これは、5年ほど前の出来事。
少女が、英雄に助けてもらうお話である。
少女は、森を散歩するのが好きだった。
その日も、少女は1人で森の中を散歩していた。
森の中には、危険な動物はおらず、少女は動物と戯れるのが好きだった。
しかし、その日の森は違った。
いつもいるはずの動物たちがいない。
あまりにも静か過ぎる。
不気味で仕方なかった。
少女が、しばらく歩いていると、奥の茂みがガサっと動いた。
ようやくいつもの動物たちに会えたのだろうか。
少女は少しホッとした。
しかし、いつもの動物たちでは無かった。
そこには本来いるはずのない生物がいたのだ。
ワーウルフだ。
ワーウルフはそもそも人界の生物ではない魔界に住んでいる魔獣である。
少女はこの生き物のことを昔父親から聞かされていた。
真っ白い、毛並み。
血走った目。
獲物を見つけて、涎を垂らしている。
この魔獣は名前の通り、争いが大好きで、とてつもなく交戦的である。
一般の冒険者や魔術師なら、対処することは容易い。
しかし、少女は魔術をあまり使えない。
少女は恐怖で動けない。
そんな少女を見て、ワーウルフは飛びついてきた。
少女は、死を悟り、目を瞑った。
しかし、ワーウルフは噛みついてこない。
ぼとりという音が目の前でした。
恐る恐る、目を開けてみると、そこには真っ二つになったワーウルフの姿があった。
さらにその奥から声が聞こえてきた。
「嬢ちゃん。大丈夫か?」
そこには、冒険者のような格好をした男が立っていた。
彼が助けてくれたのだろうか。
しかし、少女は緊張の糸が切れたのか、気絶してしまった。
……………
少女は木陰で目を覚ました。
身体には、ローブがかけられていた。
きっと、助けてくれた男の人のものだろう。
少女が辺りを目回すと、さっきの男が焚き火の前で座っていた。
「おう、目覚ましたか。体調はどうだ?」
男は気さくに話しかけてくる。
「大丈夫です。さっきは助けていただきありがとうございました。」
少女は頭を下げ、先ほどのお礼を言った。
「礼はいいよ。」
男はそう言うと、焚き火を再び見始めた。
しかし、少女は幼い頃から助けてもらったら、恩をしっかり返せと教えられてきたので、引き下がるわけにはいかなかった。
「ちゃんと恩返しがしたいので、何かさせて下さい。」
「いや、だからお礼は…。」
「させてください。」
少女が食い気味に言うと、男は少し困った顔をしていたが、少し何かを考え、その後口を開いた。
「俺にも嬢ちゃんと同じ年頃の息子がいるんだ。そいつと、いつか会うかもしれねぇ。そしたら、仲良くしてやってくれれ。」
ずいぶんとざっくりしたお願いだが、少女は聞き入れることにした。
「その子のお名前はなんて言うんですか?」
「ルナーク・ソルティーニ。ルナって呼んでやってくれ。」
「ルナ…。わかりました。あなたの名前は、なんて言うんですか?」
「俺の名前か?俺は、ニコラス・ソルティーニだ。」
「え…?」
少女は困惑した。
なぜなら、男の名が誰でも一度は聞いた事がある英雄の名前だからだ。
「どうかしたか?」
「いいえ。なんでもありません…。」
男が嘘をついているのかと思ったが、そんな事はいい。
命を助けてもらったことに変わらないのだから。
「わかりました。将来、ルナと会った時に結婚します。」
少女はたからかに宣言する。
「えっ??結婚??」
今度は、男が困惑してしまった。
「はい。結婚いたします。」
「そこまでしなくても…。仲良くしてさえくれれば…。」
「いいえ。命を助けていただいたので。私もあなたのご子息を命に変えてでもお守りいたします。そのために、結婚していつでもそばにいれるようにします。」
「んー…。やや、飛躍しすぎだが、本人がいいならいいか…。」
男は、めんどくさくなったのか、少女の提案を受け入れた。
こうして、少女はまだ会ったこともない男の子の婚約者となったのだ。
その後、独自のルートでルナについて調べまくり、魔術と品性を磨きに磨いたのはまた別のお話…。