とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ) 作:さくらぎ おきの
この章はサイドストーリーを主に扱います。基本は1話完結、一部上下構成となっております。
一応直接メインストーリーに関わることはありませんが、読むと理解が深まると思いますので読むことをお勧めします。
欠陥少女と根付さん
「はぁ……こんな短期間に
そう言って机に向かい、眉間に皺を寄せる影が一つ。
ため息をつきながら書面に目を通し、これからの働きかけに苦難するのはもう懲り懲りな様子。
「全く……
手元にある資料をめくりながらため息をついた。
その男の正体はメディア対策室長、
主にボーダーの広報を司る機関のトップであり、あらゆるメディアに対応して、ボーダーの印象向上と問題処理や隠蔽を行っているスポークスマン。
事実、三門市にアンチボーダーの団体が少ないのは彼の根回しのおかげともいえる。
立場上ボーダーのイメージに傷が付く事を恐れており、黒トリガー争奪戦のような派手な戦闘も彼が隠蔽を行った。
ボーダーは民間の組織であり、融資、いわばスポンサーがついてこその組織である。逆を言えば何かの拍子にイメージダウンにつながることが露呈すればスポンサーは打ち切り、ボーダーの経営はうまく立ち行かなくなる。
そういった組織と外部を繋ぎ止める影の苦労人、それが根付栄蔵なのだった。
「うーむ、玉狛の
そして彼は現在、今期ボーダーに入隊するであろう2人の
「この2人、特にミサカ君がどうにもならないねぇ!とはいえ、まだ入隊が決まったわけではないから無闇に聞くのも憚られる……」
あまりのどうしようもなさに根付は参考資料を机に思いっきり叩きつけた。
「しかしなんだねこれは!名前以外よくわかってないのはどうにかならないものかねぇ!」
2人とも
特にミサカに関しては名前と年齢以外真っ白。名前も書いているとはいえ『ミサカ』ともはや姓名の判別がつかない。
空閑の方が家族構成とほんの少しの過去がわかっている分まだマシだ。
他にも知りたい情報があるのは山々なのだが、彼女を捕らえてきた時に迅はこう言った。
『よくやった迅君!これで更なる情報が得られるねぇ!』
『あー。でもこの子、テコでも情報は吐こうとしないんで無理強いしても無駄かも。少なくとも"今"は無理。俺の
彼の言う言葉を信用するなら、きっと"今"とはもうそろそろなのではないか。
こちらとしても素性の知れない
安全の面ももちろんあるが、万が一
もちろん、何もなかった場合はこれまた根付がでっちあげるだけではあるのだが、それでもあるに越したことはない。
迅の未来予知は大概大事な場面を知らせてくれる場合が多い。
言い換えれば迅が強調した箇所はタイミングがバッチリあうときに訪れることが多いということでもある。
「少なくとも入隊前には聞いておかないと……」
新たな情報がない以上、根付の今できることは何もない。
一旦リラックスするために根付は大好きな紅茶を一口飲み、背もたれに背中を預けた。
が落ち着いた瞬間、ドアが突然ノックされた。
「あぁ……もうこんな時間か。はぁ………」
「失礼します。例の件で来ました。と、ミサカは仕事で疲れているかも知れない根付さんに気を使って少しだけ静かに入室の許可を申請します。」
「誰のせいだと思ってるのかねぇ!早く入ってきたまえ!」
「了解しました。と、ミサカは自分のせいで根付さんの仕事が増えていることに心を痛めながら入室することにします。」
部屋の時計の針が指しているのは16時。
ここ最近、彼のストレスの元凶とも言える件の彼女がピッタリ16時にこの部屋に訪れる。
仕事に忙殺される根付にとって更なる苦悩が今始まろうとしていた。
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「ふむ、迅の言っていた人型じゃない
「それらはトリオン兵とよばれるものだねぇ。単体なら対処しやすいけど数が多いと脅威は格段に上がる。」
「なるほど。隊を組むのもそれが理由なのですね。と、ミサカはわざわざ隊を組むのはなぜなのかについて知れて満足します。」
ミサカの言う例の件とはなんなのか。
入隊予定者に一律で行われていたボーダー隊員の基礎知識及び隊務規定の講習会。そこでは、ボーダーという組織で活動して行く上でなくてはならない大事な情報収集が行われていた。
だが、彼女は来た時期が来た時期だったせいで何もボーダーや
これでは組織の秩序が彼女によって乱れるかも知れないと判断した城戸はそれらの知識を学習する機会を彼女に設けたのだ。
だが、言葉で伝えるだけでは
そこで白羽の矢が立ったのがメディア対策室長として外部に発信する情報を規制、編集している根付。
彼の手元にはこれまでに発信してきた、主に嵐山隊が戦っている映像が豊富に存在しているからだ。
(なぜ私がこんなことをする羽目に……今日の20時までには終わらせたい仕事があるから早く終わらないものかねぇ……)
子供の手前、決して顔には出さないが早く終わらないかと根付は考えていた。
いくら城戸の命令だろうと、ストレスはストレス。
彼には他にも仕事があるのだ。彼女にいつまでもつきっきりというわけにはいかないだろう。
(ハッ……!せっかくミサカ君がここにいる。つまり迅君の言う"今"っていうのはこのことを指すのではないかね!?)
