この幻想郷の果てがあるならば!   作:OMG00

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1話 : ビブロフィリアと不思議な本

 

幻想郷(げんそうきょう)」と呼ばれる場所がある。

そこは忘れられた妖怪や神々……

存在を否定され、忘れられた者たちの楽園。

 

科学が発展した現代…

人は夜を光で明るく照らし、暗闇を恐れることを忘れた。

この世の不思議を科学の力で解き明かし、証明していった。

神々への信仰が薄れていき、今は形だけが残った。

 

そして…魑魅魍魎の存在を…恐怖を忘れていった。

 

恐れを忘れられ、存在を否定された妖怪は死を迎える。

存在を忘れられた神々も、いずれ消滅していくだろう。

 

自分達の存続の為、妖怪の賢者達は僅かな人間と共に、

日本の何処かの山奥に結界を貼り、外の世界と隔絶した。

 

これが幻想郷の成り立ちであり、

今も確かに存在し続けている。

 

全てを受け入れる最後の受け皿であり、

魑魅魍魎達の楽園として…

 

 

—————————————————————————

 

 

季節は夏。その日の天気は快晴だった。

ミンミンとセミが忙しなく鳴き、

夏の日差しは幻想郷を明るく照らしていた。

 

そんな明るい天気の中、その少女の表情はまるで曇り空。

幻想郷の読書ガール、そして一冊の古びた本。

この物語の主人公の登場だ。

 

「うーむ…どうしたものかなぁ…」

 

ここは幻想郷の人里にある貸本屋「鈴奈庵(すずなあん)

貸本屋というものの、本の販売や製本まで受け付けている。

主に販売しているのは外の世界から流れてきた外来本であり、幻想郷では本が高価な為、購入する者は少ない。

 

そこで唸っているのはこの鈴奈庵の看板娘。

彼女の名前は「本居小鈴(もとおりこすず)」という。

飴色の髪を鈴が付いた髪留めでツインテールにし、

赤と白の市松模様の着物がよく似合う美少女である。

 

彼女の両親は留守にしており、小鈴は店番を任されていた。

今は客が来ていないので考え事に集中出来る。

彼女は今、目の前にある古びた本を前に頭を抱えていた。

 

「これが普通の本じゃないってのは分かるのよ?

問題は何をどうやっても本が開かない事と、

表紙に何も書いてないから何の本か分からない事よ…」

 

その本は何の前触れもなく突然現れた。

いつものように店番をして、店の中の本を整理をしていた。

ふと机の上を見た時に“ソレ”はそこにあった。

まるで最初からそこにあったかのように。

 

見た目からして普通では無かった。

鎖で縛られたその本から漏れ出ているのは異様な雰囲気…

“妖気”…もしくはもっと違う何か…

何れにせよ、普通の人間の少女であれば手に余る問題だ。

こんなへんちきりんな本はそこら辺の巫女にでもお祓いでも何でもしてもらって、さっさと処分するのが一番である。

 

そう。普通の少女であれば…の話だが。

 

「あぁもう!こんな面白そうな本が読めないなんて!

この異常なまでの封印といい、この雰囲気といい…

妖魔本(ようまぼん)”で間違いないんだけどなぁ…

こんな風にされてちゃ、読もうにも読めないわー!」

 

この本居小鈴という少女は少し(?)変わっていた。

 

小鈴の趣味は「妖魔本(ようまぼん)集め」である。

妖魔本とは妖怪が書いた書物のことである。

それは妖怪が書いた古典であったり、

妖怪が誰かへ向けて宛てた手紙であったり、

魔法使い達の研究や魔法を書き記した魔導書(グリモワール)であったり。

 

そんな妖魔本の中でも特に一番多いとされている物。

それは「妖怪の存在が記された書物」である。

それは封印され、長い長い年月を経て

存在を忘れられた妖怪達が復活する為の最後の希望。

 

もちろんそれらは簡単に見つかる物ではない。

そもそも人間には必要のない物なのだ。

妖怪の文字は基本的に人間に読めない物であり、

妖怪を恐れる人里の人間達には正に無用の長物。

 

しかし……この少女は違った。

彼女が持つ強い好奇心と、彼女の不思議な“能力”が、

小鈴にとって妖魔本を世にも素敵な物にしていた。

今やこの本居小鈴という少女こそが、

自他共に認める幻想郷一の妖魔本コレクターなのだ。

 

入り口からチリンチリンと心地よい鈴の音が鳴った。

お客様がいらっしゃった様だ。

 

「いらっしゃいませ…って、なんだ阿求(アンタ)かぁ…」

「客に向かってアンタはないでしょあんた」

 

店の中に入った少女は指先で小鈴のおでこを突っつく。

ひゃんっ。と可愛い声を出しながら軽く仰反る小鈴。

そんな小鈴を見た少女はクスクスと笑った。

 

綺麗な紫色のセミロングヘアに大きな花の髪飾り。

黄色の着物を翡翠色の着物に重ね着し、

鮮やかな赤い袴を履いている。

見た目も振る舞いも、どこか上品さが漂う大和撫子だ。

 

