とある日の朝。
そいつは俺のことを待っていた。
「やぁ、ルナークくん。昨日ぶりだね。」
「マルス…。」
俺の目の前には、マルスがいた。
「どうしたんだい?そんな険しい顔をして。」
「朝から、怪しい奴に声を掛けられたからな。」
「随分な言われ方だね。そんなに嫌われるようなことをしたかな?」
マルスは残念そうな顔をする。
もはやこいつの全てが胡散臭い。
「自分の胸に手を当てて考えてみろよ。初対面のやつにいきなり特別とか言われたら、誰でも警戒するわ。」
「それは事実だからしょうがないよ。君は特別な存在なんだから。」
「じゃあ、その理由を聞かせてくれ。」
「んー、そうだな。タダで教えるのは面白くない。確か君は剣を扱えたよね。そしたら、少し手合わせをしよう。もし君が勝てたら全て話してあげるよ。」
「手合わせ?なんでまたそんな事を。」
「君の実力が知りたいのさ。」
手合わせか。
それくらいならまあいいだろう。
ただここは少し慎重に。
精霊眼でマルスを見てみる。
どうやら、敵意はないらしい。
「よし、わかった。やろう。」
俺とマルスは修練場に向かった。
2人で木剣に手を取る。
「ルールは、相手を戦闘不能にしたら勝ち。危険な行為は禁止にしよう。手合わせで大怪我したら学校から怒られるからね。それと、魔術の使用もいいとしよう。」
「わかった。」
俺は、マルスの提案に同意する。
「よし、なら、今からスタートだ。」
マルスがスタートと言ったため、俺はマルスとの距離を詰める。
先手必勝だ。
しかし、マルスは慌てる様子もなく、俺の剣をいなしてきた。
「おっと、随分好戦的だね。」
「早く終わらせたいんでな。」
俺はマルスに剣を打ち込む。
しかし、どれも簡単にいなされてしまう。
「筋は悪くない。でも、まだまだ足りないな。」
「ずいぶんと余裕そうだな…。なんで、そんなに剣が上手いんだ。お前は魔術師の息子なんだろ。」
「ははは。魔術師の息子だからと言って、魔術に秀でている訳じゃないよ。それに僕は剣術の方が好きなんだ。」
そう言うと、マルスの少し強めの一撃がきた。
俺はそれを木剣で受けるが、衝撃をいなしきれず、少し後ろによろめく。
「魔術は使わないのかい?」
「言われなくても!」
俺は剣を振り下ろすのと同時に魔術を使う。
アイススピア。
氷の塊を飛ばす魔術だ。
1番、相性のいい氷魔術なので、そこそこな強度と威力がある。
俺は、アイススピアの陰からマルスの隙を窺う。
アイススピアに気を取られているところに一太刀浴びせるのだ。
しかし、上手くいかなかった。
アイススピアは外れた。
いや、避けられたのだろう。
速すぎて目で追えなかった。
気付いた時には俺に一太刀浴びせに来ていた。
俺はそれをかろうじで避ける。
さっきから、防戦一方だ。
「やっぱり筋は悪くない。でも、全てが中途半端だ。」
全てが中途半端。
俺が散々感じている事だ。
「言われなくてもわかってるんだよ!」
俺はマルスに向かって剣を振り抜く。
「君の剣じゃ僕には届かない。」
そう言うと、マルスは俺の一太刀を軽くいなした。
「くそっ。」
俺は、半歩下がる。
「そろそろ終わりにしよう。」
そう言うと、マルスの姿が消えた。
俺は精霊眼で、マルスを探す。
捉えた。
マルスの魔力動きがわかる。
次にどこに打ち込んで来るのかもわかる。
しかし、動きが速すぎて対応できない。
ガキンッ
次の瞬間、俺の剣は弾き飛ばされ、マルスの剣先が俺の首元を捉えていた。
「やっぱり、君に仕える価値があるとは思えないよ。」
マルスは今までとは違い、非常に落胆した目で俺のことを見ている。
「誰もそんなこと頼んでねーよ。」
俺は苦し紛れに言い返した。
「君が頼まなくても。頼む人がいるんだ。だから君は特別なんだよ。その意味がわかるかい?」
「何言ってんだ。お前。わけわかんねーよ。」
「君は誰の息子で、どういう立場にあるのか、もう少し自覚した方がいいよ。でなきゃ、大切な人を失うことになる。」
そう言うと、マルスは剣をしまい、どこかに行ってしまった。
1人取り残された俺はマルスの先ほどの言葉を思い出す。
誰の息子で、どういう立場にあるのか。
俺は先の戦争の英雄の息子だ。
しかし、どういう立場にあるのかわからない。
親父とは10年会っていない。
俺だけ何も知らずに、周りだけ知っている。
そんな事が最近増えてきた。
(なあ、さっきの聞いてただろ。)
俺は、頭の中で話しかける。
(まあの。聞いておったわ。)
(そろそろ、何か教えてくれてもいいんじゃないか?)
(まだ早い。)
ティアは即答だった。
なぜ、頑なにみんな教えてくれないのだろう。
(何がまだ早いんだ?勿体ぶらなくてもいいだろ?)
俺は諦めずにティアに聞く。
しかし、望みのものは聞き出せなかった。
(お主は、まだ弱い。弱すぎる。だから、知ったところで何も出来ん。今は力を付けろ。ただそれだけじゃ。)
ティアはそう言い残すと、返事をしなくなってしまった。
弱すぎるか。
確かにその通りだ。
魔術では、エマに抜かれ。
剣術では、マルスに軽く捻られる。
なぜ、親父みたいに強くないのだろう。
努力すれば親父みたいになれるのだろうか。
わからない。
自分が何をしたいのか、わからなくなってきた。
その後、俺は授業を受ける気にはなれなくて、そのまま帰路に着くのであった。