元最強傭兵のセカンドライフ-退役したら謎の美少女が押しかけてきました- 作:キージェンエグゼ
グレイヴが廃工場に到着したのと、ほぼ同じ時刻――
「……あなたたちの目的はなんですか?」
ヴァルは、自分を拘束した兵士に静かに問いかけた。ひとりの兵士が鼻で笑って答える。
「言うと思うか?」
「そうですか」
おそらく目的は、グレイヴの殺害か拘束。そのどちらかだろう。……それなら最初から直接襲撃すればいいものを、人質を取るなどという回りくどいやり方をするとは。
「――スペツナズは、臆病者の集まりのようですね」
その一言で兵士の表情が変わった。
「臆病者!? なめるなよ、この小娘が!」
怒りに任せて、兵士はヴァルの頬を殴った。しかし、ヴァルの表情は微動だにしない。まるで無機質な仮面のような無表情。
次の瞬間、ヴァルは拘束されていた両手を動かすと、簡単に手錠を外していた。
「なっ……!」
兵士が慌ててグローザを構える。しかしトリガーを引くより早く、ヴァルは兵士の懐に入り、その頭を掴んでコンクリートの床に叩きつけた。
ゴンッという鈍い音と共に、兵士は動かなくなる。
「……あなた達、皆殺しです」
ゆっくりと顔を上げたヴァルの目に、怒りも激情もない。ただひたすらに、冷えた殺意だけが宿っていた。
俺は工場の中に突入した。途中から銃声が聞こえていた。……くそ、ヴァルが撃たれたかもしれない。
「うわああ! な、なんだあの化け物は――!」
中から兵士の悲鳴が聞こえる。化け物? まさかヴァルじゃないよな……。
「ヴァル、大丈夫か!?」
俺は思わず叫びながら扉を蹴破った。そして、そこで目にした光景に、言葉を失った。
無数のスペツナズ兵の死体が散乱している。中にはヘルメットごと頭が陥没した者、首が不自然に曲がった者、壁に叩きつけられたような者――。
その中心に立っていたのは、ヴァル。片手で兵士を持ち上げていた。
「た、助けてくれ……!」
兵士の一人が俺にすがるように視線を送ってきた。だが、ヴァルは何のためらいもなく、その兵士の首を「コキッ」と音を立てて直角にへし折った。
……首を、直角に?
「お、おいヴァル……これ、全部お前がやったのか?」
ヴァルは首を傾げるようにして答える。
「……? はい、そうですが?」
“そうですが?”じゃねぇよ。
俺はスペツナズの死体をひとつ、ふたつと数える。……八体。俺が来るまで誰も助けに来てない。つまり、ヴァルが素手でやったということだ。
「武器は……?」
「これです」
そう言って、ヴァルは自分の拳を見せた。
「……マジかよ」
素手でスペツナズを八人? 拘束された状態から? ……いや、こいつ
「グレイヴ、なにをそんなに驚いているのですか?」
「……いや、なんでもねぇよ。とりあえず……無事でよかった。帰るぞ」
「はい、グレイヴ」
そう返す彼女は、何も悪びれた様子もない。……慣れるしかないのか、こいつの化け物じみた戦闘力に。
てか、晩飯どうする? もうとっくに真夜中じゃねぇか。
「晩ご飯なら、作り置きがあります。冷蔵庫に」
「……そ、そうか」
――この女、絶対に俺の心を読んでやがる。
家に戻ってから、俺はCIAに電話をかけた。
「おい……お前らの“プレゼント”、どうなってやがんだよ!」
電話の向こうから笑い声が返ってくる。
『HAHAHA、問題でも?』
「問題しかねぇだろ!」
『まぁまぁ。彼女、
「だからどうした」
『まぁ……仲良くやってくれよ。Good night, Grave』
ブツッと電話が切れる。
「……あの野郎」
その時、ヴァルがリビングから呼んだ。
「グレイヴ、ご飯ですよ」
テーブルには生姜焼き、筑前煮、とろろ昆布の味噌汁……日本の家庭的な晩飯が並んでいた。
「いただきます……って言うんだよな?」
「いただきます」
ヴァルも俺の真似をして手を合わせる。……味付けはしっかりしている。白飯が進む味だ。
料理は上手い、生活力はある、戦闘能力は異常、ついでに心も読んでくる――
日本生活、まだ二日目。……頭痛が痛い。