首輪番はすぐ見つかった。
なにやら武器を構えていたが、俺とミホークを相手にしてろくな抵抗ができるわけもない。
サクッと鎮圧し、マスターキーをゲットした。
恐ろしいまでのスピード感だが、戦力に差がありすぎる。さもありなん。
試しに俺の首輪に挿してみれば、カチッと外れて俺は息苦しい首輪から解放された。ようやく詰襟が閉めれる。
「ぷはー、こんなもの付けてたら肩が凝るであります」
「外せたならいい」
首輪番の部屋は、悪趣味なしつけ用の道具と、いくつかの書類が積まれている。捕まえた人々の管理は丸ごと任されていたのか、細かい記録が神経質に書き連ねてあった。
中から、ひと束の書類を取り上げる。
まとめられたそれは、ここの繋がれた者たちがどう分けられ、どこへ行くのかが明確に書かれており、その際の売却代や行き先も記録してある。
こんな大事な書類を、暗号も挟まず素直に置いておくってのは、賢くないな。
「なになに……? Aは工場奴隷、Bは戦闘奴隷、Cは採掘奴隷、か……」
ざっくりとした基準があり、そこから組織や外部に売るかを分けられ、希望値段の予定や実際の売値との差額も丁寧に記帳されていた。首輪番は書類仕事が得意なやつだったようだ。
海楼石の採掘や加工に回されたり、ギャングの戦闘員として無理やり働かされるのがコイツらの末路か。
やはり碌なものではないな。
しかし、Sはそこには記されていなかった。
「んー、これじゃない……これでも……あ、これでありますかな?」
ミホークは興味なさげに書類を漁る俺を眺めているが、俺は気になって、積まれた紙の中からSと関係ありそうな文言を探す。
積まれた書類の大半は支出やその後の生死の記録、提供者の情報だったが、棚も探した結果、奥の奥、隠し
こっちは、やけに重厚に錠まで付けてある。
「Sの首輪の行き先は、っと……」
パラ、と数ページを捲ったところ、俺は言葉を途切れさせた。
Sの首輪は珍しいらしく、記録自体はそう長くない。が、何故これが厳重に保管されていたのかはわかった。
少し様子の変わった俺に、離れていたミホークが視線を向ける。
「Sキーの首輪の取引先は、……天竜人、かぁっておァ!?」
呟いたところで、持っていた書類がシュレッダーよりも細かくみじん切りにされた。ミホークの仕業だ。
あーあー、まだ読んでないところもあったのに。
「自分、天竜人に売られる所だったのでありますねぇ。これは流石に予想してなかったであります」
「よく呑気に言えるな。自分のことだぞ」
「私よりも、ミホーク殿の方が過敏に反応するでありませんか……。しかし、ここは政府非加盟国の土地なはず。何故天竜人との取引が?」
細切れにされた書類は、確かに天竜人の名前が書かれており、ついた値段も他のキーの奴隷とは比べ物にならない金額だった。
わざわざ天竜人を騙っての偽装取引とは考えにくい。
「海楼石の加工によって、海軍との繋がりはあるだろう。国が政府に加盟していないからといって、この島が政府と関わっていない証明は無い」
「考えられる可能性としては、天竜人に奴隷を販売する形で、政府非加盟国の領土ながらに局所的な安全を得る……とかでありますか」
政府非加盟国は、海軍が守る対象ではない。無法地帯だし、そもそも天上金が払えない事が多いので金も無い。結果、人も土地も荒れる荒れる。
が、国単位の決定のため、海軍に守られたい者は別の国に引っ越すなりしないとなのだが……それがこの時代に簡単にできたら、世界はもっと平和。
海軍繋がりで、何かしらを対価に小さい安寧を得ようとしても不思議では無い。
ギャングはいるものの、そのギャングが島を運営しているわけであるし。海軍としても、天竜人への奴隷献上を積極的にやる相手への逮捕は二の足を踏みそうだ。
正義を掲げてても、全ての人を助けるわけじゃないし。世界の理不尽の一部を担っている組織だし。
腐ってる海軍支部が放置されていたりするのはよくある話。本部だって潔白なわけじゃない。
島に黒いものがあっても、見逃す事に違和感は抱きづらい。
うーん、憲兵的な立場の組織が信用できないとはこれ如何に?
「首輪は取れたわけだが」
「自分としては、このまま囚われている人を放っておけないであります。奴隷制度は許されてはいけない」
「……お前のことだ。そう言い出すと思っていた」
「解放するにしても、まずはこの島での安全を確保しなければ」
ブラック制度は反対反対!
