しばらくすると神殿の揺れと耳鳴りが止まった。
デリオラを止める事に成功したのか、外は激しい水の音が聞こえるだけだった。
(…ここに留まるかー、また道迷いそうだし)
地下へ向かっても、また迷子になりそうだと待つこととした。グレイならば嶺のいる場所を知っている筈であり、しばらくするとナツ達がやってくると理解する。
「あ、来た」
予想通りと、グレイを含めナツ達も嶺の元にやって来る。
「おかえりー。こっちは終わったよー」
「あの男はどうしたんだ?」
「風魔法で海の彼方まで吹き飛ばしたからどこに行ったか分からない。
デリオラの件は解決した?」
嶺はデンドロを始末したとは言わず、海の彼方に吹き飛ばしたと誤魔化す。敵であるデンドロ本人は灰となり、武器も粉砕して消えた以上、誰も確認することはできない。ナツ達にはそう言っておけば納得してくれるかと思っていた。
「まぁな。つーか、リオンのこと見とけって言ったろ」
「なんか戦いに集中してたら、いつの間にかいなくなってた」
地下で氷漬けにされたデリオラの事も解決し、エルザとも合流している。
「今まで何をやっていた。この島の村に着くまではナツ達と一緒にいたはずだぞ」
「そうだよ!ずっと心配してたんだよ!」
「あの遺跡で俺と出会えたのも、ある意味偶然だったしな」
エルザ達にいったいどこで何をしていたのかと、聞かされている。中々合流ができず、嶺と離れている間にナツ達は目的の為に村を消そうとしたリオン達を相手に戦っていた。
「うーん、なんか道に迷っていた?」
「えぇ、何で疑問なの…?」
「お前って方向音痴だったのか?でも俺のように頂上まで登ってたら、すぐ村が何処にあるか分かってたのによ」
ナツでも場所が分からなければ上から見てどこに村があるか探している。登って村を確認せず、神殿の周りにある森の中でずっと彷徨っていた。
「あー、その手があったか。地図もないし、一人でサバイバル生活してたよー」
「いやいやいや…」
「なんか嶺って面白れーな!」
リオン本人に呪いのことを聞いても知らず、
村の人達と会った事はない。彼からは村の連中が何かを隠してると忠告をされていた。
まだ、S級クエストは終わってない。
「へー、じゃあまだ終わっていないんだ」
「デリオラの事は解決しても、まだ依頼はまだ終わっていない。
資材置き場へ向かうぞ」
「え、資材置き場?村じゃないの?」
「お前のいない間の事も移動しながら説明する。付いて来い」
移動しながらナツ達が嶺のいない間に何をやっていたか、村で何が起こったかを説明する。
*****
資材置き場に到着したものの、人がいなくなっている。
「資材置き場所についたけど、誰もいないね」
「村が無くなったのに、みんなどこに行ったんだろう…」
アンジェリカが毒の液体をばら撒かれたことで村が壊滅し、この場所に避難されたはずだったが、誰もいない。
あたりを見渡すと、村の1人が資材置き場でナツ達の帰りを待っていた。
「みなさん、ご無事でしたか!
とにかく村まで急いでください!」
村に移動すると、壊れていたはずが元どおりになっていた。毒で消し飛ばしたと話で聞いていたはずが、何もなかったかのようだった。
「ボロボロになってたはずの村が…⁉︎」
「まるで時間が戻ったみてぇだ」
「え?毒液で消されたと話に聞いたんだけど」
誰が村を元に戻ったかは分からなかったが、壊された痕もない。
まるで、ナツ達が最初に村に来た時と同じようになってた。
「村を戻してくれたことには感謝します…ですがいつになったら、月を壊してくれるのですかな」
「あ、村長さん」
「えーっと…月は」
村長が話をかけ、村とボボの墓も元に戻ったことに感謝したが、いつになったら月を壊わしてくれるのかと聞いている。
ルーシーは困り気味だったが、エルザが答える。
「月を壊すのは容易い」
(あ、壊せるんだ…ひょっとしてエルザって大気圏とか突破できる武器でも持ってるのかな…)
「おい、とんでもないことしれっと言ってるぞ?」
「それがエルザ様です」
月の破壊が出来る事に、嶺は内心驚いていた。
「しかし、その前に確認したいことがある。
皆を集めてくれないか?」
村の人達は門まで集合させ、これまで起きた事をエルザが村のみんなの前で説明する。
