とある仮想の欠陥電気(レディオノイズ) 作:さくらぎ おきの
「鍵だと?意味がわからないな。いつまでお前の行動に付き合わせるつもりだ!」
「すまないが、もうしばらく付き合ってもらえると助かる。」
「フン。俺にもやるべきことがある。お前が会わせたい奴とやらが来ないなら帰らせてもらうぞ。」
「まぁそんなせっかちになんなくても大丈夫だって。"今来た"。」
三輪が呆れた様子で立ちあがろうとした瞬間に、扉がそっと開かれた。
「なッ.......お前は!?」
「こんにちは。久方ぶりですね。と、ミサカはいきなり襲撃してきたことを根に持ちながら挨拶をしてみます。」
現れたのはいつぞやの
彼女の薄茶色の制服に身を包み、似合わない軍用ゴーグルを頭に装着している姿は三輪の記憶にも新しく、どこをみているのかわからない双眸に三輪は吸い込まれていた。
「......何故此処にいる。お前は
「おや、会った瞬間に戦闘開始くらいは予想していましたが、反して冷静ですね。何かあったのでしょうか。」
「御託はいい。さっさと理由を答えろ。」
以前の三輪であれば
だからこそ、ミサカはいつでも三輪を換装前に取り抑えられるように電撃の準備をしていた。が、それも取り越し苦労だったようだ。
三輪の心境に何かがあったのだろうか。そう彼女は結論づけた。
「迅、説明してあげてください。」
「え~、めんどく
「念の為準備していた電撃の行き場をどうしましょうか。と、ミサカはあなたの前でこれみよがしに手のひらをチラ見せしてみます。」
「仰せのままに。秀治、この子ボーダーに入隊することになったから。よろしく頼むよ。」
「..............は?」
三輪は理解が追いつかず、気の抜けた声が乾いた室内に響く。
「正気か、迅!?ボーダー内に得体の知れない
「それに関しては今更だろ。しかも、お前にとっちゃあ得体の知れた
「何?」
三輪は訝しげに迅を見つめた。
対して迅はしたり顔でミサカに向けて話しかける。
「なぁ、ミサカちゃん。このこわーい隊員さんはよく知らない
「ではどうしろと?私としては認めてもらえると助かるのですが。」
「そりゃあもう、話すしかないじゃん。自分のことを知ってもらうには何をするべきか考えてごらん。」
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『あとは若い2人でごゆっくり〜。』
そう言っていなくなった迅を除く2人の間にはなんとも微妙な空気が流れていた。
それもそのはず。迅によって集められたのに、とうの本人がこの場に残っていないのだから。
「「………………」」
(どう会話を切り出せばいいか見当もつきませんね……やけに三輪が静かなのもかなり困りものでもありますが)
三輪は一切微動だにせず、ミサカの動向を伺い続ける。いくら態度が軟化していようとも、いくら
「..........おい、
いくばくかの静寂ののち、先ほどから一切口を開かなかった三輪が重い口を開けた。その声は気のせいだろうか、少し震えているように感じられる。
「はい、なんでしょうか。」
「お前は...... 誰かを殺したいほど憎んだことはあるか?」
YESかNOかの単純な質問。二つしか選択肢のない質問に答えることなど造作もない。
「ふむ......質問の意図が測りかねます。私に何か関係があるのでしょうか。と、ミサカはあなたの質問に意義を感じ得ません。」
「いいから答えろ、
「では、『憎む』とはどのようなものを指すのか明示していただけますか?」
だが、ミサカは三輪の質問に被せるように重ねて質問で返した。
「『憎む』という感情に基づく行為にはいくつかの種類があります。誰かを妬むことで生まれることもあれば、当然、''恨み''を持つことによっても生まれることでしょう。」
「...................」
「だから教えてください。ミサカが答える前に。あなたが知りたがっているその『憎む』ということを。と、ミサカは質問に質問で返します。」
三輪の事情なんてボーダーに入隊したばかりである彼女にわかるはずがない。それは三輪自身も理解している。しかし、大体の理由を彼女は推測できている。
だからこそその認識を利用する。この会話を模した事情聴取の主導権を握るために。
(どうせ迅が盗聴器的な何か、もしくはアナログに盗み聞きをしているのでしょう。それ以外にも他の意図もあるのでしょうが.......)
