とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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誤字報告感謝です。


7、後始末①

 

 

 

【トリオン体活動限界 緊急脱出(ベイルアウト)

 

 

「すまない迅。なんとか勝利していてくれ……」

 

 

 そう苦しそうに言葉を吐き捨てながら離脱していく嵐山。

 

 迅を取り巻く戦闘の裏で三輪隊はすでに脱落した木虎を除く嵐山隊の面々を退けていた。

 

 

「奈良坂ナイス〜。お前が佐鳥を落としてくれたから遠慮なく全力攻撃(フルアタック)使えたわ〜。」

『お前が機転を効かせて佐鳥の狙撃を釣ったからだ。感謝には及ばない。』

 

 

 元々片足を失ったことでトリオンの漏出が激しかった時枝はその後特に行動を起こせず緊急脱出(ベイルアウト)

 

 佐鳥は防御のできなくなる出水の全力攻撃の隙をつく狙撃を行うも、三輪の遠隔シールドで防がれてしまい奈良坂の狙撃で緊急脱出(ベイルアウト)

 

 狙撃手がいなくなったため自由に全力攻撃が行える出水はそのまま嵐山を銃撃の届かない位置から安全に削りとった。

 

 こちら側の戦いは三輪隊の面々が勝利したわけだが、肝心なのはあちら側。迅と太刀川+風間隊の勝負だ。

 

 太刀川たちが負ければ作戦は失敗。反対に迅が負ければこのまま作戦は次のステージに移る。

 

 

「おい!あれ見ろよ!」

 

 

 何かを発見したのか、出水が空を指さしながら皆に呼びかける。やけに迫真とした声はその重大性をありありと示している。

 

 すると、そこには二つの光が見え、同時に彼らの通信機から音が聞こえてきた。

 

 

『三輪君。太刀川君と風間さんがやられたわ。古寺君と奈良坂君も今から撤退して。』

「…………クソッ!」

「マジかよ負けたかぁ。つーかマジで迅さん勝ったの?黒トリガー、半端ねぇな。」

 

 

 三輪隊オペレーター、月見蓮(つきみれん)から告げられたのは遠征組が誇る主力戦力の敗北。

 

 当然、空を舞う二つの光がを見た三輪隊一行もその結果を直感で悟っていた。

 

 風間隊の風間を除く2人の脱落は想定内だったが、あの2人がやられるのはお世辞にも良い状況とはいえない。

 

 

『ただ……………迅君のトリオン反応も同時に消えたわ。おそらく太刀川君か風間さんが差し違えたんだと思う。』

「つ、月見さん、今の本当?」

『ええ、本当よ。』

「やってくれたじゃねぇか。太刀川さん!風間さん!」

「何……?」

 

 

 だが、報告は一つでは終わらない。

 

 続いて入ってきた情報に三輪は考えを巡らせる。

 

 

(残っているこちらの戦力は俺と出水と古寺と奈良坂。チッ、当真さんが残っていればもっと楽に行けるだろうに……)

 

 

 三輪はまだ黒トリガー奪取の動きを続ける計算をしていた。

 

 近接戦闘を行う米屋がいないのは自分がカバーするとして、出水がいるというのが何よりも大きい。

 

 相手に防御を強制できる、すなわち攻撃に移させない力を持つ出水は戦闘を行う上でとても心強い。

 

 だが、彼らにとって最も痛手なのは狙撃手が1人落とされてしまっているということ。何が起きているかは把握しきれていないが、先ほど当真が落とされたこと自体は月見からの通信で把握済みだ。

 

 米屋がいないため決定打が不足している以上、一発当てれば相手に大打撃を与えられる狙撃手の不足はかなりよろしくない。

 

 

(だからと言ってそれが近界民(ネイバー)をみすみす見逃す理由になるのか?それに業腹だが太刀川さんも戦闘期間を長引かせることには反対していた!)

 

 

 今回のターゲットである黒トリガーは学習する特殊なトリガー。この作戦に時間をかければかけるほどボーダー本部(こちら)側が不利になっていくのは紛れもない事実。

 

 そして何より敗北は自分を否定することに繋がりかねない。

 

 だからこそ、三輪は告げる。

 

 

「全体、ここからの指揮は俺が取る。」

『三輪君!?』

「このまま残ったメンバーで玉狛の黒トリガーを取りに行くぞ!」

 

 

 月見の静止など気にも留めず、三輪は続戦の構えをとった。

 

 

「でも本当にこのメンバーで行けんのかよ。相手は黒トリガーだぜ?」

「いけるか、じゃない。行くんだ。俺たちは。」

「はぁ………まあいいか。これから戦う機会がそうあるかもわかんねぇしな。」

 

 