話では三年前から月の光が出ている間だけ変貌した姿へと変わっていたこと。しかし、この島では毎日のように紫の月を集める儀式を行なっており、一筋の光が見えていたはずだと。そう説明しつつ、
「あ、落とし穴まで復活してたの⁉︎」
「今キャンって」
「私のせいじゃない…私のせいじゃない」
(ナツ達って落とし穴まで作ってたんだ)
嶺は一体誰があの落とし穴を作ったんだろうなと思いつつ、エルザはそのまま話を続けた。
この島で話をまとめるに、遺跡もまた怪しい場所である事も。
「分からんな?何故、遺跡の調査をしなかった」
「い、いやっ…それは村の一代であの遺跡には決して近づいてはならんと…」
「でもそんなこと言ってる場合じゃなかったはずですよね?犠牲者も出てるし、ギルドの報酬の高さから見ても」
「…村の存続が危うい一大事なら、月の破壊と併せて調査が出来ない理由もあったから依頼を出したの?」
村の一同が下を向いて、だんまりする。
エルザ達の質問に村長は額に汗をかきつつ、答えづらくなっていく。
「…本当のことを話してくれないか?」
「そ、それがワシらにもよく分からんのです。
正直、あの遺跡は何度も調査をしようとしていました。皆は慣れない武器を持ち、ワシは揉み上げをバッチリと整え、何度も遺跡に向かいました。
しかし、近づけないのです。
遺跡に向かって歩いても気がつけば村の門…我々はあの遺跡に近づけないのです」
「俺達は遺跡に調査へ行こうとしても、気がつけば村に戻らされてしまう…」
「どういうこと?近づけないって…」
「黙ってましたが…本当なんだ。
遺跡には何度も行こうとした。
だが…たどり着いた村人は誰もいないんだ」
彼らが何故遺跡に行こうとしたが、近づくことが出来なかったこと。その返答を聞き、エルザの中でこの呪いの仕組みを理解した。
呪いの正体を。
「やはりか…ナツ、付いて来い。
これから月を破壊する」
(あ、本当に破壊するんだ)
彼女は換装し、月を壊す装備へと換装する。彼女の持つ鎧の効力は投擲力を上げる能力、右目にある槍は闇を退ける破邪の槍を所持していた。
しかし、彼女だけの力では月までは届かない。
「私が槍を飛ばし、お前の火力でブーストさせる」
「任せとけ!」
ナツが石附の部分を殴り、彼の火力を合わせて槍を飛ばした。槍はロケットのように空高く打ち上げられ、次へ向かって行く。
(いやいや、あれで月を壊せるのって流石に無理じゃ…)
「まさか本当に月が壊れたりしないよね」
「届けぇぇぇぇっ‼︎」
嶺の考えでは、その火力程度のものでは大気圏を突破することはできない。
しかし、月に亀裂が入った。
「あ、月にヒビが入ってる」
「「嘘だぁぁぁぁっ⁉︎」」
紫の月は崩れ、本物の月が照らし出す。
光が島を照らし出し、割れた破片は空に落ちながら消えていく。
「割れたのは月じゃない…空が割れた⁉︎」
「どうなってんだ⁉︎」
「この島は邪気の膜で覆われていたんだ。
それが結晶化して空に膜を貼っていた。
月は紫に見えていたというわけだ…そして、邪気の膜は破れ、この島は本来の輝きを取り戻す」
「でも、元に戻ってない…」
「いいやこれで元どおりなんだ」
あの月の魔力は彼らの記憶を犯していた。
その影響を受け、夜になると悪魔になってしまう間違った記憶を犯していた。
「えっ、という事は…」
「そういうことだ。
彼らは元々悪魔だったのだ」
「ええぇぇぇっ⁉︎」
「あー成る程。エルザの言葉通りに月を粉砕するのかと思ってたけど、そういうことだったんだ」
「まぁ本当に月を壊したら壊したで俺達だって困るし、これで良かったんじゃね?」
「うん、そうだねー」
彼らは元々悪魔であり、人間に変身できる力を持っている。人間に変身できる自分を本来の姿だと勘違いしていた。
記憶障害は悪魔にだけ起こり、遺跡に近づけないのも、彼らが人間であり聖なる場所に近づけないのも納得できる。
「君達に任せてよかった」
「あ、生きてたんだ」
「俺は一人だけ記憶が戻ってしまって、村のみんなが怖くって」
いなくなっていたはずのボボが、空を飛んでいる。村長は、死んだはずの息子が目の前で生きていることに驚く。
「船乗りのおっさんか⁉︎」
「ボボっ…」