オリョールクルージングも修正が入る時代です!
諸々の資料を見て、俺もこんな島潰しちまえという結論に辿り着いたので、容赦無く悪い芽は断ち切ってしまおう。
それで海軍が困っても、まー……いいかな!!
ここまで来たら、俺も指名手配は免れないだろう。
「首輪は、事前に外しておくであります。避難時にもたもたしていられない」
「好きにしろ」
わーい、弟子のお願いを聞いてくれるミホークさんは師匠の鑑ー!
マスターキーをもう一度手に取った俺は、牢の方へ足を戻す。
やはり、生気のない冷えた空気が、足元を漂う。
チャリ、と鍵の音を立てても、こちらを見る人間のが少ないくらいだ。金属音一つ一つに希望を見出すのは、もう諦めたと見える。
「この話、乗るも乗らないも好きにしていい事ではありますが」
俺は、そう前置きして牢の前でマスターキーを掲げた。
「自分たちはこれからこの島の暴君を討伐するであります。その後、この牢の者を解放するつもりなので、逃げたい者は檻の隙間から首輪の鍵穴を見せるであります」
マスターキーで、事前に首輪を外しておく。
そう告げると、死に体じみていた者たちの中にも流石にざわめきが走る。
しかし、まだ信じられない者や、期待していない目で見てくるものも多い。簡単に信じられる話ではないだろう。
檻自体は簡単に破壊してしまえる。が、毒で動けなくなっている者もいる中で、追っ手から逃げるのは無理だ。
その前に元凶を叩き潰し、悠々と逃げた方が安全。だから、鍵を外したからといってすぐに牢から出してやれるわけじゃない。
まぁ、今拒否しても後から信じてくれるかもしれないし、ただ逃げる時にいちいちガチャガチャ外すのが面倒なので事前にやるだけだ。
首輪自体、長く付けてて助かるものでもない。
「……今は信じられなくても、ここから自分たちがギャングを壊滅させるまでの数時間、考える時間はあるであります。このまま繋がれていたいなら、強要はしない」
そこで言葉を止めれば、何人かがずるずると首元を檻の鉄に押し付けた。鍵穴はしっかりと見えている。
俺は、そいつらの首輪を全部外してやった。ゴトンと落ちた拘束に、牢の中の目の色が変わる。
「おい! ……お前らはナニモンだ」
牢の中にしては意気のいい、しかし棘も持った言葉が投げかけられる。まだ声変わりが終わっていない、少年期の声だ。
子どもだが、威圧感と警戒の念はしっかりと乗せられている。度胸のある声色だと思う。
それは、彼の未来を知っている身からすると、納得に頷くしか無いのだが。
「自分はあきつ丸。旅の者であります。こちらは、知っている者がいるかは知りませんが、“海兵狩り”のミホーク殿であります」
「……」
俺の紹介に、ミホークは黙ったまま腕を組んでいる。師弟関係については、今はいらないかなと省いたが、なんだか不機嫌そうだ。
俺に噛みついてきた赤髪の少年は、その逆立ったツンツンヘアーと同じくらいの刺々しい態度だ。首輪をつけられているのにふんぞり返っている。
そいやミホークの懸賞金とか知らねーや。今度手配書見せてもらお。
「ギャングの奴らの中には能力者だっている。お前ら二人で本当になんとかできんのか?」
「はぁ、それなりに修羅場は潜ってきたものですから、自信はあるでありますよ」
「……ホントにギャングの奴らを潰そーってなら、おれも連れてけ!!」
「うん??」
突然の参戦志願に、思わずマスターキーを取り落としそうになった。
ツンツンチューリップは、檻に手をかけると、揺らし、荒れた気を激しく言葉に乗せた。
「おれはこんな所で終わる気もねぇし、ただ助けるのを待つだけなのも嫌だ!! おれを縛ったやつに目にもの見せてやる。だから、おれも連れてけ!!」
猛獣じみた怒気は、檻越しにこちらにもピリピリと伝わってくる。場慣れした俺とミホークにとっては炭酸にも満たない刺激だが、この迫力をこんな若い歳で出せるのは大したもんだ。流石未来の最悪の世代。
別に連れてく分には構わない。ミホークを方をチラリと確認すれば、どうでもいいとため息を吐かれた。
「勇気のある若者は好みであります。覚悟があるなら連れて行きましょう。──名前は?」
首輪を外し、軽く檻を切って少年を開放する。鉄を切った事に驚きつつも、全身に苛立ちを纏った小さな爆弾は、叫ぶように応えた。
「キッド!! ユースタス・キッドだ!!」