とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ)   作:さくらぎ おきの

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誤字報告感謝です。なぜこうも誤字脱字癖が治らないのか。

A、私の怠慢


欠陥少女と鬼怒田さん

 

 

 

 とある日の昼下がり。

 

 入隊日をまだ迎えていなければ、学校にも通っていないミサカは言わば暫定無職。

 

 ボーダーにて座学をして、日々のチョーカーのメンテナンスをしてもなお余るほどの時間がある。

 

 その空いた時間をうまく使って彼女は現在トリオン技術室を訪れていた。

 

 

「皆さんお疲れ様です。これ、差し入れです。と、ミサカはいつもお世話になっているエンジニアの皆さんに感謝の意を示します。」

「お、ミサカちゃんじゃん。お疲れ〜。それにしても重そうな段ボールだね。」

「エナジードリンクに……これ、高級アイス!?」

「おいおい、中になんかぼんち揚げ入ってんぞ………」

「これだけ買うのにお金たくさんかかったでしょ!?それはどうしたの?」

「迅に払わせました。いわゆる宝払いってやつです。物分かりのいい人で助かりました。と、ミサカは得意げに語ってみます。」

 

 

 ミサカが技術室に訪れたのはただメンテナンスに来ただけではなかったようで、大量の差し入れを持ってきていた。

 

 それにかかった費用は電撃を身にまとったミサカに通路の端まで追い込まれた迅によって払われたものなのではあるのだが。

 

 彼女が今このようにして自由に活動できるのはこの部屋で働いている職員達の功績の賜物だ。

 

 試作品であったチョーカーをミサカが使用できる状態になるまで数時間で改良をしたのも彼ら技術室職員。

 

 そういった日頃の感謝を込めてこうしてミサカはここに足を運んだのだった。

 

 

「こっちにも……こっちにもエナドリを……」

「くッ……こいつはもうダメだ!それよりも早くこっちにアイスを!」

「プリーズ!ギブミー!そろそろ休憩させてくれ!液体があればこの場所から離れられる!」

 

 

 他にもボーダーの技術関連を全て担う彼らの仕事はボーダー内外の建物や戦闘システム、装備に遠征艇など数えればキリがない。

 

 ただでさえ日々のトリオン機器のメンテナンスをしているのにそこにミサカのチョーカーも扱わなくてはならない。

 

 加えて、最近上層部の方から基地の防衛機能関連についての発注が多くなってきているようで、ますます彼らの仕事が増えているのが見て取れる。

 

 

「どうなってんだよ……今日で11連勤だぞ……労基ギリギリなんだけど……」

「防衛機能の強化って……どっかとドンパチやる気かってんだよ……」

「仕方ないだろ。でもその分終わったら休暇を長くしてもらえるんだから……」

「そんなに働いているのですね。それなのにここで働き続けているのはなぜなのでしょうか。と、ミサカはふと気になった素朴な質問を呟いてみます。」

 

 

 彼らの業務内容は紛れもなくブラックに近い。急に仕事が増えることもあれば、無理難題を押し付けられることもある。

 

 聞いた限りでは収入や休暇に関しては見合った報酬があるらしいのだが、それだけできつい仕事を続けられるのだろうか。

 

 普段から限界まで働き、有事の際、例えば第一次大規模侵攻のようなことが起これば生死に関わることだってある。

 

 それだけ過酷な仕事をなぜ続けていられるのか。それがミサカは気になった。

 

 すると、そのつぶやきを聞いた若そうな男性職員がこう答えた。

 

 

「そうか……理由なぁ……()()()、かもなぁ……」

「浪漫……」

「そう、ロマン!異界から攻めてきた敵をバッタバッタ薙ぎ倒す。やっぱり、小さい頃に思い描いていた夢がこうして現実になってるとこう、アツく込み上げるものがあるよねぇ。」

 

 

 誰しも小さい頃くらいは侵略者を撃退する防衛軍に憧れたことはあるだろう。

 

 そこには自分がヒーローになれるという子供の夢がぎっしりと詰まっている。

 