「だってオメェ…」
村のみんなも死んだはずのボボが生きているなんて思ってもなかった。呪いの島に連れて行ってくれたボボが生きていたナツ達も、目を丸くしている。
彼は、元気よく空を飛んでいた。
「胸を刺されたくらいじゃ…俺達は死なないだろ!アッハハハハ!」
「あ、アンタ…船の上から消えたろ」
「あの時は本当のことが言えなくてすまなかった‼︎
俺は1人だけ記憶が戻っちまって、この島を離れてたんだ。自分達を人間だと思っちまってる村のみんなが怖くってよ」
「ぼ…ボボ〜ォォォッ!」
「やっと正気に戻ったな、親父!」
他の村も翼を飛翔し、悪魔達は盛大に喜びを上げる。その光景は悪魔の祝福でもあったが、天使のようにも見えた。
*****
事の原因が解決し、悪魔の宴会がよういされる。ナツ達も加わり、仲間も魔物との会話を、食事を楽しんでいた。
楽しんでいる中、嶺のポケットに入れてある携帯が振動している。
「ごめん。すぐに戻るから」
嶺がテントの裏に向かい、携帯をつけると、電話ではなくメールで連絡が来ていた。
(あ、報酬きてる。今度は物語のクリアか)
殺者の楽園による討伐も合わせて、物語の進行もまた報奨金を得られる。ただ、クリーク戦とは違い得られるお金は少ない。
「…ん?」
嶺が自分の席へ戻ると、騒いでいた宴が何やら静かな雰囲気になっていた。
「何の用だ」
「霊帝リオンは、お前達にやられて動けそうにないのでな」
「私達が借りを返しに来たのです」
エルザの返事から、霊帝の部下であることは理解できる。借りを返しに来たというのは、襲うためにやってきたのかと多少身構えていたが、村の上空から毒を撒き散らせて襲撃したのにわざわざ正面から向かってくるのが不自然でならなかった。
(…村やナツ達を襲うにしては、なんか妙だなー)
「誰あの二人は?」
「村を襲った連中だ」
嶺にとっては初対面であり、グレイに確認する。ナツ達がリオンと話をつけているのなら、何故ここにやってきたのだろうかと考える。
「んーでも、リオンと話はつけたんだよね?なら戦う必要は」
「そうよ、リオンに聞かなかったの⁉︎」
「それとこれとは別だ」
「けじめをつけさせて頂きます」
「面白ぇ!」
ナツ達は立ち上がり、村を守るために前に出る。しかし、
「待ってくれ!これ以上、アンタ達に頼りっぱなしにはできない!」
「俺達の村は俺達が守らないと!」
村の人達も戦えると立ち上がる。武器を持ち、呪いに怯えていた村の人も戦えると決意をもっている。
「その心掛けは感心だ。
だが、ここは私に任せてもらおう」
「フェアリーテイルのティターニア…海岸ではお世話になりましたね」
「相手にとって不足なし…」
「気をつけて!そっちの女は岩と木を操るわ!」
「そっちの変な眉毛は魔法を中和しやがるぞ!」
ナツもルーシーは以前二人と戦い、そして勝っている。魔法の能力を聞いたエルザは2人に突っ込み、素早く攻撃を繰り出した。
「なるほど。ならば、技を出す前に片付けるだけのこと!」
(…敢えてエルザの攻撃を甘んじて受けてるのかな?二人とも戦う気が感じられないし)
二人ともただ突っ立っているだけで、防ぐ素振りすらない。
その攻撃を甘んじて受けていた。
「お見事ですわ…」
「流石だ、とてもかなわん」
「まさか…あなた達ひょっとして」
二人とも襲ったわけでもなく、謝罪という形でけじめをつけに来た。
「霊帝様から話は聞きました。皆さんのおかげで、私達もデリオラへの憎しみから解き放たれましたわ」
「こんな事で、償いになるとは思わんがな…せめてものけじめのつもりだ。俺達は幼い頃街を滅ぼされ、家族も友人も焼き払われた。
だからといって何の関係もない人達を迷惑をかけて良いわけがない…」
「今度こそデリオラを倒すという霊帝様についてきたのです。ですが、デリオラを憎むあまり、自分達がデリオラと同じになりかけていたのです。
私達は忘れていたのですわ…『愛』を」
(…何で愛?)
他の村の人達に迷惑をかけていいはずがない、デリオラと同じになっていたかもしれないと反省している。それを見てナツは今まで敵だった二人のことが気に入り、宴に入れるよう歓迎した。
「よーし!お前らも一緒に飯を食おう‼︎
楽しくやるぞ!
