アオイのダンジョン配信録 作:たぬき
『は〜い皆さ〜ん聞こえますか〜?谷戸葵ですよ〜』
《コメント》
・でた
・声は良いんだよな、声は
・声 S。見た目 S orE
・見た目も良いぞ
・嫌だなぁ、葵ちゃんはいつも可愛いだろ?
・アレは別人格的なアレだって過去の配信でボソッと言ってた。昔の事故がきっかけで……みたいな。
・いつもは葵ちゃん。ヤバい時はアオイちゃんな。古参は簡単に見分け付くけど、初見でこれを見分けるのはひよこのオスとメスを見分けるよりむずいよ
『今日もいつも通りですね〜。ダンジョンでASMRをやっていこうと思うんですが〜。皆さんここで質問です!此処は何処でしょうか?』
《コメント》
・何処だ?
・いつもの場所じゃないのか
・"死者の平原"とか?
・腐敗のミルクロードじゃなさそう
・俺の家
・↑キッショ
・目が腐った
・死んで詫びろ
・ボロクソで草
『正解が出なさそうですね〜。正解はですね、ジャジャン!"魔物の森"でした〜』
《コメント》
・!?
・あ
・散ッ
・鼓膜がログアウトしました(予言)
・フラゲするな
・あーあ、遂に来てしまったか
・終わったな俺の耳。今までありがとうな、せいぜい最後の晩餐としてこの声を聞いていると良いさ。この良すぎる声をな
『前々から、何故かリクエストが多かったのでそのリクエストにお応えして!今日は此処で、ASMRをしていこうかなっと思います!自然の中でASMR……絶好のシチュエーションだと思いませんか?』
《コメント》
・初見です。この子やばい子なんですか?なんか滅茶苦茶良い声過ぎてちょっと怖いんですけど
・間違ってないけど間違ってる
・見た目は清楚、中身はバーサーカーだから
・えぇ……どう言う事ですか?それ
・まぁ見れば分かるさ
・清楚、時々バーサーカー
この世界には、ダンジョンがある。何故ダンジョンがあるのか?と言うのは、永遠のテーマとして今も学会で議論を行われているらしいけど、答えは出てない。それよりも大事な事は、このダンジョンによって利益が出たと言う事。
ダンジョンから持ち帰った鉱石や素材を売却してお金に変えたり、中でも多いのがダンジョン内の非現実じみた世界で配信してお金を稼ぐダンジョン配信だった。
で、例に漏れず私達もそのダンジョン配信者なんだけど……。一口にダンジョン配信者と言っても色々なジャンルがあるんだ。ほら、マンガだって、冒険にバトルに、ラブコメ。お色気、スポーツ物にドラマ、それからギャグ、SFっていっぱいあるでしょ?
それと同じでダンジョン配信も、沢山のジャンルが生まれて沢山の人達が先駆者として人々を夢中にさせている。その中で私がやるのが。
『それじゃあ、そろそろASMRを始めましょうか。皆さん、イヤホンの準備は良いですか〜?』
《コメント》
・いつでもOK
・ネットでポチった耳かきの力を試す時が来た
・はよ
・やっとか
・もう寝そう
・それはもう眠いだけじゃん
『良さそうですね〜。それじゃあ、ASMRを始めていきます』
ここは魔物の森と言うダンジョンの一つで、その特徴としては名前通り魔物が多いと言う事。しかもその中にはとても強い魔物もいるらしい。今はそんな様子は無く、鳥が平和に鳴いているけど。
だから、私はここへ来た。私の声は。音は、あらゆる生物(特に魔物)に好かれる声だから。
『よいしょっと……』
その場で正座をする様に座り、膝をポンポンと叩く。そしてそこへ誘導して漸く、ASMRが始まる。
『じゃあ耳掻きしていくね、まずは右耳から……』
先程まで聞こえていた鳥の囀りが、ピタリと止まった。その代わりに木々がざわつく様に揺れる。そして、ゆっくりと忍び寄る様に"それ"は現れた。
《コメント》
・何?
・来たわね
・凸者だ
・魔物『土足で勝手に人の家に入り込んで、ある物全部盗まれた挙句。見つかったら殺意マシマシで部屋の隅から隅まで追いかけられてそれで抵抗するなって言うんですか?』
・鬼畜すぎない?
・客観的に見たら終わってるわ
・これが、本当に怖いのは人って言う言葉の意味なんだね
普通の木よりも高いダンジョン製の木の背丈を軽く超える高さのそれは確実に私の元へ向かってきていた。最初はゆっくりだったのに、気のせいかその速度は少しずつ速くなっている気がする。
『《small》皆今までありがとう〜それじゃあまたね《small》』
私の出番はここで終わりだ。目を瞑って、何も考えない。そこを動かない私はきっと他人から見たら自殺願望でもあるのかと怒られるだろう。でも、大丈夫。
《コメント》
・おいこれ大丈夫か?
・生配信だろ?場所分かってるなら誰か行けよ
・大丈夫だよ落ち着けって
・落ち着いてられるか
・あああああえああ
・最期まで推せて幸せでした
・来世でも推します
・終わったな
《視点変更》
「おっとぉ!そこまでだデカブツ、そこからは先は立ち入り禁止ィ!!!!あ、日本語分かんねえか?ジャパニーズ!オーケー?」
何かが聞こえる。先程までが、最高級のヴァイオリンの音色が奏でる計算されたレベルの高いクラシックの演奏で。今は高いグランドピアノで幼児が手垢をつけて好き勝手に弾く児戯の様な物だった。
最初は腹が立っていた。気持ち良く寝ていた所を邪魔されたのだから。だが、良く耳を澄ましてみるとそれは雑音でも騒音でも無かった。初めて聴いた華麗な音色にあまりにも興味を惹かれて、引き篭もりだった俺は住処である森を抜け出し、音がする方へと向かった。
やがて、遠くに人間の少女が座っているのが見えた。そして近づくにつれ、自分の興奮が増しているのが手に取るように分かった。きっとこれが運命なんだと思いながら、走りだした。
そして漸く永遠にも思えた道を歩き終え、漸く辿り着いたらこれだった。目の前の女は先程と様子は変わらない様に見える。だが、興奮は冷めすっかり落ち着いている。何より、魔物としての野生のカンがコイツは違うと言っている。
なら、何処かへ隠したのか。それなら目の前の女を危険に晒せば出てくるだろうと思って、俺は両手を少女の上に持ち上げ。
振り落とした。リズムを刻み、何度も何度も。
拳の衝撃で、地面が凹み変わり果てた姿になろうとどうでも良い。それぐらい俺はあの音色に、あの声に惚れていた。
「ペッ……。砂まみれじゃねえか。葵に怒られるの私だから辞めてくれねえかな。ったく、面倒臭えなぁ!」
何かが聞こえた、既に居ないはずの何かが。確かに聞こえた。屈んで、必死に声の出所を探していると、腹が涼しい様な気がした。
『さっさとくたばれ、鈍感ノロマクソデカブツが』
腹に風穴が空いていて、そこから空気が入ってきているんだと理解した頃には既に遅かった。ああ、あの音を、あの声を子守唄だと思っていたが。それは違った様だ。アレは死神の声だったのだ。
そう俺は理解して、意識を手放した。