Justice前章:Labyrinth 嶺編   作:斬刄

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5話準備

 

すずかとアリサ、なのはの3人を助けた為に家のことや、なのはとユーノが追っているジュエルシードのことを含めて親直々に頼まれたことから手伝うという約束を受け入れ、こうしてすずかの家に住ませてもらっている。嶺とハセヲの二人はすすが達に案内され、住むあてがあるまでそのままそこに滞在することとなった。

 

ジュエルシード回収のためのなのはのお手伝いや、すずかのボディガードだけで住むというわけにもいかないので、できる範囲のことで手伝っている。

 

「あのーノエルさん。ちょっと、猫が一匹見当たらないのでちょっと森に探しに行ってきますね?」

「分かりました。ですが夜には帰ってきてくださいね」

嶺は森の中で猫が巨大化する原因のジュエルシードを探している。先になのはとユーノに来るよう連絡し、早急に封印するように動く。少しずつジュエルシードの散策範囲を広げ、かつすずかの家と翆屋で働いたりしている。

集めたジュエルシードは魔法が使えない嶺達には封印できないため、なのは達と共に行動することが多かった。

 

ーーー温泉1日前の夜

 

「なぁ…住むところを手にしたのは良いとして、これからどうするつもりなんだ」

「今のところ現状整理かな。まだ神に聞けてないこともあるし。

それじゃあ落ち着いたし、聞いてもいいよね?」

『はい。それでは、説明しますね』

 

ーー神様の説明によると普通の転生者、正義側転生者、殺者の楽園といった三つに分けられている。

 

普通の転生者に関しては、正義側における力は使えず、弱体化される。しかも、他の両者側とも経験値扱いされるために原作の邪魔をしようとしても楽園より弱い。それ以前に、狩られる側になってしまうことが多い。

正義側は世界を回って仲間を集め、特定の人物の救済や、その世界の流れを壊そうとする殺者の楽園を倒すといった組織である。世界に介入するための船、神からの御加護、仲間増加システムなどの手段と、撃破報酬で成長することで敵組織に対抗していく。

 

正義側の責任者は6人までが存在し、その中に嶺とその弟も含まれている。

 

「私は6thね…で、これが能力か」

 

嶺は携帯を開くと、自分の番号と能力が記載されていた。他の正義側の能力や番号は黒塗りされて見れないことになっており、彼らの情報を知る為にはまず関わる必要がある。

 

 

殺者の楽園も正義側と同様に世界を回るごとに介入し、手段を厭わない敵組織。彼らを倒さないといけないのが正義側の役割であり、全滅させなくてはならない。敵がどんな能力を持っているのか、どんな方法で襲ってくるのかが未知数である為、楽園全滅には正義側同士の協力は必要になる。

 

だが、話を聞いているうちに嶺は正義側になれた基準と目的が噛み合わないことが不自然に思っていた。

 

(選ばれる基準が虐殺や殺戮、洗脳とグロいことを好む人は少なくとも選ばれないってことなら…敵組織とはいえ人殺しをしないとダメってかなり矛盾してるよね。それとも、まともな感性を持っている普通の人間が正義側に選ばれた場合の考慮も考えてるのかな?

 

てゆうかこれ、仲間の内最低一人でも手を汚さないといけない羽目になるし。今後も敵が強くなったら…いざという時のために仲間増やしたり正義側の責任者のうち数人は成長しないと後々ヤバくない?)

『何か気になる点はありましたか?』

「…なんでもないよー」

 

神からの説明を聞いて、嶺は半信半疑になりながらも理解した。必ずしも原作に出てくる敵だけと戦うとは限らないと考えているため、ひとまず自分の現状を把握する必要がある。

嶺はノエルからもらった予定表をハセヲに見せる。

 

「今のところ私とハセヲの交代でジュエルシードを探すかな。明日、なのは達は温泉に行くけど、私達の方は温泉に行かない。その代わり留守番は任されてるから」

「分かった。方針が決まったのならさっさと寝るぞ。明日は早く起きないといけないんだろ?」

 

嶺達も探したことでなのはの持っているジュエルシードは5つとなった。何個かは目処がついているが、物語とは異なる場所に置いてあるかもしれないし、回収し過ぎても怪しませる。

「だからと言って無視ってわけにもいかないかな…」

 

 

*****

 

