Justice前章:Labyrinth 嶺編   作:斬刄

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32話海上の塔

エルザの匂いを辿って、ナツ達も船に乗って移動する。嶺の予測通りナツは船酔いし、匂いを辿ろうにも本当に合っているのか分からない。

 

「…ナツ、本当にこっちで合ってるの?」

「オメーの鼻を頼りに来たんだぞ!しっかりしやがれ!」

「グレイ様の期待を裏切るなんて信じられません!」

(まー、そうなっちゃうよねー)

ナツは船の上で横たわっており、今にも吐きそうな様子である。どこにいるのかも分からず、海の上で彷徨っていた。

 

「クソっ…俺達がのされてる間にエルザとハッピーが連れてかれるなんてよ。

情けねぇ話だ」

「でも、エルザさんほどの魔導師がやられてしまうなんて…」

「…あ?やられてねーよ!

エルザのこと知りもしねぇ癖に!」

「ご、ごめんなさいっ…」

「グレイ落ち着いて!

 

あいつら、エルザの昔の仲間って言ってた。

私達だってエルザのこと、全然分かってないよ…」

(まぁ…私も素性を明かしてないし)

 

嶺は、黙ったままその話を聞くだけだった。

エルザとハッピーが連れて行かれて、グレイは神経質になっている。

 

エルザのことは側から見れば強く負けない勇ましい女性であるが、今回の時のように誰にも言えない過去や事情だってある。

 

エルザだけではなく、誰もがよっぽどのキッカケがない限り、素性を簡単に明かすことはしない。

 

「何だ…⁉︎この危ねぇ感じは」

「あれ、もう大丈夫なの?」

 

最初に海の異変に気づいたのは、ナツだった。

 

船を進んでいくと沈没したフィオーレ軍の船の残骸が漂っており、頭上の鳥達と水中で泳いでいる魚が息絶えて行く。

「おい、あれ…」

 

その先には、敵の本拠地と思われる塔が聳え立っていた。

 

「ウォータードーム!」

 

海水が勢いおくジュビアの魔法に集まり、船全体を覆うように形成されていく。

 

「これでカムフラージュして、上陸しましょう」

「す、すごっ…⁉︎」

「うん、これなら安全に上陸できるね。

そのまま行ってたら、大砲とかで撃墜されそうだし。

沈没した船から察するに」

 

塔から見られても、怪しまれることもない。

上陸する前に気づかれてしまえば、足場も悪い船の上でナツを守りながら戦わなくてはならない。

 

「んぐっ…やっぱ無理」

「とにかく着くまでは横になってないと、いきなり立ったら悪化するよ?」

「もうすぐ着くから!」

「たくっ、緊張感のない野郎だな!」

 

立ち上がってたナツも、また気分悪く再度倒れ込んでいる。

 

*****

 

塔から近い場所に移動すると、塔を守る兵士達と6本足の化け物が守衛している。侵入出来る場所を探そうにも見張りが厳重で、簡単に入る事ができない。

 

「これ、上陸は何とか出来たけど…次はこの塔の中に入らないといけないよね」

「もう、このまま突っ込むか?」

「ダメよ!エルザとハッピーが捕まってる。

下手な事をしたら二人が危険になるのよ」

「そりゃ、部が悪いな」

 

上陸は無事できたが、バレて争えばルーシィの言う通り捕まっている二人が危険な目に遭う。身を潜めて移動するにしても、嶺以外はそんな高度な潜伏能力は持ち合わせていない。

 

「水中から地下への抜け道を見つけました。10分ほど進みますが」

 

塔の侵入方法をどうするか困っていた時、ジュビアが塔周辺の海中を散策し、通路を見つけていた。

 

「何ともねーよ、そんくらい」

「だな」

「無理にキマってんでしょーっ⁉︎」

「あのー…多分、辿り着く前に溺れ死ぬよ?」

 

