俺とエマは、ルグニス魔術高等学校の入学式に参加していた。
この学校は、魔術の専門学校で、かなり自由度が高いため、入学式と卒業式以外、全員が集まる機会はない。
さらには、クラスもという概念もない。
各自がそれぞれ取りたい授業を取り、卒業試験を受け、合格したら卒業する。
なので、人によっては1年で卒業する事もあり、何年も在学する事もある。
とにかく、学びたいことをとことん学ぶための場所なのだ。
俺はこの学校で、得意な氷属性の魔術を高めていきたいと思っている。
エマは炎属性が得意なので、その魔術を学ぶのではないだろうか?
そんな事を考えていると、いつのまにか新入生代表が壇上に上がっていた。
「続きまして、新入生代表のお言葉。アリス・エカトリアさんお願いします。」
彼女は、紹介されると一礼をし、話し始めた。
アリス・エカトリア。
名前は聞いた事ある。
確か、全属性の魔術を高水準で扱える、相当優秀な魔術師だったはずだ。
「以上を持ちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます。」
彼女はそういうと、一礼をし、壇上から自分の席に戻っていった。
その後、何事もなく入学式は終わり、新入生たちは、解散ということになった。
俺は早々に帰るのも忍びなかったので、学校内を少し散策することにした。
しかし、とある人物に話しかけられたことによって散策は中止となった。
「ルナーク・ランドルフさんですか?」
声をかけて来た人物は、先ほどまで壇上に立っていた人物だった。
「はい。新入生代表さんが、俺に何の用ですか?」
俺は、いきなり話しかけられたことに動揺して少し冷たく言い放ってしまった。
だいたい、俺に話しかけてくるやつは父親絡みが多いからだ。
しかし、ここには俺の事を知る人はいないはず。
それに彼女も、ランドルフと呼んでいたから大丈夫であろう。
「急に失礼しました。先ほど、エマさんが迷子になっているルナークさんのことを探しておられたので、声をかけさせていただきました。」
そういうと、アリスは一礼した。
エマのやつ…。
てか、なんで俺が迷子になってる事に…。
できるだけ、目立たず過ごしたかったのに…。
「すいません。ありがとうございます。それで、エマのやつはどこにいますか?」
俺は早く奴の暴走を止めねばならないので、アリスに聞く。
「入学式が行われたホールの入り口にいましたわ。」
「教えていただきありがとうございます。」
そう言って、立ち去ろうとすると、呼び止められた。
「仲のいい、兄弟なんですね。」
アリスが微笑みかけてくる。
少しだけ、この笑みを怖いと思ってしまった。
何か探りを入れてくるような笑みだ。
「兄弟というか、従兄弟みたいなもんです。」
俺ははぐらかしながら答える。
「そうですか。これからよろしくお願いいたしますわね。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
そう言って、俺はその場を離れた。
彼女は要注意人物だ。
俺の勘がそう言っている。
しかし、今はそんなことよりもエマだ。
奴の暴走を止めなくては。
入学式が行われたホールまで戻ると、入り口のところでエマが仁王立ちしていた。
「エマ。何やってんだよ。」
「やっと来た。あんたこそどこで何してたのよ。」
エマがこちらを睨んでくる。
「俺は少し、散策を…。」
エマの気迫におされ、言い淀んでしまう。
しかし、ダメだ、ビシッと言わなくてわ。
「それよりも、俺の名前を出していろんな人に探させるなよ。」
エマが不思議そうな顔をしている。
「そんなことしてないわよ。私はここで待ってただけよ。」
「え?」
聞いていた話と違うため、変な声が出てしまった。
「じゃあ、何してたんだ?」
「だから、あんたをここで待ってたのよ。」
「途中誰かと話したりしたか?」
「えぇ、どうしたのですかって聞かれたから、人を待ってるって言っただけよ。」
