ショタが近づいてきてます。
上陸した場所は島の僻地だったらしく、自然に溢れていた。
少し遠くに、発展した街が見える。
ミホークはこの時点で既に有名人なので、街の方に船をつけないで良かったかもしれない。俺はまだ指名手配されていないが、ミホークはされてるので。
既に一億は超えているらしいので、マジで一人旅の時何やってたんだろう。海兵も海賊も問わず斬り倒してたんだろうなー予想できるなー。
変装するか聞いたが、却下された。
ミホークと旅していることを海軍に知られたら、俺も指名手配されるんだろうか?
まぁ海軍に怒られそうなことは大体やっているので、今更手配されても驚きはしないが。
ワノ国でのカイドウとの戦いは、白ひげとワノ国の武士の仕業となっていて、俺の名前は少なくとも新聞には出ていなかった。
あの時の俺はワノ国所属と言っても間違ってなかったから、理解はできたが姿の写真すら無いのは驚いた。
白ひげが握り潰したのか、なんなのか。
鮮度命の世界経済新聞にしては情報もほぼ半年後と遅かったし。ワノ国の鎖国がそうさせたんだろうか?
原作ではカイドウの本命基地として有名になっていたから、情報が出回るのが早かったのかもしれない。
少なくとも、世界的に自分の存在が拡散されたわけではないらしい。
海軍には捕捉されてるから、なんとなく見られてはいそうだけど……俺の扱いには困ってそうだ。叩けば埃はいくらでも出るが、自分から叩かれに行くわけない。
でももし手配書が出たら懸賞金が幾らになるかは気になる。興味本位で。
さほど歩くこともなく、街の入り口に着いた。
ご丁寧に看板が建てられており、「ようこそ! ロウジュ島へ」という文が木に彫られている。その周りには石材で作った花の彫刻が飾られており、観光業に力でも入れているのか、歓迎の心が感じられる。
それを見て、ミホークがボソリと呟いた。
「ああ、ロウジュ島か」
「来たことがあるので?」
「無い。が、名前は知っていた」
ミホークは看板に飾られた石材を指差した。
「海楼石の職人が集まる島で有名だ。加工して海軍や商人に流している都合上、能力者の海賊から恨みを買っているから、名前こそ聞けどどこにあるかは基本隠されていた。まさか南の海にあるとはな」
花の彫刻は、どうやら海楼石でできているらしい。細かい葉の模様や、花についた雨粒さえも繊細に彫られているそれは、確かな技術の高さを伝えてくる。
確かに、海楼石は海から採れて能力者を封じる効果を持つ程度しか認識していなかったが、道具として使われている以上職人もいるのか。
能力者にこれだけである程度対抗できる、原作でも苦戦を強いられる道具であるから、土地が隠されているのは納得だ。
俺は知らなかったが、海賊の間では有名な話なのかもしれない。
「そういえば、海楼石の武器ってあまり聞かないでありますね。海楼石の剣とか、能力者には有効そうでありますが」
「近距離武器の場合、まず能力者に武器を当てられるほど近づける素の実力が必要だからな。それに、剣の表面程度が触れたところで、面積や接触時間が小さければ大して影響にならない」
「なるほど、拘束具にした方が効率が良いと」
スモーカーの十手は海楼石製だったか?
