とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ) 作:さくらぎ おきの
「ほれ、早く起きんか。……全く、今回が初めての運用だというのに無茶しおって……」
鬼怒田は声をかけるもその声に反応は見られない。
それもそのはず。鬼怒田の目の先には、先ほどトリオンをほとんど使い切ってしまい
現在はなんとか安静状態ではあるのだが、つい先程までは生死を彷徨うくらいには危険な状態にあった。
あくまでボーダーの施しているトリオン供給は延命措置であって問題の根底を解決する物ではない。
それに、彼女のボーダー本部外での生命活動を支えているのは首元にあるチョーカー型トリオン供給機一つのみ。何かしらの衝撃や攻撃によって壊れたり、エラーが発生してトリオンが供給できなくなってしまうと不味い事態になるのは想定に難くない。
ゆくゆくは原因解明と治療も視野に入れなければいけないのだが、見ず知らずの人間、ましてや
よって現状はチョーカーで様子を見つつ、ひたすらに延命措置を続けていく他なかった。
「それにしても、此奴のいた
他にも気になることが鬼怒田にはあった。
普通の人間であれば武器を渡されて戦ってくださいと言われたとしてもすぐには扱えない。
ボーダー隊員も元は一般人。一定の訓練をしなければ武器の使い方すらもわからない。一般的には実力者に教えを乞い、武器の扱い方はもちろんのこと、立ち回りや相手との距離ごとの戦い方などを身につけていく。
『よし、大丈夫です。いつ転送しても大丈夫ですよ。と、ミサカは動作訓練に不備はなかった旨を伝えます。』
『本当か!?そんな簡単に済ませて良い物ではない!どれ見せてみろ………なッ!全弾中心に命中………じゃと!?』
『別にここは無風ですし反撃もないのでやりやすかった部類ではあると思うのですが。と、ミサカは行き過ぎた過大評価に訂正を求めます。』
だが、彼女は一通り動作を確認したらすぐに動作練習を切り上げた。
鬼怒田は作戦決行の前段階の時点では彼女の戦闘スタイルが徒手空拳系統であると認識していた。
報告にあがっていたのは武器を使わずに『奇妙な電撃を使う』ということ。それ以外は基本的に素手で戦っていたらしい。
よって使う武器は近接主体である弧月かスコーピオンかと思っていた。だが、彼女が提示したのはまさかのイーグレット。
あれほどの身のこなしであれば
加えて、迅には持ち前の
『何故スコーピオンや弧月を使わん?業腹じゃがお前の戦闘スキルならば十分迅にも通用すると思うがの。』
『まぁ、理由は色々ありますが、一つは単純に近距離戦闘では被弾率が圧倒的に高いことが挙げられます。』
トリオンの不要な漏洩は文字通りトリオンの残量が死活問題な彼女にとって最も避けるべき行為の一つでもある。
ボーダー側が迅の黒トリガーの性能を完璧に把握し切っていない以上、不用意な接近は悪手である。と、ミサカは考えていたのだった。
『あと、ミサカは今回の作戦に参加する人たちと面識がありません。突然ミサカが現れたら迅と彼らが結託し、標的がミサカになってしまうなんて展開も考えられます。狙撃手だったらほとんど対面することなく任務を遂行できます。』
『それはそうだとしても……』
『城戸司令も何か意図をこめているはず。それをミサカがわざわざぶち壊す必要もないでしょう。もちろん、城戸司令から新たな司令が下ったらぶち壊すのもやぶさかではありませんが。と、ミサカは組織への忠誠心をあらわにします。』
彼女にとって最大の優先事項は城戸の命令。
ボーダーの全権を担う彼がYESというのならそれに肯定を示し、NOというのなら拒否を示す。それがボーダーと彼女の間に結ばれた契約なのだから。
『納得していただいたのなら早く転送してください。1人でも多く落とさなければ私を雇う価値はないのでしょう?と、ミサカは自分の分の成果に対して危機感を覚えます。』
『ふ、フン!そんなに言うなら見せてもらうとするわい!』
ミサカの急かしに対して鬼怒田は挑発するように答えた。
だが、それは内に感じたほのかな
結果として、作戦自体は失敗。黒トリガーの奪取はおろか木崎達玉狛第一のメンバーを用意していた事を見るに相当準備されていたようにも思える。
そして木崎達が出てきたと言うことはこれからの襲撃も彼らが出てくるだろうし、警戒心も相当に高いはず。次回の作戦はより困難を極め、実質的に今回が最後の機会となることを意味している。
本部側が切れる残りカードは『いつでも攻め込める』というなんとも甚だしい空虚な幻くらいのものだ。こんなものでは取引をしようにも相手側のメリットがなさすぎる。
だが、一方で収穫がなかったわけではない。
ミサカは木虎と迅、そしてイレギュラーではあったが当真も撃破している。
特に、前段階の情報では狙撃が効かないとされていた迅に対して狙撃を完遂、しかも両足を当真に消し飛ばされた状態で行ったその成果は例え作戦自体が失敗に終わったとしても評価されるべきことだろう。
総括して、これからに期待と言ったところだろうか。ミサカは使い方次第では下手な扱いに困る黒トリガーよりもよっぽど有効に
ただ、最後に迅のトリオン体が崩壊する瞬間に笑っていたのがどうしても鬼怒田の心にこびりついていた。
(最後の含みを持った迅の笑み………彼奴には一体どこまで見えている………)
迅の行為に無駄だったことは一つもない。必ずどこかで成果を出す。
言い換えれば、一見失敗であったり想定の外をついたと思えても、実はそれが迅の狙いだったりする場合がある。
