村に戻ってきたルーシィとハッピーは住民達に敵がここにやってくるのを説明する。
悪魔の姿にした犯人がこの村にやってくる。
そのことを知った村人は騒ついており不安であったが、逆に月を壊すよりも村の人達と協力して、これから襲ってくる犯人達(霊帝の一味)を捕まえて聞き出せる好機でもあった。
犯人も魔導師である以上、召喚士のルーシィと村人達で戦っても返り討ちに合う可能性もある。一方の村長は
「そんなことは聞いとらん!月はまだ壊せんのか!」
「だから、月を壊す必要もなくて…犯人さえ捕まえれば」
「月を!月を壊してくれぇぇっ!」
ルーシィの話を聞いておらず、月を壊してくれと叫んでおり、息子の事でまだ錯乱している。
「そうだっ…良い策戦、思いついちゃった!」
「悪い予感がする。思ったんだけど…犯人を捕まえるっていってもどうするの?」
「それを今からやるのよ!
開け!処女宮の扉…バルゴ!」
ルーシィは敵を捕まえるために何かを閃いたかのように、敵の迎撃に備えつつ罠を用意する。処女宮の鍵を使ってバルゴを召喚し、彼女には早速入り口に大穴を空けて仕掛ける。
しかし、
「…あのさー、オイラやっぱりルーシィって馬鹿かもって本気で思うんだ。こんな子供騙しな罠にかかるとはどうしても思えないよ」
「何よー完璧な落とし穴じゃない。
それにこの村の入り口は一つしかないでしょ?敵も当然そこから入ってくるってわけ」
地面を見れば誰にでもわかる。
藁が上をカモフラージュしてはいるものの、どうぞ引っかかってくださいと言わんばかりに置かれている。
「あい、こんな罠にはまるとは思えないな」
「私も…」
「恐れながら、自分も…」
「姫、私もです!」
「あんたもかっ!見てなさいよあんた達!」
ハッピーどころか他の住民も、召喚したバルゴさえもこんな分かりやすい落とし穴に誰も引っかからないという意見だった。
「ルーシィさん!
誰かがこちらにやってきます!」
「奴らだわ…門を開けて!」
門番をしている人が誰がやって来たことを報告して、そのまま門を開けようとするとそこには
「おーい!みんな無事か!」
「ええええっ⁉︎
こ、こっち来ないでぇぇっ!
止まってぇぇっ!ストォォォップ!」
ナツとグレイが帰ってきた。
敵が通ってくるはずが、まさか仲間が先にやってくるなんて思ってもない。ナツはルーシィの声に反応して止まったが、落とし穴だと気づかず足を踏もうとした瞬間、二人とも落ちてしまう。
「落ちる奴、いたんですね…」
「まさかとは思っていたんだけど」
「おいおいおい…こんな時にお茶目した奴は誰だコラーっ」
「ルーシィに決まってるじゃない」
「やっぱりかー!」
「違うのよーっ!」
この場所に落とし穴を作るとしたら、ルーシィ以外誰もいない。
「でも良かったよ!
ナツもグレイも無事で!」
「良くねーよ、グレイはダウンだ!
つーかあれ、氷が割れてる⁉︎
俺の炎でも溶かせなかった氷が…」
落とし穴に落ちたおかげでナツの身体を固めていた氷は破壊され、結果的にナツを助けている。
「おそらく術者との距離が離れたため、魔法の効果が弱まったのでしょう」
「さ、作戦通りだわ!でも、結構時間が経っていたのに来るの遅いわね?
ナツが先に着くなんて」
「そう言えばそうだな」
落とし穴に落ちたナツ達を村の人達で救出する。グレイは負傷しているために助けが必要だったが、ナツは身動きが取れるために自力で出た。
「よし、チャンスだわ!
急いで穴を隠すのよ!」
「またあの落とし穴やる気か⁉︎」
どうにかできると思っているルーシィだったが、ナツでさえもあんな落とし穴を仕掛けるのは気が引いていた。
「あ、あれっ…ネズミが飛んでる⁉︎」
「なんだあのバケツは!」
「空って…落とし穴の意味ないじゃないの!」
ネズミが持っていたバケツから、緑のゼリーがこぼれ落ちる。
「ゼリー?」
「ルーシィ!」
ナツがルーシィを捕まって、助ける。ゼリーが地面に落ちただけで、その場所が溶かされてしまった。
「まさか、あのバケツ一杯にこれが入っているのか⁉︎」
「アンジェリカ、おやりになって」
「キュー!」
ネズミが空を飛び、毒ゼリーの入っているバケツを村にばら撒く。周囲は柵があるため、逃げる場所はあの出入り口しかない。
入り口のそばにいない村人達には、逃げ場がない。
「みんな!村の真ん中に集まれ!
