まさかミホークが謝る場面なんてのが見れるとはなー。
唯我独尊ゴーイングマイウェイのあいつな訳だし、行ったことは撤回しないタイプだと思ってたんだが。
変な空気は払拭できたし、良いことか。
別に、全ての人を疑ってないって訳じゃないけど……“あきつ丸”の性質かな、俺は基本的に人間が好きだ。
普通の人間なら、社交辞令とか、お世辞とかで柔らかい雰囲気に努めてるかもしれないが、ある程度親しくならないと好感度は上がらない。
が、俺の場合、個人というよりは「人間」という種族単位で見ていて、序盤から好感度が10%くらいある感じ。
そりゃ、敵には容赦しないし、親しい相手を害する奴は嫌いだが。
船という意識が強まっていくほど、人間に対する親愛が平常になっていってるのかね。
あと、ワンピースの世界だからってのもあるだろうな。
ネームドキャラにはファン心というか、ミーハーというか、元読者としての感動が出てきちゃうという。
黒ひげとか、割とヘイトのあるキャラだけど、読者としてはあの悪役っぷりも一つのキャラクターとしては好きな方だし。
ルフィとかに会ったらダダ甘になりそー……ってか、ロビンでもうなってるか……。
老婆の家をあらかた探し、まぁ色々な埃を見つけた後、本格的にこの首輪をどうするかという話になった。
相手は壁の向こうのギャングと確定しているものの、あっちは色んな勢力が混在してるみたいだし、どれが俺を狙ったのかわからない。
ミホークは全部潰せば良くね? って顔をしてるが。
「あとは、村のどれだけがこの事業に参加しているかでありますが……」
「全員だろう」
俺の疑問を、ミホークがスッパリと切る。
俺としては知らずに巻き込まれてる人も居るんじゃないかと思ったが、人からの悪意はミホークの方が敏感だ。そのまま顎をしゃくって理由を聞く。
「……彫刻の花や、鉢に植えられた植物が同一のものだと気づいているか?」
「ああ、町中に植えられたりしてる、看板にもあったあれでありますか?」
「
ミホークはスラリとあの植物の名前を当てる。その視線の先には、飾られた鉢の中の緑にある。
花は咲いていないが、葉は青さを健康に保ち、手入れされているのはよくわかった。
「ふむ?」
「枝、葉、花、実全てに毒性を持つ。低量なら死にはしないが、動けなくなる程度には効くだろうな」
「……なるほど、随分と物騒なもので」
見た目は綺麗な植物だが、綺麗な花ほど毒がある、というやつか。
それが町どころか個人の住宅にさえ植えられているのなら、不穏さは感じる。
「下手に薬品を外部から買うより手っ取り早い。何かしらに盛って摂取させたところを捕まえていたんだろう。俺やお前には効かなかったが」
「自分はともかく、ミホーク殿も?」
「少量の毒なら気合いで弾ける」
耐性をつけたとかではなく??
