とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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誤字報告感謝です。改めて見ると自分の間違いの多さにかなしくなります。

今話は稚拙ながら私の勝手な解釈が含まれます。解釈違いでしたらごめんなさい。


5、暗躍⑤

 

 

 

 

「あそこか。………あんなに身を乗り出してんのは誘いか?」

 

 

 徐に体をマンションの屋上から乗り出している得体の知れない相手の影。

 

 あまりにもわざとらしいため一瞬、カウンタースナイプのための布石ではないかと当真は考えた。

 

 だが、カウンタースナイプも相手に反撃する余地を残さなければさほど脅威ではない。

 

 むしろこの当たれば確実に仕留め切れる状況は彼にとって都合が良かった。

 

 

「いや、考えるまでもねぇ。俺が狙うのは完璧な狙撃だ。」

 

 

 自分が確実に狙撃を完遂できる、そう思うまでは絶対に狙撃を行わない。

 

 それが当真勇という男の生来の性。

 

 自分自身の感覚が『決めろ、ここで確実に決めろ』、そう鳴り響かせている。

 

 

『ハァ……貴様は何回私にため息を吐かせるつもりだ。今回は勝てばいいだけの試合じゃないんだぞ。……まったく、早く動け。』

「さっすが。物分かりのいい真木ちゃんで助かるぜ。」

『黙れ、さっさと狙撃の用意をしろ。』

 

 

 彼の所属する冬島隊は狙撃手1人にトラッパー1人とまともな近接攻撃を持たない特殊な部隊。だが、それでもA級の中でも2位と高順位をとっている。

 

 あまりにも特殊な戦闘スタイルであるのにも関わらず他のA級部隊を押し退ける力を持てているのは、個々人の実力もさることながらオペレーターである真木の存在が大きい。

 

 そんな彼女が折れた、というよりも納得した。

 

 合理性と当真という人間を重ねて計算した結果がそれなのだ。

 

 

「誰だか知んねーけど、売られた喧嘩、買ってやるよ。」

 

 

 一言、そう言い放って当真はイーグレットの引き金を引く。

 

 風向きも完璧。当たらない道理はない。

 

 狙撃の姿勢を続けるターゲットはスコープを覗いたまま微動だにしない。

 

 当たる。

 

 当真がスコープ越しに敵のいるマンションの屋上の一角に着弾したのを確認した。

 

 真木は彼の放った銃弾が自身の描いた軌道予測の通りに動いたのを確認した。

 

 だが、瞠目する。

 

 破壊した瓦礫となったコンクリートの煙の中から1人の影がまだ見えているという事実に。

 

 見たところトリオン体に損害はなく、暫定無傷と言ったところか。

 

 

「やっぱ狙撃が来る方向が分かってたか。」

 

 

 やはりわざとらしく体を見せていたのは釣り。

 

 初めから彼女の狙いはカウンタースナイプ、その一つだった。

 

 駆け引きについて当真は負けた。

 

 だが、後悔はしていない。確実に当たる、そう納得して撃ったからだ。

 

 しかも空中なんて無防備も無防備。外したものの次の確実な狙撃につながる。

 

 満足はしていないが、結果は受け入れるしかない。

 

 

「チッ……普通アレは避けれねぇだろうが。」

『何やってるこの馬鹿!早く移動しろ!』

「わーってるよ。けど、アイツが落下してる間は無防備。今こそ狙い目

『違う!ま(・)だ(・)武(・)器(・)ト(・)リ(・)ガ(・)ー(・)の(・)反(・)応(・)が(・)あ(・)る(・)!』

 

 

 当てはできなかったものの、敵を空中に身を投げ出させることには成功した。

 

 普通の隊員であれば、無防備になった身を狙撃ないしは射撃から守るために武器を一旦しまい、シールドを2枚使えるようにする。

 

 落下中のターゲットは狙撃はおろかもう避けることすらできないはず。

 

 今回は木虎の時のように他の隊員はいない。よって引っ張られて予想外の挙動をすることもなければ、遠隔シールドで防がれることもない。

 

 当真はこの状況なら外すことは無い、そう考えた。

 

 だが、真木は見た。

 

 レーダーの反応にまだ武器トリガーの反応が残っていることを。

 

 

「オイ……オイオイ!マジかよ!?」

 

 

 一瞬煌めくのは少し離れたところにあるマンション付近の空中。

 

 トリオン体によって生身より強化された視覚は銃口が眩く輝き始めてるのを鮮明に映した。

 

 一旦引け、そう脳が訴える前に体は動いている。

 

 それは狙撃手としての莫大な経験がもたらしたのかも知れない。

 

 

(狙撃弾の方向は追尾弾(ハウンド)と違って途中では曲がらない。かと言って一旦引くのは相手も想定済みだろーな。だから、引くなら後ろじゃあなく……横!)