午前6:30

嶺は朝早く起きて、なのはの家に合流する。なのは達には事前に約束をし、家の前に待っていた。

「あ、嶺さん!」

嶺達がいない時のために、なのはを守る役目を果たす影武者(分身)を影に潜ませる。そのことについてはなのは達よりも先に両親に連絡し、事前に許可もとってある。

 

「そんな訳だからちょっと二人の影を使わせてもらうね?」

「分かりました」

 

ジュエルシードの暴走による怪物がなのはの近くに出現した時及びそれ以外で彼女自身の命の危機に晒されそうになった時に嶺の分身が現れるように指示した(ただし、フェイトとの対決は除く)

「じゃ、よろしく頼むね」

『了解しました』

4体ずつのシャドーによる分身をなのはとすずかの影へと潜む。これで他の転生者やジュエルシードがらみの化け物に襲われそうになっても守ってくれる。

 

(まぁ弟よりは数は少ないけど、十分かな?)

 

嶺は、その子達の身に何かあった時のための保険として忍ばせておいた。

「もう要件は済んだからいいよ。これで私がいない状態で命の危険に晒されても影に潜んでるシャドーで守ってくれるから」

「あの嶺さん…ここまでしてくれてありがとうございます」

「ん、いいよ。それじゃあ温泉楽しんでってね」

(神様の話から転生者が弟と私だけとは限らないし)

なのはがジュエルシードを探すときにはいつもユーノが隣にいてくれるため、過保護にする必要はないが他の転生者のことも考慮している。

 

「?気のせい?」

 

なのは達のことを見送っている途中、横で十字架のネックレスをつけている黒髪の男と青いリボンを結んでいる金髪の女性が買い物をしている姿が通り過ぎていたが見失ってしまった。男の方は弟とほとんど同じ格好をしていたけれど、そこまで見ていなかった。

 

ーーーー

 

嶺は朝に、昼から交代してハセヲがジュエルシードを探し、山の中に一つ発見した。携帯を見ながら、どんなものなのかを確認する。

(これを回収するんだったな?)

 

ハセヲは木の側にあるジュエルシードを回収しようとしたら、いきなり背後から弓が飛んできた。液晶画面が鏡代わりとなり、背後から狙って来ることに早く気づく。

 

ハセヲはジュエルシードをとっさに手に取り、飛んだきた矢を避けた。

「⁉︎誰だ‼︎」

『そこの銀髪。手に持ってある宝石をこちらに寄越せ』

男の姿をした黒い影達がハセヲを囲んでいた。ハセヲも戦闘態勢になり、双剣を構えている。弓で迎撃している3人は木や壁に隠れて後方支援し、先頭には斧と槍、剣を持っている者が4人いる。

 

「…断ると言ったら?」

 

渡す気がない反応をすると、影達はハセヲの周囲を囲んで襲いかかってきた。

シャドーは遠くに移動して四方八方から投げナイフや、弓でハセヲの体力を削いでジュエルシードの強奪を狙っているが、ハセヲは大鎌を取り出して、飛び道具を振り払っている。迂闊に近づけば、鎌に刈り取られてしまう。

(こいつらチマチマとっ!)

飛び道具に目を向け、鎌を大振りになったところをシャドーの三体がハセヲの頭上を狙って襲う。このままいけば直撃は免れなかったはずだったが、ハセヲは大鎌から双剣に武器をスキル発動により瞬時に切り替える。

 

『なにっ…』

「無双隼落としっ!」

 

そのまま頭上にいる三体ははたき落とされ、シャドーのリーダーはハセヲが強敵であることを察知したことで距離を置いた。

 

またさっきと同じ戦法で、飛び道具を飛ばしてくる。

 

(あいつがリーダーなら…!)

 

ハセヲは指揮系統を取っているリーダーを狙い、そのまま特攻する。もう飛び道具を気にするよりも、指示を回している方を手っ取り早く倒した方がいいと考えた。

 

さっきの飛び道具は双剣だけでもどうにかなると、リーダーの方へ走ってきた。

横から飛んでくる弓矢や投げナイフは、指示が遅れたせいでハセヲの方がギリギリのところで当たらなかった。

正面に飛んでくる矢とナイフを双剣で防ぎ、スキルを使って一気に追い詰める。しかし、

「なっ…⁉︎」

距離を狭まれだことでリーダーは身体から黒い刃をハセヲに向かって大量に放出してきた。咄嗟の反応で大剣に切り替え、盾がわりにして防ぐ。

 