たまに思うが、コイツすげぇ体育会系の時あるよな。冷静沈着で理知的ですみたいな顔して。
俺たちの食べた夕食にも盛られてたんだろうか、異臭とかは無かったが……少量だと気付けない差異なのか。
船に毒は効かないだろうなぁ、はがねタイプってどく無効だし。
そんな花のすぐ近くで過ごす以上毒性は周知されてるだろうし、大量に植えられているのに住民からの言及が無いってことは、島ぐるみの確信犯か……。
「壁の向こうで解錠方法を探すとして、自分たちを狙ったグループのヒントは『スペードのマーク』」
手紙に捺されていたマークは、おそらくただの装飾ではない。
こういうのに所属を表す印があるのは定番だし、手紙自体秘匿性の高いものだろう。宛名も何も無かったしな。
「この島ごと斬り捨てて仕舞えばいい」
「脳筋が……。大事にしてメリットが無いであります」
「ふん、この島を地図から消したら、海軍大将が来るかもしれない。一度戦いたいものだ」
「自力バスターコールやめなさい」
一応、一応だが俺はまだ指名手配されてないんだよ。懸賞金にステータスを見出すタイプでもないから、やめてくれ。
なんにせよ壁の向こう……東区に行かないと何もわからないな。
壁自体はこの家を出ればすぐ目の前に聳え立っている。余程のファンタジスタじゃなければ余裕で辿り着けるだろう。
活躍の気配にうずうずしている秋茜を宥めつつ、俺たちは老婆の家を裏口から出た。
島の中は、夜にしても不気味なほど静かだ。
*
「……で、どこから入るか」
壁、というのは本当に「壁」で、馬鹿でかい海楼石の塊が、俺たちの目の前にズンと沈黙している。
何かしら入口とか、門みたいなものがあるとおもってたんだが、ざっくり見渡してもそれらしいものは一切無い。
捕まえた人間の取引とかどうしてたんだと思ったが、案外島の外の海上とかでコッソリやっていたのかも。
島全体は有る程度平地で、おそらく壁が無いと端の方も見渡せる程だろうから。
登ってもいいが、流石に俺の跳躍でもギリ届かないくらいの高さ。どこかで足場を作るか……。
一面の灰色を前に考えていると、ミホークが不意に腕を振る。
その瞬間、目の前のグレーが刻まれた瓦礫へと変わった。
轟音が島に響く。
「こうするのが一番早い」
「ちょっ……!? 今ので何人に異常が伝わったか」
「わかりやすくて良い。向かってくるものは全員敵だ」
胸元の十字剣を仕舞う仕草に、何度目かのでかいため息が漏れる。
もういっそ指名手配されたほうが、ロビンが俺を探すときに手掛かりになるかもしれないし、良いかもな……。
海軍の船を沈めても、任務って進むのかなぁ……。
壁の向こうはこちら側よりも雑然としていて、スラムや無法地帯を感じさせる。
地面に落ちた酒瓶やゴミ、人間。
あたりに散らばるガラクタと武器。
こっちに走ってくる奴らも、ガラの悪さの見本になりそうな見た目ばかりだ。
その内の一人に、顔にスペードを歪ませたようなタトゥーを入れている男を見つける。
「ミホーク殿」
「わかっている」
お互いにアイコンタクトを送り、ミホークは十字剣を再度抜く。
俺も秋茜を構えた。
カタカタと、興奮した様子の秋茜が戦いを急く。
今日はうっかりしてると斬りすぎてしまいそうだ。ミホークの手前刀に振り回されるなんてあってはならない。手に力を入れ直す。
「侵入者だ! 殺せ!!」
「壁が破られた! なんつー馬鹿力だ!?」
「敵襲ー!! 敵襲ー!!」
何十人と警備なのかギャングの一員なのか、武装した輩が飛び出してくる。
スペードの他にも、トランプのダイヤモンドやクローバーのタトゥーを彫っているものが見え、なんとなく組織の構成を察する。
「テメェら、ナニモンだ!!」
「待て、一人は手配書で見たことある! 海兵狩りだ!!」
「もう一人の女から先にやれ!!」
おお、舐められている。
いや、確かに俺はミホークとの剣戦で負けたけどさぁ……。普通に侮られるとムッとなるんだが、これでも。
こちらに来てくれるなら、是非秋茜の糧にしてやろう。
人数としては大きく離されているが、数で勝てるなら、この海で苦労はしないっつーの。
「茜はもう過ぎているでありますが──」
サーベルや拳銃を向けるゴロツキ共に、ふわりと外套を靡かせ飛びかかる。
「夜に彷徨く羽虫の群れなど、一太刀で十分」
夜戦にも随分と慣れたものだ。ロビンやローといた頃は昼に海へ出れなかったりしたからな。
某夜戦の鬼には敵わないだろうが。そもそも揚陸艦って戦闘向きの艦種じゃないんだよ。なんでこんな戦いの強さこそ正義な世界でやっていけてるのやら。
「おっと、後方は注意を」
「グゥッ!?」
「蹴癖が治っていない故に」
そろそろ背中に赤いリボンでも入れて警告した方がいいかね?