ハッピー!」
「あいさー!」
ハッピーがナツを捕まって空を飛び、両手に灯した炎を重ねて放つ火龍の豪炎で毒液を爆散させた。村は半壊したものの、村人達は全員無事で済んでいる。
「村がみんな溶けちまった」
「ボボの墓が…」
アンジェリカに降りた三人は村だけじゃなくナツ達を直接始末することになる。ボボの墓も、村にあった家も溶かされてしまった。
「霊帝様の敵は駆逐せねばなりません。
せめてものの慈悲に一瞬の死を与えようとしたのに…どうやら大量の血を見ることになりそうですわ」
「村人約50、魔導師2…15分ってとこか」
やってきたのはゴスロリの格好をした紫色の髪をした少女、青い服と太い眉の人、ケモ耳の半裸にジーパンの格好をした男二人がやってくる。
「行くぞ!」
「俺もやるぜ…」
「グレイっ⁉︎」
ナツとルーシィ、ハッピーは戦えるが、その背後にいるグレイも立ち上がる。
しかし、
「お前は行け、足手まといだ」
リオンとの戦いで怪我を負っているが、無理をしている。彼には戦う意思はあったが、身体が悲鳴をあげている。
「ナツ…舐め「怪我人は寝てりゃ良いんだよ」」
グレイはまだ戦える状態ではなかった。彼を気絶させ、村人に安全なところへ運ぶよう任せる。
「グレイをお願いね!」
「任せてください。さぁいくぞ!」
「させると思って?アンジェリカ!」
アンジェリカとゴスロリの少女が村の人々のところへ向かおうと飛行して向かう。ルーシィはそのまま飛行しているアンジェリカの足に飛びかかり、ひっついていることに気づいていなかった。ナツとハッピーに馬鹿だと言われつつも、足をくすぐって止めようとする。
少女はそれで止まるわけがないと思っていたが、アンジェリカはそれに反応し、飛行をやめて一緒に墜落していく。
「潰されてねぇかな…」
「潰されてたら死んじゃうよ
オイラ、ちょっと見てくる」
「あぁ、頼んだ。
こっちは俺が片付けておく!」
まずナツは半裸の男に頭突きをし、青服に炎を吐く。犬の方は頭をクリーンヒットしたが、炎は障壁で防がれた。
「…なんて凶暴な炎だ。まさか、噂に聞くフェアリーテイルのサラマンダーとは貴様のことか?俺達もかつては名にある魔導師ギルドに所属していた。
岩鉄のジュラと言えば聞いたことはあるか?」
「知らん、どこのギルドだとか、誰の仲間だとか関係ねぇんだよ。お前達は依頼人を狙い、仕事の邪魔をした…つまりフェアリーテイルの敵。
戦う理由はそれで十分だ」
「…トビー、手を出すな。
こいつは俺一人でやる」
トビーは頭突きは受けても、平気な顔で起き上がっている。
「波動!」
「こんなもの、ぶっ壊して…⁉︎」
魔法を通さぬ魔法を手にしている。
波動は、炎をかき消していく。
「ほぉ、良く性質に気づいたな?
我が手に放つ波動は全ての魔法を中和する。
魔法を通さぬ魔法。
俺の力は対魔導師の仕事専門…その意味分かるよな?
全ての魔導師は俺の前では無力だからさぁ!」
それでも、ナツは波動の中に手を突っ込む。
「言ったはずだ、全ての魔法はかき消さ…⁉︎」
「じゃあ魔法じゃなきゃ良いんだろう?
大したことはねぇじゃねぇか!」
魔力の渦に素手で突っ込もうとする。
魔法も使えなければ、渦によって体力が徐々に減っていく。
「貴様…生身の身体で何を考えている、消し飛ぶぞ?」
「身体ごと入っていくのかよ⁉︎」
「それで、ここからどうする気だ?
波動の中じゃ魔法は使えないぞ!」
炎も通さない、渦に突っ込み見続ければ後は自滅するしかない。
しかし、炎が使えないのは波動の中であればの話。
「外なら使えるんだろ!
アドバイスサンキューな!
魔導の外で炎を放出している。波動によって魔法はかき消されても、速度を止めることはできない。
「ま、まさかっ…貴様、素手の力を上げるために炎をブースターに」
「火龍の炎肘っ!」
肘に炎を放出し、その勢いと共にルカの顔面を殴り飛ばす。彼は一撃で吹き飛ばされ、再起不能となった。
「お前スゲーな」
「次はお前にもスゲーのを食らわすぞ」
そう言いつつ、トビーは自慢の爪を見せる。
「喰らわねーよ!
てゆうかルカよりツェーんだぞ俺!