「おい!待ちやがれ‼︎」

 

その隙を狙って影の人達は、敵わないと背を向けて逃げていった。このままこの男と戦っても消耗戦になりねないために、黒い影達は彼が持つジュエルシードの強奪を諦めた。彼が追跡できないようにバラバラに別の方向へ散らばり、木の影へと移り移り移動して逃れていった。

*****

 

「一応ジュエルシードは回収したんだが、お前と同じ能力を使った影が集団で襲ってきた。

目的は俺達と一緒だ」

 

ハセヲがすずかの家に帰り、嶺に襲われたことを報告すると、考え込んでいた。嶺と同じ能力のシャドーを使ってジュエルシードの探索をしている存在が他にもいることから、生前いた世界の誰かがやったのは間違いない。

(あー…弟が転生しているとか言ってたけど。実際他の人もシャドーを使えてたから微妙なんだよね)

 

嶺の弟である正輝がジュエルシード探しのために嶺と同様にシャドーを放ったとは限らない。何故なら正輝が転生したことがわかったとしても、他の関係者も転生してやって来ている可能性も考えられる。

(ジュエルシード集めってことは、フェィト達か、或いは時空管理局のどちらかに関係しているね。でも、シャドーを使った能力者が必ずしも弟とは限らないし…そうだとしたら私と同様の生前の世界から来た人の可能性があるかもしれないね。

んーでも…そもそもあれ何十人も操れるのって正輝くらいしか知らないし、普通の人が闇属性と負の力を最大限にまで振り絞ったところで二人分が限界なんだけど)

「ごめん、ハセヲ。シャドーを使っていた能力者は私以外に他にもいたと思うから分からないや」

「…そうか、お前も気をつけろよ」

 

正輝と嶺以外にも生前が同じ世界の人がこの世界に転生し、仮に敵ならば潰すしかない。

夕方頃に玄関のドアが開き、温泉からすずか達が帰ってきた。

 

 

「ただいま帰りました」

「ん、おかえりなさい」

 

ノエルの手には手提げのビニール袋を持っており、お土産が何個か入っている。家の留守をしてくれていた嶺達のために買ってきてくれた。

 

「はい、嶺とハセヲさんにあげますね」

「ありがとうございます」

ビニール袋を手渡し、袋から取り出すと蒸し菓子が入っている。嶺はハセヲと食べようと戻るが、なのはから電話が来た。

(あ、なのはからだ。流石に夜じゃ電話かけらないもんね)

なのはとユーノ達も温泉に帰ってきており、何時ものように電話で連絡が来ている。

『えっと、いつもの報告なんですけど…みんな温泉に帰ったことと、あとジュエルシードのことです』

『なのは達が温泉を楽しめたんなら良いよ。でもジュエルシードの報告があるってことは、何かあったんだ』

温泉で起きたジュエルシードのことと、フェイト達のことも話した。フェイト側にどんな人がいたのか、特徴、服装等をレイジングハートが保存してある映像を見ながら、 事細かく連絡している。

『他にもね、フェイトちゃんと同じ金髪で、青くて、騎士の格好をした女の人がセイバーって人と、十字架のネックレスと黒いパーカーを着てた男の人が岩谷正輝って…あの人はフェイトちゃんの保護者って言ってた』

(あー、てことはフェイト達にいるのはうちの弟がいるってわけね…しかもサーヴァント付きで)

嶺は冷静に聞きつつも、なのはは伝えながらも、不安そうな声をしている。

『どうしたの?元気なさそうだけど』

『あの…嶺さんと名字が一致しているからもしかして家族ってことも』

『その線は考えにくいと思うけど、もし関わりがあるんだとするなら下手したら戦うかもしれないね。服装も性格も話からしたら弟はそんな感じだったし』

『そんなっ⁉︎』

なのは達は嶺達の名前を知っているから、もしかしたら嶺と同様に次元漂流者であり、彼女の家族なのではないかと心配していたが、

『まぁそれだけで判断しても別人でしたってこともあるから、映像見ないと分からないね』

『レイジングハートが映像を持ってますから、また会う時に見ますか?』

『うん、いいよ』

(流石になのはの家へ尋ねに行くのも、夜になっちゃいそうだし。また次会う時にしよう)

 