「俺の名前は出してないのか。」
「出してないわよ。」
うーん…。
話が全然違う。
エマが嘘をついているようには見えない。
なら、アリスが嘘をついたのだろうか。
今となってはわからないので、後日問いただしてみよう。
こうして、俺とエマは帰路についた。
………………
学校から家に帰っているが、何やら様子がおかしい。
まだそんなに離れていないのに、静かすぎる。
「なんだか気味が悪いわね。」
エマも何かに気付いたのか、微妙な顔をしている。
「あぁ、人の気配が全くしないな。」
しばらく歩いていると、木陰に1人の男が立っていた。
見るからに怪しすぎる。
全身黒の服に、フードまで被っている。
怪しいが、そこの前を通らなければ、家には帰れない。
警戒しつつも前を通ると、急に声をかけられた。
「親父と違って、警戒心はあるみたいだな。」
本来なら、無視して通り過ぎるべきなのだが、親父という言葉に反応してしまった。
「それはどういう意味ですか?」
エマが返事をした俺の方を見て、無視して行きましょうとアイコンタクトをとってくる。
しかし、俺は聞かねばならなかった。
「そのまんまの意味だ。お前の親父、ニコラス・ソルティーニ違うと言ったのだ。」
「人違いじゃないですか?」
「いいや、違わない。奴と、魔力の流れがそっくりだ。そして何よりも、奴の魔術がお前に施されている。」
「なっ、魔術ってそれはどういう意味だ!?」
「それは、奴に直接聞くと良い。」
そう言うと、フードの男はここから立ち去ろうとした。
「待て、無理矢理にでも聞き出してやる。」
俺は、氷魔術を男の足元目掛けて放った。
まずは足止めだ。
しかし、俺の魔術は奴には届かなかった。
いや、正確には打ち消されたと言うべきだろう。
とにかく当たらなかったのだ。
「そんな、焦るなよ。親父に直接会って聞けば良いだろう。」
「その親父とは10年以上会ってないし、居場所すらわかんないんだよ。」
「なるほど、ならヒントをやる。」
「ヒント?」
「やつは今、魔界にいる。」
「なっ、なんで魔界なんかに…。母さんを探しに行ったんじゃないのか…?」
俺は混乱していた。
男の言ってることが本当なのかも怪しい。
親父は魔界に何ているのだろうか…?
「お前が嘘を言ってる可能性もあるだろ。」
「そうだな。信じるも信じないもお前次第だ。ただ、魔界に行くならすぐはやめとけ。」
「なんでだよ。行けって言ったり、行くなって言ったり随分と勝手だな。」
「そんな怒んなって、今のお前じゃ実力不足だ。魔界に行ったら1日も生きてられないだろう。」
言葉を返せない。
確かに俺は実力不足だ…。
「そろそろ時間だ。次会う時を楽しみにしてるよ。」
そう言うと、男は消えてしまった。
取り残された、俺は固まっている。
急展開過ぎて、頭がパンクしそうだ。
確かに、魔界にいるなら10年以上帰って来ないのも頷ける。
しかし、母さんを探しに行ったはずだ。
なのに、なぜ魔界なんかに…?
俺が難しい顔をしていると、エマが心配そうに覗き込んできた。
「大丈夫?」
「大丈夫だ。ただ、少し困惑してるがな。」
「あんまし、信じ過ぎないほうがいいわよ。」
「わかっているが、色々と辻褄が合ってしまって、嘘とも言い切れないからな。色々、情報を集めてからどうするか決めるよ。」
「そう。私はあなたの考えに従うわ。」
「ん…?まあいいや。この事は、サラさんとスコットさんには言わないでくれると助かる。あまり、心配かけたくないから。」
「わかったわ。」
エマはそう言うと、また歩き始めた。
先ほどと違い、人がちらほらと周りを歩いていた。
やはり、何かの魔術だったのだろうか。
今度、調べてみよう。
こうしてまた俺たちは帰路へとついた。
しかし、この一件が、今後の人生を大きく変えることをまだ俺は知る由も無かったのだった。
ニコラス・ソルティーニ
剣術、魔術共に優秀
人族と魔族の戦争を終わらせた英雄
ルナが5歳の頃にアメリアを探しに旅に出るが、未だ帰らず。