家へ帰ると早速エウテゥが迎えてくれた。俺を待たず帰っていいと言っているのに本当にこんな夜まで待機していたらしい。
「お帰りなさいスノウ様。あの、どなたですかこの方は?」
エウテゥは俺を一瞥して、少女の方を向くと明らかに臭いを気にしたように顔を顰めた。少女はそれを見て傷付いたように小さな呻き声を出した。俺は無視した。
「知らん。天上天下唯我独尊気質で汚言症を患った不審者だ」
「テンジョウテンゲ……?」
「忘れてくれ。ただの浮浪者だ」
「誰が浮浪者だ殺すぞ土民」
「うるせえ浮浪者。名前が分からないと不便だな。いい加減教えてくれ、じゃないと浮浪者呼ばわりで固定するぞ」
浮浪者発言にバチクソにキレている少女だったが、少々冷静さを取り戻したように口を開き、
「エンドリッケの民は恩と義理を大切にする。風呂の代金として教えてやろうじゃないか。テトア・ノーリッジュだ。テトアで良い。私がお前みたいな吐瀉物肉人形に名乗る機会は以降金輪際無いのだから感謝してほしいね」
恩と義理を大事にしている……………………?
感謝する相手に吐瀉物肉人形と言った口で何言ってんだこいつ?
と、考えていればエウテゥと視線が合った。
───随分ヤバそうな人拾いましたね。
───うん、俺も拾ったこと後悔してきた。
アイコンタクトでそんな会話を挟みつつ、俺は話を進める。
「そういや自己紹介してなかったな。俺はスノウ・クレスケレスだ。そっちはエウテゥ・ミリアム」
「ふん、興味無いね。人間風情が私の記憶領域を奪おうなど千年早いのだよ」
「あーはいはい。良いからもう風呂入ってくれ。空気とカーペットが汚れる」
「お前……空気をこの私が汚しただと!? 森との調和と共生を何よりも大事にするエンドリッケの民を愚弄するのか!」
「エウテゥ」
短く名前を呼べばエウテゥは渋々とテトアを風呂場へと案内する。テトアは俺を睨みつつも、自身の小汚さを漸く自覚してか、思ったよりは素直にエウテゥの後を着いて行った。
小柄な背中見ながら考える。
テトアは恐らく耳尖の民ってやつだ。
耳尖というのはそのままの意味で、エンドリッケ大森林に住まう民族は顔が端正で耳が尖っているという特徴がある。要するに、換言すれば前世で言うエルフである。
耳尖の民というのであれば人間への罵詈雑言も納得できる部分があるのだ。耳尖の民はシュツット街道を抜け北上して国境を抜けた先、オイパル民主大連合国家の中にあるエンドリッケ大森林に住んでいるとされる。オイパルとは森を隔てて隣人関係であるはずが、オイパルと耳尖の民は対立しており、そんな国際情勢から耳尖の民は滅多なことでは精霊魔法の守護結界で覆われたエンドリッケ大森林の最深部からは出てこないと聞く。
テトアはそんなツチノコレベルにレアなエルフなんだろう。
そんな毒にも薬にもならない何気無い感想を抱いて、脳がピリッと痛んだ。
……そうか。
……エルフか。
『お兄様、この世界にエルフがいるんですね!? いつかエルフと話してみたいですわ!』
『ですわじゃない、お前をそんなテンプレ悪役令嬢みたいな口調に育てた覚えはないぞアステリア』
『いいじゃん私貴族令嬢なんだから! キャラ的には合ってるよね!』
『ド田舎貧乏貴族令嬢だけどな』
『おーっほっほっほ! 食べ物を恵みなさい愚民ども! 馬鈴薯がいいですわ!』
『そんな食い物を尊大に要求する貴族がいて溜まるか!』
───ふと脳裏から罅割れて漏れ出した過去の情景。あれも今日みたいに暖かい日だった。
この世界には魔術があるんだからエルフもいるのではないかと主張するアステリアに付き合って家の書庫で本を漁って、耳尖の民について書かれた書物を肩を並べて読んだ何でもない記憶。
しかし、そんな何でもない日常こそが最も大事だった。
エルフと話したがっていた笑顔のアステリア。
四季のように喜怒哀楽を全身で表現して、誰からも好かれたアステリア。
俺と同じく前世を日本で過ごし、病弱で前世は齢早々に亡くなってクレスケレス家次女として生まれた俺の妹、アステリア。
今でもアステリアとの日々は鮮明に思い出せる。日本という国を共に思い出し懐かしんでは、未知の物事ばかり転がったこの世界に興味津々なアステリアに手を引かれ色々と妙なことに手を出して、一緒に笑ったり、度々ラインを越えて男女両成敗で親父に殴られたあの日々を。