 だからこそ、ミサカは何とも言えない気持ちになった。

 

 

「でもまぁ、全員ってわけじゃないけどここにいる人たちは大半がトリオンが足りないって言われて、それでもここで働きたいって言ってるヤツなんだけどな。」

 

 

 そう言って、楽しそうに話していた態度から一変、少し悲しそうな顔をして見せた。

 

 才能というのはどこまで行っても残酷だ。

 

 トリオン量には個人差がある。トリオン量が高く戦闘員として重宝される人間もいれば、当然トリオン量が足りないからという理由で戦闘員になれすらもしない人間もいるのだ。

 

 努力でどうにもならない数値。それがトリオン量。

 

 

「そこで折れたりはしなかったんですか?と、ミサカは嫌でなければ答えて欲しい旨を伝えつつ質問をしてみます。」

「痛いところをつくねぇ、ミサカちゃん。でもここにいるヤツらはみんなこう考えた。」

「???」

「『でも裏方になるであろう俺らがいなかったら、輝かしいあの広報部隊、嵐山隊ですらまともにたたかえないんだぜ。』ってな。」

 

 

 確かに彼ら裏方は地味だ。

 

 日の目を浴びることもなければこれみよがしに成果を見せびらかすこともない。

 

 ただ、彼らは自分の仕事に誇りを持っている。

 

 そしてこれは表で活躍する隊員への挑戦状でもある。

 

 いつでもお前たちを裏から喰ってやることができるんだぞ。そう言っているように感じた。

 

 

「ま、俺ら全員がそう思ってるわけじゃねぇんだぜ。コイツはそう思ってるが、俺はエンジニアってかっこいいよなって思ったからここにいる。」

「なッ…てめッ…今俺が話してる最中だろがッ!」

「そんな硬いこと言うなよ〜。俺もミサカちゃんと話してみてぇんだよ。普段は鬼怒田さん、挨拶以外させてくれないからさぁ。」

 

 

 他の男性職員も話に加わってきたために、その場はどんどん混沌になっていく。

 

 彼らには仲間がいる。それがどれだけ心強いことか。

 

 彼らは何度も愚痴をこぼすし、苦し紛れの言葉を投げることだってあるだろう。

 

 だが、ミサカはそれをカッコ悪いとは思えなかった。

 

 

「だぁーッ!引っ張んな!夜勤続きでイかれたか!?」

「ウルセェよ!お前こそ何独占しとんじゃ!」

 

 

 訂正、カッコ悪いかもしれない。

 

 ミサカはその様子を少し観察していると、後ろから声をかけられた。

 

 

「ねぇ、ミサカちゃん。鬼怒田さんにこれ直接渡してあげなよ。多分、そっちの方が鬼怒田室長、喜ぶからさ。」

「そうでしょうか。『余計なことをするな』って言われないといいのですが。」

「そんなこと言わないわよ。確かに普段の振る舞いだとそう思えるかもしれないけどさ。」

「ではミサカが渡すことにします。と、ミサカは差し入れ一式を持って鬼怒田さんのところへ向かうとします。」

「うん!それがいいね。」

 

 

 

 

△▼△▼ △▼△▼ △▼△▼

 

 

 

 

 

「そうだ、ミサカちゃん。ここに来てからどう?居心地は悪くない?」

「その点に関しては大変良好です。と、ミサカは満足げな顔を見せながら言ってみます」

「あはは......あんまり変わってないかな〜、ミサカちゃん.....」

 

 ふと聞かれた質問に答えるミサカ。

 到底満足そうには見えない顔だが、それが彼女のデフォなのだから仕方がない。

 

「そっか.....良かった」

「どうしましたか?」

「いや.....なんかね、我慢させちゃったりしてたら、なんて考えるとちょっと夢見が悪くて」

 

 

 その女性職員は続けて話す。

 

 

「あっ、でも辛い時は辛いでいいんだからね?もちろん、こっちとしては良い環境を整えられるよう頑張るつもりだけど!」

「辛い.......」

 

