英雄の子は凡才だった件について   作:runamoon

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第五話 精霊術

 

完全に迷った。

自分が今どこにいるのかわからない。

日が落ちてきている。

このまま夜を迎えるのは非常にまずい。

まさか、こんな目にあうとは…。

 

……………

 

数時間前。

俺たちは、日銭稼ぎと魔術の鍛錬を兼ねて、森に出た魔物の退治に来ていた。

「魔物って、どんな奴がいるんだ?」

「依頼内容によると、ワーウルフが目撃されたそうよ。」

「でも、なんでこんなところに?」

エマが不思議そうにしている。

エマの疑問はもっともだ。

ここは、魔界との境界線から大分離れた場所にある。

迷宮なら魔物も出るが、ここは普通の森だ。

魔物なんて出るはずがない。

「最近、人界の至る所で魔物が目撃されてるみたい。魔界の動きも活発になってきているし、何かありそうなのよね。」

アリスが怪訝そうな顔をしている。

「親父も魔界に行ったみたいだし、何か関係あるのか?」

「お義父様のことはわからないわ。心配ではあるけど、今の私たちじゃ魔界にすら辿り着けない。」

「それもそうだな…。」

俺は俯く。

魔術の鍛錬を始めてから、数ヶ月が経った。

エマはぐんぐん成長し、アリスには劣るが、冒険者として働けるくらいには強くなった。

俺はというと…。

今だに剣無しでは何もできない。

一定以上の強さで魔術を行使しようとすると、ストッパーがかかってしまうのだ。

原因は不明。

なので、俺は伸び悩んでいた。

剣技を学び、自分なりに努力したが、3人の中で俺が1番弱い。

「ルナ!前見て歩きなさいよ!」

エマが俺に注意してくる。

俺は、エマの方を見た。

しかし、そこにはエマもアリスもいなかった。

 

………………

 

そして今に至る。

状況からして、俺だけどこかに転移されたのだろう。

誰かにやられたのか、それともトラップがあったのか。

それもわからない。

エマとアリスが無事ならいいんだが…。

まあ、あの2人なら大丈夫か。

2人とも俺より強い。

心配ないはずだ。

とにかく、今は自分のことを考えよう。

そもそもここは、飛ばされる前にいた森と同じ森なのだろうか。

全く違う森にいたりしたらお手上げだ。

そんな事を考えていると、急に声をかけられた。

「ずいぶんと面白いものがきたの。」

俺は声の方を向く。

しかし、誰もいない。

こんなところにいるくらいだ、まともな奴ではないだろう。

俺は警戒心マックスで周りを探る。

「そんなに警戒するでない。危害は加えぬ。」

また声が聞こえてきた。

しかし、姿を確認する事が出来ない。

「姿が見えない以上、警戒するしかないと思うんだが?」

「それもそうか。ほれ、サービスじゃ。」

そう言うと、声の主は姿を現した。

銀髪で長く尖った耳。

姿だけ見ればエルフに見える。

しかし、エルフではないだろう。

あまりにも小さすぎる。

妖精?