アステリア、アステリア。
お前が話したがってたエルフならいるぞ。
もうすぐ、もうすぐだからな。
──────お前を絶対に蘇らせてやる。
─── ─── ───
1時間ほど経って、残っている書類を片付けているとエウテゥとテトアが戻ってきた。
エウテゥがやけに嬉しそうな顔をしているのも気になったが、それ以上にテトアの様相に目を引かれた。
今に破れそうだったボロボロの外套を取り去り、代わりに水色のネグリジェに身を包んだテトアは先程までの不潔で汚らしい雰囲気を一掃させ、一転して神が造形したかのような美しくも幼い容姿であった。更にピンと真横に尖った耳は正しく誰もが想像するエルフである。
白雪に鉄粉を馴染ませたみたいに光沢を放つ銀色の長髪は風呂上りに湿っていて、森の木々によって日が遮られた環境で暮らしてきたことを証明するような透き通った白い肌はまだ熱が籠っているのか仄かに赤みがかっている。キツい印象を覚える釣り上がった眉の下にはアメジストの如き双眼が上品に煌めき、知性的な空気感を醸し出している。将来有望な美人なのは間違いない。しかし不機嫌そうに相貌は歪み、口を一文字にして黙っているので台無しだった。
それにしても初めて全身を見たが想像していたよりも幼いな。人間なら13歳とか14歳くらいだろう。しかし成長の遅い耳尖の民的には二桁才後半ほどと思われる。アステリアが生きていたなら喜んで話しかけまくってウザがられただろうな。
総括すると、さながら飛び級入学で大学院の研究室に入ってきた天才児みたいだ。いや俺理系じゃないし見たことも無いけど、何となくそんな雰囲気だ。
テトアは今にも吐きそうな顔をしながら口を開く。
「ま、まあ悪くはなかった。意外に良い風呂だった」
どうも人間を褒めるのが不快らしい。どんだけ人間が嫌いなんだコイツは。
呆れつつも俺はふとテトアの服装を再確認する。
ネグリジェってことは……え、家主の許可ナシに一泊しようとしてる?
てかやっぱりこれエウテゥが昔着てたやつだよな?
「ああ。……それよりエウテゥ、ちょっとこっち」
「はい?」
俺がエウテゥを手招きすると、エウテゥは不思議そうな表情を浮かべてそそくさとこちらへ来た。俺はテトアに聞こえないように言う。
「寝巻着せてるじゃん。泊まらせる気なの? ここに?」
「いえ、そういうのではなくテトア様の元々の服は汚すぎてお風呂の後に着せたくなかったんですよ。私の服も大きさの問題で着れなそうだったので、残っていた昔の古服を着てもらいました」
「なるほどな……まあいいか。どうせあの見た目だ、宿に泊まる金もないんだろうしついでに泊めてやるか」
「そうしてください。あんな子が野宿なんて可哀想ですよ」
「見た目通りの年齢じゃないだろあいつは……妙に親切だが悪態とか吐かれなかったのか?」
「ん~……言われませんでしたよ?」
こくりと首を捻った後にそうエウテゥは言い切った。まあエウテゥは若干天然が入っているので、心にも無い罵倒も気づかずスルーしたのかもしれない。いや、テトアが男にだけ敵愾心を持っている可能性もあるな。
どちらにせよ余計な心配だったようだ。
「なら良いけどな。エウテゥはいい加減もう家帰っていいぞ、もう遅いし日も落ちたしな」
「何を言ってるんですか! 客人放置で帰るほど私は無責任な人間じゃありませんからね! 今日はこっち泊まります!」
「……それで良いなら俺は構わないが」
「任せてください!」
腕まくりをしてふんすと鼻を鳴らした。完全にテトアの世話をする気満々の表情である。
ホント何でここまで張り切ってるんだろうな。クレスケレスの外からの客人など久々だからだろうか。加えてその相手が見た目だけなら自分より一回り年下のクレスケレスでは珍しい少女だからだろうか。どれもピンとこない。
……うん、エウテゥのやる気スイッチがどこにあるかさっぱり分からん。
ともかく、泊まるとなれば部屋も案内しておくべきか。
「テトア、寝る気満々な恰好のお前にこれを言うのは著しく遅かった気がするが、今晩は泊まってけよ」
「……別に私は野宿など慣れている。愚昧のお節介など不要だよ」
愚昧って俺の事か?