さぁ、盛り上がるかーっ‼︎」
デリオラの決着も、村の呪いも宴と共に無事に終えることとなった。
*****
宴が終わり、朝となる。
リオン達の仲間である二人は既に帰っており、ナツ達はエルザが村長と依頼の件で話をしているのを待っていた。
「な、何と?報酬は受け取れない…にょ?」
「気持ちだけで結構だ。今回の件はギルド側で正式に受理された依頼ではない」
報酬を受け取れない理由は、ナツ達が正式な受諾もせず、勝手な行動で向かおうとしたからだ。ギルドへの報酬を受け取ることはできないことに、村長は報酬ではなく友人へのお礼として渡すと上手くエルザに渡そうとする。
しかし、
「…そう言われると拒みづらいな。
しかし、これを受け取ってしまうとギルドの理念に反する。
追加報酬の鍵だけありがたく頂く事にしよう」
「「いらねぇぇっ!」」
「いるいるぅぅぅっ‼︎」
「まぁこればっかりは仕方ないね」
高額の報酬を得られないことにナツとグレイは悲観しているが、ルーシィは目的のものを手に入れたことで喜ぶ。嶺の方はあくまでナツ達の護衛と楽園の討伐が目的であり、呪いの島に一緒に行ったのも恩を返すためにやってきただけで、受け取れなくても何ら問題はなかった。
「ならせめてハルジオンまで送りますよ!」
「いや、船は用意できている」
エルザは海岸を指差すと、そこには巨大な船とドクロマークの帆を上げて待っている。
船長とバンダナをつけた海賊が手を振って待っていた。
「わー、まさかの海賊船か〜」
「まさか強奪したの⁉︎」
「姉さーん!」
「何やら気が合ってな」
エルザが男気のある海賊達と気が合うのも納得がいく。船を手配する必要も、この船に乗ることでその必要がなくなった。
「舎弟の皆さんものってくだせぇ!」
「舎弟って…」
「まぁ、無事に帰れるなら」
嶺達は船に乗り、呪いの島を後にハルジオンまで向かう。帰っていく嶺達に、悪魔達はお礼の言葉を送る。
「皆さーん!ありがとうございまーす‼︎」
「いつでも遊びに来いよー!」
「フェアリーテイルサイコーっ!」
ナツは相変わらず船酔いし、ルーシーも、悪魔達が見えなくなるまで手を振っていた。
「元気でねーっ‼︎」
S級の報酬は鍵だけではあったが、グレイがデリオラとの因縁にも無事決着をつけた事も大きな成果だった。
*****
海賊船から降り、ハルジオンの港に到着へとナツ達は到着する。
「んーっ、帰ってきたぞ!」
「来たぞ!」
羽を伸ばし、のんびりとギルドへ歩いて帰る。
黄銅十二門の鍵は、世界中に12個しかない。
S級クエストではなく勝手に呪いの島へ行ったことでお金が手に入らなかったが、精霊を呼び出すルーシーにとって貴重な鍵をまた一つ手に入れたのだ。
「正式な仕事ではなかったんだ。
これぐらいはちょうど良い」
「そうそう!文句言わないのって…あれ?所で嶺さんは」
「えーっと、これナツ達に渡しておいてって」
嶺は、ハッピーの手持ちに書き置きを残してある。船を降りる前、ハッピーにあるものを手渡した。
紙の内容は
【ごめん、ちょっと急ぎの用事を思い出したから先に帰ってて。
明日にはギルドに行くから】
謝罪の文書を残し、嶺はギルドには帰らず用事があるといって別々に別れる事となった。
「嶺はギルドには帰らないのか。
で、今回もらった鍵はどんなのなんだ?」
「人馬宮のサジタリウス!本当に、あの島に行った甲斐があったわーっ」
「呑気な事だな、まさか帰ったら処分が下ることを忘れてるわけではあるまいな?」
「⁉︎ち、ちょっと待って。それってもうお咎め無しになったんじゃ…」
「馬鹿を言うな、お前達の行動を認めたのはあくまで私の現場判断だ。
罰は罰として受けてもらわなければならん。
今回の件については概ね寛容してもいいと思っている。が、判断を下すのはマスターだ。
私は弁護するつもりはない。
それなりの罰は覚悟しておけ」
「それじゃあ今いる私達三人が処分を…」
「そういう事になるな。
嶺は後からになりそうだが」
「マジかぁぁっ‼︎」
しかし、帰っていく彼らの平和な会話も束の間だった。周囲の住民がナツ達を見て何か騒ついていた。
「…なんか、注目されてないか?」
「⁉︎ねぇ…あれって」
ギルドの様子に驚いたルーシーが、指を刺す。ナツ達も同じ方向を見ると、信じられない事が起きていた。
「俺達の、ギルドがっ⁉︎」
「何があったというのだ…」
嶺の知らぬ間にナツ達の帰る場所だったギルドが、壊されている。崩れはしなかったが、家と同じくらいの高さ程の鉄棒が所々に突き刺さっている。
「ファントムって言ったか」
「悔しいけど…やられちゃったの」
そして、ナツ達のいない間、ファントムレイブンというギルドがちょっかいを出してきたことも。
帰ってもまた、厄介事は起こっていた。
*****
一方嶺は、正輝達のいる魔法少女の世界に、そして敵の陣地へ転移されている。任務が終わって早々、考えもせずに押した自分を反省していた。
「ハァ…何でこんなことに…無用心に押した私も私だったけど」
数分前、海賊船で携帯を確認すると、正輝から救助要請のメールが送られている事に気づく。
大きく重要な依頼と表示されていた。
(なにこれ?)
