とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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誤字報告感謝です。非常に助かっております。


10、後始末④

 

 

 

「失礼しま〜す!どうもみなさんお揃いで〜。会議中にすみませんね〜。おや?ミサカちゃん、どうしたの?()()()()()()()()()()()〜」

 

 

 そう軽薄そうに言いながら会議室に入ってきたのはミサカの心の中のひっかかりの張本人、迅悠一。

 

 あまりにもタイミングが良すぎることに、彼女は驚愕を隠せずにいた。

 

 

「迅…………」

「きッ…貴様ァ……よくものうのうと顔を出せたものだな!」

 

 

 城戸は迅の方をくってかかるように一瞥し、鬼怒田は迅に憤慨した。

 

 迅はさきの黒トリガー争奪戦ではボーダー本部の命令に歯向かう形で立ち塞がったのだ。争った間柄なのにこの場に軽く入ってこれるのはイカれているとしか形容できまい。

 

 

「まぁまぁ、鬼怒田さん、落ち着いて〜。血圧あがっちゃうよ〜。」

「何をしにきた。宣戦布告でもしにきたか?」

「違うよ、城戸さん。交渉しにきたんだ。」

 

 

 そうらくらくと迅は今回ここにきた理由を述べた。

 

 まるで彼には本部と玉狛との摩擦など意にも介さないように。

 

 

「交渉じゃと?ボーダー本部の意向に逆らっておきながら?ふざけるでない!」

「いや、鬼怒田さん。玉狛は本部の精鋭を撃破し、忍田派とも手を組んだ。加えて玉狛第一の参戦も確認済み。戦力差がはっきりしたこのタイミングで交渉するのは当たり前でしょう。」

 

 

 唐沢の見解を理解した鬼怒田は悔しそうに下を向く。

 

 事実、彼のいう通り。いくら本部が風刃の情報を得ようとも玉狛第一と嵐山隊をはじめとする忍田派一党が合わされば負ける道理はない。

 

 一度戦力の差がはっきりした今だからこそできる、本部側にとって最も厄介なタイミングでの交渉。

 

 突っぱねることもできない本部派は一度話を聞くしかなかった。

 

 

「あ、そうだ。一旦話が終わるまでミサカちゃんはこの部屋から出てもらえる?こっからは俺らボーダー側の用事だから。」

「それはいいのですが……もう大丈夫なのでしょうか。と、ミサカは城戸司令に判断を仰ぎます。」

「………ミサカ君。迅の言う通りにしておきなさい。」

 

 

 今回の作戦にミサカは関与している。だが、彼女はあくまで実行部隊であって事の発端はボーダーの中心機関である本部だ。

 

 ここに林道ではなく迅が来たということは、迅が玉狛の代表として話をつけに来たと言うことに他ならない。

 

 派閥のトップ同士の話し合いに彼女を巻き込む道理もなければ理由もないのだ。

 

 少しの思考ののちに、城戸は迅の要求通りにするよう彼女に促した。

 

 

「了解しました。と、ミサカは除け者にされた感覚を抱きながら渋々部屋の外に出ます。」

 

 

 司令には従うものの、ミサカの心中は疑問に溢れていた。

 

(ボーダー側の用事とは……ミサカはまだボーダーの一員ではないと言うことなのでしょうか………)

 

 あいも変わらず無表情ではあったが、どこか不満げな様子で部屋をあとにした。

 

 それを見届けた迅はふたたび城戸らの方に向きなおり、呼吸を整えてから告げる。

 

 

「で、だ。俺の要望は二つ。まずはウチの後輩、空閑遊真(くがゆうま)のボーダー入隊を認めていただきたい。」

「何?どういうことだ?」

「いや〜鬼怒田さん。太刀川さんが言うには本部が認めないと正式な隊員にならないらしいんだよね。」

 

 

 要求の意図の読めない鬼怒田と根付は依然として首を傾げている。

 

 一方で、唐沢はどうやら理解したようで、頷きながら語り始めた。

 

 

「なるほど、模擬戦を除くボーダー隊員同士の私的な戦闘を固く禁ずる。隊務規定には確かにそう書いてある。」

「しかし………隊務規定を逆手に近界民(ネイバー)を庇うつもりかね?」

「そんな詭弁が私に通用すると思っているのか?迅。」

 

 

 いくら隊務規定を利用しようとも、相手はボーダー本部の頭。通ずるか、と言われればNOだろう。

 

 ただ、そこで諦めてしまうようであれば実力派エリートは名乗れない。

 

 

「こっちは要求している立場なんだ。もちろん、タダでとは言わないよ。」

 