 

 

 ここまでやってくる相手だ、多少の移動じゃ予測して当ててきてもおかしくない。

 

 かといって前後の軸で動いても多少のズレで撃墜されかねない。

 

 ならば『運』が絡まないであろう右左の横軸で避けるのが妥当だろう。

 

 

『ダメだ!それも読まれてる!』

 

 

 直後、彼の脳内に響いたのは彼に注意を促す真木の声。

 

 背を向けて左にそれたはずの当真。

 

 だが、彼の体に吸い込まれるように銃弾は向かっていく。

 

 それを聞いた瞬間当真の思考空間は一気に鈍くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(俺は何回外した……?で、負けんのか……?)

 

 

 体力も無い。学力なんてもっての外。

 

 そんな自分が誇れるものは一つだけある。

 

 『狙撃』

 

 精度も駆け引きも狙撃後の行動すらも自分は一番だ。

 

 ただ、それも自分の技術と才能の高さ故。

 

 ボーダーを初期から支えてきたスナイパー、東春秋(あずまはるあき)を基本を突き詰めた究極と形容するならば、自分は型にとらわれない自由の究極。

 

 感覚派スナイパーの最前線をゆく彼には核たる行動理念がある。

 

 

 

『狙撃手は万が一外してしまったとしても問題ない。それで行動を制限できれば十分なんだ。』

『まーたお前はそんなことを後輩に教えてんのか。そんなんだからお前は2位なんだよ。』

『当真先輩……』

 

 

 いつだろうか。

 

 ボーダー2位の狙撃手である奈良坂透が後輩狙撃手達に指導してあげてるところに遭遇した覚えがある。

 

 奈良坂は『狙撃はあくまで補助でもいいんだ。』そう言っていた。

 

 当真にとってその考えは甘えだと感じた。

 

 もちろん、そういう考え方もあるだろう。

 

 ただ、冬島隊で直接点をとれるのは自分しかいない以上、文字通り当たらない弾に意味はない。

 

 だからと言って、それは狙撃手が銃弾を外していい理由にはならない。そう彼は考えていた。

 

 

 

(あーめんどくせぇ。やめだやめだ。)

 

 

 そんな自分のスタンスでここまで追い詰められているのだ。

 

 ボーダーの装備を持っている相手に。

 

 完敗、その二文字が頭の中を駆け巡った。

 

 

(いや……面白くねぇな。)

 

 

 面白くない。

 

 自分が勝っている。相手を倒す。その瞬間は面白い。

 

 そうでない時はどうか。

 

 ボーダー内の順位を決めるランク戦で出水に撃ち落とされた時。

 

 風間隊にステルス戦を仕掛けられてなす術なく落とされてしまった時。

 

 感じたのは「無」だった。

 

 面白くも悔しくもない。だってしょうがなかったから。

 

 何もできなかったんだからどうでもいい。ただ、それだけだった。

 

 そんな彼から湧き出した感情、それは『面白くない』。

 

 

(でも今のは違ぇな……なんかこう……納得してるが……抗(・)い(・)て(・)ぇ(・)……)

 

 

 彼にはうまく言語化できなかった。

 

 持っている学力の質のせいか。いや、違う。

 

 

(チッ……ここまできたら認めるしかねぇ。そうだ……俺は悔(・)し(・)い(・)ん(・)だ(・)。)

 

 

 悔しい。

 

 久方ぶりに感じたその感情は彼の一瞬の行動を変えた。

 

 ここに着弾するまでそう時間はかからないだろう。

 

 だからなんだというんだ。

 

 そんなもので負けていいものか。

 

 何もしないでこのまま受け入れれていいものか。

 

 待っているのは単純な敗北の結果だけではない。自分の何かが壊れてしまうのではないか。

 

 これまで築き上げてきた実力と自尊心。

 

 何もしなかったことで失ってしまう可能性を考えれば、ここで行動しないのは愚か者のすること。

 

 だからこそ彼は抗う。

 

 

 

 

 

 

 