 出水は一瞬躊躇するも、米屋と同じく根っからの戦闘狂だったためか、最終的には三輪の案に乗るようだ。

 

 他のメンバーも同じようで何も異を唱えることなく次の言葉に耳を傾ける。

 

 

「ここでモタモタしている場合じゃない。さっさと行くぞ!」

「りょうか……

 

 

「息巻いているところ悪いが、此処を通すわけにはいかない。」

 

 

「「ッ!?」」 

 

 

 突然聞こえてきたのは野太い男の声。だが、正体は何も言わずとも彼らに伝わっていた。

 

 

「木崎さん!?マジかよ……ここで来んのかよ!」

「出水()()、レイジさんだけじゃないですよ。」

「なッ……おま……」

 

 

 そして続けてその大男の横にもっさりとしたイケメンが降り立った。

 

 その登場に出水は面食らったようで、少々唖然としていた。

 

 

「京介……お前この時間バイトだったんじゃないのかよ……」

「迅さんがバイトの時給の1.5倍出してくれると申し出てくれたので。」

「それでいいのかお前……」

「あたしも忘れてないかしら!?」

 

 

 なぜか話が脱線しそうになったのを遮るように、そう言ってまた彼らの隣に1人の少女が降り立った。

 

 計三名、彼らに道を行かせないかのように立ち塞がっていた。

 

 玉狛支部の豪快かつ頭脳的な武闘派狙撃手、木崎レイジ(きざきれいじ)

 

 元太刀川隊、現玉狛第一の万能手(オールラウンダー)烏丸京介(からすまきょうすけ)

 

 自称攻撃手(アタッカー)1位、実際は攻撃手(アタッカー)3位、小南桐絵(こなみきりえ)

 

 錚々たる面子が放つプレッシャーは並々ならぬものだ。

 

 

「それで?キミたちがココを突破するにはあたし達を倒さなきゃいけないけど、それでもやる?」

「ぐッ………」

 

 

 小南の言っていることは事実。

 

 目の前に立ち塞がる彼らの実力は言うまでもない。文字通りボーダーの最高戦力とも言わしめる彼らを中途半端にトリオンを消費してしまったこちらの面子でどうにかできるとは到底考えられなかった。

 

 事実、それ故に認めることがなおも難しい。

 

「小南先輩、あまり三輪先輩を舐めないほうがいいですよ。」

「何よ、私が負けるって言いたいの?」

「いえ、三輪先輩は近界民への恨みを力に変えて大爆発を起こせますから。その範囲は半径50kmに及ぶらしいです。」

「ちょっと!そう言うことは早く言いなさいよ!あ〜もう!どうするのよ!」

 

 何やら話している声が聞こえてくるが、三輪にとってそれどころではなかった。

 

 ただでさえ玉狛の黒トリガーと戦うだけでもギリギリの戦力だというのに、ここで削られるのはあまりにも絶望的。

 

 そもそも彼らに負けて仕舞えば元も子もない話ではあるのだが。

 

 

「お、お前らはッ!……なぜ近界民(ネイバー)の味方をする!お前らだって近界民(ネイバー)の被害を受けたことがあるだろう!」

 

 

 苦し紛れか、三輪の口から質問が飛び出した。

 

 玉狛の面々は元々旧ボーダーの成れの果て。第一次大規模進行にて現在のボーダーと玉狛で袂を分かったその片割れなのだ。

 

 元太刀川隊である烏丸はともかく、小南と木崎に関しては近界民(ネイバー)の残虐性や悲惨さがよく分かっている……はず。

 

 三輪にはわからない。身近な人が傷つけられ、最悪の場合、自身の姉のように殺されてしまう経験をしておきながらなぜそんなにも近界民(ネイバー)に期待を持てるのか。

 

 それを聞いた何か話し合っていた烏丸と小南は三輪の方に向きなおり、木崎はそのまま目を見つめてこう言った。

 

 

「「「迅(さん)が言ったから。」」」

 

 「なッ………」

 

 

 彼らは言う。迅の言ったことには絶対的な信頼を置く、と。

 

 三輪はそれに一瞬口を詰まらせ、それに被せるように木崎は言い放つ。

 

 

「言っておくが、迅も近界民(ネイバー)の被害者だ。だから、アイツも近界民(ネイバー)の危険性や凶暴性も当然知っているだろう。」

「…………」

「それも含めてアイツは自分のするべきことに向かっている。己の切り捨ててきた未来と向き合いながら、な。」

 

 

 三輪は何も言い返せなかった。

 

 自分だけが過去を恨み続けて、停滞していることに気付いたからか。それとも、自分が近界民(ネイバー)と同時に恨んできた迅もまた被害者だと知って気が抜けてしまったからか。

 