 

 そう言って迅は長机の上にポケットから取り出したある物を置いた。

 

 

「な、な、なんじゃと!?」

「これは………」

「"風刃"……………」

「俺は風刃を出す。俺のお願いとの交換条件だ。」

 

 

 上層部一同は目を見開きながら驚愕を表す。

 

 だが、そうなってしまうのも無理はない。

 

 風刃は黒トリガーでもありつつ、彼の師匠の()()でもある。

 

 過去に風刃の所有者を決めるためのテストでは他の追随を許さないほどの圧倒的な実力でもって風刃の所有者として選ばれた。

 

 それほどまでに彼にとって大切な物なのは言うまでもない。

 

 だというのに風刃を差し出したのだ。それだけこの『お願い』は重要な物なのだろう。

 

 

「本気か!?迅!」

「そう来るか…………」

「そっちにとっても悪くない取引だと思うけど?」

 

 

 迅は自信満々にそう言った。

 

 裏を返せばその自信は風刃というカードがどれだけ大きな物なのかを理解していると言うこと。

 

 事実、風刃はボーダー本部にとっても喉から手が出るほどのものだった。

 

 

(美味しいどころの話じゃないねぇ…使えるかどうかわからない未確認の玉狛の黒トリガーよりも、A級トップ数隊の力に匹敵して尚且つ使える人間の多い風刃の方が遥かに価値がある。)

 

 

 風刃の適性に関しては一度本部で行われた適性検査で何人ものアタリが見つかった。

 

 黒トリガーは適性のある人間にしか使えなく、その適性も黒トリガーごとに異なるという、有り体に言うと面倒臭い仕様がある。

 

 その仕様をもとに考えると、使える人間が多いと把握している風刃の方がボーダー本部的には価値が高い。

 

 

(迅……考えおったな……こちらからすれば黒トリガーの本数は2本。万が一玉狛の近界民(ネイバー)が暴れようとも、こちらの2本の黒トリガーで難なく抑えられる。実質リスク無しと言っても良い…)

 

 

 また、安全面においても保証されている。

 

 今回の奪取作戦の主な原因はボーダー内のパワーバランスの崩壊を防ぐためだ。

 

 玉狛側に偏っていた黒トリガーの本数がもとに戻ることによって、本部側の玉狛を攻める理由もなくなる。

 

 あまりにも本部側に有利な条件であったために、根付も鬼怒田も共に乗り気になる。

 

 だが、城戸は硬い表情を依然として崩さない。

 

 

「フン……取引だと?そんなことをせずとも、太刀川との規定外戦闘でお前から黒トリガーを取り上げることができるぞ。」

「その場合は当然太刀川さん達のトリガーも回収するんだよねぇ。それはそれで好都合。どちらにせよ、平和に入隊日を迎えられるのならどっちでもいい。」

 

 

 城戸の凄んだ脅迫にも迅は動じることなく応対する。

 

 

「没収するのはお前のトリガーだけだ、と言ったら?」

「試してみなよ。そんな話が通るかどうか。」

 

 

 2人の目線は空中で火花を散らしている。

 

 その場の人間は誰しもがこう感じた。

 

 これは取引なんて問題ではない。一種の駆け引き、いや、勝負である、と。

 

 

「さあ……どうする、城戸さん?」

「城戸司令……」

「城戸司令………!」

 

 

 この話の行く末は、ボーダーのトップである城戸に決定権がある。

 

 彼の言葉を皆、待ち侘びていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………わかった。取引に応じよう。だがもう一つの要望次第、だがな。」

「オッケー。それじゃ、これは本部に渡すよッと。」

「おっ…とっ……!コラ!風刃を投げるでない!」

「いや〜ゴメンゴメン。ま、鬼怒田さんならキャッチできると思ってたよ。」

 

 

 取引は条件付きで結ばれた。

 

 あとはもう一つの迅の要望次第。

 

 

「それでもう一つの要望はなんだ。」

「もう一つの要望は_____________」

 

 

「フン…………元よりそのつもりだ。」

「そうだぞ、迅。我々を侮っておるのか?それくらい、当たり前のことじゃろうて。」

()()はなるべくイーブンであるべきだからな。これからはどうなるかわからないが、一度はもらったからね。こちらとしてもあちらからもらった分は返すつもりさ。」

「私はあまり賛成しかねるがねぇ……重ねて悩みの種が………」

 

 

「よかったよ。それも飲んでくれるならこちらも風刃を出した甲斐があるってもんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼

 

 

 

 

 

〜その後〜

 

 

 

 会議室の少し離れたところにミサカは微動だにせず待機していた。

 

