第一話 英雄の息子
「お父さん…、どこに行くの…?」
5歳くらいの少年が泣きながら父親に聞いている。
少年の父親らしき人は、真剣な眼差しで答えた。
「母さんを探しに行くんだ。だから、それまで父さんの友達の家でいい子にして待ってなさい。」
父親の決心はかたかった。
失踪した自分の妻を少しでも早く探しに行きたいのだ。
息子を友の家に預けてでも。
しかし、まだ小さい息子には酷な話である。
突然、自分の母親がいなくなり、今度は父親が自分を置いてどこかに行ってしまいそうなのだから。
「お父さん…、行かないで…。」
息子は泣きじゃくって、父親にすがる。
しかし、父親は旅立ってしまった。
「お父さん…!」
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目を覚ますと、いつもの天井がそこにはあった。
また昔の夢を見ていたみたいだ。
今となっては、父親の顔も母親の顔もうろ覚えである。
なんせ、あれから10年もの月日が経ったのだから。
結局、あの日から父さんは帰ってきていない。
連絡すらない。
生きているのかもわからない。
しかし、俺はあまり気にしていなかった。
父の友である、ランドルフ家に預けられ、本当の息子のように育ててきてもらったからだ。
今更、本物の父親と母親が出てきたところで、困惑するだけだ。
俺にとっての、育ての親はスコットさんとサラさんだ。
2人には感謝してもしきれない。
そういえば、あと1人いたな。
俺は、ドアをどんどん叩く音が聞こえ、その人物のことを思い出した。
「ルナ!まだ寝てるの??今日から、高等学校でしょ!早く支度しないと遅刻しちゃうよ!」
「エマ、起きてるから、大丈夫だよ。」
俺は扉の向こう側に返事をする。
「なら、早く支度して、部屋から出てきてね!」
そう言うと、彼女は、扉の前からいなくなった。
今、俺のことを起こしにきてくれた人物は、エマ・スコットである。
スコット家の一人娘だ。
俺が5歳の時にスコット家に預けられた時から一緒にいる。
もはや、兄妹のようなものだ。
もちろん、俺が兄だっと思っているが、向こうは向こうで、自分が姉だと思っているらしい。
まあ、そこらへんはどうでもいい。
俺は、寝巻きから、制服に着替え、部屋の外に出る。
制服といっても、私服の上に、指定のローブを着るだけである。
俺は、階段を降り、リビングに向かった。
リビングには、スコットさんとサラさん、それにエマもいた。
いつも通り、俺が最後の登場である。
「ルナ!遅いよ!早く朝ごはん食べて!もう行くよ!」
「そんな急かすなよ。スコットさん、サラさんおはようございます。」
「おはよう、ルナ。よく眠れた?」
サラさんが笑顔で問いかけてくる。
「はい。今日から、高等学校とはいえ、初等学校からメンツもやることもそこまで変わってないですから。」
「でも、初等学校の事もあるし…。」
サラさんはこちらを心配そうな目で見てくる。
「大丈夫ですよ。初等学校と違って、レベル的には低めの学校を選んだので。それと、ここから少し遠い場所ですし、知ってる人も少ないはずです。」
「ルナが平気そうならいいんだけど…。」
サラさんはまだ心配そうだ。
まあ無理もない。
初等学校の時、俺は人族と魔族の戦争を終わらせた、英雄ニコラス・ソルティーニの息子だという事で、おおいに期待されていた。
しかし、俺には父親ほどの才能は無かった。
先生たちは期待値が高かった分、落胆していた。
他の生徒は、最初の頃先生からチヤホヤされていた俺の事が気に食わなかったのか、誰も近づいて来なかった。
初等学校で俺はずっと1人だった。
いや、正確にはもう1人いた。
エマだけはずっと俺のそばにいてくれた。
高等学校も遠い場所を選んだのに、一緒の場所に行くと言って聞かなかった。
家族として俺の事を心配してくれているのだろう。
そんな事を考えながら、朝食をとっていると、スコットさんが話しかけてきた。
「先日、話していた、寮生活についてなのだが、やはりまだ少し早いのではないか?」
「そんな事は、ないですよ。確かに成人まではあと3年程ありますが、自立した生活を送りたいので。」
「む、そうか…。そうなると、エマも出ていくと言うだろうか…。」
スコットさんは、少し寂しそうな顔をしている。
「エマ。ルナが寮生活すると言ったら、お前もするのか?」
「もちろんよ。」
エマは自信満々に答える。
「そうか…。んー…。ルナよ。寮生活の目的が自立なら。寮じゃなくて、他の場所で暮らすのでも問題ないか?」
「問題ないですけど、それだとお金がすごくかかるのでは?」
「お金の心配は大丈夫だ。ニコラスから、ルナが成人するまでの費用は貰っているからな。」
「なら、大丈夫ですけど。なぜ、寮じゃダメなのですか?」
「エマと一緒に暮らして欲しいんだ。」
一瞬、何を言ってるのか、わからなかった。
エマと一緒に暮らす?
今も暮らしてるではないか?
あっ、ここから出て行った時の話か。
でも、なぜ?
「それはどういった理由ですか?」
「エマは、この通り家事スキルは皆無。寮で1人で暮らしていけるとは思えん。だが、ルナが一緒なら生活できると考えたんだが。ダメか?」
あー、なるほど。
確かに、エマは家事が苦手だ。
一人暮らしするのは厳しいだろう。
しかし、俺が寮生活すると言えば、エマも寮生活すると言う。
それなら、一緒に住ませて、安心したいのか。
「構いませんが、エマが嫌がるのでは?」
俺はエマの方をチラッと見る。
「私は全然問題ないわ!」
また、自信満々に答えている。
まあ、問題ならいいか。
「よし、ならすぐ暮らせる場所を手配しよう。それまでは、ウチから通ってくれ。」
スコットさんはそう言うと、席を立ち、自室へと消えて行った。
取り残された、俺とエマは朝食を済ませ、学校に行く準備をする。
「エマ、ルナ。最近、魔族の動きがまた活発になってきたから、気をつけるのよ。」
サラさんが、心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫よ、ママ。遠いとはいえ、ちゃんと城壁の中だもの。魔族なんて簡単には入って来れないわ。それに、魔族がいたとしても、私とルナで倒しちゃうんだから!」
エマはピースをしてサラさんに見せている。
いくら、エマが優秀とはいえ、魔族にあったら厳しいんじゃないのか?
そんな事を考えながら、俺とエマは学校に向かうのであった。
登場人物
① ルナーク・ソルティーニ
偉大な父を持つが、5歳の時に母親が失踪
その後、父親とも離れて暮らす事になってしまう
よく自分の父親と比べられる
しかし、父親のように天才というわけではない