 片方、あるいは両方かもしれない。どちらにせよそれらは三輪の戦意を多少なりとも削ぐ理由になり得てしまったのだった。

 

 だが、木崎の諭しは止まらない。

 

 

「それに()()()()()()()()()()()()()。」

「ちょ、ちょっとレイジさん!それ言っても大丈夫なの!?」

「いいんだ小南。いいか、三輪。俺の父はレスキュー隊員だった。困っている人達を助けて、周りから感謝されている父はとても誇らしかった。」

 

 

 小南が木崎を慮り止めようとするも、木崎の語りはなおも続く。

 

 

「だが、そんな父もとある少年を助けるために命を落とした。傷が酷かった胸部の状況を見る限り、まず間違いなく近界民(ネイバー)によるものと見て間違いないだろう。」

「………恨めしくないのか……近界民(ネイバー)がッ……」

「恨めしくない、といえば嘘になるな。だが、その近界民(ネイバー)と他の近界民(ネイバー)は違うかもしれない。」

「もし同じような近界民(ネイバー)だったら!それのせいで他人に被害が及んだらッ!」

「そうならないように()()のが俺らボーダーの役目だろう。少なくとも俺は今いる人を守るために体を鍛えている。」

 

 

 ようやく捻り出した反論も彼には届かない。

 

 自分は元凶を取り除くことで市民を守る、そう建前を作っていた。

 

 結局それは建前であってボーダーの本分にはあっていないかもしれない。そう三輪は考えさせられてしまった。

 

 加えて、それがますます自分だけが過去に取り残されているように感じられた。

 

 

「なぁ、三輪。そろそろ()に進んでもいいんじゃないのか?」

「……………」

「お前の近界民(ネイバー)を恨む気持ちも十分にわかる。それに、お前の任務と私情は全く関係ない。違うか?」

 

 

 紛れもない正論。それはまるで自分がおかしいのではないかと思わせるほどには三輪を揺さぶっていた。

 

 だからこそ、三輪の姉を思う気持ちと正論がせめぎ合っている。

 

 三輪の思考はうまくまとまらない。でも、なんとなく考えが出来上がったような気がした。

 

 

「それはそうとして、いいんですか?小南先輩。三輪先輩、このままじゃ大爆発でここら一帯焼け野原ですよ。」

「あ!そうじゃない!早くレイジさんに伝えて爆発をやめさせないと!」

 

 

「木崎さん………俺は………」

 

「レイジさん!三輪は近界民(ネイバー)関連で刺激すると大爆発を起こしちゃうの!バーッって!こうバーッて!だからあんまり攻めないほうがいいわ!」

 

「「「………………………」」」

 

「え?何よ、この雰囲気。」

 

 

 

 それは三輪が何かを言い出そうとした瞬間のことだった。

 

 

「嘘です。」

「え?」

「嘘です。三輪先輩が爆発するとか諸々。」

「それじゃあ……半径50kmって言うのは……」

「ええ、嘘です。なんですか50kmって。ボーダー丸ごと巻き込むじゃないですか。」

「アンタ……騙したわねぇーッ!!」

 

「お前らいい加減にしておけよ……。で?なんだ?三輪。お前が言いかけてたことは」

「いや、いい。」

 

 

 何か大事なことを言いかけていた三輪だったが、興が削がれたのか、何も言うことはなかった。

 

 その顔はまだ考え事をしている様子。だが、毒気は完全とは言わずとも少し抜けている。

 

 

「ハァ……………全体、緊急脱出(ベイルアウト)だ。」

「いいのか?最後までやんなくてよ。」

「………今ここにはアイツらを倒して黒トリガーを奪取する戦力はない。」

 

 

 出水は念の為確認するも、三輪の考えは変わらないようだ。

 

 出水自身としては作戦続行が不可能な以上、このまま留まり続けるのも面倒であったため好都合ではあった。

 

 そして、三輪隊一行の体が光り始める。

 

 

「最後に一つだけ。迅に『俺は任務を諦めるつもりはない』、そう伝えておけ。」

「分かった。」

 

 

 そう言って満足したのか、複雑な顔をしながらも三輪達は光となって本部へ帰還していく。

 

 

 結果として玉狛はとある近界民(ネイバー)の持つ黒トリガーの防衛に成功し、一方で本部側は任務を遂行することに失敗した。

 

 文字だけ見ればボーダー本部の敗北。

 

 だが、何も得られなかったと言うわけではないようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








木崎もまた家族を近界民に殺された悲しき人間なのであった。

まあ小南のやりとりが描きたかったと言うのもありますが……

でも、三輪の考え方に変化がないとミサカと対面した時にノイローゼ起こしそうなので……


あと2、3話で黒トリガー争奪戦編は終了ですね。

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