘が、こんな事故で死ぬなんざ、寝覚めの悪い話だと思っただけだ」

「そ、れでも……自分は、貴方のその行動に感謝したい」

「まだ助かったと確定したわけじゃねぇ。あの棒から手を離したらそのまま海の底に真っ逆さまだ。……無事が確実になるまで、おれはその感謝は受け取れねぇよ」

 

 ゼフは、クウイゴスの棒をまた宝袋に戻した。

 黄金がこれでもかと詰め込まれた袋。しかし俺の目には、その中に埋まる木片に何よりの希望を見出していた。

 ロビンの生に、可能性が見えた。

 それだけでも、こんなにも嬉しい。救われた気分になる。

 まさか、ゼフの行動によってロビンが助かっているかもしれない希望が湧くとは思わなかった。

 まだ、まだ助かっているかどうかは、確かにわからない。

 しかし、ロビンが、何もできないまま海底に沈んでいったビジョンが、少しだが薄くなる。

 それだけで、俺にはまだ彼女の捜索を続ける気力が湧き上がる。

 

「あの嬢ちゃんは、強かった。うちの精鋭を一人で相手取り、押していた。……そう簡単にくたばるようなモンとは思えねぇ」

「そう、であります。……ロビンは、強い子なのであります」

「おれがわかるのは、このくらいだ。スープ、ありがとうな」

 

 ゼフは、片足で立つのに苦労しながら、スープの容器を返してくれた。

 サンジも、また幾分か血色が戻った顔で、俺の手をそっと握る。

 

「おれ、はさ……あの時、ロビンちゃんに何もできなかったけど、きっと生きてるって思うんだ」

「……うん」

「ロビンちゃんが、渦潮に呑まれそうになった時、おれは確かに聞いたんだよ。『あきつ丸さんを、独りになんてしない』って……」

「っ……うん」

「レディってのは、野郎よりずっと強いんだ。──ロビンちゃんは、絶対に……貴女の元に、帰ってくるよ。絶対に」

「うん……うん……っ」

 

 サンジの手は、まだ子どもなのに、俺の手より余程ゴツゴツとしていて、スープのおかげか暖かみを取り戻していた。

 クウイゴスによる可能性と、ロビンの言葉。そして、背中を押してくれる二人の言葉に、俺は、じんわりと目元がぼやけて行くのを見つめていた。

 その目線の先には、サンジの命を繋いだ雨水の溜まった窪みが、ぽつんと、波紋を作っていた。

 

 感情がようやく落ち着いた後、俺は艦載機によって近くの連絡船を見つけ、そこにサンジとゼフを保護してもらった。

 二人がどうなるかは同行できないのでわからないが、きっとバラティエを作るんだと思う。

 二人を乗せた船を見送った後、黙って成り行きを見ていたミホークに視線を向ける。

 

「自分は引き続き、ロビン殿の捜索を続けるでありますが……ミホーク殿はどうするので?」

「おれはお前を鍛えることにした」

「……はぁ?」

 

 突然の宣言に、思わず呆けた声が出た。

 

「あの戦いで、俺とあきつ丸の技量は逆転した。ならば、今度はおれが師匠だ」

「意味がわからないであります。というか、自分は捜索をするでありますから、鍛えている余裕は無いであります」

「人を探しながらでも鍛錬はできる。……それに、今のお前は師匠として放ってはおけないからな」

「え、もう師匠面になってる……。つまり、この旅に同行すると?」

「そうなるな」

 

 つまり、今度はロビンとの二人旅ではなく、ミホークとの二人旅になる……ということか。

 強制気絶やらカロリーバーやら、正直良い思い出が無いのだが……ミホークの目があまりにも“本気(マジ)”だったので、受け入れることにした。

 ここで突っぱねたら何されるかわからない。

 コイツの鉄面皮、時々マジで怖くなるんだよな……。

 

「……では、今後の食事はカロリーバーではなく自分が用意するのであります……」

「ああ、三食、忘れるなよ」

「はい……」

 

 あの顎の痛みを思い出して、既にこれからの二人旅に不安を感じざるを得なかった。







ここからあきつ丸(仮)とミホークのロビン捜索旅編になります。
読者の方の不安を事前に取り除きますが、ロビンちゃんと生きてます。そこは安心してもらって大丈夫です。
ここ暫くシリアスが続いたので、またコメディなノリに戻して行く予定です。
近々おねショタ被害者が増えます。
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