ーーーー

次の日

嶺が翠屋の接客で働き終えた頃に、なのはに映像を見せてもらおうと思っていたが、突然仕事終わりにノエルから電話で買い物の用事を頼まれた。すずか達が飼っている猫達の餌とお菓子を買ってきて欲しいとのことだった。

『お願いできますか?』

『分かりました。それじゃあ帰りは遅くなるようすずかとハセヲに伝えて下さい』

ペットショップなどの店は翠屋の近くにある。嶺は頼まれたものを購入し、肩掛け鞄とビニール袋に入れている。

(結局昨日のこと話せなかったな…しかも近かったのに道迷ったし。弟かどうかについては、まぁこのままいくと今夜だろうなー…ジュエルシードの暴走は街中だったろうし)

「ただいま帰りました」

夕方頃に嶺はすずかの家に帰り、それぞれ机に買ってきたもの全てを置く。冷蔵庫の管理もノエルとやっており、ハセヲはファリンの家事手伝いと猫の飼育、すずかの世話を一緒にやって、互いに支え合っている。嶺と同様に初経験だったが、ハセヲの方が要領が良く、教える側のはずのファリンがドジっこであるために何度もハセヲに助けられたとのこと。

「皿を落としそうになった時や、足が滑りそうな時も助けてくれたんですよ!」

「教えてくれるのはありがたいけどよ。でも俺が目を離したら…」

「うううっ…」

買い物の管理を終え、休憩でハセヲとファリンの支え合いを休みながら聞いていると、なのはから電話がかかってきた。

『嶺さん!ジュエルシードの反応が街中で!』

『ん、分かった。今からハセヲと一緒に向かうから先に行っといて』

「ノエルさん、ファリンさん。ちょっとジュエルシードの件でハセヲと行ってきます」

今度は街中でジュエルシードの暴走が発生した。嶺はなのは達と合流するために、バイクに乗ってジュエルシードの反応がある街中へと向かっていく。

 

しかし、

「ちょっと待ってハセヲ」

「…なんだ?」

 

なのはとユーノは既に戦っているが、その周囲には空間系の罠が張られてある。近づいたら作動するような仕組みをしており、バイクでそのまま突っ込んでいったら

 

(切り込みを隠してるし、一般人や、なのは達が触れても作動はしないけど…それ以外の能力持ちが触れたら一瞬で飲み込まれてお終いって感じか)

「ここから先は徒歩で行くよ。罠が張られてて、突っ込むのは危険だから。でも私の方は解除方法知ってるし、これなら早くなのは達の元にいける。

 

もうなのは達は既に戦ってるし、残りの二人も来てると思うよ。ただ、何処かに隠れてるかもしれない」

ハセヲと嶺はバイクから降り、徒歩でなのは達の方へ向かう。正輝がフェイト達と行動を共にしているのなら、大体どういう動きをとるか予想ができる。

「隠れてるねぇ…俺を襲った奴が同一人物ならシャドーってやつに襲われるかもしれないぞ?」

「それは無いと思うよ。だって…そもそもあっちは罠が起動せずに解除されるとは思ってもなかったんだから。もしも、電話通りになのはの言ってることが正しいなら…そのうちの一人は保護者だっていってるなら間違いなくフェイト達の近くにいるはずだし、もう一人の方は離れてるけど空で戦っている以上様子を見れる場所は限られてる。

 

 

ちょっと私に考えがあるけどいい、ハセヲ?」

 

 

*****

 

 

(うっそだろ…なんで姉さんがいるわけ?)

転生者であり、嶺の弟である岩谷正輝はセイバーと共に、フェイトのマンションを住ませてもらうことを条件に家事やジュエルシード探しを手伝うこととなった。

自分の実力のことも、ジュエルシードをたくさん集めてることも、温泉まではなんとか物語の筋書き通りに上手くいっていた。

 

ただ、シャドーで召喚されたリーダーは銀髪の男がどういう力を持っているのかを確認しつつ、可能であれば奪うように指示している。そのジュエルシードが、一般人にとって害悪である以上それを持たせるわけにはいかないという指示があったため強奪を指示した。その銀髪から奪い取ろうとするが、返り討ちにされたことで三人が消えている。シャドーを倒すほどの実力を持っているのであれば、その男が転移者か転生者の一人だと正輝は考察していた。多少の例外はあったが触れれば空間の渦に飲み込まれる凶悪な罠を周囲に張って邪魔されることなく安心したはずだったのに、