「ほれ、何か言わぬか。せっかく、姿を見せてやったんじゃぞ。」

妖精?らしきものが不満気な顔をしている。

「妖精なのか?」

「む、妖精ではない。精霊じゃ。」

「でも、どっからどう見ても妖精の姿じゃ?」

「普段は実体化などせぬ。今回は特別にそなたが慣れ親しんでそうな姿にしてみたんじゃ。」

「なるほど。お気遣い感謝します。」

「うむ、よかろう。」

「精霊さん。ここはどこですか?」

俺は今1番知りたい事を聞く。

「ティアと呼べ。ここは、森の最深部じゃ。普段なら誰も来れぬ場所。

しかし、そなたが急にわしの住処に現れたのじゃ。」

「なるほど。でも、わざと来たわけではなく…。」

「知っておる。お主は何者かに飛ばされてここに来たのじゃ。」

「なっ、誰だよ。」

「んー、今はまだ知る時ではないな。」

「なんだよ、それ。敵なのか?」

「わからぬ。まあ、わしとお主を会わせたかったみたいじゃな。」

ティアがやれやれといった顔をしている。

「なんで、会わせたかったんだ。意味がわからない。」

「わしがお主のことを気にいると思ったんじゃないかの。」

「俺は気に入られたのか?」

「まあ少しの。お主は面白い存在じゃからな。」

「面白いってなんだよ。」

「いずれ分かることじゃ。」

ティアは教えてくれる気がないらしい。

これ以上聞いても無駄な気がしてきた。

「もし、ティアに気に入られなかったら俺はどうなってたんだ?」

「殺しておったわい。」

涼しげな顔でティアが恐ろしいことを言う。

いや、ティアからしてみたら基本誰も来れない場所に怪しげな奴が来たらそういう対処にもなるだろう。

俺をここに送ったやつは、俺が死ぬかもしれないのを分かった上でここに送ったのか。

やはり敵なのか味方なのかわからない。

とにかく、警戒しておくことにしよう。

「ところで、俺と一緒にいた奴らは無事なのか?」

俺はふと、エマとアリスのことが気になった。

「無事じゃぞ。お主を探してる途中でワーウルフと遭遇したが、難なく退治しておったわい。あの2人はそこそこ強いのう。」

よかった。

2人はどうやら無事みたいだ。

「今は何してるんだ?」

「お主のことを探してるみたいじゃな。」

俺の事を探してくれているのか。

しかし、もうじき夜になる。

これ以上は危ない。

早く帰らなければ。

「なあ。ここからはどうやって帰るんだ?」

「帰り方は、来た時と同じじゃ。ここには転移魔術以外で行き来できん。」

「えっ?じゃあ、自力じゃ帰れないって事??」

「そうじゃ。」

…。

転移魔術なんて、そうそう使えるものではない。

転移魔術を擬似的に使える道具はあるが、高すぎて一般人が持てるものではない。

つまり、俺は帰れない。

俺が絶望的な顔をしていると、ティアが笑いながら話しかけてきた。

「そう暗い顔をするでない。わしが使えるから安心せい。」

「ほんとか!それならよかった…。」

俺はほっと胸を撫で下ろす。

「しかし、送り返すのには条件がある。」

「何をすればいいんだ…?」

「お主の右目とわしの目を同期させてくれ。」

「同期??どういう事だ??」

ティアの言ってる事がわからず、俺は首を傾げる。

「お主が見えてるものがわしにも見えるようになるのじゃ。それと、テレパシーで会話することもできる。」

「そんなことでいいのか?」

俺は、条件が意外と緩かったため聞き返してしまった。

「うむ。それだけで大丈夫じゃ。お主の行く末を見れるだけで充分じゃ。」

「わかった。なら、その同期??ってやつをしてくれ。」

「うむ。」

そう言うと、ティアは俺の右目に腕を突っ込んで来た。

「痛ってーー!あれ?痛くない??」

「当たり前じゃ。そもそもわしは実体がないのじゃ。この姿も仮初のものぞ。」

「そういえば、そんなこと言ってたな…。」

ただ、実体はないとはいえ、目に腕を突っ込まれているので、少し気持ち悪い。

「よし、これで完了じゃ。」

ティアはそう言うと、腕を抜いた。

俺は、辺りを見渡してみる。

しかし、特段変化がないようにみえる。

「変わったように見えないんだが、成功したのか?」

俺はティアに問いかける。

(成功しとるわ。)

脳に直接声が響いてきた。

これが、テレパシーなのだろう。

「俺から話しかけることもできるのか?」

(出来るぞ。普通に話しかけるみたいに頭で考えるのじゃ。)

俺は言われた通りにする。

(こうか??)

(そう。それでいいのじゃ)

(これは、どんなに離れてても会話できるのか?)

(基本的には問題ないぞ。)

(へー、すごい便利だな。)

(ふふふ。もっと褒めてくれても構わんのだぞ。)

ティアは誇らしげに胸を突き出している。

(じゃあ、条件を飲んだという事で俺を送り届けてくれないか?)

(帰りたければ、勝手に帰ればいいではないか??)

