とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ) 作:さくらぎ おきの
「ターゲット確認。と、ミサカは徐に引き金を引きます。」
空中で舞い落ちる少女は狙いを絞る。そこに一切の躊躇はない。
引き金を引く直前、構えていたイーグレットの銃先を少し左に向けた。イーグレットの先は狙うべき当真を向いていない。
『一体どこに向けておる!もう少し右ではないのか?』
「今いいところなんですから黙ってください。彼はきっと左に避けます。と、ミサカは予言めいたものを貴方に送ります。」
『黙っ……!何じゃと!?』
鬼怒田は彼女の失礼な発言に一瞬苛立つも、それ以上の衝撃に出会うこととなった。
まさか、ボーダーの狙撃手のトップに君臨する隊員の行動さえも予測できると言うのか。こんなぽっとでの傭兵もどきに。
だが、彼は知らない。
今、当真を刈り取ろうとしている少女が間接的とはいえ1万回以上も命の奪い合いをしてきたという過去を。
何度も何度も何度も何度も。
あらゆる手をとったとしても勝てない相手に対して、策を弄してきた。もちろん、常人なら不可能なスタイルも場合によっては選択しなければいけない時もあった。
結局のところ、
だが、今はどうだ。
相手はベクトルを操作することもなければ異次元の身体能力を暴力的に振るってくることもない、ただの
相手の緊迫した状況下でにふいに出る行動を想定することなど造作もない。
(常に狙撃のために右手にイーグレットを持っているせいで、体が左にほんの少し傾いています。つまり狙撃を避けるなら左側ですね。)
人間の体は片方に重圧がかかっている場合、体を水平に保とうと体のバランスをあえて重圧のかかっていない側に傾けようとする。
その影響なのか、当真がイーグレットをしまいながら移動していた時に右肩が上がっているのが見えた。
相対的に重心が左に偏っているということは、すなわち彼の体は無意識に左側に向きやすくなってしまっていることを示している。
それを見越したミサカは彼の走り方が先ほどと変わっていないことをスコープ越しに一瞥し、そのままイーグレットを構えた。
引き金を、引く。
銃弾が放たれる。
ミサカの言った通りに当真は振り返った後に左側に避けた。
当たるまでに少々ラグがあるが、このままいけば彼女の放った銃弾はまず間違いなく彼を貫くだろう。鬼怒田は直感的にそう感じてしまった。
『なんだ、その技は!それほど動けるなら何故初めからそう言わん!』
「だって聞かれませんでしたし……とミサカは自分のせいではないと必死に伝えてみます。」
通信越しに聞こえてくる鬼怒田の声は驚愕と感嘆に塗れている。
(空中で撃ってみること自体は他の隊員でも、
はたして空中スナイプなどという狙撃手の基礎から逸脱した行為を平然とやってのける隊員がボーダーにいるのだろうか。
ボーダーきってのアクション派
ただ、
足場のない不安定な状況で狙ったところに狙撃することがどれほど難しいか。
だが、思考する暇もなく次のアクションが起きた。
「何とか撃破ですかね………と、ミサカは青白い光を見てそう判断してみます。」
先程まで当真いた場所からはトリオン体の崩壊を知らせる光がたちのぼっていた。
しかし、何もなく終わる、そんな呆気ない結末は訪れない。
「………………ッッ!!まさかッ!」
トリオン体で強化された視覚によって何かに気づいたミサカ。
たった0・数%ほどしかない確率。
例え銃で蜂の巣にされようとも、剣で両断されようとも生身には何も影響がないような生ぬるい環境で戦ってきた彼らが最後の最後で置き土産を残していく。そんなことが起きる可能性なんて万にひとつもないはずだった。
だが、
勝利を確信した少女の双眸に映るのはこちらへ向かってくる銃弾の光。
それは当真が最後の最後に残した捨て身の狙撃。
それは、依然空中に投げ出されたままの彼女にとっては必殺の一撃となる____!!
(正直侮っていましたね………落下速度も計算されています。このままでは間違いなく
ミサカは認めた。彼らが抱えているボーダー隊員としての矜持を。
(ですが、それが諦めていい理由にはなりません………とッ!!)