そのままタッチすると、転移のカウントダウンが表示されていることに驚く。
(は、えっ…ヤバ、どうしよ)
「?どうしたの?もうすぐ着くよー?」
「えーっと…あ、これ使おう。
ナツ達に渡しといて!
明日にはギルドに帰るから!それじゃ‼︎」
「え?ちょっとま」
運良く近くにいたハッピーが声をかけると、
文書を渡したお陰で、何も言わずに去る形にならずに済んだ。
すぐにグランディがメールで用意してくれた形式のメッセージカードを具現化、そのままハッピーに直接手渡した。
(はぁー…こうなることを予測してたんだろうなー。あとでグランディに何かお礼しよう)
理由も言わずに何処かに行くよりは幾分かマシだろうと、前向きに考えてメールの内容を再度確認する。
・殺者の楽園に襲われている巴マミを救出せよ
救助要請には地図も用意され、そこに向かうようにされている。見つからないところに転移し、移動先や周囲のマップを用意してくれる親切なシステムだった。携帯のマップ機能に目的地が表示され、その場所へと移動することとなる。
(…命が脅かされてるなら、尚更急いだ方がいいかもしれないかな)
*****
パソコンや映像を用いた遠隔操作系の能力を相手に、マミの心は崩れかけていた。
ーーーどうして私に連絡をしなかったの、正輝達はそんなにも私のことを信用出来ないの?
『お前、死ぬ所だったぞ』
結果的にお菓子の魔女に不意を突かれたところを二人に助けてもらったが、帰って彼女の心に違和感を抱いてしまった。
正輝は巴マミよりも、暁美ほむらを信用した。
彼女は今まで魔女を倒しつつ市民を守ってきたが、彼女の活動が必ずしも成功ばかりとは限らない。
子供の悲鳴、助けられなかった人の叫びが彼女を追い込ませる。
『お前だけ生き残った』
『死にたくない、お姉ちゃん助けて』
そして、トドメも言わんばかりに【魔法少女の真実】を突きつけた。
映像にはキュウベェが写り、語り始める。
ソウルジェムが少女の魂を形状させたものであること。
自分もいつかは魔女になってしまうこと。
キュウべえが、今まで騙していたことに。
それらを知った彼女は酷く嘆き、自害しようとマスケット銃を髪飾りにさせたソウルジェムに当てる。
(後輩を危険な目に合わせて、見限られて…まるで、助けられなかった頃の私と同じ。一人じゃないって喜んで…舞い上がって、危うく命を落としそうにもなって…でも、もう生きてても仕方ないもの。
この身体が化け物なら…ソウルジェムが魔女を生むなら救いなんてない…みんな死ぬしかないじゃない。
騙された馬鹿な私は、結局一人ぼっちだった。
二人も恨まれて当然のことをした…なら、もういっそ。
ごめんね…)
そう謝りながら、今まで助けられなかった人達、魔法少女に巻き込んだまどか達のことを思って自らの命を断とうとする。
敵は彼女の不幸を嘲笑う。
魔法少女の特性を知り、絶望に陥す。彼らは正義側の救済を阻害させる事が目的であり魔女化しなくとも自害すれば、それで十分だった。
彼女は涙を飲んで、そのまま引き金を引こうとする、その時だった。
「とうちゃーく」
「ごほぁ⁉︎」
敵がマミに注目している間に、横から嶺が不意打ちをする。彼が周囲を見ていなかったのか横腹に直撃する。
「…え?」
「ん、なんか蹴った?」
唐突に出てきた女の人に、巴マミはマスケット銃を手放し、彼女の反応に開いた口が塞がらなかった。