ティアが首を傾げている。

首を傾げたいのはこっちなのだが。

(いや、だから。転移魔術がなきゃ帰れないんじゃ?)

(自分で使えるようになっとるぞ?)

(え??)

俺はキョトンとする。

どういう意味なのだろうか。

(俺が使える?どういう事だ?)

(わしの力を分け与えんじゃ。転移魔術ともうひとつ精霊術を使えるようにしといたぞ。)

(まじか。精霊術?初めて聞いたけどどんなものなんだ?)

(その目を通じて、魔力の流れがわかるようになる。魔力の流れによって相手の感情もわかるようになる。敵意や好意とかがわかるぞ。)

(めちゃくちゃ便利だな。なんでそこまでしてくれるんだ?)

(お主ならわしの願いを叶えてくれそうだからの。)

(願い?それはなんなんだ?)

(今は知らなくていいのじゃ。そのうち話をする。)

(そんな大したことは出来ないと思うけどな。まあ、とにかく助かった。たまに顔を出すから、その時に聞かせてくれ。)

(おぉ。気をつけるのじゃぞ。)

こうして俺はティアの元を去り、森の入り口付近に転移した。

 

 

………………

森の入り口付近にて。

辺りを見まわし、エマとアリスの姿を探す。

しかし、姿は見えない。

まだ森の中にいるのだろうか。

俺は探しに行くかどうか迷っていた。

すると、脳内に声が響いて来た。

(もう、森にはおらぬぞ。)

ティアの声だ。

(どこに行ったかわかるか?)

(一旦、宿に帰ると話しておった。)

(分かった。ありがとうな。)

(うむ。)

俺は宿に向かうことにした。

宿に到着し、自室に向かうと、疲れ切った顔をした、エマとアリスの姿があった。

「大丈夫か?」

思わず声をかける。

「えっ、ルナ?」

エマは幽霊でも見てるような顔をしている。

「そうだけど?」

「無事だったのですか…?」

アリスの方は今にも泣き出しそうだ。

よっぽど心配をかけてしまったらしい。

「あぁ、転移魔術で飛ばされた時はどうなるかと思ったけど…。」

俺が森であった事を話そうとすると、ティアが話しかけてきた。

(わしの事は、秘密にしておいて欲しいのじゃ。)

(なんでだ??)

(誰にも存在を知られたくないからじゃ。それ以上は聞くな。)

(よくわからんが。わかった、秘密にしておくよ。)

「どうしたのですか…?何かあったのですか…?」

俺が言葉の途中で、黙ってしまったので、アリスが声をかけてきた。

「いや、森の奥の方に飛ばされて、さっきようやく出て来れたんだよ。」

「そんな事があったのですね。そもそも、なぜ転移魔術が発動したのでしょうか?」

「んー、わからん。トラップとかじゃないのか?」

俺は説明がめんどくさくなり、適当に流す。

誰かに飛ばされたとかいうと、大事になりそうだ。

「迷宮でもないのにトラップがあるのですか?おかしくありませんか?」

さすがアリス。

するどい。

「俺にもそこら辺はよくわからん。とにかく、心配かけてすまなかった。俺はこの通り無事だ。」

「無事なら、いいのですが…。本当に心配しましたよ。私とエマも必死に探しておりました。」

「ありがとうな。アリスもエマも。」

「はぁ。まあいいわ。今日は疲れたからもう休みましょう。依頼も一応終えたことだし。」

エマがあくびをしながら言っている。

「そうですね。疲れたので休みましょう。」

「そうだな。じゃあ、2人とも隣の女子部屋に。」

俺は2人をもうひとつ取ってある部屋に促す。

「ルナさん。今日は一緒に寝てもらいますからね。」

「そうよ。今日くらいは一緒に寝るわよ。」

「え?あっ、そうだ。用事を思い出した。」

俺は、部屋から逃げようとすると、アリスとエマに腕を掴まれそのままベッドに連れて行かれた。

「逃しませんわ。」

「逃げるんじゃないわよ。」

「あの。2人とも?」

こうして、俺たちは3人で寝ることになった。

しかし、何も起きずに朝を迎えるのだった。

 

 

 

 

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