が、10分間水の中を移動することなど、ジュビアのような水と同化出来る人にしかできない。

塔に辿り着く以前の問題だった。

 

「では、これを被ってください。酸素を水で閉じ込めているので、水中でも息が出来ます」

そこでジュビアは人数分の水袋(呼吸器擬き)を手際良く準備して、全員に手渡していく。

 

「おーっ、お前すげーな!つか誰だ」

(おーいナツ。カジノの時に会っ…あ、ジュビアってナツに名前明かしてなかったっけ)

 

塔の抜け道へと向かい、水袋をかぶりつつ水中へと移動していく。

 

「ここがあの塔の地下か?」

「エルザとハッピーは何処だ?」

「便利ねこれ、マヌケだけど」

「ルーシィさんだけちょっと小さくしているのに、良く息が続けますね」

「おいおい…」

(ルーシィってあの人に何か恨みでも買ったっけ?心当たりないんだけど)

 

地下に辿り着いたものの、本当ならまだ見張りがいるかもしれないと身を隠す必要があったが、見張りが化け物に乗りつつ飛行しているとは思ってもいない。

 

地上には化け物が飛んでいる様子はなかったから、嶺も問題ないかと思っていた。

 

「侵入者だ‼︎」

「やばっ⁉︎」

「仕方ないよ、上から見下ろせれるなら水中以外隠れる場所ないし」

(あの化け物って歩行だけじゃなくて飛行もできるんだ。盲点だったなー)

 

侵入しても、誰もいないというわけではない。地下も警備兵が配備され、侵入者に気付くと続々とナツ達の周囲を囲うように兵士が集まっていく。

 

「何だ貴様ら⁉︎」

「こうなったら、やるしかねーな」

「ま、なるようになれだね」

「何だ貴様らはだと?

譲渡をくれた相手も知らねぇのかよ!

 

フェアリーテイルだバカヤローッ‼︎」

 

ナツが周りを近づかせないように強烈な炎をばら撒く。炎の爆発と共に、ナツ達は四方八方に散っていった。

 

「アイスメイク・(ランス)‼︎」

(よし。この程度人数なら、三回分の混合呪符で問題ないかな)

「「「「「ぎゃぁぁぁっ⁉︎」」」」

グレイは氷で出来た槍を放ち、嶺は水・岩の属性を取り込んだ呪符を使用して敵を吹き飛ばす。

無作為に吹き出していく高圧の水と、頭上の岩雪崩が三回同時に出現し、彼らは逃げ惑うことしかできない。

避けたところを、氷の槍が直撃していった。

 

「開け!処女宮の扉、ヴァルゴ!」

「お呼びでしょうか?姫」

「メイドだ!」「水着娘は引っ込んどけ!」

 

ルーシィが鍵を振るうと、ピンクの髪をしたメイドの女性が出現する。召喚前はルーシィに惹かれていたのに、今度はメイドに好意が向けられている。

 

「お仕置きよろしくっ!」

「では」

 

ヴァルゴは敵の態度に少し苛立ったルーシィの指示に従いつつ、敵の群れを怪力で突破。

 

「気をつけろ!魔弾が通じねぇぞこの女」

「どうなってんだこいつ!」

「しんしんと…ウォータースライサーっ‼︎」

 

ジュビアも身体が水と同化している為に全く攻撃は通らない。

近接も遠距離の攻撃もすり抜けていく。

エレメント4の実力を魅せ、飛ばした水を鋭利な刃物に変形させて敵を切り裂いた。

 

もう見張りでは、彼等に敵わない。

ジュビアのお陰で陸に気付かれるかとなく侵入したが、結局地下でも見つかって全滅するまで大暴れは止まらなかった。

 

「あらかた片付きましたね」

「だな」

「こんなに騒いで大丈夫…な訳ないか」

「四角は何処だ⁉︎」

 

地下にいた見張りを全滅すると手際良く梯子まで用意し、このまま塔の中に入れる事を歓迎している。

 