しかし――
根付が再び机の上の資料をもう一度見ようと手に取ったその刹那
根付に電流走る…!
(さりげなく聞き出せば何かの拍子で喋ってくれるのでは……?)
彼女が前にいたであろう
そうと決まれば質問して行くのみ。
あくまで友好的な姿勢をみせつつ、腹を探っていくとしようか。
「ミ、ミサカ君。ここで一つ質問をするとしようかねぇ。」
「確認テストみたいなものでしょうか。良いでしょう。自分がどれだけ覚えられたか気になりますからね。」
「そうか。では、ボーダーないし民衆に多大な被害をもたらしているのは人型
最初はなんてことない問題。特にミサカの
「……単純な被害で言えばトリオン兵だと思います。見たところトリオン兵の数も多いですし、頻度もなかなか。人型に比べれば弱いものの決して無視できるような存在ではないので隊員を割かなくてはいけない時点でめんどくさい相手ではありますね。」
「では、トリオン兵の方が被害が大きいと?」
「一概にそうとは言えませんね。人型はおそらく知能が高いと予想できます。トリオン兵の配置も考えていると想定するなら総合して人型の方が被害が大きいと言えるでしょう。と、ミサカは長々と自分の考えを述べます。」
(ふむ……考え方も悪くない。むしろあらゆる場面を想定しすぎていると思うのは気のせいじゃないといいのだがねぇ……)
達観している考えを持つということは、それが必要となる環境にいたということと同義と言える。
ほんの少しながら情報を得ることができた根付は続けて質問をする。
「どちらにせよ、ヤツらの被害によってボーダー入隊を志願する者は多い。例えば"家族を守るため"とかね。」
「家族………」
根付の言葉に意味深長につぶやくミサカ。
家族に何か思い入れがあるのだろうか。
もしあるのであればそこから情報を切り開いていける。根付はそう考えた。
だが家族とは人によってはデリケートな部分だ。彼も自分が危ない橋を渡ろうとしていることは理解している。
心拍数が急激に上がって行くのを感じる。だが、根付は意を決して彼女に尋ねた。
「そ、そうだミサカ君。君には家族はいるのかね?ほら、姉とか弟とかがいたり守りたい家族だとかは……」
「そうやってなんてない会話から少しずつ情報を探って行くのがボーダーのやり方ですか。と、ミサカは心底落胆するふりをします。」
「なッ!」
(なぜバレた!?顔に出したつもりはないのだがねぇ!?)
そんな根付の質問の意図も早々にミサカにバレてしまった。
「おや、本当だったのですね。」
「君!私にカマをかけたのか!?」
「まぁそういうことになりますね。」
なんと、根付はミサカのなんの根拠もないカマかけに引っかかってしまった。
彼女にはなぜか電気を発生させる力があるのだ。内心穏やかでいられるはずもない。
(マズイ!これで機嫌でも損ねられたりしたら……)
「ミサカには1人、姉がいます。」
「…………へ?」
「私
電撃か何かが来ると考えていた根付は突然話し始めたミサカに驚きを隠せずにいた。
「それでも尊敬しているんです。無鉄砲だけど私たちのことを熱心に思ってくれる姉のことを。と、ミサカは久々に姉のことをノスタルジックに語ります。」
「……………」
実際はクローンのオリジナルである
彼女の家族のことを話す姿は、愛おしんでいる様子でありながらどこか悲しそうだった。
先程までは探りを入れる気満々だった根付も何も言えなくなってしまう。
(だが、ようやくミサカ君の身元情報について知れた……少しづつ探って行くとしようかね……え……)
張り詰めていた緊張が急に解けてしまったのか、それともこれまでの過労が祟ったのか。
根付の体は椅子の上に投げ出され、彼の意識は朦朧となっていく。
最後にミサカがこちらに近づいてくるのがぼんやりと見えた。
「心拍数の急激な低下、加えて過労による自律神経の乱れ。よほど頑張ってくれていたのでしょう。と、生体電気によって把握した症状を並べてみます。」
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「おや、どうやら寝てしまっていたようだねぇ………」
何時間か経った後だろうか。根付はふと目を覚まし時計を見る。
「にッ、20時ィ!?」
ミサカがやってきたのは16時。それも考慮すれば大体3時間ほど眠ってしまっていたことになる。
あまりの時間の経ちぶりに体を勢いよく起こしてしまう。
「あれ?四十肩が…………なくなってる?それに目の疲れも無いねぇ!」
普段であれば酷使した体と目が痛くなるはずなのだが、不思議なことに全く痛みが感じられない。
「でも久しぶりに寝られたねぇ………仕事は……明日やることにしよう。」
普段は憎まれ口を叩くこともある。
だが、裏ではボーダーに従事する仕事人。
そんな彼の仕事をしそびれたことを気にも留めない顔はすっきりとしていた。
ミサカのマッチポンプなのは内緒の話。