あれは煙の能力で素早く距離を詰めれたり、本人の実力で成り立っている面も大きそうだ。
ホローポイント弾みたいに、身体に打ち込むと機構が開いて弾が体内に固定される銃弾とか一瞬考えたが、よく考えるとこの世界まだ銃弾が鉛玉だった。金属ではなく石なのも加工が難しいのかもしれない。
となると、やはり鎖や錠のようなものが適切なのか。
俺とミホークは能力者ではないので海楼石に苦手意識は無いが、能力者にとっては忌々しいものなのだろう。触れると力が抜けるとはどんな感覚なのか。
原作でもよく使われていたアイテムだし、職人の街だとするなら制作過程とか見学させて貰えないだろうか。気分的には工場見学のそれになってきた。
「そもそも海楼石の武器を使うより覇気を鍛えた方が早い」
「……それに関しては色々反論もありそうですが、覇気が便利なのは同感であります」
簡単に覇気を取得できたら誰も苦労してないんだよな。
簡単に言って抜かすミホーク節にツッコミを入れつつ、看板前で立ってないでさっさと街に入ることにした。
建物は普通のレンガや木材のようだが、柵や庭の装飾にはちらほら海楼石製のものが見える。
名産品として、街全体がアピールのため飾っているのだろう。うさぎの置物や、彫り物のされた植木鉢がこれ見よがしに飾られている。
平和な街並みで、どこか石材特有の乾いた匂いが香る街だ。
「誰かー! 助けておくれー!!」
……平和の部分は取り消した方がいいかもしれない。
ミホークは特に反応しなかったので、俺は叫び声がした方向に走ってみた。
と言ってもすぐ前にある大通りを横に折れたところに悲鳴の発生源があったので、大して距離は無かったが。
悲鳴をあげたのはおそらく今地面に膝をついて男にしがみついているお婆さんだ。脚に縋られている男は荒れたボロボロの服にハンマーの様な武器を持って、女性が持つようなデザインのカバンを片手で掲げていた。
「かえしてっ……! かえしておくれ、そこには大切な手紙が──」
「うるせぇババア! 消えろ!」
必死に男からカバンを取り返そうとするお婆さんを、男は思いっきり蹴り飛ばし、ハンマーを振りかぶった。
俺は、すかさず秋茜の鯉口を切る。
「成敗ッ!」
「ガぁッ!?」
お婆さんに血を見せるのは憚られたので、峰打ちである。
でも現実の峰打ちって普通に斬られるより痛いらしい。重い鋼の打撲だから、全然骨とか折れるし内臓も傷つくらしいよ。怖いね。今回は死なない程度に手加減しているので、腹にしばらく打撲痕が消えない程度だろう。
気絶した男からカバンを取り、埃を払ってお婆さんに渡す。
「どうぞ、お怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だよぉ。ありがとうねぇお嬢ちゃん。この街じゃ見ないけれど、旅の人かい?」
「ええ、本日島に来たばかりで」
「おや、ようこそロウジュ島へ! 良ければ、お礼をさせてくれないかい?」
お婆さんはカバンの中身を確認し、また自分にも怪我が無いことを確認すると、俺に深々と頭を下げた。ただでさえ曲がっている腰が更に曲げられ、小さな身体はとても頼りなく見える。
俺は男を縛りながら、大したことではないと笑いかけた。
「このくらい、礼をされるまでも無いであります。ああでも、この男を引き渡すような場所はありますか?」
「自警団の詰所があるでね、案内するよぉ」
俺は男を引き摺りながら大通りに戻ってくると、ミホークが待っていた。始終を見ていたらしい。
「ミホーク殿、一度この暴漢を詰所に引き渡してくるであります」
「そうか」
「……この人は、お嬢ちゃんのお友達かい?」
「師匠だ」
「旅仲間であります」
ミホークの眉が寄ったが、わざわざ訂正するほどでも無いのか、他人が近くにいるからか、ミホークは黙ってついてきた。
いつの間にか弟子にされているが、師匠と弟子の反転というのは、この世界でも奇特な事なのでは。ミホークのする事だから常識とか求めてないけど。
詰所は島の真ん中あたりにあるらしく、お婆さんの歩幅に合わせて歩くとそこそこ時間がかかった。自警団の人に男を引き渡し、褒賞金を貰う頃には、もう陽が傾き始めている。
そもそも、島に上陸した時点で昼は過ぎていた。
詰所から西の方には、高い塀が建っており、沈んでいく太陽は見えない。しかし、そう遅くないうちに、夜の帳が下りるだろうとその茜の強さから察せられる。
街の海楼石でできた街灯は、もう点灯を始めていた。
