元最強傭兵のセカンドライフ-退役したら謎の美少女が押しかけてきました- 作:キージェンエグゼ
ある傭兵がいた。
彼が戦場で過ごした10年間で、倒した敵戦闘員の数は971名。あまりに圧倒的な強さゆえ、「彼に出会った兵士は必ず死ぬ」と恐れられ、やがてCIAは彼にこう名付けた──
「本当に辞めるのか、グレイヴ」
一人の男が問いかける。グレイヴは迷うことなく答えた。
「CIAの長官様は、両足と右腕がない男をまだ戦わせるつもりか?」
彼の右腕と両足は、今や冷たい金属に置き換えられていた。長官は苦笑いを浮かべる。
「それで引退して、どうするつもりだね?」
「日本に住むとするさ。物価は安いし、治安も悪くない。医療とインフラも完璧だ。のんびり過ごせそうだろ」
グレイヴは満足げに笑った。傭兵という仕事に、もう未練はない。金は十分すぎるほど稼いだ。死ぬまで使い切れないだろう。
「そうか……我々CIAは、君の貢献に心から感謝している」
長官は敬礼する。グレイヴも、それに左手でビシッと敬礼を返した。金属の義手は、礼には使えない。部屋を出ようとした時、長官が言った。
「困った時は、ここに連絡しろ。……それと、君が住む家にはプレゼントも送っておいたよ」
「そうか、ありがとな。今まで世話になった」
グレイヴは出口で振り返り、もう一度、敬礼をした。
その顔には、誇らしさが浮かんでいた。
二日後、日本。
もう家は用意してある。二階建ての戸建てに、小さな庭付き。いずれ花を植えようか。
「……ここが、俺の家か」
ドアを開ける。新しい生活の始まりだ──と思った、その時。
……玄関に、すでに靴がある?
誰かいる。侵入者か? 俺は咄嗟に警戒態勢をとった。リビングから音がする。確実に誰かがいる。
「誰だッ!」
リビングへ突入。キッチンの方から、いい匂いが漂ってくる。……飯を作ってる?
「グレイヴ、帰ってたんですね」
台所から現れたのは、白髪と青い瞳を持つ──少女だった。
「……いや、お前誰だよ!? なんで俺の家にいる!?」
正体が予想外すぎて、呆気に取られる。
少女は気にする様子もなく、落ち着いた声で話し始めた。
「私はCIAから派遣された、あなたの監視役です。今日からここに住みます」
「……は?」
「名前はヴァルキューヤ。ヴァルと呼んでください。年齢は17歳です」
「は??」
CIAが俺を監視って……。信用されてないってことかよ。まさか、長官が言ってた“プレゼント”って、こいつのことか?
「おいヴァル。お前……今キッチンで何作ってた?」
「ホットドッグです。まもなくプロ野球の開幕戦が始まります。一緒に見ましょう」
ヴァルが指差した先には、ソファと……やたらデカいテレビ。え、家具もうあるのか? 今から買うつもりだったのに。
「テレビは8K、80インチです。不満はありますか?」
待て待て、このテレビ20万はするぞ? ソファも高級品だ。まさか……。
「支払いはCIAが行っています。ご安心ください」
CIA、マジでふざけてるのか? ヴァルは俺の背中をぐいっと押し、ソファへ強制着席させた。
「ほら、座って観てください」
テレビをつける。タイガース対ジャイアンツ──日本では伝統の一戦らしい。
俺は渋々、ホットドッグにかじりつく。……うまい。俺好みのマスタード濃いめ。
「なあ、なんで俺の好み知ってるんだ?」
「あなたの嗜好はすべて把握済みです。もちろん、好きなアダルトビデオのジャンルも──」
「言わなくていいッ!!」
……俺の夢見た平穏な生活、どこ行ったんだよ……。
ホットドッグをかじりながら、俺は頭を抱えた。
……ああ、もう頭痛がする。