彼の能力も絶対というわけではないが、そんな疑念を持たせて相手の足を一旦止めてくるだけでもかなり厄介なのだ。
味方だと頼もしい反面、敵にするとこれほど厄介だと鬼怒田は再確認した。
「ぱちくり。おや、どうやら気を失っていたようですね。と、ミサカは自分のこんな不覚な状態を見せてしまったことに恥を覚えます。」
「む。起きたようだな。どうだ、初めてのトリオン体での戦闘は。」
「死なない体、というのも案外悪くはありませんね。ただ、少し緊張感に欠けます。」
「き、緊張感じゃと?」
「はい。特にあのリーゼント頭の隊員との戦闘で深く感じました。」
技術顧問兼技術室室長である鬼怒田が待ち侘びていたその時が訪れた。
一度試験的には開発しているものの、ほとんど初めてとなるチョーカー型トリオン供給機の感想を聞く時を。
だが、その感想と同時に彼女から鋭い意見が飛び出てきた。
「先ほど言った擬似的に死なない体、強化された身体能力、そしてそれらを駆使して戦うに適している武器等素晴らしいものもたくさんあります。ただ……」
「ただ?」
「"次がある"ほど腕を鈍らせる物はない。と、ミサカは考えています。」
鬼怒田は息を呑んだ。
内心は「何を言う!」と言いたかったが、その言葉は言う間もなく喉の奥にしまわれた。
「こと戦闘において第一に大切なことは何なのでしょうか。一般的に勝つことや諦めないこと、なんて言われたりもします。」
「それはもちろん、
「おー。その通りです。と、ミサカは見事正解を言い当てた鬼怒田さんに驚きが隠せません。」
戦闘は目先の一戦を勝利すればいい、という物でもない。
仮にその一戦を勝利したとして、他の戦闘で負けてしまったならば総合的には敗北となる。
そのこと自体は鬼怒田も十分承知している。だからこそ全体の勝利のためにも
「であれば、組織の意図と隊員の意図が合致していない可能性があります。特にあのリーゼントとヒゲ。戦闘を
「面と向かって言われると否定はできん………」
「まぁ、彼らには彼らなりの戦闘スタイルや戦闘に対する向き合い方というものがあるのでしょうが。と、ミサカはあの人たちに譲歩の余地を残します。」
彼女の目に光はない。
「防衛戦を想定しているのならそれでもいいのかもしれません。戦いを楽しむっていうのはモチベーションを保つのにもある程度役に立つでしょう。でも、遠征はどうなんでしょうか。遠征から帰還してきた人員を見てみた限り、あまり連れてはいけないのでしょう?」
ミサカは城戸の手によって遠征の存在をこの目で見る機会があった。彼は彼女の目的について何か見透かしていたのかもしれない。
「誰かがやられればそこから穴は大きく広がり、いつかそれは歯止めの効かないほどの損害を与えます。」
「だから我々は実力者を選抜しておる!例えほかの
「そのような人たちが緊張感を持っていないから問題なのです。と、ミサカは指摘します。」
彼女が問題として提起するのは緊張感のなさ。
例を挙げるとするならば、当真との戦闘。
確かにミサカは彼の意表をついた行動をとったかもしれない。狙撃の釣りに関してもミサカに軍配が上がった。
だが、結局のところ勝敗を決したのはミサカの賭けだった。
「ミサカはリーゼントを狙った時に推測で狙いを定めました。もちろんかなりの自信がありましたし、外す気もありませんでした。ですが、根拠の部分を取っ払って仕舞えば、かなり可能性の低い賭けです。」
数千分の一、下手をすればもっと低かった可能性かもしれない。
だが、彼はミサカの描いた未来の通りに避けてしまった。
「もし彼が『相手はこちらの癖を見抜いているかもしれない』という想定をしていたらミサカが勝っていた保証はありません。と、ミサカは彼の問題点を挙げてみます。」
センスで動く当真にとっては戦闘はゲーム感覚だったのかもしれない。被弾する機会も少なかったからこその結果とも言えるが。
ただ、鬼怒田は知っている。戦闘の非情さと戦略性を熟知して、自分の癖を限界まで平淡化させた狙撃手のことを。
「戦闘とは楽しむものではありません。目的と手段が混同した時、弱点が生まれることでしょう。」
そう言った彼女は先ほどまで寝ていたベッドの上から降り、トリオン技術開発室の出口の扉を開けた。
「………お、おい!いきなり起き上がってどこに行くつもりだ!それに話はまだ終わっておらんのではないか!」
「任務が終わったミサカには城戸司令に今回の作戦の成果と経過を報告する義務があります。今からそれをしに会議室まで向かうだけです。と、ミサカはこれからすることを一応伝えておきます。」
彼女は雇われの身。
彼が仕える対象は城戸であってボーダーではない。鬼怒田は無理に引き止めることもできなかった。
そして、完全に扉を閉める前に少しだけ彼女は顔を出し、鬼怒田の方に向き直る。
「トリオン体は便利です。面白い技術ではありますし、トレーニングをするには非常に適しているかもしれません。ですが………」
続けて彼女は言う。
「戦闘なめんな、です。と、ミサカはトリオン技術の欠点について"考察"を広げてみました。」
書くの難しいね。
日常編欲しいですか?
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欲しい
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いらない
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必要最低限の日常編が欲しい