 

 ミサカの中で『辛い』、その二文字がめぐり続けた。

 

 もちろん『辛い』の知識はあって、その言葉の意味はわかる。

 学習装置で強制的に埋め込まれた知識は機械的にその言葉を算出する。

 

 だが、実体験と結びつかない彼女にとってその言葉がどう心身に効果を及ぼすのかがわからないのだ。

 

 

「辛い、というのは一体どんな時なのでしょうか」

「うーん、いざそう言われると.....あっ、鬼怒田室長だ」

 

 

 どうやら彼は技術室の奥の方に1人こもって仕事をしているようだ。

 遠目に見えたであろうその影はようやく彼女たちの目にも映ったらしい。

 

 ミサカは今まで会議に出ている姿くらいしか見ていないものだったからか、キャリーマンとしての彼の姿には前々から興味がわいていた。

 

 

「失礼しま………って寝ているのですか。」

「zzzzzz………」

 

 

 ミサカは仕事の邪魔をしないようにゆっくりとできるだけ音を立てずに扉を開けたが、そこにあったのは鬼怒田の寝落ちている姿だった。

 

 他の職員はこんなにも死にそうになりながら働いているのに何をしているのか。ミサカは一瞬心の中でムッとした。

 

 だが、そんな感情も一言で打ち消される。

 

 

「あらま、寝ちゃってたか。でもあんまり責めないであげてね。鬼怒田室長はここにいる誰よりもがんばってるからさ。」

「?」

「鬼怒田室長はもう何日も泊まり込みで仕事してるんだよ。」

 

 

 あとからついてきたであろう女性職員はそう言って、ミサカに鬼怒田の事情を説明していた。

 

 しかし、泊まり込みということは家族が心配しないのだろうか。

 

 鬼怒田はみたところ40〜50歳くらい。家族がいたとしても十分おかしくない年齢だ。

 

 

「何日も泊まり込みだなんて鬼怒田室長のご家族は大丈夫なのでしょうか。と、ミサカは誰もが感じるであろう疑問を問いてみます。」

「あ〜、それはねぇ……」

「どうしたのですか?そんなに言い淀んでしまって。」

 

 

 突然、職員の言葉が止まる。それはまるで話す言葉を一生懸命探しているようだった。

 

 

「鬼怒田室長さ。()()()()()()()()()()()()んだよねぇ……」

「え?そうなんですか………」

 

 

 ミサカの顔は相変わらず無表情であったが、顔を少しだけ俯かせた。

 

 自らの失言をくやむように。

 

 

「で、でも!………厳密に言えば生きてはいるんだけどさ。離婚しちゃって今は別居中なんだって。」

「そうだとしても、家族と一緒に入れないのは辛いのでしょう?と、ミサカは鬼怒田さんの心中を察してみます。」

「きっと辛いだろうね。私にはまだそんな家族もいないけど、親元を離れた時はちょっと寂しかったからなぁ。」

 

 

 おそらく鬼怒田の辛さは女性職員には悪いが比べ物にならないだろう。

 

 両者の間に何らかのしこりを残してしまうのとそうでないのでは辛さの比重が違うからだ。

 

 それからミサカはその女性職員から色々話を聞いた。

 

 鬼怒田が離婚したのは第一次大規模侵攻を受けて家族を無理やりボーダーのある三門市から引っ越させたからだということ。

 

 そして彼にはミサカとそう歳の変わらない娘がいること。

 

 

「そうなのですね……と、ミサカは普段厳しい態度の鬼怒田さんにそんな過去があったことに驚愕と同情を隠せません。」

「そうでしょ?あ、この話をしたこと、鬼怒田室長に話さないでね。」

 

 

 彼女は人差し指を口に当てて、迫真の顔でそう言った。

 

 

「あと、それを知ったからって態度を以前と変えないこと。」

「……それはなぜなのでしょうか?」

 

 

 ミサカは鬼怒田の過去を聞いて自分の態度に何か不備がなかったか考えている途中のことだった。

 