 

「やっほ、久しぶり正輝」

 

その銀髪の男が転生者じゃなく目の前にいる自分の姉が同じ転生者としてやって来たのだから正輝からしたらかなり困惑している。ジュエルシード回収のために、その周囲に空間系の罠を張っているはずなのに、姉によってすぐに解かれてしまったのだ。

 

投影魔術でなのはの邪魔をしても、姉の固有能力のせいであまり与えれない。まさかの事態に、正輝の開いた口が塞がらなかった。

 

 

なのはの側に自分と同様に空間に耐性か無力化できる力を持っている人物がいるのではないのかと警戒したが、罠を解いた転生者がまさか自分の姉だとは思ってもなかったのだから、目を丸くしている。

セイバーは姉の付き添いであるハセヲに抑えつけられていた。

 

アルフがユーノと戦っているが、原作通りに別のところに転移されており、助けに行こうにも正輝とセイバーの二人はフェイトの元に助けに行くことができない。

 

(神からそういう通知が来てないってことは、正輝の様子からして私がいることも神から知らせてないのかな?)

「この周りにある空間の亀裂は処理しておいたよ。あとここにいるのは転生者は私達二人だけだから」

「…何でわかるんだ?そんなこと」

「今の私の能力は転生者がいるかいないのかと、チートをしている力を最弱にさせたり能力を変えたり出来るの」

 

並行世界の弟というわけでもないために姉として信用して言葉にした。そうでなければ、正面から出会おうとすら思ってもいない。

 

「思ったんだけどさぁ。何で空間属性の耐性を持ってんの…俺の記憶の中じゃ姉さんはそんなの持って無いのに」

「そっちこそ正輝。最初の転生者の相手が弟なんて偶然過ぎるでしょ」

 

*****

 

一方、ハセヲはビルの屋上にいるセイバーと戦っていた。嶺の指示通りに高層ビルに向かうと、鎧の格好をした少女が待ち構えていた。なのはの連絡から、フェイトの保護者と鎧を着た騎士が手伝っているということを既に伝えられている。

「⁉︎なっ…!」

セイバーは直感スキルで背後に敵がいると察知し、なのはを見ていたはずだったのに急にハセヲの方に振り返る。

彼女は見えない何かを手に持ち、襲ってきた。ハセヲの方は目で追いつつ、大鎌で防いでいる。

(つっ…いきなりかよ)

「お前がフェイトと一緒にいた…セイバーだったな?」

「…何者だ」

金髪の髪に、青いリボンをした騎士姫が目の前にいる。手に持っているものは風で覆われており、どういう形状なのかが一撃受けただけでもあまりよく見えなかった。

 

(にしても、この女の声…アトリに似てるような気がしなくもないが)

「名前を明かすんなら…だったらこんな戦いをやめて、お互い武器を収める気はないか?」

「断る」

そのまま武器をしまうこともなく、向けられている。防ぐだけでも精一杯だったのに、見えないようでは攻撃しようもない。

 

最初の攻撃は、防ぐことしかできなかった。

「こっちも聞くけどよ…あんたの持っているその武器は何なんだ?」

「槍か、それとも斧かもしれないな?」

(まず武器が見えねぇから、相手の手とか目の動きを見て把握するしかない。

 

つっても…まだ防戦一方になってるから、反撃するだけでも一苦労なんだよな)

 

見えない武器を持っている相手に戦っている以上反撃もままならないまま苦戦を強いられているが、それでも戦えないというわけではない。

「旋風滅双刃‼」

「風王鉄槌!」

大剣や大鎌では大振りが仇となり、背後を取られてしまうから双剣で懸命に防いでいる。あくまで武器を変えるのは大きな隙が出来た時のみスキルを使う。

「伏虎跳撃!」

「⁉︎」

次は大剣に切り替え、攻撃を繰り出す。宝具を使ったセイバーは行動が僅かに遅くなり、そのまま避けずに全ての攻撃を防いでしまった。

(つーか、そもそも不視界なんて卑怯だろ…見過ごしたら斬られるし、おまけにあの技を一撃で消滅っておかしいだろ…)

(この男…多種類の武器をここまで自在に操るだけではない、それに防御だけとはいえ私の動きを目で追って読んできている。

 