「俺をここまで熱くさせやがって……そんくらいの責任は取れよ。」

 

 

 もう避け切ることはできない。

 

 自分のトリオン体の崩壊は避けられない未来。あと少しすれば着弾ののちにこの体は砕け散るであろう。

 

 だからこそ当真は今ターゲットがイーグレットを構えている方向に向き直る。

 

 

「だからせめてそのトリオン体、置いてってもらうぜ。」

 

 

 彼の持つイーグレットは寸分の間違いなく落下しているミサカを捉えている。

 

 同時にこちら側に飛来している銃弾の存在も見えた。

 

 もう一抹の猶予もない。

 

 

『そのままだ。貴様の狙いの通り撃ち抜け。落下速度と偏差も計算済みだ。』

「……!」

 

 

 最後の最後で抗う。普段と違うその展開を予想している真木には驚愕の意しかないだろう。

 

 ただ、それは普段からよく言えば個性的、悪く言えば気狂いの彼を補佐しているからこそできたのか。

 

 より一層引き金を引く力が増していく。

 

 

 

 

 引き金を、引いた。

 

 イーグレットの銃口が光る。

 

 弾丸が放たれる。

 

 放たれたミサカの弾丸と当真の放った弾丸が彼の目前で交差する。

 

 被弾する。

 

 相手がどうなったかはわからない。

 

 弾け飛ぶ体。

 

 ミサカの放った弾丸は間違いなく彼の体を撃ち抜いていた。

 

 

 

 

「最後まで抗ってやったぜ、クソッタレ。」

 

 

 

 

 

 

 

【トリオン体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼

 

 

 

 

 

 

 

 

「がッ……!」

「ようやく帰って来たか、馬鹿。」

 

 

 トリオン体が維持できなくなった当真は緊急脱出(ベイルアウト)し、冬島隊の隊室に転送された。

 

 転送されて落ちて来たのは簡素なベッドの上。

 

 ボーダー内でも質の改善や別のものへの交換の要望が絶えないことで有名なそのベッドは優しさなどなく当真の体を受け止めた。

 

 あまりの着地の衝撃に呻き声が出る。

 

 

「おぅ……お…お疲れさん……ゔぇっ…」

「冬島のおっさん。酔いは大丈夫そう……じゃねぇな。」

「……俺…まだ29なんだけど……ゔぉっ……」

 

 

 彼を出迎えたのは何も真木だけではない。

 

 先程まで遠征艇に乗っていた弊害の酔いでまともに行動ができなかったために真木にこってりと絞られていた冬島隊隊長、冬島慎次(ふゆしましんじ)も同じく彼を出迎えた。

 

 どうやらまだ酔いは覚めていないらしく、死にそうな顔をしている。

 

 緊張感が解けたのだろうか。当真から少し笑みがこぼれる。

 

 

「……ハッ。」

「どうした。そんなに俺がおっさんだったのが面白かったのか?」

「違うでしょう。この役立たずのことで笑うわけない。」

「ぐッ……真木ちゃんの言い方はひどいけど、事実だから何も言えねぇ……」

 

 

 酔いで離脱していた冬島には到底わかるわけがない。

 

 ただ、真木にはわかっている。

 

 最後の狙撃の応酬の瞬間に当真が思っていたことを。

 

 

「満足したか?」

 

 

 だからこそ聞く。

 

 一瞬、当真は目を見開きながら上を向き清々しい顔で答えた。

 

 

「満足……はしてねぇ。でも……」

「でも?」

「気持ちよかったぜ。」

 

 

 その言葉は乾いた隊室中に響いて、霧散した。

 

 黙って見ていた冬島隊の2人は顔を見合わせた。

 

 

「フフッ……」

「ハハハッ……」

 

 

 あまりにも普段と違う当真の様に2人もまた、笑みをこぼしてしまった。

 

 真木とは思えない笑いと、彼らの笑いの理由がわからず当真はポカンとしていた。

 

 

 

 

 

 

 剣呑な空気はあれども、この隊に悲壮感や静けさは似合わない。

 

 周りは電気がきえて暗くなっていく中、冬島隊の隊室は明るいままだったと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







落とされる時にやる気なく緊急脱出しているのを見て、「普段気だるげなのに、ふとした瞬間に悔しさが込み上げる。」っていうのが浮かびました。

こんな展開、リアルじゃ無理だろ。その言葉はやめてください。私にクリーンヒットししまいます。

個人的な癖満載ですみません。

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