毒爪メガクラゲ、この爪には秘密が隠されている!」
「毒か?」
「がーん!なぜ分かった…とんでもねぇ魔導師だぜ」
とぼけるだけでも誤魔化せれたのに、オーバーリアクションをしたせいで自分から相手に正解を出している。
それ以前に、武器の名前に毒と言っている時点で秘密も何も既にバラしていた。
「うわ、どうしよう。バカだ…」
「バカいうんじゃねーよっ!」
馬鹿と言われたことにキレたトビーはナツに攻撃する。両爪に感電効果を持つ効果を受けてある。触れただけでも、感電され再起不能は免れない。
そう言いながら襲いつつ、彼自身の爪の脅威性について説明していく。
だからナツは、
「なぁ、ちょっと待ってくれ?
ここに何かついてるぞ?」
「ビィリリリリリッ!」
「やっぱバカだ」
トビー自身の持っている武器で、自滅するようにする。
爪がおでこに当たり、感電する。二人を相手にしていたとはいえ、戦いは呆気なく終わった。
*****
ルーシィの相手は、シェリーという魔導師だった。召喚したタウロスを操られ、一時は苦戦を強いられたが、互いの同意による強制閉門で精霊を帰すことで何とか状況を打開できた。
シェリーは精霊を操るのをやめ、今度は岩を人形にして襲っている。
「あらあらおかしなこと、それも愛。
それで、いたちごっこ、壊す?
この岩を?」
「ちょっと待って⁉︎
この岩を壊せる精霊いたかしら」
戦闘できる精霊がいたとしても、木ならともかく岩を破壊できる力は持っていない。
「逃してはダメよロックドール。
あの小娘を追いかけなさい!」
「何が小娘よ!あんただって似たようなもんでしょうがーっ!」
ルーシィはいたちごっこと煽っていたが、かといって岩を壊せる精霊もいないため逃げるしかなかった。
逃げ場のない海辺へと迫られてしまう。
(海辺、これならアクエリアスを呼べるけど…
水じゃ岩は壊せない…私まで巻き添えにするし。巻き添え…?そうか!)
「開け!扉、アクエリアス‼︎」
アクエリアスを召喚し、やっつけるように言うものの態度悪く言うことを聞かない。
強力な精霊を呼び出したことで、シェリーは魔法で操ろうとする。
「人形劇、操り人形っ‼︎
さぁ、そこの女を消して差し上げて!」
「あ"ぁ?
言われなくとも、やってやらぁぁぁっ‼︎」
最終的にはルーシィがアクエリアスを召喚し、操っても諸共攻撃に巻き込まる。
大波が二人を襲い、巻き込まれていく。
アクエリアスがルーシィの言うことを聞かないのはよくわかっている。それを知らなかったために、操り人形にしようとしたが仇となった。
「どう?私だってフェアリーテイルの魔導師なんだから!」
「この私が負けるなんて…アンジェリカ、私の仇を討って」
「えっ⁉︎こいつ、人形じゃなかったの⁉︎」
ルーシィは疲れて足が動けず、押しつぶされそうのなったところを助けてくれた。
助けた人物はエルザだったが、彼女の目は怒っている顔をしている。
「エルザ…さん…」
(そうだった、私達ギルドの掟を破って勝手にS級クエスト受けたんだった)
「…ルーシィ、私が何故ここにいるか分かってるか」
「連れ戻しに…ですよねー」
「ルーシィ!良かった、無事」
心配で来たハッピーも、声を聞かれて捕まってしまう。尻尾を握られ、逃さないようにしっかりと掴んでいた。
「ナツはどこだ」
「ちょっと聞いて!勝手にきちゃったのは謝るけど…この島は大変なことになってるの!
氷漬けの悪魔を復活しようとしている人がいたり、村の人達はそいつらの魔力で苦しめられたり…とにかく大変なの!私達、何とかこの島を救ってあげたいんだ!」
「…興味はないな」
「じ、じゃあせめて…最後まで仕事を」
「違うぞルーシィ。貴様らはマスターを裏切った…ただで済むと思うなよ」
(こ、こわーっ…)
エルザはルールを破ったことに怒り、剣を向ける。
三人をナツとルーシィの二人で撃破した。あれだけ大騒ぎしても嶺は出てくることはない。何故なら彼女は
(ねむい…zzzz)
その日は耳栓をつけて、ぐっすりと寝むっていた。その為炎の爆音に気づくことも、戦いの音に気づくこともない。
隠れていた場所でぐっすりと眠っている。
結局敵のせいで森にある食料も見つからなかったため、手持ちに入っている非常食用のみ食べて眠りについた。
*****
次の日
「ここは、何処だ?」
「よかった、目が覚めましたか?