「本日はここで一泊、ですな」
「船に戻るか」
「ああ、お待ちよお二人さん。お礼をさせておくれ」
「マダム、お礼は詰所への案内で十分でありますよ」
「この街ではねぇ、人に良くしてもらったら、きちんとお礼をするのが文化なのよ。職人気質の人が多いから、報恩は丁寧にってねぇ。どうか、独りのおばあちゃんのお節介に一晩付き合うつもりで、うちに泊まっていってくれないかねぇ」
お婆さんは、少し茶目っけのある笑顔で、そう俺たちを誘った。
話を聞いていたらしい自警団の人も、「ばーさんの我儘だ、付き合ってやってくれや」と苦笑している。
「海楼石の職人だった爺さんを亡くしてから、島に来た旅の人を泊めるのが趣味になってんのさ」
「おかげであの家は下手な宿屋よりよっぽど綺麗で飯も美味い。ばーさん、今日の夕飯は何にするんだい?」
「そうねぇ、若い人だからお肉が食べたいかしら?」
「ああ、いえ、お構いなく……」
なんだかすっかり泊められる空気になってしまった。
ミホークの方に目線を向ければ、どっちでも良いとアイコンタクトが返ってきた。まぁ、船であれお婆さんの家であれ、一晩この島で過ごす事には変わりない。
ロビンのことも、何か聞けるかもしれないし、地元の人と交流を持っておいて損は無いか。
俺は、すっかり俺たちを泊める気になって献立を考えるお婆さんに、頷いたのだった。
「黒い服の女の子……知らないわねぇ」
「そうですか……」
しかし、ここで簡単に情報が手に入ったら苦労はしないわけで。
お婆さんに美味しいビーフシチューをいただいた後聞いてみたが、心当たりは無いようだった。
しかし、お婆さんが少し言いづらそうに……顎に手を当て、眉を顰めてつぶやいた。
「西区の方に行ってたら、詰所の人もわからないでしょうし……」
「西区?」
「詰所の横に越えられないほど高い塀があったでしょう」
お婆さん曰く、この島は西区と東区に分けられ、それぞれ全く違う生活をしているらしい。
東区は、平和。一般市民が、海楼石の加工や普通に仕事をして、日常を暮らしている。自警団の詰所もあり、基本的には穏やかだ。
西区は、現在東区とは隔離されており、別の島扱いらしい。ギャングが暴れており、その抗争で火花と銃声が絶えないそうだ。複数のギャングが島の支配権、利権を取り合って争うばかりか、そこから逃げてきた脱走者が東区で事件を引き起こす事もあるそうで。
あの塀は平和を守るための隔離壁であり、東区の住民は西区には立ち入らないし、関わりたく無いようだ。
「海軍に頼らないので?」
「……こんなに平和だけどね、うちは政府非加盟国の国の島なのよ」
「それは……ギャングの仕業で?」
「そうねぇ。なんとか東区は海楼石商売で平穏を保っているけれど、これも必死に壁を作って争いごとを遠ざけたから。国一つの天上金を払うなんてとても無理よ」
「だから住民同士の結びつきが強いのか」
ミホークが一言会話に入ってきた。
東区の住民は平和を享受するために争いごとを避けてきたのなら、隣人との助け合いは必須だ。東区内で争っていたらあっという間にあの壁は崩壊するだろう。
故に、報恩の精神が強く育ったのか。
平和な島だと思ったが、どこにでも結局争いはあるのかとゲンナリする。
「だから、その子が西区にいても私たちは知る事もできないのよ。ごめんなさいねぇ」
「いえ、言いづらいであろう島の事情を話してくれて感謝であります。夕食も、ごちそうさま」
「ええ、寝室は二階の部屋を自由に使ってちょうだい。今日は本当にありがとうねぇ」
「こちらこそ」
お婆さんの家は薄緑に塗られた壁と白いレンガの屋根がかわいらしい、儚い外国童話に出てきそうな家だ。
庭には、やはり海楼石の綺麗な鉢植えがあって、波とカモメが彫られたそれには、ピンク色の花が咲いた低木が植えられていた。
亡きご主人が作った鉢だそうで、かわいらしくも丁寧な彫り物は、気になったのかミホークも黙って見つめていたほどだ。
ミホークと部屋の前で別れ、フカフカのベッドに飛び込んだ俺は、もう少し、船のベッドも良いものにしようか悩んだ。しかしこれ以上朝が弱くなったらどうするのか。
明日はまだ東区で情報収集をするか、西区に行ってみるか……。
荷物を置き、寝る準備を済ませて消灯すれば、柔らかな枕とマットレスが俺の身体を包み込む。
いつもより深く眠れそうだった。
「…………起きろ、あきつ丸」
しかしその眠りは、いつもより早く……早過ぎるほどの深夜に、途切れる事になった。