あの攻撃なら剣で防御しなくとも、避けることもできたが…間に合わなかった。まさか、あの短時間の間に私の風王結界が見破られるとは…しかも、風王鉄槌を打ち消して。サーヴァントではないだろうに…)

セイバーの方は彼以外に様々な武具を使って戦う敵も過去に存在していることを知っているが、英霊でもないのに動きから目と身体がついてきていることに内心驚いている。

 

「…貴方の敬意に評し、私から先に名を答えよう。アーサー王アルトリア・ペン・ドラゴン。ブリテン国の騎士王だ」

 

構えていた彼女が、警戒心を薄めていきなり名乗ってきたことにハセヲは驚いたが、それよりも名前について不審に思った。

 

(アーサー王⁉なんでそんな歴史の人物のがなんで生きてんだ⁉︎確かブリテンっていう国の崩壊で死んだハズだぞ‼︎)

 

歴史の授業で一応その分野のことを学んだことがあったため、アーサー王伝説に関しては知っている。カムランの丘で円卓の騎士は全滅したということも知ってはいるものの、まさか歴史の人物が蘇ったというのは考えもしない。

 

「…出鱈目いうんじゃねぇ。アーサー王だって?そもそも死人が何で現界してやがる」

「それは言えないようになっている、すまない」

 

騎士道という志や、実力も相当のものを持っている。ただの偽名か、本当にそうなのか。

 

(…ま、んなこといちいち考えても無駄か)

「そうかよ。あと、名前はハセヲだ」

ハセヲは間合いを取って、互いに距離を置いた。ハセヲは見えない武器に対抗するために、セイバーは複数の武器を扱える敵に備えるために。

 

 

正輝の魔力であればセイバーが宝具を使って目の前の敵を蹴散らすことも可能だが、まだその指示が送られてはいない。仮に使うように指示されたとしても町の被害や、場所が悪ければジュエルシードごとフェイト達にまで巻き込まれてしまいかねないため、言わないのだ。

 

ハセヲはかつてスケィスを呼んで倒したことがあったが、できればその方法はあまり使いたくないと考えている。

かつてクーンという同じ憑神使いに叱られたことがあり、アリーナとの対決でその恐ろしさを思い知らされた。

 

「やっとあんたの動きをいちいち見なくても戦える」

「…それはどうかな?そう出来たとしても今までの攻撃とは訳が違うぞ」

 

両者とも切り札を隠しており、この場で使うことは得策ではない。持ち得た武器で振り払うことで、この状況を凌ぐことを考えている。

 

セイバーは風王結界で覆われた聖剣を露わにし、ハセヲは大鎌から早く動ける双剣へと変える。サーヴァントと同等に戦えるハセヲとの戦闘は長引いていた。

 

*****

 

ハセヲとセイバーの二人はいい勝負をしているが、正輝と嶺の戦いは正輝の方が圧倒的不利な状態だった。

(自分の魔力自体には今のところ何の問題はない…が、いくら投影魔術を使って攻撃しても、全く効かないんだけど…)

嶺の固有スキルである『全設定変更(オールシステムチェンジ)』という転生者殺しといっていいほどのものを持っている。まず転生者の持つ武器や能力が最弱化されているわけだから、どんなに強力な宝具を投影したところで最弱化されるから擦り傷しか与えられない。

 

嶺に立ち向かうには投影魔術とかの特典ではなく生前自分が使ってきた武具を使用しなくてはならなかった。

「正輝…守ってばっかだよ…」

「キツイんだよ‼」

当然、正輝は所持している全球を展開して戦っていた。お互いまだ本気の状態にはなっていないが、固有スキルのせいで投影魔術が使えない以上嶺だけが手札が必然的に多くなる。

「姉さん、出来れば見逃して下さい」

「無理、こっちだってなのはに頼まれてるから。それなら正輝がフェイト達を説得させてよ」

 

対して正輝の固有スキルである『マスター・オブ・ザ・リンク』は仲間と繋がることにより、様々な能力を共有できる。繋がる時間が長いほどその効力が増すという能力だが、姉の前にはその力は十分に発揮できない。

 

この状況を抜け出すためには、セイバーに膨大な魔力を一気に与えることで、全力でこっちに助けを求めることも一つの手だが、その時点で暴走するジュエルシードを止めるのはもうフェイトだけしかできなくなる。ジュエルシードの暴走を止めるにしても、セイバーに任せるわけにはいかないから結局正輝は姉と戦うしかない。2ndフォームにお互いなったとしても、手札数の多い嶺の方が優位だ。