「なんだあれ?」

「上に行けってか?」

 

このまま梯子を上り、塔の中へと入っていく。

一直線のみの道を進んでいくと正面には扉が用意されていた。通り道は分かれ道もなく直線のみで、罠が用意されているわけでもない。

扉はナツ達が近づくと自動で開いていく。

「ん?」

 

ーー扉が開いたと同時に地面から多量の木が生え、嶺はナツ達を分断されてしまった。

 

「なっ、嶺さん⁉︎」

「何もねぇところから木が生えてきやがった⁉︎」

「だったら俺の炎で燃やしてや「あー…ちょっと待って」」

 

ナツ達は心配しているが、嶺は冷静に木を確認する。

敵が単純に木を生成して、塞ぐわけがない。

嶺は試しにその木に対して、全設定変更を使用したところ

 

(あーこれ、燃やしたら間違いなくドカンするやつだ。グレイなら氷で粉々にはなるけど…少しの水でも木が再復活するって書いてるから、木の根本を凍結しないと駄目みたいだし。剣や斧で切断しても、斬られた箇所から木が再生するから無意味かー。

ハァ…何この木、色々と弄りすぎなんだけど。この塔に影響を及ぼさないように調節されてるなー)

 

道を塞ぐ木には、仕掛けが施されていた。

まず火薬の養分が仕込まれ、凍らせても水分で再復活する。ナツの炎魔法で下手に燃やせば爆破、斬っても無駄、氷魔法ですら木が再生するなら意味がない。

 

何も知らずに唯の木だから邪魔だと力づくで退かしても、徒労に終わるか自分に返ってくるだけだった。

 

試しに全設定変更の能力を使用して分かったことは、対象が転生者本人でなくとも彼らが施したアイテムにも効果があると判明した。

 

(あ、そういえば正輝がなのはに宝具を撃ってきた時に調整が出来たんだっけ。

 

すっかり忘れてた…設定変えて無理矢理突破することも可能だけど、それもそれで不味いような気もするなー)

 

その事を理解した上で、設定変更の度合いを最小にはしなかった。仮に効果を弱めつつ木々を突破して、ナツ達と共に同行しても、今度は集まったところを襲撃してくる。

 

船の中で木の分身を作っていた敵が罠を仕掛けていると考えていた。

 

嶺はともかく、何も知らないナツ達にとってはクリーク・二世のように相性が悪い敵を複数人用意してくる可能性だってある。無理に突破しても怪しまれるだけだから、嶺は塞がっている木々には何もしなかった。

 

 

「…えーっと、この木には何もしない方がいいよ。私は大丈夫だから先に行っててー」

「ええっ…でも、本当に大丈夫なの?」

「前に呪いの島の時だって迷子になったのなら、地下で大人しく待った方が良くないか?

エルザとハッピーを連れ戻したらお前の所にも必ず戻るし」

「うーん…分かったー。大人しく地下で待っとくねー」

「なら、俺達先に行くからな!」

 

こうしてナツ達は奥へと進み、嶺の方はグレイの言う通り地下へと戻ろうとするが、敵組織は帰らせないように遮る。

 

(うわ、地下への通路が塞がれてる。

しかも新しい道が用意されてて、どうぞ通ってくださいって言ってるようなものだよねこれ…この通路で待っても絶対襲われるじゃん)

 

地下に戻りたくとも、その出入り口も木々で塞がれて戻ることができない。この通路でずっと待っていても、殺者の楽園の別働隊が地下に回り込んで挟み撃ちを仕掛けてくる可能性だってある。

 

「ハァ…グレイには待った方が良いって言われたけど進むしかないかー」

 

嶺は、仕方なく敵が用意した道の通りに進むしかなかった。進む度に通った道の明かりが暗くなっていき、通り道を抜けた先の部屋に明かりが灯っている。

 

(なんか暗い?)

