入学式翌日の朝、俺は昨日のことを言及すべく、とある女生徒とお茶をしている。
呑気だと思うかもしれないが、仕方ないのだ。
話があるならお茶をしながらしましょうと言われてしまったので、渋々了承した。
「それで、なんのご用ですか?」
アリス・エカトリアがわざとらしく聞いてくる。
もはや、隠すつもりもないらしい。
「昨日のことについてだ。」
「昨日のこととは?私には分かりかねます。ルナーク・ソルティーニさん。」
うん。
完全に揶揄われている。
どつき回したいが、多分魔術で負けるので我慢だ。
「なんで、俺の本名を知っている。誰に聞いた?」
「あなたのお父様にですわ。」
「は?親父に?」
俺は思わず聞き返してしまった。
昨日から、やたらと親父絡みのネタが多い。
こっちはもう、10年も会っていないのに。
「どうかなさいましたか?」
「いや、俺にわかるように説明してくれないか?」
「わかりました。」
そして、アリスは事の経緯を説明してくれた。
5年ほど前に、親父に魔獣に襲われているところを助けてもらったらしい。
そして、何かお礼がしたいと言ったが、親父はすぐ旅立つため、俺の名前を出して、よろしく頼むって言ったらしい。
だいぶ、適当だが、本当のことなのだろうか。
「まあ理由はわかったが、なぜ最初から理由を言わなかった?」
俺が至極真っ当な質問をすると、彼女は俯き加減で答えた。
「話しかけた瞬間あなたは警戒なさっておられましたので…。」
「確かに、警戒してた。それについては、すまなかった。」
「それに…。」
アリスはなぜか頬を赤らめている。
暑いのだろうか?
「それに??」
アリスが言葉に詰まっていたので、俺が聞き直した。
「婚約者がどのような方か、事情を話す前に知りたかったので。」
アリスは照れながらそう言った。
婚約者って言ったか?
聞き間違いだろう。
俺が、フリーズしていると、隣の草むらから急にエマが出てきた。
「婚約者ってどういうことよ!?」
盗み聞きしてたのは、よくないと思うが、俺の心を代弁してくれたのでよしとしよう。
「あら、エマさん。おられましたのね。おはようございます。」
アリスが会釈をする。
「おはようございますじゃないわよ!婚約者ってどういう事か聞いてるのよ!!」
エマは今すぐにでもアリスに飛びかかりそうだ。
「そのまんまの意味ですわよ。ルナークさんの、お父様によろしく頼まれましたので。」
よろしくって、そういう意味なのだろうか…?
そうだとして、律儀にそれを守る必要はないと思うのだが。
「多分、よろしくの意味が違うと思うし。仮にその意味だったとして、律儀に守らなくてもいいと思うよ。」
「いいえ。その意味以外、あり得ませんわ。そして、無理に守っているわけでもありません。私の意志で婚約したいと思っております。」
アリスが真剣な表情で言ってきた。
困った。
意志は固そうだ。
しかし、俺にはやらなきゃいけないことがある。
今は、結婚とかしてる場合ではないのだ。
アリスにそれを説明しよう。
「アリスさん。」
「アリスで構いませんわ。」
「…。アリス。」
「はい。なんですか、ルナさん。」
「詳しくは話さないが、俺にはやらなきゃいけない事がある。それを達成するために結婚とかしてる場合じゃないんだ。だから、すまん。婚約は無かったことにしてくれ。」
俺は、頭を下げた。
ここまで言えば流石に引き下がってくれるだろう。
そう腹を括っていた。
しかし、考えが甘かった…。
「お父様を探しに行かれるのでしょう?」
「え?なんで知っている?」
「昨日、あの現場にいましたので。」
嘘だろ…。
昨日の現場は、あいつの魔術で誰も来れないはずだ。
そもそも、なんの魔術か見当も付かない。
「魔術で近寄る事ができないはずだが。」
「近寄れますわよ。あれは、炎魔術と風魔術と水魔術を組み合わせた上級の魔術蜃気楼ですわ。」
「そんな魔術があるのか…。知りもしなかった…。でも、なんでわかったんだ?」
「私も使えますから。対処できて当然ですわ。」
当然のように言われてしまった。
今までの話で忘れていたが、アリスは全ての魔術を上級以上使える優秀な人だった。
「なるほど、じゃあ、あいつが何者かわかるか?」
「何者かまでは、分かりません。ですが、恐らく、魔族でしょうね。それも、上位の魔族だと思います。」
「やっぱり、魔族だったか…。でも、なぜ親父の名前を…?」
「お義父様は、私を救ってくれた後、魔界の方へと旅立ちました。」
なんか、変な気がするが、一旦放置しておこう。
それよりも、大事な情報が出てきた。
「それは、本当の話か?」
「えぇ、私のお父様が止めてましたが、行ってしまわれたので。」
「なるほど。やっぱり、魔界に行かなきゃ、親父には会えないみたいだな。」
そのためにも、俺はもっと強くなる必要がある。
だから、婚約してる場合じゃない。
これでアリスに納得してもらおう。
「アリス…。」
俺が申し訳なさそうな顔で話し始めると、アリスに止められてしまった。
「強くなるためにはどうすればいいと思いますか?」
どういう意図だろうか?
わからないが、素直に答えるか。
「まずは、魔術を磨かなきゃな。」
「どうやって磨きますか?」
「それは、自分より魔術の腕がたつ人に…。あっ…。」
アリスの意図に気付いてしまった。
上手くのせられたみたいだ。
「はい。目の前に、最適な人がいるとは思いませんか?」
アリスが微笑みかけてくる。
完全に彼女のペースだ。
しかし、彼女の魔術の腕は確かだ。
この学校でNo. 1と言っても過言ではないだろう。
背に腹はかえられない…。
「まずは、師弟関係からお願いします…。」
「まあ、初めはそれでもいいでしょう。ゆくゆくは分かってますわね?」
「ははは…。」
俺は愛想笑いをして誤魔化した。
こんな時、エマがギャンギャン騒ぎながら噛みついてくるだろうと思ったが、珍しく大人しくしている。
顔は、般若みたいな顔をしているが…。
「では、いきましょうか。」
そう言うと、アリスが立ち上がった。
「「どこに??」」
アリスは満面の笑みで答えた。
「私とルナの愛の巣に。」
この後の惨状は語るまでもない。
こうして、俺とアリスはとりあえず師弟関係となったのだった。
アリス・エカトリア
ルナとエマが通う、高等学校に主席で入学した。5年前にニコラスに魔獣に襲われている所を助けられた。
その日以来、未来の婚約者であるルナのために魔術の腕を磨き続けた。