 

「ジュエルシードが暴走して、フェイトが無茶して怪我するってのは分かってるよね。止めるつもりなの?」

「…もう少しでどうにかなるんだ。それが終わったら、フェイト達がどう行った事情なのかをなのは達に話す…だから姉さん。

今日のところは見逃してくれ‼」

 

彼はもう少しでどうにかなると言っていたが、なのは達もジュエルシードを封印している以上、全てを回収することなんてできない。

「はぁ…分かったよ。ただし、事が終わったらちゃんと話してよ?」

「助かる」

嶺は正輝を信用し、妨害するのをやめた。具体的なことは結局聞かされなかったが、あれが正真正銘同じ生前の世界での弟だと分かった以上約束は守ってくれる。

 

正輝はそのままフェイト達の方へ逃げ、ジュエルシードの真上ではなのはとフェイトがまた戦っている。

「ぶつかり合ったり競い合うことになるのはそれは仕方のないのかもしれないけれど、だけど何もわからないままぶつかり合うのは、私嫌だ‼

 

 

これが私の理由!」

「私は…「フェイト。答えなくてもいい」」

 

だが、今度は駆けつけた正輝が転生者結界を展開してなのはの前に立ち塞がった。

「なのはだったな?お前に聞くが、力を得て有頂天になったつもりか?言わせてもらうがこっちだってその危険なジュエルシードを集めている。そもそも巻き込ませたのはそこのフェレットだろ「違う!僕は周りの人を頼るつも…」違わないな。女の子を巻き込ませた時点で決定事項だろ」

 

正輝はなのはとフェイトの対話が無駄であることを突きつける。本当の目的はフェイトがジュエルシードを回収させるための、時間稼ぎに過ぎない。

半分は言葉遊び、もう半分は正輝の本音だった。

 

「町や自分の周りの人達を守る?そんな理由で俺たちと対峙したのか?下らないな。そもそもお前らは俺たちにとってはただの邪魔な存在。

 

たったそれだけだろ?

 

そんなに町とフェイトのことが心配なら安心しろ。俺たちは町に被害は出さないし、ジュエルシード集めはきちんと全て回収する。こうして町の平穏は守れ、フェイトも大丈夫になりましたとさ、めでたしめでたし…それでいいだろ」

「下らなくなんかない!自分の意思で町を守ってなにが悪いの!フェイトちゃんだって救いたい!それにジュエルシードも見過ごせない!」

「自分勝手が過ぎるな。それ以前に強欲しか俺には全然見えない。フェイト以外でも悲しい奴らは沢山見た。お前に何がわかるというそんな台詞を耳をすっぱく聞かされた。

 

 

そこまで邪魔をするなら…俺はその綺麗事になり過ぎた思考ごとお前を潰させてもらう」

(…そうは言っても弟のことだから、なのはのような少女を徹底的に嬲るなんて無粋なことは絶対にしないだろうしな。でも、正輝も感情的になりやすいから…一応全設定変更をつかっておこ、ん?)

 

嶺対策として、一人は影化させた杖を使って貫通式の魔力弾を、別の方では三人がロケランを用意している。なのははバリアを張って防ごうとするが、直撃した。

 

「なのは!」

 

ユーノは心配してなのはの元に向かい、正輝はフェイトの代わりに暴走するジュエルシードを止めに向かう。一方のフェイトは飛ばされていったなのはを無視して、ジュエルシードを封印しようとするが、

 

(これじゃあ間に合わないっ⁉︎)

「俺が行くっ…投影強化っ‼︎」

 

暴走の段階が早いせいで、フェイトが封印するはずが、代わりに正輝が止めようとする。ジュエルシードは光を放出し、収まった時には既にBLUEは機能を停止している。

 

「ま、正輝…怪我大丈夫?」

「まぁなんとかなるだろ…つっ。ジュエルシードを封印して帰るぞ」

 

掴んでいた正輝の両手が充血し、赤く腫れ上がっていた。フェイトとアルフは正輝に近づいて心配している。セイバーもマスターの危機に瀕して、急いで正輝の元へ戻ってきた。

「マスターが危険に晒されていたため、戦線を離脱しました。全く…貴方が邪魔されて怒るのは仕方ありませんが二つ言いたいことがあります。」

「まぁ、だいたいわかってるから…」

「なのはっ‼︎」

ハセヲの方はバイクで帰ってきており、合流した。ユーノはなのはの外傷を回復魔法出で治療するが、回復時に違和感を感じた。

(…あれ?あれだけの爆発だったのに怪我が)