 

その明かりの方へ向かうと、先程戦っていた見張り達ではない数人の敵が待ち構えていた。

 

彼らの先頭にいる男の顔は傷だらけで、短剣と同じ長さの曲刀を右手に持っている。

 

「えーと…次の、刺客かな」

「報告通り正義側はたったの一人だけ、こちらを相当舐めているようだ。

 

この女を殺せば、他はどうにでもなる」

 

彼の背後には魔力が込められている本と炎のリングを携えた敵が陣形を揃えていた。前衛は匣兵器の生物を出現させ、後衛には魔法の書を展開している。

 

(大勢で囲って潰しに来てる感じかな。

どーせ逃げ道も塞がれてるだろうし。

ま、別に良いよ。

その方がこっちも凄くやり易いし)

「まぁうん…探す手間は省けたかな」

 

明るくしたはずの部屋は明かりを消し、蝋燭のみが辺りを照らす。

嶺側は蝋燭が多く、敵側は視界を少なめに置かれている。

 

概ね、敵の策略は遠距離からの奇襲攻撃を目論んでいた。この暗がりの場所を利用して、視えないところから接近せずに攻撃していく。全体を暗くせずに嶺だけ明るくさせたのは、他の相手にも彼女の位置を知らせる為に敢えてそうしている。

道を遮った木のように、暗がりでも光っていた本も、炎が灯されていた指輪と生物も敵側にしか見えないよう敵の道具には細工を施されていた。

 

ーしかし、敵は嶺のことを何も知らず、浅はかである。

 

暗闇は嶺にも優位に事を運び、敵も何故嶺がここに入る時に双剣の刃に【灰の埃】が少し付いているのを誰も気にもしていなかったのだから。

 

*****

一方、塔の最上階では

 

「ジェラール様…何故侵入者を引き入れるのです」

「言っただろ、これはゲームだと。

奴らはステージをクリアした。

ただそれだけのこと…面白くなってきやがった」

 

ジェラールが、地下で戦っていたナツ達を塔に入れるように指示した。エルザを助ける為に侵入したナツ達も楽園ゲームに勧誘し、楽しんでいる。

 

「しかし、儀式を早めなくては…先日沈めたのが調査団の船だったということは既に評議員に」

 

この楽園の塔が建てられたのも評議員は察知し、急いで対策を講じているのならばすぐにでもエルザを生贄にし、塔の機能を使って黒魔道士ゼレフを蘇らせようと催促する。

しかし、

 

「リダルダス、まだそんな心配をしているのか?

 

止められやしないさ、評議員のカスどもにはな。

ところでお前達、あれは何の真似だ?」

 

ジェラールは、横目で楽園のリーダーに質問する。ナツと一緒に同行している嶺もこのゲームの参加者させるつもりだったが、ペレー帽に組みする連中が横から割って入ってきた。

 

不機嫌ならば敵組織同士の内輪揉めになるが、今のジェラールは気分が良く些細な事でも怒ることはしなかった。

 

「あの女は我々の敵だ、見過ごすわけにはいかない」

「それは、貴様らの都合だろう。

もし塔を壊すようならその時は」

「邪魔をするつもりはないよう細心の注意は払っている。その女をゲームとやらに参加させるのは余りに危険だと判断した。

彼女を始末した後は、幾らでも貴方達の自由にすればいい。

 

我々に救援を求めるなりな」

 

ペレー帽の人は顔を伏せて、そうジェラールに返事する。力づくで分断させ、女一人に複数もの敵を仕向けさせることに違和感があるが、かといって彼らに深く関与する気にもならない。

参加人数が一名抜けても、ゲームに支障をきたすことはないからだ。

 

「…まぁいい。邪魔をしないのなら、お前達に任せるとしよう。

その女のことは、ひとまず貴様らに任せるぞ」

「ご理解いただけて何よりだ」

 

ペレー帽は、嶺を襲撃している部隊の報告を待つ。

未だ、彼と刀の秘めた狂気をジェラール達に隠したまま。

 


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