二人称語彙どうなってんだよ……今更だし別に良いけど。
ネグリジェのまま荷物を回収して出て行こうとしたテトアだったが、その前にやる気スイッチが入っているエウテゥが立ちはだかった。
「駄目です。この辺りは中心部でも夜は野生動物が徘徊して危ないですよ、泊まっていってください」
「別に私の勝手だろう」
「そのネグリジェ私のですよ?」
テトアは今それを口にするのかと言いたげな微妙な面持ちをした。
「なら返そう。私の服は何処だいメイド」
「それなら臭くて汚いので洗濯してますけど」
「……せ、洗濯?」
「はい。テトア様は折角綺麗なんですから、あんな汚いのをそのまま着るのは駄目です」
「じゃあ私が着る服は……」
「無いですね。明日の昼頃に乾くと思うので、その頃お越し頂ければ畳んでお返しします」
怜悧な眼差しで言外に『出て行くなら裸で一夜を過ごせ』と言い放つエウテゥにさしものテトアも返す言葉が見つからない。勘違いしないでほしいがエウテゥは意地悪で言ってる訳では無い。この発言は決して京言葉などではなく、単純に天然なだけだ。こうやってエウテゥは失言を重ねる癖があるから絶対に対外的な場には出せないのだ。
動揺しつつもテトアは声を震わせながら、
「……仕方がないか。ここで一泊してやろうじゃないか」
と、上から物を申し終えた直後にキュルキュルと腹の虫が鳴った。音の発生源を然りと確かめればテトアである。
「なんだい。空腹は生理現象だ。不埒で下品な視線は止めたまえ」
「そんなんじゃないが……先に夕飯にするか。飯食うだろ。勿論後から金を払えなんて狡いことは言わん」
「哀れまないでもらおう! 金なら払う! 私は乞食になるつもりはない!」
「無いのにどうやって?」
「夕飯分の代金くらい私がちょろっと働けば」
ここで再び腹の音が鳴った。余程空腹なのだと思われる。今度はテトアも何も言わず、自分の細いお腹をぽかぽかと殴り始めた。そんなことしても音は止まんないからな。
思い返せば道端で見つけた時からずっとふらふら千鳥足で歩いていたが、なるほど、ずっと空腹だったのか。
「……ちょろっと働けば金など簡単に手に入る! 私はエンドリッケの民だぞ!」
「まあ何はともあれ先に飯だな、飯」
「無視とは陰湿な土民め!」
「どんな悪口だよ。良いから食ってけよ、うっせえな」
「何だいその口ぶりは!?」
呆れた視線をあからさまに向けて非難していると、エウテゥが肩を鳴らすように腕を回した。
「でしたらお任せください。私がクレスケレス郷土料理を作って差し上げます」
自慢げに言うエウテゥに俺は今晩のメニューの想像が付いた。郷土料理と言われる表現が誤っている気もするが、美味いのは確かなので、したり顔で頷いておく。
テトアは怪訝な目つきになってエウテゥを見た。
「なんだそれは?」
「クレスケレスでこの時期しか取れない香草を使ったシチューです」
「……それは郷土料理なのかい?」
俺と同様の感想を持つに至ったようだ。
しかし、エウテゥが一時間ほどで調理をしていざ実食するとなるや、テトアはシニカルで幼げな美貌を崩してパクパクと食べ始めた。味わって食べている様子はない。ただエネルギーを補給するため、腹に物を詰め込んでいるという感じで、リスみたいに両頬を膨らませて頬張っている。
そんな突如訪れた微笑ましい光景にエウテゥはニコニコとしながらシチューのお代わりを注いだ。意外にこの子面白がってるな。風呂上りからずっと思ってたけど結構テトアのことを気に入ったのかもしれない。気に入る要素があったようには思えないけどな、俺には。