村から少し離れた資材置き場です。昨夜、村が無くなったから…ここに避難してるんです」
「村が…なくなった?」
グレイが目を覚ますと、女の人が横で看病をしている。既に朝になっており、村が消されて資材置き場にいる。
(リオンの奴、本当にやりやがったのか⁉︎)
仲間に村を消して来いと指示していたことを思い出す。あそこにあった建物は跡形もなく消滅してはいるな、村の住民が生き残っていることに安堵する。
「でも、ナツさんやルーシィさんのお陰で怪我人がいなかったのはせめてもの救いです」
「あいつらも、ここに居るのか?」
「ええ、グレイさんの目が覚めたら、テントに来るように伝えろと。
あちらの大きなテントでお待ちです」
グレイがテントの中に入ると、エルザが鬼の形相で待っていた。
「…遅かったな、グレイ」
「エルザっ⁉︎」
その中には三人が待っていた。
ハッピーとルーシィはエルザに捕らられ、二人とも縄に縛られている。無謀なことをしたナツ達に、エルザは座りつつ怒っていた。
「大体の事情はルーシィから聞いた。
お前はナツ達を止める側では無かったのか?
呆れてものも言えんぞ」
「ナツと嶺は?」
「それは私が聞きたい」
エルザ達は資材置き場でグレイの目が覚ますのを待っていた。
「村で霊帝の手下達と戦っていた筈だと思っていたはずなんだけど…行ってみたら誰もいなかったの。
ナツのことだから大丈夫だと思うけど。
それで取り敢えずグレイのところに連れてけって…エルザに言われて」
「オイラも空から探したんだ。
そしたらこの資材置き場に人が集まっているのを見つけたんだ。
でも、ナツも嶺も見てなかったよ。
二人ともどこに行ったんだろう…」
特に嶺に関しては長いこと姿が見えない。ナツはまた会うことになるが、嶺は長いこと帰ってこない。
「グレイ、ナツとレイを探しに行くぞ。
見つけ次第、すぐに撤収する」
残りはこの島にいる二人を探し出して見つけ次第、帰ろうとしている。
そのことにグレイが驚く。
「何言ってんだよエルザ⁉︎
ここにきたってことは村の人達の姿を見ただろ⁉︎それを放っておけっていうのか?」
「それが何か?
私はマスターから連れて来いという指示で動いている。それ以外のものには興味はない。
そもそも、依頼書は各ギルドに発行されている。正式に受理された魔術士に任せるのが筋ではないのか」
S級に行くと行ってもギルドマスターの許可なく勝手に依頼に行ったことは、ギルドの掟を違反したといってもいい。
エルザの言い分は何も間違っていない。
「見損なったぞ…」
「なんだと?お前まで掟を破るのか‼︎」
エルザは空間から剣を取り出し、グレイの首に向けて脅す。それをグレイはエルザの剣を掴み、心臓に向けた。
彼の胸元にはフェアリーテイルの印が刻まれている。彼にはこの任務だけは、掟を破ってでも、命を賭ける覚悟と信念が確かにあった。
「勝手にしやがれ。これはオレが選んだ道だ…やらなきゃならねぇことなんだ‼︎
最後までやらせてもらう…斬りたきゃ斬れ」
グレイはそのままテントに出る。部屋がどんよりとした空気が漂い、二人の空気にプルプルと震えている。
エルザはルーシィとハッピーの縄を斬る。
「行くぞ、これでは話にならん。
全ては仕事を片付けてからだ」
彼女はグレイの覚悟を見て、まず仕事を片付けてからにした。
「エルザ」
「勘違いするなよ、罰は受けてもらうぞ」
「「はい…」」
落ち込みはしつつも、連れて帰るのは仕事を終えた上でということとなった。エルザも釈然とはしないが、グレイの覚悟を見て剣を収めることとなった。
*****
嶺が目を覚ますと、周囲を見渡す。
(…起きた起きた。
視線も感じてないし、撤退したのかな?)
嶺が眼を覚ますと、敵の気配は無くなっていた。敵は見つけられずに既に諦めたのか、何処かに潜んで気を伺っているのか。
エルザがルーシィ達と既に合流し、この島に来ている事はまだ知らない。
「ん?あれ…なんか神殿が傾いてる?」
外を眺めていると神殿が傾いていた。昨夜吹き出された炎といい、あんな大袈裟に破壊出来るとしたら、その神殿にいるのはナツしかいない。
殺者の楽園がいない今、少なくともナツと合流できるチャンスがあった。
「よし、行くとしますか」
嶺とナツ達と合流するのは、神殿を見つけてもまだ時間がなりそうだ。何故なら
(あっれー…神殿の中って、どうなってたっけ?)
神殿の中に入ったことはなく、建物が半壊している状態。ナツが盛大に暴れない限り、どこにいるかも分からない。
ナツ達も敵もマップもない状態、そんな中で神殿に向かおうとしつつ、歩きながら道に迷いそうで困惑していた。