「おい、何であそこまでやった。返答次第じゃ「落ち着けよ、死の恐怖」⁉テメェどこまで知ってる‼アーサー王といい、俺の呼び名といいお前は何なんだ‼」

「姉さんに聞いて見たら。あとなのはは気絶にしておいたけど、多分意識は戻るよ。じゃ」

ジュエルシードをフェイトが封印すると、四人とも転移して帰っていく。嶺もユーノと同様になのはの元へ駆けつけ、吹き飛ばされたなのはの姿を見て、怪我の状態を確認する。体に傷はなく、アザもなかった。

 

(正輝の方は大胆な割に大した攻撃じゃなかったね…まぁあれだと帰ってセイバーにお説教されるだろうけどさ)

 

正輝は、なのはに対してそれなりに手加減したが、あれでは少女相手に全力で潰すような言動だったことと、フェイトもそうだが、正輝も身体を張って無茶をしたのだ。

 

なのはの方は単に吹き飛ばされただけで、身体に後遺症が出るような大怪我は負っていない。そんなことをすれば嶺と正輝の交わした約束が無意味になるからだ。

「なのは、大丈夫?こっちもこっちで助けに行けれなかったから、ごめんね」

(やっぱり加減してるからそんなに傷は負ってないね。むしろ弟の方が割りかし酷いけど、あの怪我程度ならBLUEでも治せるね)

「うん。よく分からなかったけど私の方は吹き飛ばされただけで大した怪我はしてなかったの。でも、ジュエルシードを掴んでいたあの人の手が赤く腫れてて…」

「あーうん。大丈夫、弟のことを心配してるけど問題ないと思うよ?」

「え?そうなんですか」

「回復できる武具は流石に持ってるし、問題ないでしょ」

ユーノは正輝の発言から嶺の弟だということを知り、一体全体何者なのか、どういう人なのかと聞こうとするが、

「嶺さん。あの人が貴方の弟なら「…おい嶺、あいつが俺のことを知っていた感じだったが、この世界に弟がいるってことを知っていたのか?そもそも、あいつの姉さんだったのか?」

「いや、私も弟がいるのはなのはから聞いたんだけど…言わなかった?」

「こっちは保護者と鎧の女騎士がいるとしかこっちは聞かれてねーぞ…」

ユーノの言葉が遮られ、ハセヲはなぜ弟が転生しているということを知っていたのか。嶺だけで自己完結し、弟のことについては何も聞かされていない。ハセヲは嶺が説明不足だったことから、質問責めをしている。

 

「あ、なのはと合流することに意識し過ぎて忘れてた」

「おい嶺。どういうことか詳しく聞かせてもらおうか?」

「…た、タスケテ〜」

 

一番大事なことを何も伝えてなかったので、腕を掴んで引きられていく。嶺はなのは達の方に手を伸ばそうとしても、なのは達は苦笑しつつ、嶺がハセヲに引きずられるのをただ眺めることしかできなかった。

「じ、じゃあ僕達の方は後から説明してもいいのでまた連絡お願いします」

「それじゃあ嶺さん!き、今日はありがとうございました」

(…ダメだこりゃ)

すずかの家に帰るとハセヲに正座させられ、お説教させられたのは言うまでもなかった。因みに手がヒリヒリして痛めている正輝にも

「なぜあのような無茶をしたのですか?あと、なのはという少女にあれだけの力をぶつけるのはどうかと思いますよ」

「いやいや無茶をしたのは認めるが、なのはについては加減はしただろ。そもほもあーしなかったら俺じゃなくフェイトが無茶するとこだからな」

「いえいえ、それでも私に何も言わないのはどうかと思いますし」

「いやいやいやいや、むしろあの子には吹き飛ばしただけだし、社会の厳しさという「理由になってません‼」わーったよ…悪かったですよ」

嶺の言う通り、フェイトのマンションに帰るとセイバーに詰め寄られ、正輝と嶺の姉弟は耳にタコが出そうなほど説教されている。なお、面倒くさがりな正輝がセイバーの誤解を解かせるのに、時間がかかったとのこと。

 


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