だからといってミサカは甘んじて受けるわけにはいかない。
今、彼女の片手はイーグレットでいっぱいだ。着弾までの時間を考えれば一旦消す時間もあるとは思えない。
だが、もう片方の手が空いている。
「"シールド"!!」
そう言い放った彼女の手には薄く伸ばされたシールド。
『何!?当真の奴、最後の最後で撃ってきおったぞ!一枚のシールドでは防ぎきれん!どうするのだ!?』
彼女の手に展開されているシールドを見た鬼怒田は焦りと共に興奮していた。
また何か見せてくれるんじゃないか。そんな考えが頭を駆け巡る。
そんな期待を受けていることに気づかないままミサカはシールドを遠隔操作に切り替え、空中に固定する。
そしてそのシールドを押すことで体を強引に逸らした。
『防ぐためのシールドではない!?遠隔シールドを足場ならぬ手場にするとは!』
遠隔シールド一枚では防げないと判断した彼女は、自由落下に新たなベクトルを作るべくシールドを"防御"ではなく"オブジェクト"として利用したのだ。
勢いよく落下している以上、ちょっとやそっとの衝撃で落下する方向が大きく変化するわけではない。せいぜい変わっても数センチの世界。
だが、そのほんの少しの変化が彼女の未来を変えた。
貫く閃光。
彼女の影は間違いなく貫かれた。
勢いそのまま落下する彼女は民家に叩きつけられながら最終的に民家の屋根に着地。
何度も打ち付けられたようで、痛みはなくとも衝撃が彼女の体をこわばらせた。
「ぐッ……がッ………ハァ………ハァ………」
『大丈夫か!?』
「ハァ………何とか無事です。と、ミサカは安否の報告を行います。ですが………」
安全報告を行うも何かを言い濁したミサカ。吐息からもかなり無茶をしていたことが窺える。
その何とも言えない不穏な雰囲気に鬼怒田は一抹の焦りを覚えずにはいられない。
『それで何があったのだ!早く答えんか!』
「……動けてあと数分……いや、1分くらいでしょうか。」
『何!?』
「
鬼怒田は急いで彼女のバイタルを確認した。
【警告 トリオン漏出甚大】
彼女の両足は当真の狙撃によって吹き飛ばされてしまったのだ。
現に彼女の両足からは光の粒子が夥しいほど漏れ出てしまっている。
『何を呆けておる!とっとと
「いやです。まだメインターゲットを落としていません。と、ミサカは最後の最後まで戦う意志を見せます。」
『そんなことを言っとる場合か!このままでは死ぬぞ!』
ミサカの体は常にトリオンを必要としている。トリオン体が活動限界に至るまでトリオンを使うのなんてもっての外。
最悪の想定では
いくら利害関係の間柄といえども、取引相手は鬼怒田自身の娘と年齢がそう大して変わらない少女。目の前で死なれでもしたら夢見が悪い。
だからこそ鬼怒田は本気で忠告した。
「今なら狙えます。
だが、鬼怒田の心配虚しく天は幸か不幸か彼女に味方した。
彼女が構えるイーグレットのスコープに映っているのは風刃を片手に風間と太刀川の体を地に伏せさせている迅の姿。
彼の注目は間違いなく2人に注がれている。
警戒するそぶりも見せないその姿はあまりにも狙撃の格好の的だった。
最後の最後。
バランスの取れない体を起こしながら、狙いを定めてミサカは告げる。
「これ以上ない
△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼
「ふぅ、勝負あり、だな。」
一方、当真とミサカが狙撃戦を繰り広げていた中で迅は歌川を落とし有利に戦闘を進めていた。
太刀川は腕を一本切り落とされ、風間は身体中からトリオンを漏らしていた。
「なるほどな、いずれ来るだろう実戦に備えて手の内を隠していたと言うわけか。」
「悪いねぇ。生粋の脳ある鷹なもんで。」
今回の戦闘で彼らが敗北を喫したのは情報による差が大きい。
迅の持つ黒トリガーの性能自体はボーダー上層部から知らされている。だが、どのように使われるのか、彼らは応用の方法に関して何もわかっていなかった。
対して迅は2人の手の内を完全に理解していた。
攻撃のパターンや手癖、挙句には武器の性能まで何もかも。
「だが、こうして風刃の性能は理解できた。ボーダーの正式入隊日まで三週間。必ずその間にお前を倒して黒トリガーを手に入れる。」
太刀川は苦し紛れにそう言った。
彼らに残されたタイムリミットは三週間。あと三週間経つと玉狛の
だが、逆を言えばその期間はいくらでも玉狛の黒トリガーを回収しにいくことができる。
戦えば戦うほどに風刃の性能をボーダー本部側は把握していき、玉狛側はそれに応じて不利になっていく。
「さてどうする、迅。戦えば戦うほど俺らは学んでいく。それでもまだ勝てるって言うのか?」
「残念ながら、そうはならない、太刀川さん。」
そう言って迅は風刃を振りかぶる。
もはや彼らには風刃の斬撃を避けられるような力はない。
これまでか、と風間は辛酸を舐めたような顔を見せた瞬間、彼らは驚きの光景を目にした。
「………は?」
「オイオイ……マジか。
迅は未来を見ることができる。それはボーダーに所属している隊員ならば皆知っているような事実。
それによって迅には狙撃をしたとしても必ず避けられてしまう。それもまた皆が知っている事実である。
だが、目の前の現実はどうだ。
紛れもなく迅の体は狙撃によって貫かれている。
黒トリガーにはボーダー製のトリガーのように
彼らにとってあまりにも突飛な状況だったせいか、風間は思考を停止し、太刀川は呆気に取られることしかできなかった。
「あらら、やられちゃったか〜。ま、これもありえた未来だったけどな。」
白い煙の中から出てきた迅はまるで狙撃されたことを気にも留めていないかのように言った。
その飄々とした姿はあまりにもこの状況に相応しくない。
何が起きたのか、誰がこのような行動をしたのか。
それを考える暇もなく、太刀川と風間のトリオン体は限界を迎えた。
【【トリオン体活動限界
無機質な音声と共に彼らはボーダー本部まで送還された。
一方で、迅はニヤリと片方の口角を上げた。
その姿は自分の想定どおりに事が運ばれていることを暗に示している。
「あとは………」
そう呟きながら、迅はポケットから携帯電話を取り出し誰かにかけ出した。
「
「了解!」
「了解です。迅さん。」
「わかった。」
何もかもジンのシナリオどうりに………
日常編欲しいですか?
-
欲しい
-
いらない
-
必要最低限の日常編が欲しい