あの暗躍好きな迅が何もしないでただ会話に集中させるためにわざわざこの場を離席するとは考えづらい。むしろ何か仕掛けられていると考えるべきだろう。
加えて、この場面で三輪と自分を引き合わせたことに何かしらの意図を感じた。未来の読める迅のことだ。
わざわざ迅がここで動いたと言うことはこの出来事が最善の未来へのターニングポイントであるということに他ならない。
だが、ミサカにとって最も守るべきはあくまで自分自身。確かにボーダーが壊滅してしまったり、自分自身に何かがあったりするのは御免被りたいところだが、別に最善の未来でなかったとしても構わないのだ。
遠征部隊の存在も知っている彼女にとってもっとも避けるべきは学園都市を有する元の世界との交戦なのだから。
とはいえ現状遠征組に加わること以外に学園都市に戻る方法はないのだが、下手に情報を与えすぎるとそれ次第では禍根が生まれることも十分にあり得る。
話す内容を適宜変更できるように話の主導権を握るのは間違った選択ではない。そうミサカは考えていた。
「ハッ……"自分に答えさせる前に話せ"か。言っても理解できないだろうな。お前には。」
「わからない、ですか。」
「ああ、そうだ。人間を殺すことに特化していて、問答無用で尋問をしようとしたお前にはな。」
三輪は口を引き攣らせて嘲るように笑いながらそう言った。
三輪は言う。容易く人間を殺せるような力を持ち、容赦なく非人道的な行為ができるミサカに俺の事情など理解できるものか、と。
だが、その様子はとても辛そうで、悲しそうだった。まるで自重気味に自分のことを皮肉っているようで。
「俺は
「親族の死亡による遺恨というやつですか。」
「ああ………お前にわかるか?目の前で姉さんが死んでいく情景をこの目で見た俺の気持ちを。両手で支えた姉の体温が徐々に下がっていって、死をいやでも意識させられた俺の気持ちを。」
三輪は眉間に皺を寄せ、まるでミサカを仇のような扱いで睨んだ。
ミサカも当然わかっているだろうし、彼もわかっているだろう。この場にいる
だとしてもそのことを言わずにミサカは無機質な目で彼を捉え続ける。
いくら戦闘能力を持っていたとしても彼も子供なのだ。ジレンマで苦しんでいる人間に正論を与えるのは余計な傷を増やすだけだ。
「そして……その場にいながらも何もできなかった自分の無力さが……俺をいつまでも苦しめ続ける。」
「………そうですか。」
ミサカは彼の発言を聞き理解した。
彼はただ
彼は自分の気持ちのぶつけどころがわからないのだ。それらはきっと苛立つ自分の無力さ等々だろう。
迅に対して当たりが強いのもおそらくその一環であろう。未来の読める迅ならば何かがあっても止めてくれる。彼が大人に含まれる人間なのもそれに余計に拍車をかけている。
「俺のことはざっと話した。次はお前の番だ。」
「ミサカの番ですか。と、ミサカは一応確認だけはとっておきます。」
三輪は終始苦しそうだった。自分の過去を曝け出すということはなかなか厳しいものだ。直接詳細を語るより人づてで伝わった方が傷自体は小さい。痛い思い出なのであればなおさらのことだ。
しかし、それを踏まえた上でミサカという大して親交があるわけでもない人間に話したのだ。それ相応の覚悟があってのことだろう。もちろん、迅と先ほど何かがあったことを鑑みれば、弱った上での自暴自棄ということも考えられなくもないが。
(なるほど、この答えによって未来が変わる感じなのでしょうね。であればなおさら迅がここにいない意味がわかりませんが。)
もしここに迅がいれば思うような未来に誘導することなんて容易なはず。だというのにここに彼がいないのはミサカには疑問でしかなかった。
とはいえここにいない人間の話をしたとしても現状がどうこうするわけでもない。
(初めは知らないふりを決め込んでいようと考えていましたが思ったよりもこの判断は重要そうですね。多少の経歴の開示くらいはあって然るべきでしょう。)
目指すはこの世界にとって最適ではなく4、5番目の未来へ。
「………ミサカにもありますよ。"同じような痛みが"」
「何………?」
「とは言っても私の感じているこの感情とやらが果たしてあなたのものと一致しているかは定かではありませんが。と、ミサカは一応保険をかけるようにして話してみます。」
厳密にいえば彼女に恨みを持つという感覚は備わっていない。
いかに
でも、
ミサカがこの世界に何らかの因果で飛ばされた少し前、ミサカの事実上の姉である
結果は敗北。ただの敗北ではなく完膚なきまでの敗北。死んでもおかしくなかった。見逃されたのはただの気まぐれなのだ。
その時初めて感じた死んでほしくない、なぜ自分には何もできず姉を不安にさせることにしかできないのだ、と。
感じただけで、理解できたわけではない。でも、抽象的には捉えることができた。
だから三輪の言う無力感もある程度は『理解できる』。ただそれだけの話だった。
「何がわかる……………」
「………?」
「お前に何がわかるッ!!」
ミサカの発言を聞いた途端、三輪は突然怒鳴った。
「初めからその奇妙な力を持ち、文字通り『力』を持っていたお前にッ!!」
ミサカと三輪の違いを語るとすればそれは当時『力』があったかどうかであろう。
だが、彼女と彼では対する相手が違う。
『力があっても届かない相手』と『力がなかったから届かなかった相手』
だとしてもそれを突っ込むミサカではない。
言うとするならば、得られる情報を最大限利用した合理的な判断によって導き出されたものだ。
そんな彼と似ているようで違う過去と感情を持ったミサカが語るのは
「いえ、わかりますよ。ミサカも何人も家族を失っていますから。と、ミサカはあくまで事象として淡々と述べてみます。」
自らの過去との向き合いだった。
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