「美味かった。金があれば釣り合う額を払っていただろう。そう思わせてくれる程の中々の味だ、私の故郷じゃ無い味だよ、これは」
ボールに注がれたシチューを一滴残さず食べ終えるとテトアはそう言いながらスプーンを置き、名残惜しそうに視線を注いだ。
その言葉に気分を良くしたエウテゥはにこやかに言う。
「お口に召したなら良かったです」
「誇るべき要素だよ。皇都ならともかくこんな辺境の地でエンドリッケを勝る要素があるとはね。まあそれ以外でエンドリッケが後塵を拝す要素など無いが」
何か一個でも優位点を誇らないと気が済まないのかお前は。
エウテゥは特に興味が無かったのか乾燥した相槌を打った。
「そうなんですか。私としてはテトア様の故郷、エンドリッケには興味がありますけどね」
「興味あるのかい?」
「はい……といっても興味を抱いたのが私と言うと嘘になります。スノウ様の妹様が興味を持って、それで私もどんな場所か知りたくなったんです」
「妹? この汚らわしき男に妹がいるのか?」
「スノウ様は汚らわしくないですよ。毎日風呂に入ってます」
俺がフォローするのもなんだがテトアはそういうことを言ったんじゃないと思う。ほら、ちょっと困惑した瞳をエウテゥに向けてるし。
「エンドリッケはアステリア様が行ってみたい場所として度々上げられていた土地でもあるんですよ。大森林の中にある木々を利用した集落、自然が織りなす景観は見る者の心を打つと書物でもお見受けしたことがあります。まあ自然についてはクレスケレスにもありますが、森林を巧みに利用した住環境はエンドリッケ特有のものとお聞きしています」
「一つ訂正しよう。我々は利用じゃない。森と共生をしているのだ」
「寡聞にして失礼しました」
「まあしかしその妹とやらは随分とお目が高いじゃないか。どうだろう、この場に呼ぶならば私が直々に話をしよう」
初めて見せたといって過言でもないテトアの厚意に、エウテゥの表情が凍る。視線がその髪色のように冷え込み、少し俯いたことにより前髪が双眸に影を作る。
エウテゥからは言いづらいだろう。俺が告げるべきだ。
「もう死んでるんだ。三年前に」
「……それは失礼した。謝罪しよう」
テトアは慇懃に頭を下げた。
……こういうところは真面目なんだな。薄々気付いていたが性根は悪い奴じゃなさそうだ。
俺は笑顔を繕って手で制した。
「知るわけないんだ、別にいい。それより本題なんだが、もしかしてエンドリッケ大森林への帰郷中だったのか?」
話題を変える。テトアは図星とばかりに俺に疑懼の眼差しを送った。
「……なぜそれが分かった?」
「耳尖の民って聞いたから。シュツット街道に向かってるんなら、まあ帰郷だろと」
「なるほど」
シュツット街道を経てリュンネから北上したところにエンドリッケはある。テトアが歩いていた方角的にはそうだろうと考えていたがやはりそうらしい。
「しかし珍しいな。揶揄う意図は無いが耳尖の民って言えば滅多に森から出ないだろうに、どうして旅を?」
「話す義理は無いが、まあいいだろうさ。こういう機会も今後ないだろうからね、話してやろうゲボ野郎」
「ゲボってお前、俺のこと嫌いすぎだろ。ずっと思ってたが」
「人間の男は無条件で嫌いだよ。一々行動が浅ましくて、汚泥のような精神性を持ち合わせていて、下劣な思考を煮滾らせる脳味噌を備え付けた存在に対して、好意的になれる理由を探すのは徒労が過ぎると思うがね」