粗方意識を刈り取り、スペードのマークだけを残した。
尋問だが、俺がやろうとしたらミホークに代わられた。こういうのこそ弟子がやるもんじゃないの? 流石に秋茜は使わず、テキトーに踏みつけてやればすぐ吐くと思うんだが。
ともかく、男を吐かせて得た情報は、トランプのスートに合わせた組織が島での覇権を争っていて、町では協力者が穏やかな暮らしと引き換えに人間や金品を渡す。
ギャング以外にも、スラム的な役割を担っているため、組織以外の人間も多い東区だが、それらも組織も全てまとめ上げれば相当な規模の武力集団になる。
そうして、利権や利益を独占し、甘い蜜を啜るのがそれぞれの目的だという。
人身売買はそれの一環なわけだ。
「首輪の鍵はどこにある」
「グエッ! し……しらねぇ! そんなコト下っ端のおれが知る訳ねぇ!!」
「知っていそうな者は」
「か、か、幹部! 幹部と首輪番だ!! あ、あの牢にいる!」
下っ端が指さしたのは、石造りの厳重な建造物。
牢というからには、捕えられた人間があの中に収められているのだろう。
聞きたいことは聞けたと、ミホークが男を切り裂いた。
「あまり手応えは無い」
「そりゃ、南の海でミホーク殿のお眼鏡に適う相手がいたら相当であります」
ゾロは外れ値だしなぁ、そもそものレベリング対象がもう四つの海では足りないだろう。
ただ、大将を相手取れるかと聞かれると……向こうもまだ発展途上ではあるだろうが、断言はできないな。
原作登場時のミホークよりまだまだ年月があるし。
「おー、取り敢えず鍵を探してこのままあそこに行くであります」
「そうだな」
「ギャッ」
うわ、すごいナチュラルにスペードの男踏んだ。そこまでする必要無くない??
襲いかかってきた奴らは全員始末したものの、もう連絡自体は全体に行き渡ってるだろう。面倒な波が来ないうちに探索できるところは探索しとかないと。
石壁の施設の中は冷えていて、暖かい気候といえど薄着では震えるだろう暗さだ。
厳重に閉じられた鉄の扉を斬り捨てつつ、警備も無駄なく黙らせて奥へ進む。
何個目かの無窓の扉を抜けると、人の気配が詰まっていた。
アルファベットが割り振られた牢それぞれに、粗雑な服に着替えさせられた人たちが、押し込まれている。
年齢も性別も様々。中には魚人なんかも見える。
彼らは全てに絶望しながら、それでもまだ人間性を捨てきれない瞳で、ジッとこちらを観察している。
皆、俺と同じ首輪を付けていて、消耗したようにぐったりと横たわっていたりする。夾竹桃の毒の影響だろうか、吐瀉物の臭いがツンと鼻を刺す。
「A、B、C、S……それぞれの役割はなんでありましょう?」
「首輪番を探して聞き出せば良い。まだ奥に部屋がある」
「厳重でありますなぁ、毒を盛られた相手は碌に抵抗もできないでありましょうに」
「誰が言う」
俺の番号はSなわけだが、これだけアルファベットの順と外れているのが気になるな。
鍵は警備員は持っていなかったから、首輪番が全てを管理しているのか。
ふ、と。
気力の無い視線の中から、数少ない生気のある視線が、こちらを刺した気がした。
そっちを向くと、相手は知らないだろうが、俺は知っている目立つ髪が牢屋の隅に蹲っている。
「へぇ」
誰に話すともなく感想を零した。
元々ここに閉じ込められた人たちは後々解放する予定だったから、問題は無い。
「チューリップが咲いている」
「は?」
「いえ、ただの独り言であります」
さっさと鍵を見つけないとなー。