 

「ん。ようやく出てきましたか。と、ミサカは待つのに飽き飽きした気持ちを目の前の男にぶつけてみます。」

「いや〜悪いね。要件自体はそこそこ時間かからなかったけど、それ以外にも()()のことで話したいことあったからさ。」

 

 

 迅は自身の目を指さしてそう言った。

 

 目、つまりは未来のことについてのことだろう。

 

 彼の情報はいついかなる時も優先される。たとえそれが一度対立した仲であっても。

 

 

「あ、そうだ。ミサカちゃんは城戸司令について現時点でどう思ってる?」

「どう…とは?」

「ほら。こう……お硬い人だな〜、とか怖いな〜、とかさ。」

 

 

 そして、迅はふと気になった質問をミサカに投げかけた。

 

 少々の思考の後、彼女は答える。

 

 

「そうですね……組織のトップという座に座っているというのもあるのでしょう。かなり厳格な人だと感じました。でも……」

「でも?」

「なぜでしょう……表面で取り繕っているような感じがします。表情筋も少し張っていましたから。と、ミサカは個人的な見解を微々たる理由も添えて伝えてみます。」

「…………ふふッww」

 

 

 ミサカは質問の意図を図りかねながらも、迅の質問に丁寧に答えた。

 

 だが、そんなミサカとは真逆に迅はいきなり吹き出す。

 

 

「何がそんなにおかしいのでしょう?」

「いや……w、城戸さん、不器用だなぁってさ……」

「???」

 

 

 

 迅の頭によぎったのは先ほどの会議室での会話。

 

 

 

『もう一つの要望は………ミサカちゃんの生活に関することだ。彼女を"近界民(ネイバー)"としてじゃなく"普通のボーダー隊員"として扱って欲しい。』

『フン…………元よりそのつもりだ。』

『よかったよ。それも飲んでくれるならこちらも風刃を出した甲斐があるってもんだ。』

『もののついでだ。いずれ来るボーダー入隊式のために必要な彼女の身元情報や諸々の情報を聞き出すのも迅、お前に任せよう。』

『……!それは…願ったり叶ったり、だな。』

 

 

 

 城戸はやはり不器用な男だ。

 

 それが立場上不器用にならざるを得なかったのか、それとも本来備わっていたものなのかわからない。

 

 だが、彼は旧ボーダー時代の時の温かさを完全に失っていないことはわかる。

 

 もし彼にその温かさがなかったら、見ず知らずの暫定近界民(ネイバー)を組織下に加えるだろうか。彼女が近界民(ネイバー)の存在を知らないのがわかったのは後になってからのことではあるとしても。

 

 彼女と取引を結んだのはただ彼女を利用したいだけだったのだろうか。迅は違うと考えている。

 

 

(城戸さんは信頼を得ようとしたのかもな……まずは取引相手というわかりやすい形でもって……)

 

 

 これらの考えは全て迅の妄想でしかない。

 

 城戸の心中を完全に理解しているのは彼自身なのだから。

 

 それにしても城戸の人を見る目がどう言った構造をしているのかは甚だ疑問ではあるが。

 

 

「ま、後から鬼怒田さんに教えられるだろうけどそろそろ入隊式がある。色々な検査とか簡単な講習とか事情聴取があるとはいえ、それまでゆっくり過ごしなよ。」

「そうですか。では親交の握手を一つでも。と、ミサカは手を差し伸べてみます。」

 

 

 淡々と迅の話を聞くミサカ。

 

 そして彼女は手を差し出し握手の用意をする。

 

 

「…………ビリビリしないよな。」

「何を言ってるんですか。そんなことするわけないでしょう。」

「いや、なんかデジャヴ感じちゃったからさ………」

 

 

 迅は念の為視た。

 

 前にも似たような巧妙な手口でお仕置きを食らったことがある。

 

 できれば二度は御免だ。

 

 

(ただの握手だな……)

 

 

 彼女が特に何かをしているような未来はない。

 

 それによって安心したのか、迅はまんまと手を握り返した。

 

 

 

 

 

「さっきはよくも仲間はずれにしましたね。と、ミサカは理不尽だとはわかりつつも様式美にしたがってみます。」

「え?なんか長くない?そんな長く握るんだったらもっと先の未来……

「えい。」

 

 

 

 

 その後、まともな迅の姿を見たものはいなかった。

 

 彼が視た未来は握手した瞬間の未来だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







次からは幕間ですね。

メインストーリーで描写しきれなかったことを出せればいいなと思っています。

ボーダー入隊に色んな人とのストーリー、やりたいこといっぱいです。

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