 それに対して、懐かしむようにその女性職員は言った。

 

 

「それはね……この前緊急で仕事が入った時のことなんだけど、1人の職員が親の急病で地元に帰る必要ができちゃったの。でもその仕事はかなり重要で時間がかかる。1人でも人員が欠けるのは厳しかったと思う。」

「………」

「止めたいけど止められない。周りの職員がどう声をかけようか迷ってたその時、鬼怒田室長はなんて言ったと思う?」

 

 

 不意にかけられた質問にミサカは答えることができなかった。

 

 不用意に答えることが鬼怒田に失礼に当たらないか戸惑ってしまったから。

 

 

「『ハァ………仕事に集中できないやつなどいらん!お前がいなかったところでどうにかなるようなら技術室なぞとっくのとうに廃れておるわ!』ってね。びっくりしたなぁ、鬼怒田さん1人でその人の分やっちゃったんだから。」

「それは……」

「一見冷たく見えるけど、そうじゃないのはミサカちゃんもわかるよね?」

 

 

 流石のミサカでもそのくらいはわかる。

 

 鬼怒田は気遣ったのだ。わざときつい言葉で突き放して家族に会うことを勧めているのだと。

 

 

「それ以外にも色々話してて、その時に私たちは知ったの。彼がなぜ連日泊まりがけで仕事しているのかを。」

「1人……だから……」

「それを知ってから鬼怒田さんのために今まで以上に仕事の量を増やしたわ。でもその時に言われた。」

 

 

 『何をしておる!お前たちがいくら過剰に働いたところで何も変わりゃせんわい!それより毎日コツコツ働いた方がありがたいのがなぜわからん!』

 

 

 ミサカは気づいた。

 

 彼は良くも悪くも不器用なのだ。

 

 本心では仲間たちを心配しているけれど、立場や年齢差、経歴がそれをそのまま伝えることを許してくれないのだ。

 

 

「それを聞いたら鬼怒田室長の陰口なんて到底言えないよね。もちろん、働く態度も前のまま、変えてない。」

「そんな事情があったのですね。と、ミサカは『裏方』という仕事の認識を改めます。」

「それはよかった。あ、そうだ。鬼怒田室長、何もかけないで寝てるからきっと寒いだろうなぁ。誰か、あそこにある毛布をかけてあげてくれないかなぁ?」

 

 

 これみよがしにミサカに促す女性職員。

 

 ここまで話してくれたのだ。それくらいのお願いは聞いて然るべきだろう。

 

 そうして、ミサカはいまだ寝たままの鬼怒田にそっと毛布をかけ、差し入れ一式と一枚の紙切れを残した。

 

 

「ミサカちゃん、あの紙切れになんて書いたの?」

「『何を呑気に寝ているのですか。いくら辛くてもあなたが頑張らなきゃ他の人たちがかわいそうです』とミサカは書きました。」

「ふぅ〜ん?うそつき。」

 

 

 どうやらミサカは嘘を言ったのだとバレてしまっているようだ。

 

 だが、ミサカは特段焦るようなこともなければ弁明する様子もない。

 

 ただ、あのメッセージは鬼怒田だけが知っていればいい。

 

 

「今日はありがとね、ミサカちゃん。できればまた差し入れを持ってきてくれると嬉しいな〜、な、なんて……はは……」

「……迅にまた掛け合ってみます。と、ミサカはあまり語らずに別れを告げます。」

「またね、ミサカちゃん。」

「それでは、また。」

 

 

 ミサカはあまり長居をすることなく技術室を去っていく。

 

 職員たちは少し惜しみつつも彼女を止めることはない。

 

 技術室職員の最功労者の眠りを妨げる必要はどこにもないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「zzzz……むぅぅ……よく会いにきてくれた……のう……zzzzz……」

 

 

【毎日お疲れ様です。自分の体にもっと優しくしてください。ミサカが心配してしまいます。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








今話はめっちゃ筆の勢いがのった話でした。
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