彼女の名は「稗田阿求(ひえだのあきゅう)

人里の名家、稗田家の当主にして、

短命でありながら何度も転生を繰り返し、

幻想郷の歴史を編纂する存在、

御阿礼の子(みあれのこ)」の9代目。

一度見た物を忘れない能力を持つ彼女は、

その能力で幻想郷の歴史を綴る仕事をしている。

幻想郷の記憶とは、正に彼女のことである。

 

「はいコレ、この前借りてた資料書よ。」

「わざわざありがとねー。言ってくれれば取りに行ったのに。

幻想郷縁起に項目を追加するかもって話。一段落したの?」

 

「良い天気だからね、散歩したい気分だったのよ。

誰かさんと違って、ずーっと家に引き篭もっているのも疲れるものなのよ?」

 

そりゃあ悪うござんしたねぇ…

そう言って青筋を立てながらも小鈴は本を返してもらい、中身を確認し始めた。

 

幻想郷縁起(げんそうきょうえんぎ)」は、御阿礼の子が代々綴る幻想郷に住まう妖怪達の事を書き記した本であり、人間達に妖怪の情報を教える貴重な書物である。

 

しかし今では妖怪達が自分達の事を知らしめたいと言う事で色々と大袈裟に書いていたりするので、どちらかと言えば啓蒙書というより、読み物としての側面が強い。

阿求の提案で、今の幻想郷縁起は時代に合わせて昔の物よりずっと読みやすくなっている。

 

「異変が起きれば幻想郷縁起に書かなきゃいけない項目が増えていくわけだし、果たして私の寿命が来るまでに書ききれるかしらねぇ…」

「ちょっとちょっと、縁起でもない事言わないでよね」

「幻想郷”縁起“だけに?」

 

小鈴は阿求のおでこを指先で突っついた。

きゃ〜!と声を出しながら阿求は楽しそうに仰反った。

もう!と小鈴は頬を膨らませてプンスコしていたが。

 

「ふふっ…前にも言ったはずよ?抗ってみせるって。

何だか今は身体の調子もすごく良いし…

それより小鈴、その机にある本は何なのよ?」

「あー…阿求も知らない本だったの?」

「残念ながら、“記憶に無い”わ。つまりはそういう事よ」

「実はねぇ…」

 

小鈴は阿求に本の事を話した。

怪訝な表情をしながらも、阿求は心の中で納得していた。

 

この幻想郷において妖魔本を一番大事に扱っているのは、

間違いなく目の前にいる小鈴だろう。

物に意思が宿るという事は、幻想郷では日常茶飯事である。

この本に意思があるとして、誰かの所に行くのならば…

 

「つまり…この本は私を選んだと?」

「多分ね?この本に意思があればの話だけど」

「ふーん…ならご主人である私の為に開いてほしいものねー。

チチンプイプイひらけゴマー。オープンセサミー。」

 

私はお前のご主人様なんだぞ。読ませておくれよー。

そう思いながら小鈴は本を持ち上げた…

 

その時だった

 

 

PATA PATA PATA PON……

 

 

「えっ?阿求…何か言った…?」

「何の事?何か聞こえたの?」

 

風の音じゃないの?阿求はそう言った。

しかし、小鈴には確かに聞こえていた。

唄だ。この本の中にいる何かが唄っている。

 

そして、その唄は小鈴に“前進”する力を与えた。

 

「ねぇ阿求…私、この本の封印を解いてみたい…」

「小鈴!またあんたは変な事を!」

「なんでか分からないけど、始めなきゃいけない気がするの…!!」

 

普段のほほんとしてる小鈴にあるまじき真剣さに、

阿求は少し危機感を覚えていた。

心配そうにする阿求だったが、小鈴の目は真っ直ぐだった。

それが好奇心からなのか?

使命感からなのか?

小鈴本人にしか分からない事ではあるが。

 

小鈴は本の鎖に触れ…

 

 

PATA PATA PATA PON………

 

 

弱々しくも、心に残る唄が聴こえていた。

 

はぁ…と、ため息を吐く阿求。

小鈴の好奇心は余りにも旺盛で、危険な事だろうと首を突っ込みたがる。

無理に止めた所で、あの手この手で突撃しに行くのだろう。

そんな親友の為に、阿求は一番最適な答えを提示することにしたのだ。

 

「だったら…霊夢(れいむ)さんにお願いすれば…」

 

幻想郷においてビッグなネームを出したその時だった。

チリンチリン!と鈴の音が鳴った。

 

「お困りのようだな?お嬢さん方。

私の助けが必要かな?」

 

それはまるで狙ってたかの様な登場だったッ!

 

ハッとした二人が振り向き、入口を見た。

 

「よっ!霧雨魔法店出張サービスだ!」

 

白黒の魔法使いが箒を片手に入口に立っていた。

その表情はまるで星が輝いたかのような眩しい笑顔だった。

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