心底軽蔑するように白けた視線をぶつけられて、思わず面を食らいつつも漸く分かったことが一つ。
人間が嫌いっていうよりは、人間の男が嫌いって訳ね。見た目は少女と言えど妖精のような見た目をしたテトアだ、きっと俺が想像すら出来ないくらいに陰鬱な経験があるのだろう。
人間の男を憎しみ、女には何とも思わず。
だからエウテゥには大して悪態を吐かず、一方俺にばかり飾らぬ罵倒を吐き続けていると。
「つまらない話は置いておいてだね、私が村を出たのは目標があったからだ」
部屋を覆いつくさんとばかりに醸し出していた嫌悪感を引っ込めて、テトアは教科書の用語を解説するかのように淡泊に言った。
「目標? 見聞を広めるとかそういうのじゃなく?」
「私がそんな現を抜かすような奴に見えるのかい」
「まあ確かに」
思わず納得。
短い付き合いだが、テトアなら『見聞を広めるためだけに旅に出る? そんなミーハーで頭空っぽな行為にまさか私が魅入られてるとでも思ってるのかい、屈辱だよ。不敬だ。流石は人間、想像力が致命的に欠けているみたいだね』とでも言いそうだ。
「私はね、魔術で博士号を取りたかったんだ」
「博士号……というと魔術都市か。国外からわざわざあそこに行ったのか、凄いな」
普通に返事をするつもりが、俺自身の思考と裏腹に感嘆の念が込もってしまう。
魔術都市アルヌール。国土の南東部に位置し、皇都からもほど近い学術都市だ。魔術の神髄を極めんとする人間が国内外から集まる街で、魔術都市に三つある魔術研究大学はどこも入学試験に加え卒業までの進級試験も難易度が高いらしく、勉学に付いていけず魔術都市を去っていく学生も多いのだとか。
テトアもそんな落第した人間の一人なのかと思えば、首を横に振った。
「いいや行ってない。途中で色々……まああってだな……。私が行ったのはレーヴェまでだ」
目の前の少女の顔を見て、俺とエウテゥは思わず顔を見合わせる。
テトアの表情は寂寥感と悔恨が入り混じって、その瞳は細く開かれ綺麗な眉間に皺が寄った。何なら皮肉や罵倒すら飛んでこない始末だ。
俺やエウテゥが何か言おうとするのを防ぐみたいに、テトアは慌てて言葉を繋いだ。
「でもまあ観光旅行と思えば問題無い。矮小な人間と違って幸い私には寿命がたっぷりとあるからね」
「……そうか。まあ今日はゆっくりしてけよ」
誰がどう見ても強がりと分かる顔に、俺は何とも言えず話を濁した。
そうさせてもらうよとテトアは立ち上がると、宛てがった二階の一室に歩いていく。
小さな背中が見えなくなったタイミングでエウテゥが言う。
「それでどうされるんですかスノウ様? まさか明日になってすぐに用無しとばかりに放逐しませんよね? ね?」
言い方に妙な圧が籠ってるのを感じる。目も据わってるし。流石に気に入り過ぎだろ。
「別に放逐しねえって。ただまあ、もし居候になるのなら多少は働いてもらうがな」
「あんな幼いテトアちゃんを働かせるなんて人情無いんですか?」
「見た目通りの年齢じゃないんだろうから良いだろ別に」
「酷い! スノウ様が放逐したらテトアちゃんは私が保護しますから!」
勝手に宣言してエウテゥは食器を洗いに台所に引っ込んで行った。
俺はついつい首を傾げる。
今日会ったばかりの相手だというのに、生き別れの妹にでも再会したかの如く過保護すぎるわ俺の臣下。
……いやまさかテトアに風呂場で人心掌握とかされてないよな?
薄ぼんやりと冗談半分で考えつつ、俺も食器洗いを手伝おうと思い立ち上がった。